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パネル転変の果てにたどり着いた高み。「シャープの有機EL」が魅せる真の自発光表現とは
2026年10月27日 08:00
シャープの有機ELテレビ、2026年モデルの「S9A」(77、65、55、48型)は、LGディスプレイの最新4スタックパネル「RGBタンデム」の高性能と、シャープが長年経験して得た有機ELへの使いこなし術があいまって、感動的な絵を見せてくれた。
微妙なコントラストが精妙に演じられ、質感再現が抜群に良い。APLの高いシーンでは、白側の突き抜け感、輝きの先鋭さや光の総量が向上したことが分かった。
特に感心したのが“濡れた質感”だ、若きブラッド・ピットが主演した映画『セブン』の狙撃犯を追跡する場面では、豪雨に濡れた皮ジャンのワイドレンジな濡れた輝きはまさに刮目だった。
『極上の輝きと極上の色再現にこだわる』
シャープTVシステム事業本部 第1開発部で画質設計を務める下田裕紀氏はこう話す。
「シャープは『日常の中で得られる感動画質』に徹底的にこだわっています。見慣れた映像でも、シャープの有機ELで視聴すれば、新たな発見があり、感動していただくことを目標として設計しています」
「このコンセプトを実現するために、2020年の有機ELテレビ参入当初から、われわれが謳っていたスローガンが『極上の輝きと極上の色再現にこだわる』です。有機ELは自発光デバイスですから、輝度と色の最高のパフォーマンスが発揮できるはずですから」。
この言葉の意味するところは、今回のS9Aで遂に実現したと私は見た。
冒頭で触れた映画の濡れた質感に加え、ビコムのUHD BDソフト『宮古島』のようなビデオ撮影の精密な風景映像でも断トツだ。
チャプター4の東平安名崎灯台を遠くに臨む情景は、画質評価者として数千回は見ているだろうか。しかし眼前のS9Aが描く宮古島は、特別なリアリティを私に与えた。
岩群の刻明な描写、凸凹の豊富なディテールは、ナチュラルを徹底させた細部再現だ。その岩が太古の昔、地球から生まれ、力強く根を張り、その場に何万年の間、存在し続けたのかという感慨も抱く。
チャプター5の「長間浜」。押す波と引く波が交差して生まれた白い水しぶきの透明な輝き。珊瑚のかけらでできた砂の一粒一粒に微妙な色がバラエティ豊かに宿り、微細な立体感も感じられた……見慣れた光景にも、S9Aならではの新鮮さがあった。
しかし、この画質は一朝一夕には、決して実現しなかった。その過程を本稿では紐解いていこう。
シャープ有機ELを歩みを辿る“3つの時代”
……と、有機ELテレビ「S9A」のインプレッションから始めた、有機ELテレビの現在地を探る連載の第三回は“シャープの巻”だ。
同社の有機ELテレビの系譜は、3つの時期で語ることができる。
2020年の初導入から21、22年のLGディスプレイのWOLEDのみの時代。23から25年のハイエンドにサムスンディスプレイのQD-OLEDをまつった時代。そして26年から始まった、ネオWOLEDの時代――の3つの期だ。
第1期は、パネル供給元のモジュールをそのまま使った2020年の「CQ1」、独自の放熱機構をオープンセルとして仕込んだ21年の「DS1」、進化したEXパネルを採用の22年「ES1」と順調に展開。ただし、はっきり言って、これがシャープの有機ELの画質だと矜持を持って語られたわけではなかった。
当時の彼らの立ち位置は、なかなか微妙だった。なにしろ同社は、2000年に「ブラウン管を過去に置き、液晶で未来を拓く」と宣言した“液晶テレビセントリック”なメーカーなのだ。
前回述べたパナソニック、そしてソニーやTVS REGZAなどは、液晶を持っていたとしても、有機ELを手掛けるにあたっては、“新世代のテレビ”としてスムーズに導入していた。しかしシャープの場合、そこがストレートには行かなかったのである。
そのひとつの証左が、ブランドだ。
パナソニックは2015年に有機EL参入を果たしているが、液晶陣営の雄だったシャープはなかなか決断せず、2020年になってようやく有機ELテレビに参入。しかも当初は代名詞「AQUOS」の名前は与えていない(翌年モデルから「AQUOS OLED」の名称を冠した)。つまり、はじめは嫡子ではなく”継子”扱いだったわけだ。
そんなこんなで市場では好調に売れているのだが、“液晶のシャープ”の印象が強すぎ、なかなか“シャープの有機EL”のイメージは上がらない。有機ELの本格参入すべきかを見極めていたので、「有機ELテレビも始めたけど、実際どうなの?」と見られていた。
“有機ELへのグレートサポーター”を自認する私としては、「もっと明確な態度が、シャープの有機ELに欲しい」と当時、歯がゆい思いで見ていた。
QD-OLEDの採用と最高評価モデル「HS1」の誕生
シャープが業界にその名を轟かせたのが、第2期、2023年以降のQD-OLEDへの参入だ。
サムスンディスプレイが開発したQD-OLEDは青の有機EL光を、波長変換するQD(量子ドット)により、赤と緑に変える。高輝度、色純度が高い、視野角が広い……というメリットを持つ。
当時国内では、QD-OLEDはソニーのみが採用していた。シャープは二番目として参入(パナソニック、TVS REGZA、LGエレクトロニクスは非採用)したのだ。
ではなぜ、シャープがQD-OLEDを採用したのかと言えば、第1期の製品群では、決定的に画質での差別化が不足していたためだ。
その理由のひとつが、パネルだ。画質とは「バネル+エンジン(映像LSI)」の合わせ技だ。つまりパネルは画質の大きな柱なのだが、それが他社と同じパネルである以上、格段の差別化は難しい。そこで新顔サムスンディスプレイのQD-OLEDを新採用(ラインナップとしては、WOLED方式も併売)することにしたのである。
しかしQD-OLEDは確かに、色を中心にした画質は優れるが、別の課題も抱えていた。それが外光の影響を防ぐ偏光板を搭載していないことだ。
ガラスから入ってきた外光は偏光板で多くがカットされるのだが、偏光板を使うと光の出力も落ちる。明るさ確保のために偏光板を外したのだが、外光の影響は確実に受ける。
真っ暗な部屋であれば外光が存在しないので問題ないが、普通のリビング程度の明るさだと、外光が画面の中に入ってしまい、暗部でノイズが出る。特に暗いシーンで赤いノイズが出てしまう。
そこでシャープはその改善に邁進。回路側の絵づくりで対処した。明るい環境で自動的な暗部階調を出す特別な仕掛けの効きを弱くして、ノイズを目立たないようにした。
QD-OLEDは第3弾で頂点に立った。それが25年の「HS1」だ。オーディオ・ビジュアル機器のその年の最高峰を選定するHiViグランプリ(1984年開始)にて、トップ・オブ・トップのGOLDアウォードを、獲得したのである。以下が当時HiViに書いた私の総評だ。
シャープ悲願のゴールドアウォード。かつてはハイエンドDLPプロジェクター、4Kテレビ、8Kテレビで獲得した歴史を持つが、2018年の8K、8T-C80AX1を最後に、その後は、シルバーまで獲るのだが、ゴールドには至らなかった。それが乾坤一擲、見事、ゴールドを獲得したのである。審査会は満場、一致で本機をゴールドに推挙した。
高評価の理由は、「豊穣な表現力」だ。特にQD-OLEDがRGB発光であることを活かした、色の数の多さ(つまり色のグラテーション)が刮目だ。そのインプレッションをHiVi秋号にこう述べた。『光の表情のバラエティが実に印象的だ。最暗部からピークまでのレンジが極めて広く、ピークの尖り、反射光のブリリアントさ、くるまボディのアール部のなまめかしさ……などのディテールまでの光描写が美味しい』。
光の輝きと、それに乗った色の輝きにはノックアウトされた。ソニーもQD-OLEDを出していたが、印象から言うと、シャープの方がずっと強かった。
前述した開発目標『極上の輝きと極上の色再現にこだわる』が実現されたと思った。
QD-OLEDの経験を活かしコントラストと色を最大限にブースト
しかし、それが頂点であった。なんと、QD-OLEDはこの年で終了。翌26年は、LGディスプレイの「RGBタンデムパネル」(4スタック)の採用に踏み切ったのである。
QD-OLEDを3年もやっておいて、あえてWOLEDへと変更する裏には、さまざまな事情があったと思われるが、ユーザーにとってもっとも重要なのは、パネル方式ではなく、そのテレビ製品が見せてくれる画質そのものだ。
私は、シャープはやったと思った。QD-OLEDで培った経験を活かしながら、次のステップに進めからだ。これが「26年から始まった、ネオWOLEDの時代」と前述した所以だ。
QD-OLEDで『極上の輝きと極上の色再現にこだわる』を実現したこととは異なる意味で、刮目だ。それがQD-OLEDを経験したことだ。
QD-OLEDを手掛け、色のエモーショナルさがいかに重要であるのかを体験しているシャープだからこそ、4スタックに変更するにあたっても、色が持つ意義や意味合いを重視し、「コントラスト」と「色」を最大限にブーストしたのである。
それはまさに『極上の輝きと極上の色再現にこだわる』の現代での実現ではないか。
シャープの有機ELテレビは、今やかつてない高みに到達した
冒頭に述べたS9Aのインプレッションをさらに加筆しよう。
かつての私のBDのリファレンスだった、映画『きみに読む物語』の赤は実に高彩度。印象に強く残る。それもローキーな赤ではなく、明朗に描かれ、明るく、階調感も良い。
アリーの肌はまさに記憶色。全身を覆った赤や部分部分での彩度、色相の違いも、丁寧に表現している。レンジ感も広い。チャプター11で観る肌描写のキメの細やかさ、光がたっぷりと与えられた時の色の麗しさ、階調の稠密さは感動的だ。
ビコム『8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA』(映画モード)では、コントラスト感がワイドだ。横浜駅や渋谷駅の手前の大きなビルが、ハイテンションにキラキラと輝き、背景の暗黒の住宅街でも小さな灯りが煌めき、蝟集(いしゅう)している。
黒は十分に沈むが、階調情報も多い。白ピークは実に高く、破綻すれすれまで伸ばすが、そこでの階調のしぶとさが印象的だ。4スタックパネルのDレンジをフルに活用し加えて、圧倒的な低反射(3層のコーティングが違う方向に反射)は、近接で視るものに安らぎを与えている。
私の心を捉えたのは画質だけではない。音も良い。テレビの音づくりとしては確かに限界はあるが、それを承知で、音質設計に邁進したことが、認識できた。
特に刮目は、センター定位へのこだわりだ。シャープは「音は“画音一致”にあり」を合い言葉に、いかに音がセンター定位するかに腐心し、その努力は結実したと聴いた。
数奇な転変を経験したシャープの有機ELテレビだが、今やかつてない高みに到達したと見た。














