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第439回

ソニー不在の「E3」。来場者減少でも“価値は存続”するゲームイベント

アメリカ・ロサンゼルスでは、ゲーム関連イベント「E3」が、6月11日~13日(現地時間)の予定で開催されている。

「E3」で人気だった任天堂ブース

E3はここ数年、毎年のように「正念場だ」と言われている。アメリカゲーム市場の盛り上がりが加熱する一方で、E3というイベントの位置付けは変わって来ている。

今年は特にそれがわかりやすく表れている。会場を回って、今のゲーム産業の形を考えてみた。

なお、本原稿は開催初日である6月11日の夜に書かれたものだ。そのため、12日以降の状況を反映していないことを、先にお伝えしておく。

SIE撤退で来場者減少? それでも高い「ゲーム業界の目印」としての価値

今年のE3は、いつもとはメンバーもフロア構成も違う。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が出展を見合わせているからだ。いつもなら会場のもっとも目立つ場所には、「PlayStation」のロゴとその時イチオシのタイトルの垂れ幕がかかっているのだが、今年はそれがない。当然だが、会場内にもブースはなく、例年とはフロア構成も大きく変わっている。

E3メイン会場であるロサンゼルス・コンベンションセンター。SIEが出展を見合わせているため、SIEの定位置だった場所には、アベンジャーズの「A」

E3初日の、スタートから数時間の印象でいう限り、いつもに比べて明らかに来場者が少ない。そしてSIEが出展せず、フロア構成が大きく変わっている関係で、通路がずいぶん歩きやすい。

今年のSouth Hallの中心部。任天堂ブースはあいかわらずの人気だが、反対側にあったSIEブースがなくなったせいか、かなり人通りが減り、歩きやすい
参考までに2018年のE3で、同じ場所を撮影した写真。通路が狭くなることもあってか、非常に人混みがひどく、歩くのが大変な場所だった

ゲーム専用機を提供している、いわゆる「3大プラットフォーマー」のうち、会場内にブースを設けているのは任天堂だけになった。だが同社は、プレスカンファレンスに類するものは別途開かず、ストリーミングで新作タイトルなどのニュースを公表し、会場からライブ中継をする、というスタイルをここ数年続けている。今年も任天堂の人気は不動である。

今年も任天堂ブースは一番人気。発売を控えた「ポケットモンスター ソード・シールド」を大きくアピールしていた

先日のレポートでもお伝えしたように、マイクロソフトは昨年より、会場の外であるMicrosoft Theaterを独自ブースのように使っている。カンファレンスは開催前に大々的に開催し、ニュースを伝えるパターンだ。

マイクロソフトはMicrosoft Theaterで独自ブースを展開。朝から熱心なファンが行列を作っていた

エレクトロニック・アーツ(EA)はマイクロソフトに近いやり方をしている。「EA PLAY」というゲーム体験型のイベントをE3会場とは別の場所で開き、ユーザーにアピールしている。彼らはストリーミングでの新作ゲームのアピールより、実際にプレイさせることを重視している。だから、E3会期よりも前である6月8日・9日に「EA PLAY fanfest」と題したイベントを展開した。

大手ゲーム会社は皆、E3前にカンファレンスを開き、その内容をストリーミングで伝え、ゲームメディアは、それに連動して新作ゲームのニュースを伝える。E3のブースはそこに連動してアピールするのが基本だ。

実は、この場にいないはずのSIEも、E3をちゃっかり利用していることに変わりはない。6月7日から17日まで、全世界的に「Days of Play」というキャンペーンを展開し、自社以外のゲームパブリッシャーが発表した大型タイトルを盛んにアピールしている。

E3にいないはずのSIEも、E3という「タイミング」は活かしている。6月7日から17日まで「Days of Play」というキャンペーンを展開中

同様に出展していないGoogleもそうだ。6月6日(現地時間)にストリーミングゲームサービス「Stadia」についての情報を公開したが、これもE3に先駆けてのこと、と考えていいだろう。

E3がゲームの最大級のイベントであることに変わりはない。だが、過去と違い、ゲームイベントは「コンベンションセンターに来てゲームを試遊する、シアターで新作映像を見る」ことが中心ではない。E3をある種の「目印」として使い、ゲームそのものに注目が集まるようにすることが、今の各社のやり方だ。世界中のゲームファンが情報を見ているので、ストリーミングでの情報発信は基本である。E3自身もそれを主軸にしている。

E3のトップページでも数年前からストリーミング配信が大々的に展開。映像は、クリエイターなどを招いてのステージイベントである「E3 Coliseum」

それはここ数年の傾向ではあったのだが、特に今年は、Googleが先に情報公開を行い、SIEが出展を取りやめ、EAやマイクロソフトがE3の会場中にいないという状況が揃った結果、E3はイベントというより「目印」という意味合いが、さらに強くなった印象を受ける。そういう意味では、E3が「世界最大のゲームのお祭り」であることに変わりはない。

では、E3は「目印」でいいのか。リアルイベントとしての価値は今後どうなっていくのか。「目印」の役割を他のイベントにとられる可能性はないのか。

そうしたことを、会場を歩きながら考えざるを得ないE3だった。

タイトルは盛況、Oculus QuestをアピールするFacebook、そして中国系企業の減少

マイクロソフトやSIEが次世代機の投入を控えているが、E3の場では、そうした影響はほぼ見られない。これも、従来のサイクルとの大きな違い、といえるだろう。

従来、家庭用ゲーム機は機器の間での互換性や機能差の問題から、「世代の境目をどうマネジメントするか」が問題になった。

一方、現在はその問題が解決しようとしている。マイクロソフトやSIEの次世代機は現行モデルであるPlayStation 4やXbox Oneと互換性を持つことがわかっており、一方で、PCという連続的な性質を持つプラットフォームも存在するので、世代を強く意識したタイトルコントロールが不要になっているからだ。そのため、大手ゲーム会社のタイトルアピールは例年通り活況だし、そこには多くのゲームファンが集まっていた。カプコンやスクウェア・エニックス、バンダイナムコにセガといった、日本企業が元気に見えるのも、ひとりの日本のゲームファンとしてうれしく思う。

2Kの「Borderlands 3」は、広大なブースに大量の試遊台を用意し、来場者をとにかく遊ばせる方針
Ubi SoftやCD Projekt REDなどの人気パブリッシャーの前には黒山のひとだかり。E3の来場者は減った印象だが、決してゲーム全体の人気が落ちているわけではない
カプコンが日本でも海外でもヒットさせた「モンスターハンター・ワールド」シリーズの追加コンテンツ「アイスボーン」をアメリカでも大きくアピール
スクウェア・エニックスが発売日を発表した「Final Fantasy VII REMAKE」はやはり人気。記念撮影ブースは行列が絶えない

また、今年登場するGoogleの「Stadia」も、中身はPC的なアーキテクチャであり、移行が容易だ。中にはスクウェア・エニックスの「Marvel’s Avengers」のように、対応プラットフォーム名に「Stadia」を明示するものも出始めている。クラウドゲーミングにどう対応するかは、ゲーム業界全体では答えの出ていない状態だが、少なくともゲームを提供する側にとって、大きなハードルはなさそうだ。

スクウェア・エニックスの「Marvel’s Avengers」の対応プラットフォーム表記には「Stadia」のロゴが。こうした形での対応は他社にも広がるのだろうか

目立つ変化としては、Facebook傘下のOculusが、久々に大きなブースを出したことが挙げられるだろう。同社は先日、「VRゲーム機」としてOculus Questを発売したばかり。本誌でもレビューを掲載しているが、その可能性は高い。ゲームファンにアピールする好機とみて、積極的な展開を行っている。

Oculusは久々に出展し、Oculus Questをアピール

なお、今年はNetflixがE3に初めて登場する。といってもブースは構えておらず、ステージイベントである「E3 Coliseum」に、6月12日に登壇する形である。残念ながら、筆者は別の取材のために11日中にロサンゼルスを離れねばならないため取材できなかったのだが、すでに任天堂のオンラインイベントにて、Netflixが制作中のドラマ版「ダーククリスタル」のゲーム版である「The Dark Crystal: Age of Resistance Tactics」が発表されている。この他、Netflixオリジナルコンテンツにはゲームに向いた題材が増えてきており、それらとの連携をアピールするものと思われる。

( 編集部注: その後、Netflixは13日に「ストレンジャー・シングス」を題材とした位置ゲームをE3で発表している)

Netflixがプレス向けに出した、E3でのイベントの案内状。アメリカ太平洋時間の6月12日に開催した

一方で「目立たない」ところもある。それは中国系企業だ。

例年ならば、中国系のオンラインゲームを展開する企業がそれなりの数出展しているのだが、今年はその姿がほとんど見かけられない。また、コントローラーなどのガジェットを出展する企業のブースにも空きが目立つ。

空きブースは「休憩所」に。例年はこうしたブースは非常に少なかったのだが、今年はかなり目立つ

これが米中の経済摩擦が原因だとすれば、なかなか興味深い状況だ。元々中国では他国がゲームビジネスを展開するには制限があり、中国国内企業が強い状況にあった。特に2018年中は、そうした企業の海外進出が注目されていたのだが、少なくともアメリカ市場については、中国系メーカーは進出にブレーキを踏みつつあるのではないか、と想像できる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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