鳥居一豊の「良作×良品」

第92回

手の届くHi-FiアクティブスピーカーAIRPULSE「A80」で、「FF7 REMAKE OST」

AIRPULSE 「A80」

“スピーカーとアンプの相性”問題は悩ましい。音色の相性をはじめとするさまざまな要素があるため、組み合わせるアンプによってスピーカーの音はガラリと変わる。ユーザーが気に入ったスピーカーならば、さまざまなアンプを吟味し、あれこれと組み合わせて音の変化を確かめるのは楽しい。音質的なグレードアップの要素もある。しかし、すべてのユーザーにそれを求めるのは厳しい。そんな面もあって、アンプを吟味する必要のないアクティブ・スピーカーはもっと高く評価されていいと思う。スピーカーにアンプを内蔵しているので、組み合わせるアンプに頭を悩ませる必要がない。初心者にとっては実に頼もしい存在と言えるだろう。

もちろん、別体でアンプを置く場所が不要、配線も不要という手軽さもあり、パソコン用やテレビ用、スマホ用といったカジュアルなスピーカーはすべてアクティブ・スピーカーだ。音楽ソースがデジタルとなり、アンプだけでなくDACまで内蔵するようになると、伝送経路の最短化やシンプル化などのメリットもあって、さらに普及が進み、今では本格的なオーディオメーカーも積極的にアクティブ・スピーカーをラインナップしている。

これとは別に、スタジオなどで使用する業務用のスタジオモニターはその多くがアクティブ・スピーカーだ。可搬性や設置の利便性など共通するメリットもあるが、優れた音質や特性を求められるスタジオモニターでは、アンプとスピーカーとトータルで開発できるアクティブ・スピーカーの音質的なメリットが評価されているのだと思う。

今回紹介するAIRPULSEの「A80」も、そんなアクティブ・スピーカーだ。設計はフィル・ジョーンズ。ベテランのオーディオ好きの人なら、アコースティック・エナジーの「AE-1」を思い出すだろう。業務用のニアフィールド・モニター開発のノウハウを反映した最新作がA80なのだ。

比較的手頃な価格ながらも、リボンツイーターやアルミ合金振動板のウーファー採用

AIRPULSE A80の価格はペアで77,000円。コンパクトながら本格的なHi-Fiスピーカーとしては手頃な価格だ。しかも、リボンツイーターやウーファーの振動板にアルミ合金を採用するなど、造りも本格的だ。

内蔵するアンプは、テキサス・インスツルメントの「TAS5754」というクラスDアンプ。これを2個内蔵している。最大192kHzのサンプリング周波数のデジタル入力に対応する。2個のアンプは、ツイーターとウーファーのそれぞれを専用にブリッジ動作で駆動している。

リボン型ツイーターは、専用に設計されたホーンを組み合わせたもの。磁気回路には強力なネオジウム磁石を使用し、リボン型振動板の高感度で解像度の高い音を引き出している。

口径11.5cmのウーファーは硬質アルマイト処理を施したアルミ合金のコーン型振動板を使用し、軽量なアルミ製ボイスコイルとネオジウム磁石による磁気回路を組み合わせている。これらを支えるフレームは高剛性な鍛造マグネシウム合金製。リニアリティと過渡応答性に優れた振動板の動作を実現。しかもエッジワインド銅を採用した大型のボイスコイルを使用し、パワーハンドリング性能も高めている。

A80の前面。リボンツイーターが特徴的だ。右側スピーカーの下部にはリモコン受光部と入力ソースを表示するインジケーターがある
ホーンロード・リボンツイーター
アルミニウム合金コーンウーファー

外観はリボンツイーターが特徴的だが、ウーファーにも注目してほしい。アルミ振動板だけでなく、センターキャップが尖った三角錐のような形状になっているのがAE-1にそっくりだ。AE-1のインパクトを覚えている人には懐かしいような、当時の驚きが蘇るような気分になる。

さらに、エンクロージャーの剛性の高い造りにも感心する。表面の仕上げこそ、木目が印刷されたシートを貼ったものだが、エンクロージャー自体は厚さ18ミリのMDF製。角を丸めたフォルムを含めて、作りはしっかりとしている。

また内部配線は高性能なオーディオケーブルメーカーとして知られるトランスペアレント製のケーブルを採用しており、背面にそれを示すラベルも張られている。

A80の背面。アンプを内蔵する右側には、アナログ入力、USB、光デジタル入力を装備。メインボリュームのほか、高音と低音のアッテネーター(±3dBでレベル調整可能)がある。そのほか、左側スピーカーへの出力端子、サブウーファー出力もある

背面を見ると、アクティブ・スピーカーということもあり、右側スピーカーには入力端子やボリューム類がある。L側スピーカーとの接続は専用の5ピン端子。低音、高音のレベル調整ができるほか、サブウーファー用の出力も備えている。アクティブスピーカーとしては十分な装備だ。

背面に取り付けられたバスレフポートは、楕円形で開口部付近はフレア形状となっている。風切り音を低減し、ノイズの少ない低音再生を狙ったデザインだろう。

入力端子は、アナログ入力が2系統、USB端子、光デジタル音声入力となる。このほかに、Bluetooth V5.0にも対応する。音声コーデックはSBCのほか、aptXにも対応している。

A80の側面。角を丸めた形状で、木目調の仕上げになっている
A80の底面。四隅に樹脂製の脚部が備わっている
A80の右側スピーカーのインジケーター部。表示はUSBを選択した状態。
同じくインジケーター部。Bluetooth選択時。ペアリング時はマークが点滅する

小型ながらも立派なたたずまい。まずは一般的な設置で使ってみた

さっそく開梱して、自宅の試聴室にセットアップしてみたが、スピーカーのしっかりとした造りだけでなく、各種のオーディオケーブルがきちんと付属しており、右側スピーカーと左側スピーカーを接続するケーブルも質の高いケーブルになっているなど、付属品まで含めて質が高い。このあたりは立派に本格的スピーカーの風格だ。入力の切り替えや音量調節を行なえるリモコンもある。

R側とL側を接続する付属ケーブル。専用の5ピン端子で質の高いケーブルだ
付属のリモコン。コンパクトなサイズで電源のほか、入力切り替えと音量調整ができる

サイズとしてはデスクトップに置くのにちょうどいいコンパクトさだが、見た目も含めて立派な小型スピーカーのようなたたずまいなので、まずはスピーカースタンドを使ってセッティングした。スピーカーの間隔は2m弱となる。サイズからするとちょっと広すぎるかなと感じる距離だ。

スピーカースタンドに置いた状態。ややコンパクトではあるが、このくらいの間隔の設置でもかなり立派な音が楽しめる

まずは腕試しということで、Bluetooth接続で聴いてみた。iPad miniを使ったので、コーデックはSBC。いつも聴く音楽を中心に再生してみたが、その音質の良さに驚いた。小型スピーカーなのに、大きめの音量でもしっかりと鳴る。しかも低音の重厚で力のある鳴り方は圧倒的だ。低音の伸びもサイズを考えれば十分なレベルで、パワフルなロック調の曲でもベースやドラムスの音を力強く鳴らす。素晴らしいのはベースの再現で、音階がわかるような情報量の豊富さに加え、ベースの太い弦を指で弾いている感触がリアルだ。リズムの切れがよく、うねるようなベースラインを力強く再現する。

これは、フィル・ジョーンズがベースプレイヤーであることにも関係しているだろう。ちなみに彼は、理想のベースの音を追求したPJB(フィル・ジョーンズ・ベース)と言うブランドも立ち上げている。小型スピーカーでは、いや、それなりのサイズのスピーカーでもこれだけブリブリと鳴って、しかもキビキビとよく反応するベースの音を再現できるスピーカーはあまりない。このあたりを聴くと、大昔にアコースティック・エナジーのAE-1を聴いてその音に吃驚仰天したことのある人は、A80がAE-1の音にかなり近いことに気付くはず。

大編成のクラシックを聴くと、さすがに広いホールに響く音のスケール感はややコンパクトになるし、ややタイトな低音に感じる面もある。だが、低音楽器のテンポ感やスピード感がよく出て、テンションの高い演奏になる。小型スピーカーの良さを凝縮したような音だ。

女性ボーカル曲を聴くと、解像感は高いものの高域はむしろスムーズとさえ感じる。Bluetoothの荒れた感じのない、滑らかで表情がよく出る。ディストーションを効かせたエレキギターの音も聴きづらくなる一歩手前でうまく鳴らすが、それ以上にウーファーからの中低音がパワフルなので、高域が負け気味に感じるほど。

背面のアッテネーターでツイーターの音量を1.5~2dBほど上げてやると個人的にはちょうどいいバランスだと感じた。ボーカルの実体感が増し、音が前に出てくる感触が得られた。アッテネーターは最大まで上げても3dBが上限なので、目一杯まで上げてもバランスが崩れることはない。再生音量に合わせてやかましくならないくらいまで上げるのがおすすめだ。

アニソンも、音数が多くガチャガチャした感じになりやすい曲もなめらかに聴かせてくれるし、女性歌手のサ行の音が耳に付くような、いわゆる耳に刺さるような音にはならない。後でUSB入力で本格的に聴くと改めてわかるのだが、Bluetooth入力時の音をきちんと調整して聴きづらくならないように調整していると思われる。Bluetoothスピーカーとしてはかなり高価だが、その音は極上と言えるレベルだ。

デスクトップで試聴してみる

今度はデスクトップに置いた状態で試してみた。1mほどのAVラックの両端に置いて、スピーカーにギリギリ手が届くくらいの距離で聴いている。ちょうど、スピーカーの間にノートパソコンやタブレット端末を置き、操作しながら音楽を聴くイメージだ。

この時は、付属のウレタン製のベースを使用して、やや斜め上を向く角度にして使っている。最初は少々頼りない感じもしたのだが、ウレタンがいい具合にスピーカー自体の振動を吸収するようで、AVラックに振動が伝わって不快になるようなこともなく、音が濁ったり、低音の力感が失われるようなこともなかった。

付属するウレタン製のベース。くさび状の角度がついた形になっており、スピーカーの角度を上向きで設置できる
ウレタンベースを使って設置したところ。アングルもちょうどいいし、見た目の収まりもなかなかよい

ニアフィールドの距離で聴くと、A80はまさしく本領を発揮する。音場は小さくなるというよりもギュッと凝縮した感じになり、左右の広がりだけでなく奥行きもしっかりと出てくる。距離が近くなるぶん、音量は少し下げた方がいいが、Bluetooth接続時は高域が滑らかなので高音のアッテネーターを調整する必要はなかった。音像の厚みも増すし、エネルギーたっぷりの音が目の前に飛びだしてくるような感覚も見事だ。

スタンドに置いて距離を広めとしてセッティングでもかなりのレベルの音を楽しめるが、より近接した配置の方が本来の切れ味の鋭い音やパワー漲る演奏の醍醐味を味わえると思う。

USB接続に切り替えて、いよいよ「FF7 REMAKE OST」を聴く

セッティングはニアフィールドのままで、再生機器をiPad miniからMac miniに変更。USB接続に切り替えた。Audirvana plusを使って聴いてみると、当然ながらさらに情報量が豊かになる。歌声はさらに表情豊かになるし、よく弾むリズムとスピード感はそのままだが、さらに時間軸方向の精度が高まったというか、アタックから響きの余韻へと推移していく様子が鮮やかになる。反面、荒れた音やキツい音をそのまま出す辛口なところも感じる。高音のアッテネーターは多少控えめにした方が曲によっては聴きやすいこともある。

もうひとつ感じたのは、寝起きの悪さ。Bluetoothではさほど目立たないが、USB接続メインで使っていると、電源投入直後はキツめの音がより目立ちやすいと感じた。1時間も鳴らしてやると音にスムーズさが出てくるので、それまでは音量を控えめにして使うと良さそうだ。このあたりはちょっとナーバスというか、お手軽に使いたい人には面倒に感じる面もある。だが、それを補って余りある素晴らしい音が得られるのだから、これくらいは許容範囲内だと思う。

それでは、いよいよ本題の「FINAL FANTASY VII REMAKE Original Soundtrack」(以下、「FF7 REMAKE OST」)を聴こう。「FF7 REMAKE OST」は、ゲームの発売前にリリースされたアナログ盤もあるが、こちらは4枚組8面で、2枚組4面ずつ「FF7 REMAKE OST」とオリジナル版の「FF7 OST」の楽曲を一部収録ている。アナログ盤なので仕方がないが楽曲の収録数は少なめ。CD版の「FF7 REMAKE OST」はゲームのほぼ全曲を収録している(スペシャル版はゲーム内で入手できるジュークボックス楽曲も収録したボーナスディスクも付属する)。

そのため、CD7枚組の大ボリューム。REMAKEは分作なので、元になる楽曲もオリジナル(CD4枚組)の半分程度だが、それなのに7枚組。「FF7」だから7枚組か! ダジャレか!! と文句を言いたくなるほどリッピングが面倒だった。容量的にはDVDなら片面2層の1枚で収録できるし、BDならば映像付きのBDミュージック仕様で収録できるだろう。ファン向けアイテムとしてはCD7枚組の方が喜ばれそうとも思うが、再生の手間を考えると面倒くさい。楽曲、そして演奏の質は極めて高いので、ハイレゾ版の配信をスタートして欲しいとも思う。改めて、現代のコンテンツはCD時代のボリュームには収まらないものになっているのだと実感した。

左がアナログ盤。インナージャケットはバスターソード。右側CD版(通常版)ブックレットのほか、紙ジャケット仕様で7枚のディスクが入っている

さっそく聴いていこう。まずはディスク1の1曲目(以下、曲名は1-1のように表記)「プレリュード-再会-」。ハープの演奏を主旋律とした楽曲でイメージはオリジナル版のままだが、イントロの後はオーケストラによる伴奏が加わり、さらにスケール豊かで情感の溢れた曲になっている。こうした曲は当然ながら、ゲームのプレイ中でもさんざん聴いているのだが、音質がケタ違いに良い。

音源は同じでもゲーム中の再生のために、圧縮記録になっていると思われるし、本作はゲームの進行に応じてまるでリミックス再生のようにノンストップで楽曲が切り替わっていくので、そうした処理がしやすいように加工されているかもしれない。プレイしているときはかなりゲームのBGMとしてはかなり音質が良いと感じていたが、サントラ盤を聴いているとその違いに驚く。まず低音の伸びやエネルギー感がまるで違う。

AIRPULSE A80の再生も、絶対的な低音の伸びは大型スピーカーに及ばないところもあるが、それは部屋中に響くようなスケールの大きな響きくらいで、楽器の実音としての低音は十分にカバーできている。そして、リズム感の良さ。ベースの音階がわかるような情報量のある低音の鳴り方で、しかも量感もほどよく伴ったパワフルさが出ないと、この良さは十分に味わえない。これは、A80での再生に限らず、いわゆる小型スピーカーやヘッドフォンで聴く場合も同じだが、低音の再生能力の優れたものだと楽曲の良さがよくわかる。

よくチェックしたいのは、1-3曲目「爆破ミッション」、1-4「闘う者立ち-元ソルジャー-」のようなバトルシーンでの曲。ゲーム中でもプレリュードからオープニングと切れ目なく続く印象的な曲だが、ここでのリズム進行が凄い。基本的には原曲の持ち味をしっかりと活かした曲だが、ドラムスの力強い鳴り方をはじめ、一定のリズムを刻むだけでなく微妙にリズム感が変化してうねるようなグルーブを生み出しているのがわかる。これは、切れ味のよい優れた低音を楽しめるスピーカーで聴くと、本当に楽しい。

今度は一転して、1-17「ティファのテーマ-セブンスヘブン-」。ピアノソロのイントロから始まって、オーケストラの木管や弦の音が重なってくる。心安らぐやさしい感触だ。切れ味のよい再生音だからこそ、こうした柔らかな感触もしなやかに再現できる。ピアノのメロディーに重なる木管のハーモニーもきれいだ。こういうリニアリティに優れた融通無碍なフィーリングはリボンツイーターならではのもの。そのため、シリアスなシーンでのしんみりとした曲や物語の根幹に迫るシーンでのおどろおどろしい曲などの雰囲気も表情豊かに楽しめる。

スピーカーの角度は内振りを中心にいろいろと試してみたが、デスクトップ設置に近いニアフィールド試聴では、正面を向けた置き方が良いと感じた。ツイーターに備わったホーンの形状がニアフィールド試聴を意識したものになっているのだろう。音場の広がりと奥行き、音像の定位や音の厚みが見事にバランスしている。ちなみに、1m以上の広さで通常の小型スピーカーのように置く場合はやや内振りにした方が音の実体感が増す。解像感の高い音なので、置き方による音の違いもはっきりわかるので、いろいろと試してみると楽しい。

続いては、バイクシーンの楽曲2-9「クレイジーモーターサイクル-行くぜ野郎ども-」からの曲。ミニゲームだったバイクバトルはさらに強化されていて、登場シーンも増えている。エレキギターのヘビーな音をメロディーとした曲だが、シンセサイザーの音や金管の残響の長い響きがトンネル状の長い通路を疾走する雰囲気をよく表していて、臨場感もたっぷり。ここに限らないが、ドラムスの深い沈み込みは迫力満点だ。

一転してスピード感のある楽曲(2-10「ミッドナイトスパイラル」)に切り替わっていくなど、一連のシーンで使われる曲はつながりもよくノンストップで展開していく様子はライブパフォーマンスを聴いているようだ。ゲームというよりも映画を見たかのように、プレイした場面の映像が蘇る。

小音量で聴いても魅力が損なわれない。さまざまな使い方で楽しめる

今度はエアリスのテーマをモチーフとした3-18「教会に咲く花」。筆者も大好きだし、人気の高いヒロインであるエアリスはオリジナル版の頃から天然というか、ちょっと変わった女の子だ。オリジナル版を最後までプレイしていて、しかも少々設定も変わっているREMAKEのエアリスを見ると、普通の人とは違う独特な世界観(死生観)を持ったキャラクターという面が強調されている。変わり者という見え方は同じだが。それにしてもこういうキャラクターを坂本真綾が演じると絶妙な相性の良さを感じる。

さておき、楽曲は癒やし系の心温まるもので、木管の柔らかい音色が気持ち良い。ここでは、音量をかなり絞って小音量で聴いてみた。もともと大きな音量で聴きたくなる曲ではないが、小音量でもかなり良い。肝心なポイントは音量が小さくなるのに比例して低音が出なくなって音が痩せたように感じることがほとんどないこと。出音の反応の良さ、余韻の美しさがしっかりと出るので、ウーファーの感度がかなり高いとは思っていたが、スケール感は小さくなるが低音が不足するような感じはほとんどない。これならば、BGM的に小さな音で鳴らし続けていても気持ちいいし、あまり音量を出せない環境にいる人でもかなり満足度の高いスピーカー再生を体験できると思う。

逆に4-06「ウォール・マーケット-欲望の街-」のようなにぎやかな曲を聴いても不満を感じない。低音がしっかりと鳴っている感じがあることも重要だが、金管楽器による陽気なメロディーが抑揚がしっかりと出て楽しげな雰囲気をよく伝えてくるし、小さな音量でも音数が減らないのでにぎやかな感じがきちんと伝わる。ニアフィールドモニターとして、非常によく出来ていると実感する。

なお、多くの人がさんざん繰り返し聴いたであろう曲、4-09「マッスルな者達」も小音量でも楽しい。ここで肝心なのはリズム感だ。ミニゲームはリズムに合わせてボタン操作をしないとミスになるが、きっちりリズム通りだと目標回数に届かない。筆者もゲームではいろいろと苦心したが、楽曲のリズムに合わせるイメージだとミスも出さずに高得点が得られることに気付いた。だから、この曲でリズムが不鮮明になると不満が募るのだが、A80での再生では小音量でもリズムが掴みやすい。ついつい手が動いてリズムを取ってしまう。こういうところが、このスピーカーの一番の良さだと思う。

アクティブ・スピーカーとしての使いやすさ、完成度の高さを感じる本格派

「FF7 REMAKE OST」の楽曲はほぼ忠実にストーリーに沿っているので、楽曲順に気に入った曲をピックアップしていくだけで、ストーリー紹介になってしまうのだが、中盤以降は物語もシリアスになっていくし、リメイク作品とはいえネタバレは避けたいところ。そこで一気に飛ばして、リメイク版の主題歌である「Hollow」を最後に聴こう。

この曲は植松伸夫による新曲で、雨の中に佇むクラウドをイメージしたという。もの哀しくいろいろな思いを背負ったクラウドの内面に迫った曲だ。英語による歌詞も滑舌がよく、筆者程度(中学校卒業程度)の英語力でもきちんと歌詞が聴き取れる。なにより、落ち着いたムードの曲ながらも、サビの部分での声を張った感じ、感情の入った歌声に力強さがしっかりと伝わる。

“これで約8万円というのはお買い得”というのは自分自身言い飽きたフレーズだが、それ以上にこのコストパフォーマンスの高さを言い表す言葉が見つからない。さらに殺し文句を探すならば、“ただのアクティブ・スピーカーではなく、ハイエンドの風格さえ感じさせるHiFiスピーカーの音が8万円で手に入る”という感じか。

若い頃に聴いたAE-1は、自分でも欲しいと憧れたものだが、結局は買わなかった(買えなかった)。何故ならば、アンプにとんでもなくお金がかかるから。AE-1自体も小型スピーカーとしては高価だったが、それに釣り合うアンプを探すと価格的にもかなり高級なものがおすすめというのが当時の評価だったと思う。実際、能率も決して良くないし、小口径ロングストローク設計のウーファーは相当にパワーのあるアンプでないとまるで鳴らなかった。すべてがそうだとは言わないが、小型で高性能なスピーカーはアンプへの要求がかなり高いことが多い。そのため、十分に鳴らしきることができず、小型スピーカーに苦手意識を持ってしまった人もいるかもしれない。

だが、AIRPULSE A80はアンプ内蔵だ。アンプの組み合わせを考える必要も、過大なコスト負担もない。そういう意味でも、フィル・ジョーンズが設計した歴代のスピーカー(いずれも素晴らしい音だがアンプにお金がかかる)の中で、初めて誰が使ってもほぼ本来の音を楽しめるスピーカーがA80と言えるかもしれない。

スピーカーは人によって好みが分かれるし、A80は小型スピーカーの良いところだけを凝縮したような音だから、ある意味で誰もが好ましいと感じる音というわけではない。しかし、音を聴いた第一印象が「凄い」だったり、好き嫌いを超越してとんでもない良い音であることだけは誰もが認めるはず。Bluetoothの音を聴いてみるだけでもその片鱗が味わえる。だから、“これで8万円は安い”のだ。

そういうごくわずかなハイエンドスピーカーが持つ独特の雰囲気をぜひとも感じてほしい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。