西田宗千佳のRandomTracking

第672回

タンデムOLED採用のアップル新MacBook Pro、まさにプロ級の画質向上

16インチ有機EL(OLED)搭載MacBook Pro。11月6日発売で、価格は599,800円から。取材に使用したモデルの構成は、M5 Max 128GB・ストレージ2TB

アップルは「Pro」モデルの価値向上に懸命だ。11月6日に発売する新しい「MacBook Pro」も、価格アップしたが、それに見合う価値向上を目指している。

ポイントはディスプレイ。有機EL(OLED)を採用し、大幅な画質向上を果たしている。

この製品は、Macとしては初めてタッチ操作に対応したことで注目されている。ただ、そのことはこの製品にとって、ほんの付け足しのようなものだ。

先週アメリカで行なわれた発表会の速報をお伝えしているが、今回は、同日に発売される「MacBook Pro・14インチ・M6搭載モデル」の貸し出しも受けた。

そこで、最新のM6搭載モデルと、OLED搭載の最新のボディ設計モデルを比較してみた。

14インチのLiquid Retina XDRディスプレイ(ミニLED液晶)を採用したMacBook Pro。11月6日発売で、価格は339,800円から。取材に使用したモデルの構成は、M6 16GB・ストレージ1TB

OLEDモデルはまさに「プロ」品質。どこから見ても色は同じ

今回は2つのモデルをテストしているが、そのうち“新型”と呼ばれることの多いOLED搭載モデルの正式名称は、「MacBook Pro・PROLED XDRディスプレイ」だ。OLEDを使った画面の名称は「PROLED XDRディスプレイ」である。PRO OLEDではなく「PROLED」なのでお間違いないよう。さすがに長いので、以下“OLED版”と呼称する。

冒頭で述べたように、新しいMacBook Proの最も優れた点はディスプレイ品質だ。

まずは画質を見ていただこう。左がOLED版MacBook Proで、右がM6版MacBook Pro。発色が大きく異なるのがわかるだろうか。特に2枚目を見ると、HDRの効果の違いも見える。

左側がOLED版MacBook Proで、右がM6版MacBook Pro
発色が全く異なるのがわかる

M6版の液晶ディスプレイも画質が悪いわけではない。ノートPC用ディスプレイとして見れば、平均どころか上位に来る品質だと感じる。特別なこだわりがなければ、多くの人は満足するだろう。

しかし、OLED版MacBook Proのディスプレイは、輝度・発色ともに申し分ない。色域のズレも感じない。

以下は、OLED版MacBook Proのディスプレイに関する色域設定画面だ。P3とAdobe RGBを完全にカバーしており、2,000nitsの輝度を想定した設定が用意されている。デフォルトでは2種から選ぶようになっていて、明確にプロ仕様だ。

ディスプレイ設定画面。色域設定のデフォルトがP3とAdobe RGBをカバー

もちろん、映画などのコンテンツ視聴でも、申し分ないクオリティを体験できる。

特に大きいのは、どの方向から見ても色が変わりづらいことだ。

M6版では多少の変化が見られるが、OLED版MacBook Proでは、ほとんど発色の変化が見られない。業務などで、複数の人がディスプレイを覗き込むような用途では大きな効果を発揮する。

OLED版MacBook Pro。見る方向による色の変化はほとんどない
液晶ディスプレイのM6版MacBook Pro。若干だが、見る方向で色味に変化が見られる

一般的なノートPC用ディスプレイだと、横から見た時はより色が薄くなり、白飛びしやすい。視野角の影響はOLEDでも例外ではなく、安価なOLEDを採用した製品では色変化が顕著になる傾向がある。テレビではさすがにあまりないが、モバイル用ディスプレイパネルでは時々見かけるものだ。

OLED版MacBook Proはさすがに、そういうことはない。

輝度が高く、発色が豊かで、視野角の影響を受けにくいという特徴は、先にタンデム式のOLED(おそらくはLGディスプレイ製)を採用したiPad Proでも同様だった。さらに色域とユニフォミティを高めたものが、OLED版MacBook Proには採用されていると考えていい。

なお、M6版MacBook Proは非対応だが、OLED版MacBook ProはGenlockに対応している。ここも、プロが使う映像機器としての機能アップと言える。

ノッチからダイナミックアイランドへ

なお、ディスプレイ面での変化として、カメラ部が「ノッチ」から「ダイナミックアイランド」に変わったことも挙げておこう。表示されない領域が減ったので、その点はプラスだ。

M6版MacBook Proは「ノッチ」だが……
OLED版MacBook Proは「ダイナミックアイランド」に

とはいえ、こちらのダイナミックアイランドには、iPhoneとは異なり、顔認証のFace IDが入っていない。認証は従来通りTouch IDだ。この変更はデザイン面の要請が主軸である。

音楽再生やカメラ設定などは、画面右端のメニューからではなく、ダイナミックアイランドから操作することになる。

ダイナミックアイランドでは、音楽やカメラなどの通知・操作を行なう

シンプルなタッチ実装、あくまで“補助”的用途

やはり、多くの人は、Macで初めて導入された「タッチ操作」も気になるだろう。iPadとMacを分けるものとして、アップルはずっとMacへのタッチ導入を拒んできた。ここでその方針が変わったのだから、将来への展望という面でも興味が湧く。

タッチ操作でMacを操作

ただ、使ってみるとわかるが、これは「MacとiPadの融合」を意味するものでもないし、「今後のMacではタッチが主力になる」という話でもない。拍子抜けするほど“普通”なのだ。

タッチパッドでの操作がほとんどそのまま採用されているので、特に迷うことなく、すぐに使えるだろう。

タッチ操作の設定。項目は増えているのだが、さほど特別な要素はない

メニュー項目やクローズボタンは、マウスやタッチパッドでクリックする際と、指でタッチする際とで、サイズが変わるようになっている。その方が楽に操作できるからだ。これも特別な設定はない。

タッチ操作する際のクローズボタンの挙動
マウス操作だとメニューは今まで通りだが……
タッチ操作だと自動的に幅が広がる

一方で、ファイル操作などには特別な要素がない。

例えば、Windowsでは指でファイル操作するための付加機能が複数用意されている。iPadも同様で、「ファイル」アプリには、指だけでファイルを複数選択する機能がある。

しかし、OLED版MacBook Proにはそれがない。

機能がない、という話だけを見ればいかにも「不完全である」ように感じられそうだ。だが、これはアップルが意図してこうしたのだろう。

なぜなら、MacBook Proには必ずタッチパッドとキーボードがあり、ファイル操作などほとんどの操作は、慣れ親しんだキーボード+タッチパッド操作の方が楽にこなせるからだ。

OLED版MacBook Proでのタッチ操作は、スクロールやオブジェクトの回転、ちょっとした手書きのような「タッチパッドでもできるが、タッチ操作でもやりたい時がある」という操作に特化している。ファイル操作は頻繁に行なわなくても、メニューやアプリを閉じる操作は、流れの中でやりたい時がある。だから、OS側で配慮されているのだ。

iPhoneやiPadと同じく、タッチ操作でより多くのことをする「AssistiveTouch」機能は用意されている。だが、あくまでオプションであり、アクセシビリティ向けの機能と位置付けられている。

「AssistiveTouch」機能は用意されているが、さらに付加的な要素という位置付け

タッチは明確に「オプション」であり、今後もMacにおけるメイン操作にはならないようだ。それどころか、邪魔ならオフにもできる。iPadと違ってペンにも対応していない。

はっきり言って、Macにタッチが入ることによる変化を過度に心配する必要はない。

この付加要素は、「タッチネイティブな層のクリエイティブ用途」のためにあるのかもしれない。彼らは、スクロールにしろビデオ編集にしろ、スマホで慣れた通り、画面を触って操作したいのだろう。本当に「ちょっとした要素」の範疇だ。

タッチ自体は10点同時認識に対応、両手全ての指で同時に使える。楽器演奏などの例はそのデモンストレーションに近いが、そうした「タッチをフルに使うアプリケーション」の存在は例外的なもので、あくまでMacBook Proの主軸は「マウス(タッチパッド)とキーボード」ということのようだ。

ボディデザイン変更で大幅軽量化。「ロゴの点灯」も復活

今回テストしている製品のうち、OLED版は、ボディが新規設計になっている。ディスプレイの変更もその一環である。

M6搭載のMacBook Proは、従来の設計をそのまま使い、プロセッサーのみリニューアルしたもの。コスト重視でヘビーな用途に使いたい人向けのMac、というところだろうか。

今回の主役と言えるOLED版は、より軽量なボディへと設計をリニューアルした製品である。

重量は、M6版MacBook Proが1.55kg。前モデルのM5版と全く同じだ。

それに対し、OLED版は16インチだと1.84kg(M5 Max版の場合。M5 Pro版は1.82kg)だ。既存モデルはそれぞれ1.62kg・2.15kgだったので、大幅に軽くなっている。14インチ・OLED版については、「MacBook Airと同じくらい軽いMacBook Pro」として選んでもいいくらいだ。

パッと見たところ、OLED版もデザインイメージは変わっていない。キーボードのデザインも以前からのものを引き継いでいる。

OLED版のキーボード。サイズもデザインも変更はない

背面のアップルロゴは、ディスプレイが点灯しているときには光る。閉じれば光は消え、従来通りの「反射するロゴ」になる。アップルロゴの点灯を消す方法は見つからなかった。

ロゴはディスプレイが点灯すると光る
ディスプレイを閉じると、従来通りの「反射するロゴ」に

設計変更という意味では、OLED版は「エアフロー」も変わった。

放熱はこれまで、中央のスロット部分から「ディスプレイの面に向けて」行なわれていたのだが、OLED版では「背面に向けて」行なわれるようになった。

OLED版MacBook Proの背面。多少外部のデザインも変化。放熱は主にここから行なう

これは、タッチ操作時に指に熱がかからないように、という配慮からの変更だという。

また、OLED自体、液晶に比べると熱に弱いデバイスでもある。OLED自体の放熱に悪影響を与えないよう、本体の放熱もディスプレイにかからないようにしたのだろう。

テスト時間が限られていたので再現してのチェックは難しかったのだが、エアフロー設計の改善により、高い負荷を長い時間かけ続けた時のサーマルスロットリング減少も期待できる。

ハイエンドが「M6」でなく「M5」である理由

では、性能はどうなっているだろうか?

OLED版MacBook Proは、M5 ProもしくはM5 Maxを採用しており、M6系ではない。ハイエンド向けプロセッサーはCPUおよびGPUのコア数、そしてメインメモリーの搭載量で差別化しているためだ。

普及型は大量に生産する一方、このタイミングではM6でのハイエンドは作らず、スタンダードなM6とM5系ハイエンドを共存させる道を選んだのだろう。

ベンチマーク結果を見ればお分かりのように、M6を使った場合、もちろんM5よりは速いし、Apple Intelligence利用時の省電力性能も向上すると期待できる。

ただ、GPUコア数による圧倒的なパワー差の方が如実に反映される。Geekbench AIのテストは主にApple Intelligenceのような小規模オンデバイスAI向けなので、「そういう用途ではM6のほうが効率はいいが、大規模なAIモデルを動かすならメモリーとGPU性能がキモ」と思っていただいていい。

Geekbench 7 CPUテスト
Geekbench 7 GPUテスト
Geekbench AI Neural Engineテスト

逆に言えば、現状OLED版MacBook Proは、性能面では現行のハイエンド向けMacBook Proと大きくは変わらない……ということでもある。

OLEDを採用していないモデルも併売されるので、価格をできるだけ抑えたいのであれば、現行版MacBook Proを選ぶ、という選択肢も残されている。

将来的にラインナップは統合されていくのだろうが、少なくとも、今は「用途によって選べる」と考えていいだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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