西田宗千佳のRandomTracking

第466回

AbemaTVから「ABEMA」へ。藤田晋社長に聞く4年間の変化とこれから

サービス名が「ABEMA」になった。新しいロゴも披露

AbemaTVが、4月11日から「ABEMA」に変わった。サービス開始から4周年を迎えての、ちょっとしたイメージチェンジといえる。

ABEMAはこの4年で着実に利用者を増やしてきた。特に現在は、「外出自粛」の流れもあり、映像配信全体の利用量が増加している。ABEMAも例外ではない。

そんな中、同サービスは名称とロゴをリニューアルする。

いまリニューアルすることはどんな意味があるのか? 4年間でABEMAはどう変わってきたのか? サイバーエージェント(CA)の藤田晋社長に聞いた。

サイバーエージェントの藤田晋社長

なお、以下の記事で利用している図版は、サイバーエージェント・2020年第1四半期決算説明資料より抜粋したものである。

「TV」の2文字が障壁になる時期に。テレビより便利な「オンデマンド」を訴求

なぜ「TV」をサービス名から外すのか? これは、「AbemaTV」の出自を考えると驚きでもある。なぜなら、AbemaTVはCAとテレビ朝日の合弁事業であり、藤田社長も幾度となく「テレビ朝日がなければ成立しない事業」と言っているからだ。それは今も変わらないという。そこで「TV」を外すのは、一見「テレビ局離れ」に見える。

また、AbemaTVは「テレビを観ない若年層への訴求」を目的にスタートしているので、そこでも「テレビ」離れに見える。この点について藤田社長は、以下のように説明した。

藤田社長(以下敬称略):ABEMAは「テレビ」をイノベーションしたものを狙っています。他のVODサービスは、TSUTAYAのような「ビデオレンタル店」の代替ですよね。

そこで「テレビ」という名前が障壁になる段階になってきた、ということです。

テレビ=無料、というイメージもありますが、一方で「その時間に観ないといけない」という不便さのイメージもあります。

ABEMAはリニアで観なくても、追っかけ再生でいいですからね。慣れてくると、ドラマでも麻雀中継でも、放送開始時間に観れなくても、何時からでも観れます。また、どのデバイスでも観れる。本当はテレビよりもっと便利で、もっと使いやすいもので、すでにABEMAを使っている人の半分以上がオンデマンド視聴です。

「テレビ」という名前で始めたメリットは大きいのですが、もう必要ないかな、と。

これはテレビ朝日との提携に影響しません。むしろテレビ朝日は「TV」を外すことに大賛成してくれていて。過去の成功したビジネスモデルにすがることなく、進化したものを作ろうということです。

「AbemaTV」から「ABEMA」への変化は、ロゴの変更に先立ち、UIの変化としてこのところ見えて来ていた。スタート当初、AbemaTVはオンデマンド配信がなく、ストリーミングによるリニア配信が基本だった。左右にフリックすると「チャンネルが切り替わる」仕組みになっていて、ザッピング感覚で映像を観る……という立て付けだった。だが、この4年の間で、AbemaTVのUIは大きく変わった。オンデマンド配信が導入され、今は「リニアに流れている他のチャンネル」よりも、レコメンドによって「今観ている番組に関連し、その人が好みそうな番組」のオンデマンド配信のサムネイルが並ぶ構成になっている。

藤田:前は「右フリックでザッピングしてくれる」という形でしたが、今はオンデマンドをレコメンドで出しています。レコメンドの精度を上げればあげるほど、オンデマンドの方をタップしてくれるようになるんです。

YouTubeもそうなんですが、こういうUIにすると、観ている最中に次を探している、という感覚になります。「次はこれ」みたいに。これもある意味ザッピングです。

AbemaTVスタートから4年が経過し、藤田社長は「おおむね当初の予定通り推移はしている」という。一方で、大きく想定と違ってきたのが「オンデマンド」だった。

藤田:わりと当初構想していた通りに推移してはいるんですが、ちょっと意外というか違っていたのは、やっぱり「オンデマンド」なんですよね。

自分でも知れば知るほどオンデマンドで視聴しちゃうんですよ。ニュースやスポーツなどは流して観るんですが、他の番組の場合、追っかけ再生の機能があるなら、「7時からの番組を7時から観る」ことはまずない。慣れたらもう戻りたくない。リニアに追いつくにしても、追っかけ再生からの1.3倍速、みたいな感じですよね。

当初は放送的な「リニア配信」が中心だったが、今は「オンデマンド」再生コンテンツも増加中

「ユーザーにウケる」ことが最大の差別化策

「放送を受信する機器であるテレビにはない便利さこそが最大の武器、自分が先行指標」と藤田社長はいう。「NHKプラス」などの後発アプリを見ても、AbemaTVやYouTubeなどからインスパイアされたと思えるUIは多い。

藤田:テレビ朝日なくしてABEMAはできる事業ではありません。逆に言えば、ほぼ必要なパーツはテレビ朝日との連携で揃っている、と言えます。

他のテレビ局も、弊社に乗り合いしてくれた方が、本当は楽だと思います。特に、NHKはABEMAに入ってくれればいいんですけど。

他のテレビ局に提案しよう、と言ったことは社内ではあります。しかし、実際に声をかけたかどうかは忘れましたが。

ただ、(映像配信における)競合としてのテレビ局については、率直にいうとあまり気にしてはいません。

我々には「ゼロから作れる」気軽さがあります。「他の事情に影響を与えないように打開策を」という感じになると無理が出ます。

なによりそれでは、ユーザーファーストじゃない。ユーザーに受け入れられないといけないんですよ。

ネット業界長くやってきてわかったのは、「ユーザーにウケるものをひたすら作っていけばなんとかなる」ということ。Googleがわかりやすい例ですけども、なにで収益化するかはわからなくても、とにかくユーザーにウケるものを作っていく。

ABEMAは基本的にはそれをやってきたつもりなんです。ユーザーに過度に課金を促すようなこともしていないし、個人情報も集めてはいない。便利なものをひたすら作っていけばなんとかなる。それでなんとかなる、と信者のように信じているんですけれど(笑)

なにか、自分たちの問題を解決するために新しいサービスを始めるというのは、難しいことになりやすいです。「既存のビジネスのために考慮する」ことをやっていくと、ユーザーファーストにならない。

テレビ朝日は、その辺本当に任せてくれたので。そういう意味では、やり方としては非常に良かったと思います。

便利、という意味で、藤田社長もイチ押しで、もっと伸びて欲しいと思っているのが「テレビでの視聴」だ。ここでいうテレビ、とは放送のことではなく、もちろん「デバイスとしてのテレビ」のこと。大画面でリラックスして観られるテレビでの視聴は、「圧倒的に便利な体験」と藤田社長はいう。

藤田:僕の父親などもそうですけど、家に行って、テレビにFire TVをつけてABEMAを観れるようにしてあげるとすごく、喜ぶんですよ。「将棋がこんなに観られるなんて夢のようだ」って。みなさんも、親孝行でやってあげて欲しいです(笑)

ただ、観られるようになるまでの一手間がとても難しい、ひと努力の腰が重いんだな、と感じています。

だから、急にABEMAを絶賛しはじめてくれる人は増えてきましたよ。そういう人達は、新しいテレビ買ったらリモコンについていた、ということが多いんです。「もういま、ABEMAはテレビで観られるんだよ」って言ってくださるんですけど、ずいぶん前から簡単に観れたんですよね(笑)

それだけ、(つけるひと手間を)超えるのが難しいんだろうな、と思っています。なかなか有効策はないですね。Fire TVをABEMA内で宣伝していたりもしますが。

対応策を相談しているところはあるんですけれど。なんらかの手を打ちたいです。

よりABEMA向けな広告を模索。「止めずに続ける」ことが必勝の方策

ご存知の通り、ABEMAは無料で視聴できるサービスだ。会員登録も必須ではない。そこに、「動画ダウンロード機能」「追っかけ再生機能」「見逃しコメント機能」が使えるようになる、月額960円の有料プラン「ABEMAプレミアム」があり、広告収入+フリーミアムモデルで運営されている。

ABEMAは広告ベースの無料サービスと、月額課金性の「ABEMAプレミアム」による広告収入+フリーミアムモデルになっている
現在のダウンロード数と週次アクティブユーザー数(WAU)の推移。ダウンロード数は4,800万に到達し、WAUも大きな事件があるごとに「跳ね」て伸びてきている

藤田:利用状況は基本的に好調です。

10代は圧倒的に強いんですけど、20代を強化しないといけないな、と思っています。そう考えて去年1年間やってきたんですが、それはかなり功を奏していて、けっこうなボリュームゾーンになってきました。

さらに、例えば将棋・麻雀・格闘技、韓流と、それぞれユーザー層は違います。アニメは10代~20代が多いんですけど。そういうコンテンツごとのファンをしっかり固定客化していくことをしています。年齢層というよりは、「固定ジャンルの固定ファンを増やす」という戦略ですね。

たとえば麻雀のファンは「麻雀チャンネル」をいつも使ってくれているんですけれど、同時に恋愛リアリティショーやドラマも観てくれます。確実にそのジャンルのファンを押さえて行った方が得策である、という考え方をしています。

運営についても、基本、フリーミアムという部分は変わらないんですけど、「無料でたくさん観て貰えば、結果的に課金が増える」というモデルでもあるので。広告と課金がどういう比率になるかは流動的なんですけど、今足元では課金の方が強いのは確かです。

課金ユーザーを増やしていきたい、というつもりはあるんですけれど、それは結局ユニークユーザー数を増やすこととイコールなんですよね。

今だいたい5%くらいなんですけど、もう少しあげたいな、とは思っています。

ABEMAプレミアムのユーザー数は昨年末で59、3万人に

藤田:これまで、ABEMAプレミアムについてはあまりアピールもしてきませんでしたし、それ用のオリジナルコンテンツも作ってはきませんでした。ですが、これからはけっこう増えます。

東映と共同制作するボクシング映画「アンダードッグ」もそうですね。これは劇場版公開と同時に、ABEMAプレミアムの有料会員は観れる、という形になります。そういう新しい形を試すんですが、これはあくまで有料会員のための仕組み。そういうものは今後も企画していきます。

広告+フリーミアムモデルであるABEMAにとって、広告は大きな柱だ。視聴数とユニークユーザーの増加は、そのままABEMAの広告価値の広告価値の拡大でもある。

最近は、特に10代向けの番組などで、「ABEMAのためだけに作られたオリジナルCM」が流れることが増えている。

藤田:ずっと15秒・30秒といったCMのフォーマットなどもあえてテレビに合わせていたんですけれど、4年経過しましたし、そろそろ既存の考え方に囚われる必要はないので、ABEMAに合わせた、より広告効果の高いものを作っていこう、ということになり、独自CMの制作を始めました。

今流れているものはまだ、特別な広告が入るコンテンツが10代向けに片寄りすぎているところはあるのですが。

最近増えているのは、「テレビCMほど作り込んでない」ものです。しかし、インフォマーシャルのようなチープなものではない。ちょうどテレビ番組のクオリティに近いものが増えています。

CMはちょっと作り込みすぎていて現実離れしている部分もありますが、もっと「番組本編のクオリティ」に近いものです。そういう作りが、今、着地点としては心地いいんではないか、と思っています。

「テレビ」と差別化するためのオンデマンド活用、さらには独自CM施策などを展開している一方、いまだ頭を悩ませる問題もある。

藤田:リニアの方が広告効果はいいんです。最悪なのは、オンデマンドに広告を挟むと「嫌がられる」ということ。嫌がられないようなオンデマンドでの出し方を研究しているところです。すぐに「スキップ」ボタンを押される広告に広告効果が本当にあるのかというと、違うと思っています。

ただ、YouTubeがちょっと切り開いてくれたところはあります。(冒頭に広告が入るのが)アリナシでいえばナシ、だったものが、なんとなく「もうアリでいいか」という感じに。それだけ、みなさんがYouTubeのやり方に慣れて来た、ということでもあるとは思うのですが。

一方、ユニークユーザー数は増えているものの、まだABEMAという事業が単体で黒字化したわけではない。「赤字の状況をいつ脱するのか」という指摘もある。だが、ここには藤田社長は次のように反論する。

ABEMAの広告売上は大きくなりつつあるが、いまだ同事業は投資段階で、損益を計上している状況だ

藤田:この事業の一番のポイントは、「やり続けること」だと思っているんです。途中でギブアップせずに。それを強く心に思ってるんです。なにを言われようがやり続ける。

「ABEMAで赤字を流している」ことを指摘する方はいますけど、僕の感覚値では、株主からは一度も赤字のことを言われたことがないです。まあ、僕が言わせていない、ということもあるかもしれませんが。

株主からのプレッシャーがかかっている、という方がいますが、それは「まったくない」です。要は、プレッシャーをかけられずに済むような決算を出し続けること、というのが重要なので。プライマリーバランスがとれている、という前提があることと、僕の過去の実績もありますね。

CA全体での業績。ABEMAへの投資は続いているが、売上の上昇で全体のプライマリーバランスは維持している

いち早く「クオリティの高いオリジナルコンテンツ」を! バラエティよりもドラマやリアリティショー重視

では、投資面で気になっているところはないのか? 藤田社長が「唯一焦りを感じている」と明かす部分がある。

それが「オリジナルコンテンツ施策」だ。

オリジナルコンテンツの例。現在もABEMAは、若い世代向けを中心にオリジナルコンテンツ制作を積極的に進めているが、これをさらに加速するという

藤田:大前提として誰もがわかっていることではありますが、調達であろうが自社制作であろうがエクスクルーシブ、独占したもので強いコンテンツを持っていたところが勝つ。これがあります。

Netflixからディズニーが抜けているのは、自分たちで強いコンテンツを持つところは自分たちでサービスを作っています。

また、ワールドワイドに収益源を持つところは、制作費の面で大きなものを用意できます。制作費が大きければいいものができる、とは必ずしも言えないですが、一般論としては額が大きい方が有利。そうすると、体力勝負では負けてしまう。

しかも現状、クリエイターや演者の側として、日本のエンターテインメントの規模に限界を感じる人も増えてきて、「世界で配信できるものをやりたい」という人がいます。

そういう意味では、非常に難しい局面なんです。

けれど幸いなことに、海外のコンテンツはともかく、「日本の視聴者に向けた、日本語で作れる番組」はそんなに量産できる体制はないです。この間になんとかやり切らないと。

実際、テレビ局のクリエイターが海外の大手に転職している流れもあるので、時間をかけていると追いつかれて、「日本の視聴者に向けた、日本語の番組を多額の資金で作る体制」ができてしまいます。今はまだ、彼らにはやれてないですが。

「独占的ですごいコンテンツを用意すること」。それを早くやらないと、我々は次のステップに行けなくなってしまう。そこは急いでいます。

すなわち、「やられるまえにやる」ことが、今ABEMAがやろうとしていることだ。

では具体的に、どんな番組をどう作るのだろうか。海外のプラットフォーマーは、「テレビの枠に囚われない」制作体制をアピールしている。そうした部分をどう考えているだろうか。

藤田:まあ「テレビの枠に囚われない」というのは、演者やクリエイターにウケやすい話ではあるんですが、視聴者にとってどうでもいい話でもありますよね。

基本的には面白いものを作る、ということかと思います。その時に従来のテレビ的なやり方をするのか、そうでないのかはその次の話で。

フルオーディションでやらなければいけないとか、製作費をここまであげなきゃいけない、というのはやるべきことですが、それとこれとは分けて考えます。

もう少し大人が観れるものを作る、もしくは独占調達しないといけない、と思っています。

一方、スポーツやドラマやバラエティなど、いろいろある中で、「バラエティ」がテレビほど求められていない、というのもわかってきています。

正確に言えば、テレビほどは求められていないですが、かといって今のネットで見られないわけではない。既にYouTubeで一定のクオリティがある選りすぐりの動画を見ているせいか、視聴者の求めている水準は高いですね。

求められるのは、恋愛系のリアリティショーとか、ドラマ。あとスポーツ。そういうものであって、その中間にある「暇つぶし的バラエティ」はテレビほどの規模ではないな、と。インターネット自体がバラエティみたいなものだからかもしれません。ニーズがないわけではないんですが。そこで、バラエティは大型化させていって、これぞという企画をお金をかけて作りたい。

そういう意味では、投資を重点的に、ニーズのあるコンテンツに振り分けようと思っています。

「トンガリスト」から「超面白い」へ。10年・20年続くサービスに向けて方針転換

「バラエティはテレビほど求められていない」

これは、ちょっと意外な発言に思えるのではないだろうか。ABEMAはスタート以来、「テレビでは観れないバラエティ」を一つの軸にしてきた。テレビとは違う演者で、テレビの方法論を使って、今のテレビでは観れない尖ったバラエティ番組を作り、それで話題を引っ張ってきたところがある。

しかし今は、そのやり方を変えようとしている。

藤田:ABEMAの次の展開、という意味でいうなら、「超面白いものを提供する」ということに尽きますね。これまでは「尖っているから面白い」という言い方だったのですが、変わっています。

これまで、番組制作会議は「トンガリスト会議」という名前でした。

そこから新しい番組がどんどん出てきたんですが、あの会議の名称自体も変わっているんですよ。「超面白い会議」に。

重要なのは「超面白いもの」になるかどうか。尖っているかどうか云々ではなくて。

超面白ければ人に話しますよね。今は、人に言われたものしか観ない、という時代になってきているので、「人に言いたくなるほど面白い」ものを作るのをベースにしていきます。「ABEMAの番組ってやっぱり面白いな」というところにリブランディングしていきます。

僕自身が一番ハマっているのは麻雀の「Mリーグ」ですけど、メチャメチャ面白いんですよ。ドラマであろうがリアリティショーであろうが中継であろうが、面白ければいい。「ABEMAは面白い」というブランディングを目指します。

面白さを目指す、というのは、配信事業者にとって「王道」である。ABEMAは4年が経過し、王道的な作り方に入ろうとしている。

藤田:変えたんで会議名も変わったんです。

開始3年くらいまでは、「ABEMAってこういうのをやっているよね」ということ自体が、すごく宣伝効果を持っていたんです。

でもやっぱり、「全裸監督」が流行った頃から考えを変えていきました。あれ一発で「Netflixは面白い」みたいに、イメージが変わったじゃないですか。「全裸監督」自体は際立った企画か、というと、我々がやってきたものとそこまで違わない、とは思っているんですけど、中身のクオリティがすごく高い。

やっぱり面白いものをちゃんと作らないと。そこへの向き合いを重視して組み直したんです。

そのための必勝策があるわけではないですけれど、目標を「超面白いもの」に据えるだけで全然違いますよ。

そこには、過去の番組作りへの反省もある。

藤田:企画が決まって構成が決まったらあとはやるだけ、みたいになっちゃってたんですよ。過去には。面白いか面白くないかは結果論、みたいな。

変な言い方ですが、キワモノみたいなものだけではもたないですよ。出演交渉なんかが大変な割に、面白くならなくて。番組の制作を発表したら話題になるんだけど、やってみるとあまり面白くない、というものがいくつかありました。

それでは長く持たないです。世の中をざわつかせればいいってものではない。

企画がトガってバズった段階で達成感を得られてしまっていたんでしょうね。

そういう意味では、4年を経てフェーズが変わったんです。これから10年・20年とやっていくわけですから、「尖っている」だけではダメです。

そこでひとつ追い風なのは、若い層には「ネットだからクオリティが低いのでは」という思い込みが薄いことだ。

藤田:我々の場合だと、いま流している「僕だけが17歳の世界で」が過去最高級にあたっています。

やはり視聴している若い層には、「ネットドラマ=安っぽい」みたいな感覚が端からない。現在進行形の地上波のドラマ群とまったく遜色ないクオリティになっています。

そうした作り込みの意識を生かすことが、ABEMAのコンテンツ自体を変えて行こうとしている。

イベントのオンライン化を支援、今が転機

現在、世界は新型コロナウィルス禍の中にある。外出の自粛が強く求められる状況にあり、映像配信のトラフィックも上がっている。藤田社長によれば、3月末の時点で、ABEMAも平時に比べ15~20%、トラフィックが増加しているという。

同時に、公演の機会、上映の機会を奪われているアーティストをどう支援するかが、動画配信事業者にとっても重要なことになってきている。

藤田:現在、アーティストたちにとっては空前の危機です。今、多くの方々から、配信支援についての申し出をいただいているところです。

こうなった時のためにペイ・パー・ビュー(PPV)の仕組みを早く整えておくべきだった、と思っています。開発の要件には入っていたのですが。

できるだけアーティストを救えるように考えていますけど、長い目で見ると、リモートワークが増えていくのと同じように、イベント収入だけに頼る事業者も、オンライン化をしていく時期だと思います。今、PPVであるとか、オンラインサロンなどの「オンライン化」に必要なパーツを揃えることを、相談があった方々と一緒に取り組んでいる最中です。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41