鳥居一豊の「良作×良品」

第93回

クラウドAI高画質で隙ナシ! “大きすぎない大画面”東芝48X8400で「地獄の黙示録」

東芝映像ソリューションの有機ELテレビ「48X8400」

今回取り上げるのは、東芝の有機ELテレビ「48X8400」。有機ELテレビとしては新規のサイズである48型の“身近なサイズ”のモデルだ。身近な、とは言っても決して小画面ではない48型だ。有機ELテレビもずいぶんと価格がこなれてきたが、液晶テレビと比べればハイエンド液晶でもひとつ大きなサイズが選べるくらいには高価。画質で優れる有機ELテレビをより手頃な価格で手に入れたい人にはもうれしいだろう。また、価格ではなく、画面サイズが55型や65型では自分の部屋で使うには大きすぎると感じていた人も少なくないはず。メーカーの言葉を借りれば、“大きすぎない”有機ELテレビを求めていた人は少なくないだろう。

48X8400(実売約22万円)については、すでに西川善司氏が連載で取り上げている。しかし、筆者も48型の有機ELテレビには大いに注目しており、以前のZ740Xでは紹介のみだった「クラウドAI高画質」の実際の画質にも興味があったので、こちらの連載でも取り上げることにした。

「レグザエンジンCloud PRO」搭載で、録画機能などをシンプルにしたスタンダードモデル

まずは概要から紹介しよう。X8400シリーズは最上位のX9400シリーズが「ダブルレグザエンジンCloud PRO」搭載に対し、「レグザエンジンCloud PRO」となることが違いだ。もう少し詳しく紹介すると、映像処理だけでなくテレビ機能のすべてを司るシステムLSIに後段の映像処理専用LSIを追加したものが「レグザエンジンCloud PRO」。「ダブルレグザエンジンCloud PRO」は映像処理専用エンジンがさらに1つ追加されたものとなる。

このため、高画質化のための映像処理に差はあるが、「クラウドAI高画質」をはじめとする機能は同じ。HDR規格のHDR10やHLGに加えて、ドルビービジョンやHDR10+に対応するのも同様だ。有機ELパネルも共通で、55型は専用設計された高放熱インナープレートを採用する。48型には高放熱インナープレートは採用しないが、これは秋頃発売予定の48X9400も同様だ。

「レグザエンジン Cloud PRO」

このほか、大きく異なるのが地デジ6chを全録する「タイムシフトマシン」を省略していること。これが上位モデルとの大きな違いだ。なお、テレビチューナーは、新4K衛星放送×2、地デジ×3、BS・110度CSデジタル(2K)×3となる。新4K衛星放送は視聴+裏番組録画が可能。地デジなどの2K放送は視聴しながらダブル録画が可能だ。「タイムシフトマシン」にはかなわないが、録画機能としては十分だ。ネット動画にも主要なサービスに幅広く対応していることは言うまでもない。

実際に自宅に届いた48X8400を視聴室に置いてみると、思ったよりも大きくない。リビングで使っている55X910よりも対角で7インチ小さいわけだが、それに慣れていることもあって大画面テレビ特有のある種の存在感や威圧感はない。しかしコンパクト、というほど小さいわけでもない。“大きすぎない大画面”というのは言い得て妙なフレーズだ。横幅は1mほどで一般的なリビングならば設置場所に困ることはないと思うし、なにより大人ならばひとりでも移動や設置もできる(安全や万一の事故を考えて、2人以上での設置が推奨)。

有機ELテレビの特徴でもある極薄なパネル部分は同様だが、絶対的なサイズが小さいこともあり、背面にあるスピーカーや制御回路部分の膨らんだところの面積は大きめ。背面部分はチェッカー模様の処理が施してあり、真横や斜めから見たときのインテリア性を高めている。ふだんはあまり見ない部分まで目配りしたデザインだ。

48X8400の背面。写真の右側に入出力端子群があり、左側には着脱式の電源端子がある

入出力端子は、背面側にHDMI入力1、2とLAN端子、USB端子(通常録画用)、光デジタル音声出力がある。側面側には、HDMI入力3、4、USB端子(汎用)、アンテナ端子×2がある。このほか、アナログ音声出力端子とビデオ入力(付属の接続用ケーブル専用端子)もある。装備としては標準的な内容だ。また、左側の背面にはメイン電源スイッチと音量調整ボタンもある。

側面部の接続端子。上からアンテナ端子、USB端子、HDMI端子の順で並んでいる。
背面部の接続端子。HDMI入力が2系統、LAN端子と録画用USB端子、光デジタル音声出力がある
下部にある電源スイッチと音調調整ボタン。ふだんはあまり使わないため、目立たない位置にある

デザイン面では、スタンドの変更が大きな違い。フラットな板状のスタンドが左右に備わり、ディスプレイ部を少し浮かせたデザインとなっている。画面を囲むベゼルも最小限となるミニマルなデザインで、前方に伸びたスタンド部もすっきりとした印象だ。そして、ディスプレイの右下の部分には電源オンを示すインジケーター類とRGBセンサーがある。RGBセンサーは部屋の明るさや部屋の色調を検出し、自動画質調整に反映するものだ。

真横から見たところ。背面の膨らんだ部分が大部分を占めるが、上部は有機ELのパネルの薄さがわかる
右下にある電源インジケーター。隣りの赤いインジケーターは録画用USBを接続していると点灯する。その隣りにあるのがRGBセンサー
付属のリモコン。基本的には従来モデルと共通のデザイン。動画配信サービスのダイレクトボタンは6つある

録画した番組や動画配信サービスのおすすめコンテンツを一覧できる「みるコレ」は従来と同様。豊富に用意された「パック」を選ぶことで、好みの番組やお気に入りのタレントの出演番組などを幅広く検索・おすすめしてくれる。なかなか便利な機能だ。

「みるコレ」のトップ画面。録画済みの番組やこれから放送される番組から、好みに合った番組を探してくれるサービスだ
「みるコレ」で左のメニューを表示したところ。おすすめ番組などのほか、動画配信サービスのおすすめもチェックできる
動画配信サービスの一覧。主要なサービスに幅広く対応し、おすすめ番組をチェックすることもできる

まずはテレビ放送で「クラウドAI高画質」の出来映えをチェック

今回の視聴では、まず借用期間をフルに活用して自宅で使うテレビのごとく日常的に見る番組をチェックした。これは、6月からデータの提供がはじまっている「クラウドAI高画質」を確かめるため。テレビ放送の詳細なジャンル区分や細かく分けたジャンルごと、または特定の番組ごとに用意した映像調整用のデータをクラウドに用意し、48X8400などの対応した薄型テレビでは、該当する番組の視聴時にクラウドのデータを使って最適化した映像で表示するもの。

わかりやすく説明すると、ひとくちにアニメ番組と言っても、手描きのアナログ制作アニメ、デジタル制作アニメ、フルCGアニメなど、さまざまな種類がある。これをひとつだけの「アニメモード」で対応するのは難しい。ドラマやスポーツも同様だ。こんな場合、従来ならば見たいアニメ番組に合わせて「アニメモード」をベースにユーザーが個別に画質調整を行なうわけだ。筆者はわりと画質調整をいじるタイプだが、それでも気に入ったいくつかのアニメで画質調整をするのが精一杯だ。画質調整をしていると視聴に集中できないのでもう一度再見する必要がある。たくさんのアニメでそれをやっていたら、いくら時間があっても足りない。

それを代わりにやってくれるのが「クラウドAI高画質」というわけだ。AIという言葉が入ってはいるが、作業は完全に人力で行なわれており、コロナ自粛期間中のテレワークの間、レグザの画質設計チームが自宅でテレビ放送をチェックし、詳細なジャンル区分やそれに合わせた映像パラメータの作成を行なったという。

これにより、地上波をはじめとするテレビ放送の多くで、より最適化された映像が再現できるようになる。クラウドに用意されたデータの総数は公表されていないが、番組パラメータの数で言うと100を軽く超えるほどのデータが作成されたという。地デジ放送を中心に膨大な数の番組をチェックし、ワイドショーやバラエティ番組にいたってはほぼすべての番組を網羅して検討を行なったそうだ。

さらに、7月の番組改編期に合わせて、7月13日には新たにアップデートしたデータが追加や変更が行なわれた。詳細ジャンルは24、番組別データが120追加されたとのこと。詳細ジャンルはこれまで使われていなかったものを削除するなどの整理も行なっているそうだ。

また、今回はBS放送までカバー範囲を広げ、BS放送に多い時代劇や海外ドラマに合わせて、ドラマの詳細ジャンルを増やしたという。例えば、海外ドラマは日本のドラマに比べると輝度レンジが狭く設定されているようで(厳密に言うと国内ドラマの輝度レンジが標準よりもやや広い)、そうした輝度レンジによる違いを補正して、コントラスト感や明るさの向上を図ったという。また、フィルム撮影時代の古い時代劇ではノイズを抑えて見やすくする処理も加えているそうだ。

このほか、BS4K放送の民放チャンネルの番組に対しては、2K制作のアップコンバート番組は、HLG化されたことによる相対的な輝度レンジの低下の補正を行うなど、2Kの番組と比較して画面が暗く感じるといった差異をなくすような調整が行なわれている。

実際に放送を見てみると、地デジやBS放送ではかなり多くの番組でクラウドからのデータを使った高画質化が行なわれていた。取材機は特別にクラウドからのデータを受信しているかどうかの情報を表示できる仕様のものを使わせていただいたが、残念ながらこれは市販の製品では表示ができないようだ。もともと画質調整をほとんど使わないユーザーに、操作不要でより最適な画質を楽しめるようすることが目的の機能なので、細かなデータ表示は不要だとは思う。が、レグザのユーザーは筆者を含めてマニアックな人も多いので、クラウド情報を反映しているかどうかの最低限の情報は表示されていても良いかと思う。

ちなみに、「クラウドAI高画質」の機能が有効になるのは、映像メニューで「おまかせAI」を選んだ時のみ。それ以外の映像メニューでの表示は従来通りで、クラウドAIによる映像処理の最適化は行なわれない。また、対象となるコンテンツは、放送コンテンツのみ。外付けHDDを追加した録画した番組とDLNA再生での番組(DRモードで録画されたTS記録で、なおかつEPGの番組情報が記録されていることが必要)にも反映される。HDMI入力などの外部入力は対象外だ。

「クラウドAI高画質」で番組の画質がどう変化するか。ユーザーとしては一番気になる部分を紹介していこう。まずはNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」(地デジ/BS (2K))。この番組はHLGで放送されるNHK BS4Kの4K版を基準とし、放送開始直後によく指摘されていた登場人物の着る衣装の色が派手すぎるという点を調整。筆者は主に4K版を見ているので、たしかに華やかな色彩の衣装とは思っていたが派手すぎるとは思わなかった。が、地デジ放送で見てみると確かに派手すぎる。建物や自然の描写はリアルなので衣装だけが鮮やかすぎて違和感があった。こうした差異が「クラウドAI高画質:オン」にすると違和感のないものになる。鮮やかな色彩ではあるが決して蛍光色を使ったり、ラメ入りかと思うような不自然さが収まったと感じる。解像度は異なるものの、4K版に近い印象になった。

また、バラエティ番組では、スタジオにあるセットの細かな模様がざわついたり、主演者の服の模様がチラついたような感じになるものがあるが、それらも色調整や解像感の調整で見やすく、すっきりとした映像になっている。また、出演者の肌のトーンが調整され、女性の肌が不健康な色合いになることを抑えていることもあった。こうした違いは、「おまかせAIモード」の「クラウド高画質」のオンオフを切り替えるとわかる。ガラリと印象が変わるようなことはないが、その違いは明瞭なので、ユーザーは試してみてほしい。

設定メニューで「映像設定」を選んだところ。映像メニューで「おまかせAI」を選ぶと、「クラウドAI高画質」のオン/オフが選択できる。
「クラウドAI高画質」のオンオフの切り替え画面。
映像メニューの一覧。「おまかせAI」のほかは、従来通りの映像メニューが用意されている

数日にわたって、さまざまな番組で「クラウドAI高画質」の効果を見てきたが、その印象は“おしつけがましくない”高画質だと言うこと。当然ではあるが、「この番組はこういう映像で見るのが正義だ」というような、東芝テレビ設計陣の主張は感じない。これはノイジーで見づらいとか、もう少し明るい方が見やすいというような、誰もが感じる点を補正しているが、それ以上の演出的な領域には踏み込まない。その点ではあくまでもオリジナルに忠実な再現だ。だから、ある番組は「オン」がいいが、この番組は「オフ」がいいというような調整のブレもないし、ずっと「オン」のままで見ていても不自然さを感じることがない。

これは実に快適だ。従来ならばドラマ番組ならば映像によって「映画プロ」や「放送プロ」に切り替えたり、画質調整をいじったりしていたが、そんな手間をする必要がなくなった。もともと「おまかせAI」モードは、部屋の明るさに合わせて画面の明るさを自動調整し、48X8400などではRGBセンサーの採用で部屋や照明の色調に合わせた調整も行なう。映画やスポーツといったおおまかなジャンルに合わせた調整も自動で行なうものだ。だから、基本的には「おまかせAI」モードを選んでおけばほぼ画質についてはいちいち手を出す必要がなくなったと言える。

ただし、ユーザーの好みはもっと千差万別だし、「この映画はこういう色で見るのが正義だ」と押し通すのもユーザーの自由だ。そんな場合は「映画プロ」モードを選び、部屋の照明を落として映画館に近い環境でじっくり見ればいい。画質調整も自由にいじればいい。これが「おまかせAI」と従来の画質調整の使い分けになるだろう。

実はこれもある程度自動化されている。「おまかせシアター」機能がそれだ。この機能は、「おまかせAI」モード時に部屋を全暗にすると自動で最適なモードに切り替わるもの。ライブモードとシネマモードがあり、ライブモードはコンテンツに合わせて「ライブプロ」または「シネマプロ」に切り替わる。シネマモードは「シネマプロ」に切り替わる。「ライブプロ」や「シネマプロ」への切り替わりは、映像メニューを主導で切り替えたときと同様。「クラウドAI高画質」も適用されない。

要するに、映画やライブ映像など、じっくりとこだわりのコンテンツを見たいときは部屋を全暗にする。これだけで映像メニューが自動で切り替わるというわけだ。「おまかせAI」モードとその他の映像メニューのコンセプトの違いがよくわかる。「おまかせAI」モードは、もともとテレビの画質調整を使うことのない人に、テレビの持つ能力をフルに活かしてより高画質で楽しんでもらうためのもの。おしつけがましくない高画質であるのは当然だ。それ以外の映像メニューは、ユーザーがより積極的にテレビの機能を活かして自分好みの映像で楽しむためのものと言ってもいいだろう。それを部屋を全暗にする/しないという動作と連動させているわけだ。

ふだんの明るい部屋では「おまかせAI」モードで誰が見ても好ましい映像を環境やコンテンツに合わせて最適に表示しつつ、部屋を全暗にするとマニアックな映画やライブ映像のためのディスプレイに切り替わるというイメージだ。部屋を全暗にして映画などを見ない人だとあまり役に立たないかもしれないが、「おまかせAI」モードの使い勝手の良さと、従来の「映画プロ」などのマニアックな画質調整の両方をうまく使い分ける機能としては実に有効。部屋の明るさをトリガーにして、使い分けるというのはうまいアイデアだと思う。

「おまかせAI」を選んだときのメニューに表示される「おまかせシアター」機能。部屋を全暗にすると映像メニューが自動で切り替わる
おまかせシアターの選択肢。「ライブモード」と「シネマモード」の2つが選べる

満を持して、不朽の戦争映画「地獄の黙示録:ファイナルカット」を再生

「おまかせAI」モードの出来は、筆者のような画質にうるさい人でも常にリモコンを持つことなく、安心してテレビ視聴を楽しめる素晴らしい機能だ。では、現状では最高クラスのコンテンツであるUHD BDはどうだろうか。4KHDR化によってまさしく不朽の映画として完成した「地獄の黙示録:ファイナルカット」で、有機ELテレビとしてのポテンシャルを確認してみた。

「地獄の黙示録」という映画が、戦争映画の金字塔であり、映画としても傑作であることは誰もが認めると思う。だが、特に後半はいわゆる戦争映画と違って難解だ。それでいて、多くの人を虜にしてきた魅力を持っており、映画をあまり見たことのない人でもタイトルくらいは知っているレベルの有名な作品だ。そういう映画はビデオの普及とその表現力に向上に合わせて、何度も再編集などで蘇ってきた。筆者はもともと長い作品に53分もの未公開シーンが追加された「特別完全版」も感激したし、今回取り上げた「ファイナルカット」は4KHDR化とサウンドトラックのリマスターによって、本来持つ化け物のような異様さが露わになり、今後も長く見続けることになる作品になると思っている。

4KHDR化で公開当時かそれ以上の映像が蘇ったと感じる作品はかなり多いが、おそらくは4K解像度でようやくフィルムの持つ情報量を収録できるようになったことの証だろう。実際には4K解像度の情報量は35mmフィルムと同等のようで、70mmフィルムとなると8Kが必要になるのかもしれないが。フィルムの持つ情報量がほぼデジタル化できるようになり、しかも階調性や色彩など、フィルム上映では難しかったものまで再現できるとなれば、劇場公開時を超える映像を目の当たりにできるのは間違いない。こういった作品が出てくるようになって、4Kテレビの真価も発揮されると思うし、ドルビービジョンやIMAXといった最新の設備を備えた映画館の価値も高まる。本作こそ、映画館の大スクリーンで見ておきたい映画だ。

もちろん、そんな偉大な映画を自宅で存分に味わうために有機ELテレビのような優れた薄型テレビがある。果たしてどのような映像が楽しめるだろうか。プレーヤーはパナソニックの「DP-UB9000」を使用。視聴環境は映画館と同じく全暗。Dolby Vision収録のため映像メニューも専用のモードだ。なお、Dolby Vision対応の作品以外の場合、「映画プロ」モードを使うと思うが、このときは「インパルスモード」を使うのがおすすめ。有機ELテレビでも多少はある映像の残像感を低減し、動きの良さがよく出る。コマ数の少ない映画だからこそ、微妙な残像感によって映画の感触が随分と変わってしまうのだ。これは、従来ならば「倍速モード」のメニューから選択していたが、2020年モデルからは映像メニューの「お好み調整」の中に独立した。

機能としては従来と同じく黒挿入に近い技術を使ったもの。従来は黒挿入によって画面全体の明るさがやや落ちる感じがあったが、48X8400ではそのあたりも調整され、多少の輝度の低下はあるものの、ピーク付近の明るさ感などには差がないものになっていた。

120Hz表示の挙動を選択する「倍速モード」のメニュー。ここでは動画補間を行う「クリアスムーズ」や「クリア」、24コマの映像に最適化した「フィルム」や「シネマ」、動画補間を行わない「オフ」が選べる
映像設定の「お好み調整」にある「インパルスモーション」。これを「オート」にしておくことで、インパルスモードの表示になる

まずは音の印象から紹介しよう。48X8400には、アルミドーム製のツィーターとCNFコーティングされた円形振動板のウーファーが2つからなる2ウェイスピーカーと、低音を増強するパッシブラジエーターを2つとしたスピーカーシステムを左右に内蔵している。

スピーカー配置は音質的には不利な下向きの配置だが、VIRフィルターを使った周波数帯域の補正などにより、声の明瞭度の高い音になっている。実際、テレビ放送のチェックはほぼ内蔵スピーカーで行っていたが、不満はあまりない。サラウンド再生はあまり効果もなく、個人的には人工的な広がりが気になったのでサラウンド音声の番組では物足りないと感じた程度だ。音楽番組などでもステレオ音声の番組ならば、ボーカルもクリアで演奏なども十分に楽しめる。

スピーカーBOX

だが、映画の音はさすがに苦しい。サブウーファーが担当する低音域がないので音が軽くなってしまうし、スケール感も物足りない。これは仕方がないところ。スピーカーの存在感がないデザインでもあるので、サウンドバーや5.1chのスピーカーシステムを組み合わせるのが理想だろう。

「地獄の黙示録:ファイナルカット」は、音声はDolby Atmos収録で、しかもオリジナル版の上映当時に技術協力したメイヤーサウンドが再び協力し、入念に時間をかけてリマスターしたAtmos音響はこれまでの音とは別物というか、これこそがオリジナルの音響と言いたくなるレベルの出来。強烈な爆発音はもちろんだが、冒頭ではヘリコプターの飛翔音がゆっくりと前方を行き交う音、戦場の場面では飛来するヘリコプター部隊やF5戦闘機が頭上を飛んでいく音のリアルな空間の再現には息を呑む。なによりも、ウィラード大尉がサイゴンのアパートで呟くセリフをはじめ、数々の名台詞の実体感や音の厚みは、本格的なサラウンドシステムの音が欲しくなる。

自宅の6.2.4ch構成のサラウンドシステムとの組み合わせで見ると、絵面としては48型の有機ELテレビは少々バランスが悪く感じるが、決して画面が小さいとかスケール感が足りないという感じにはならない。画面をぐっと前に近づけて視野の中を占める割合としては変わらない距離(画面の高さの1~1.5倍)にしているし、そこまで近づいても画素が見えるようなこともなく、またそこまで近づくことでディテールが露わになり、映画が提示する戦争の狂気に肉薄している実感が得られる。

48X4800で感心するのは、暗部の階調性のスムーズさだ。サイゴンのアパートで泥酔しているウィラード大尉の表情や姿もよくわかるし、窓越しの街の明るさの対比もよく出る。最暗部の黒の深さ、暗部の階調性は不満のないレベルだ。最暗部の黒のノイズ感も目立たないし、階調性も滑らかだ。世代を重ねている55型や65型と比べても大きな差はないようだ。

続いては、川を遡ったジャングルの奥地に居るカーツ大佐を暗殺するため、哨戒艇の乗員とともに空挺部隊の元を訪れる場面。ここでは、サーフィンのために森をナパームで爆撃するという、とんでもない場面を見ることになる。ワーグナーの「ワルキューレの騎行」と共に飛来するヘリコプター部隊やナパームの爆撃による強烈な爆発など、戦争映画としての見応えも満点の場面は、その迫力をいかんなく表現しきった。CGなどを一切使わないヘリコプターの本物感、まさしくガソリンが炎上している真っ黒い煙と真っ赤な炎など、戦争の狂気を伝える迫力がしっかりと伝わる。このあたりはさすが有機EL。画面が小さいというより、画素がより緻密になっているので、映像の密度感や力感も高まったとさえ感じる。

哨戒艇で河を遡っていく場面になると、河川の周囲の自然の豊かさや、軍装を着崩した若い兵士達の戦争に飽き飽きとした感じなどもよく伝わる。4KHDR化された映像は極めて鮮明だが、じっくりと見ていてもノイズの発生やチラつきといった荒れた感じもない。自宅の55X910は暗部がやや沈みすぎる傾向もあったが、そのあたりも気にならない。有機ELテレビ自体もかなり進化してきていることがよくわかる。

真っ暗な夜のシーンでは、哨戒艇のライトによる強い光との対比も強烈だ。河岸の薄暗い茂みのなかをうごめく動物の様子もよくわかる。こうした暗部の再現は、「地獄の黙示録:ファイナルカット」を堪能するには欠かせないもの。闇の奥をのぞき込むような作品だからこそ、有機ELの黒の再現性は欠かせない。この作品の再上映やソフト化がこのタイミングというのも、決して偶然ではないだろう。有機ELテレビが登場したからこそ、ここまでの暗部の再現を徹底できたのだと思う。

前線基地を訪れた慰問団によるイベントなど、戦争の中のさまざまな現実を描きながらウィラード大尉は川を遡っていく。アメリカ軍の勢力圏を過ぎ、ベトナム軍による襲撃の危険も高まっていく奥地では、兵士達の緊張感も増すし狂気の度合いも深まっていく。なにより、ウィラード大尉の顔付きが徐々に変貌していく。標的であるカーツ大佐の経歴などを読みながら彼の人物像に迫っていくが、ジャングルの奥地に王国を築いたカーツ大佐の狂気にも近づいていく。この表情の変化も実に表現力豊かだ。汗と脂で汚れた顔や服といった表面的なものだけでなく、疲弊した肌の感じや疲れているのに妙にギラついた瞳の輝きなどが際立つ。肌の質感や瞳の輝きといった細部の表現もかなり見事なものだ。この高コントラストと色彩の豊かさという有機ELテレビのポテンシャルをフルに活かし、48X8400は忠実度の高い優れた表現力を実現している。

クライマックスとなるカーツ大佐の王国の場面では、その存在感が見事だ。陰になった室内の奥でシルエットだけが浮かぶが、表情は見えない。光の中に顔が見えたかと思うとすぐに奥に下がってしまう。カーツ大佐のシルエット、狂気をおびながらも知的さを感じさせるふるまいと表情を生々しく再現した。

余談だが、この室内にある大量の蔵書の中に「金枝篇」がある。これを読んでいるということで、カーツ大佐はウィラード大尉の役割や自分のその後も予見していたことがわかる。そう思ってその後のシーンを見ると、カーツ大佐の謎めいたセリフの意味が少しだけわかった気になる。

ここの暗い室内での対話は並のテレビではかなり厳しい映像なのだが、48X8400はほぼ不満のない再現ができていた。闇のなかでうっすらとカーツ大佐の顔が見える場面はわずかに階調表現の苦しさを感じた程度だ。光を中に姿を現したカーツ大佐の表情や肌の質感の表現力はまったく不満がない。

そして、現地民たちによる牛の生け贄を捧げる祭りのシーンも、圧倒的な迫力だった。祭りと対比して、カーツ大佐の元へ行くウィラード大尉。その結末も実に象徴的だ。

同じ映画を何度も見直す面白さ。視聴するテレビが進化するとその面白さも倍増する

時間をかけて、何度も同じ映画を見るのは実に楽しい。古い友人と再会したような懐かしさと新しい発見の両方がある。見直すごとに機材も変わっていてより良く見えるし、人間的な成長もあってなおさら理解が深まる。何度でも見たいと思う映画にたくさん出会えたことにも感謝したい。「地獄の黙示録:ファイナルカット」を見ていると、オリジナル版をはじめて見たときからの当時の記憶や視聴した機材のことまで思い出されて、作品の面白さだけでなく、自分のシステムの成長なども振り返ってしまい、感慨深い気持ちになった。本作を有機ELテレビの48X8400で見られて良かったと思う。

そんな気持ちになる映画はたくさんあるが、それぞれの人にフィットする作品というと決して多くはない。自分自身、DVD、BD、UHD BDと発売される度に買ってしまう作品については自嘲的に「お布施を払う」などと言っているが、今後も何度でもお金を払うと思う。こういうのも映画の魅力だと思う。ぜひともそんな作品に出会って欲しい。そして、そんな作品を見るときは、それにふさわしい映画館やディスプレイで存分に味わってほしい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。