小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第800回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

SNS映えする動画を作ろう! Apple「Clips」で“1ランク上”を目指す

「誰でも動画」の時代

 スマートフォンで動画が撮れるというのは、子供にとっては想像以上に面白いものであるらしい。スマートフォンで写真を撮ってもそれほど喜ばないが、動画を撮ってやると小学生などは何度も繰り返し見てはゲラゲラ笑っている。

 大人はというと、スマホによる自撮り写真が人気だ。写真は一瞬、偶然によく撮れるということもある。さらには加工アプリで“盛れる“事もあり、みんな熱心だ。

 しかし自撮り動画となると、撮るという人はとたんに少なくなる。多くの人は、動画となったとたん、何をどうしゃべっていいのか、とたんにわからなくなる。

 ただそうは言っても、ネットのコミュニケーションは、ゆっくりと動画に向かいつつある。動画コミュニティのMixChannelは高校生ぐらいの子達の遊び場になっている。一定時間で消える動画コミュニケーションは、Snapchatが流行らせたが、Instagramにも「ストーリー」という形で追加された。つい先日もFacebookメッセンジャーにも「My Day」という似たような機能が追加されたところだ。

 今月4月7日には、Appleが突然動画作成アプリ「Clips」を無償公開した。映像自体を派手に加工できるだけでなく、カメラに向かってしゃべったことを自動的にテロップにしてくれる。Siriによる音声認識精度も近年は破格に高まってきているが、こうした形で恩恵を受けることになるとは思わなかった。

音声認識でテロップが入れられるAppleの「Clips」

 動画系コミュニティで子供達が行なっているのは、既存の曲に合わせて静止画を貼り合わせたり、あるいは口パク動画を繋いだりといったものだ。多くは女の子で、名所に行ったりメイクをしたりといった“盛れた”状況をみんなに見せて、かわいいと言って貰いたいわけだ。したがって起承転結も何もない。

 一方で、大人が作る動画とは、何らかの考えであったり説明であったり、モノ・コトを伝える動画であるケースが多いだろう。そこで今回はClipsを題材に、クオリティの高い動画とはどうやって作るのか、というお話しをしてみたい。

iPhone撮影の基本

 YouTubeの台頭により、動画の作り方も変わっていった。ネットでは撮影も出演も自分1人でやるというタイプの制作スタイルが定着しつつある。黎明期から活躍しているYouTuberは、カメラに大型モニターを繋いだりと、色々苦労があったようだが、現在はスマートフォンやタブレットで撮影できるようになったため、特別な機材がなくても1人撮影が可能になった。これは意外に大きなポイントである。

 自分撮りを行なう場合、どうやってスマホを固定するのかが問題となる。前出のClipsの場合、ボタンを押している間しか撮影されないので、これは当然、手でスマホを持っているしかない。撮影は簡単ではあるが、片手が塞がってしまうので、動きはかなり制限される。

Clipsではボタンを押している間しか録画されない

 もう一つの難点は、腕が伸びる範囲でしかカメラを「引けない(後ろに下がって広い範囲を撮影すること)」ことであろう。例えば全身を入れたいと思っても、腕がそこまで伸びないわけだ。特にClipsで撮影した動画は、1,080×1,080の正方形になるため、スマホで縦撮りしても、縦方向を長く撮ることができない。そこまでやりたいのなら、誰か別の人に撮って貰うしかない。

 せめてあと少し「引きたい」という場合は、クリップ式のワイドコンバージョンレンズを使うという手がある。カメラ量販店などで様々な種類が大量に売られており、価格も数百円から数千円まで様々で、高い物は倍率が変更できたり、マクロレンズと兼用だったりする。

クリップ型のワイドコンバージョンレンズ
めいっぱい腕を伸ばして撮影
同じ位置でワイドコンバージョンレンズを使って撮影

 ワイドコンバージョンレンズ利用時の注意点としては、カメラとコンバージョンレンズのセンターをきっちり合わせることだ。中心がずれていると、片側だけ解像度が落ちたり、妙に白っぽくなったりする。

 次に注意したいのは、照明だ。室内あるいは夜間に撮影する場合、どうしても光量が足りず、ノイズっぽい映像になってしまう。

 こうした場合の補助光として、リング状のLEDライトを利用するといいだろう。最近はセルフィー人気のため、この手のライトも量販店で大量に売られている。これも数百円から数千円とピンキリだが、高いものは光量が調整できたり、色温度が調整できるものもある。本来ならばバッテリー容量なども選択要素になるが、そこまでのスペックは記載されていないものも多い。

セルフィー用のLEDリングライト

 照明の当て方も重要だ。多くのリングライトは、スマートフォンに直接くっつけるようになっているが、それだとカメラの真正面から光が当たることになり、顔が平坦に見える。小じわを白く飛ばしたい場合には有効だが、多くの場合不自然になる。上斜め45度ぐらいの場所にくっつけられる場所があるのなら、その方向から照らした方が自然な立体感が表現できるだろう。

ライトなし
正面から当てた場合
斜めから当てた場合

 最後に注意したいのが、顔のコンディションである。そればかりはどうにもならないと笑われるかもしれないが、油で妙にテカっている場合は、顔用の汗拭きシートを使っててかりを押さえた方がいいだろう。

 ただ昨今の女子の間では、逆に顔がテカっていたほうが「盛れてる」んだそうである。ツヤツヤ感を強調したほうが、若さがアピールできるらしい。世代が変われば、常識も変わっていく典型であろう。

Clipsでの撮影と編集

 Clipsでは、ボタンを押しながらでないと録画されないため、細かいクリップが沢山できる事になる。当然それらは編集して繋いでいかないと意味を成さないので、撮影と編集は一体として考えていく必要がある。

 一番わかりやすい編集は、撮影が始まってからしゃべり始めまでの間と、しゃべり終わってから撮影を止めるまでの間を切ってしまう事である。こうしてしゃべり出し、しゃべり終わりを整理することで、テンポのいい繋がりができる。

 ただ、間をギリギリまで詰めてしまうと窮屈な印象になる。昨今のYouTuberの編集は、敢えて間をギリギリまで切り詰めるのがスタンダードのようだ。一方自然な繋ぎとは、句読点に相当するところで息を吸うタイミングを活かす。すると、音声だけ聴けば編集していないかのような自然な間が生まれる。

ギリギリまで詰めた例と、呼吸のタイミングで編集した例

 Clipsの編集機能の弱点は、クリップの頭とお尻をトリミングすることしかできず、クリップを分割する手段がないところである。では例えば1分間のクリップのうち、前半の20秒と後半の20秒を使いたいようなケースはどうするか。通常ならば、クリップをいったん前半と後半に分割したのち、それぞれをトリミングする事になる。

 このような編集をしたい場合は、「ライブラリ」を経由する。分割したい動画をいったん「共有」の「ビデオを保存」コマンドを使って、ライブラリに書き出す。書き出したクリップは、Clipsの「ライブラリ」から読み込むことができる。

 このとき、動画を選択して、赤い「長押しで録画」ボタンを押すと、必要な部分だけがClipsに読み込まれる。前半部分と後半部分を別々に「録画」すれば、結果的にクリップを2つに分けたことになる。

 こうしたテクニックは「やりくり」といって、テープ編集の際によく行なわれた。いったん別のテープにダビングし、そこからまた元のテープに編集しながら書き戻す、「やりくり」するわけである。パソコンで編集を始めたという人にとってはまどろっこしい方法かもしれないが、案外思いつかない方法かもしれない。このテクニックは、クリップにアフレコでテロップを入れる場合などにも使える。詳しくは後述する。

 Clipsは撮影しながら様々なエフェクトを加えることができる。一番の驚きは、しゃべった言葉をその瞬間にテロップにしてくれるところだろう。テロップの出方は7つのパターンから選択する。

 上手く聴き取れなかった場合は撮り直しになるが、文字としゃべりがきちんとシンクロしてスーパーインポーズされるというのは、普通ならなかなか根気のいる作業だが、それを自動であっという間にやってくれるのだから、使わない手はない。

 ただここで問題になるのは、音声の集音状況だ。カメラを遠くに離したり、周囲がうるさい場所では必然的に認識力が低下する。その場合は、別途マイクを用意するといいだろう。

iPhone 7でマイクを使うには、複数のアダプタが必要

 胸のあたりに着けるラベリアマイクも、PC用として1,000円以下のものから数万円のものまで、幅広く存在する。iPhoneで使用する際は、プロ用ではなくコンシューマ用のもので十分だろう。

騒音がうるさい場所では、外部マイクが有効

 ただ、動画の中で延々としゃべりをテロップ化していては、動画としてのメリハリがない。重要なポイント、ここぞというときの使いどころでセンスが分かれる機能であろう。

 なおこのテロップは、撮影しながらでなければ付けられないが、あとから消したり、別のテロップパターンに変えることもできる。ストーリーボード部に並んだ動画を選択して、テロップのアイコンから別のパターンを選べばいい。消したい時は「なし」を選ぶわけである。

 画像全体にかかるフィルターも、7種類から選べる。昨今は動画エフェクトも、目を大きくしたり、動物の耳や鼻を付けたりするアプリが人気だ。しかしClipsのフィルターはそういった加工ではないため、自分を「盛りたい」女子には物足りないだろう。

フィルターが7種類から選べるが、「盛れる」わけではない

 またClipsには、クリップとクリップの間を繋ぐためのトランジションエフェクトがない。カット繋ぎしかできないわけだが、カメラを使って移動感を出す「スイッシュ」というテクニックをご紹介しよう。

 これは必要な撮影の最後を素早く1方向にカメラを振り、流れる絵を撮る。そして次に繋がるカットは、同じに方向にカメラを振って被写体を捉える。これを、絵が流れている途中で繋がるように編集すると、瞬間移動したかのような効果が得られる。

撮影時にスイッシュを施した例
間にスイッシュを編集で挿入した例

 そもそもスイッシュは、気軽にトランジションをかける事ができなかったフィルム編集時代に、ワイプ代わりのテクニックとして編み出されたものである。単に流れているカットを間に入れるだけでも、移動感のあるトランジション効果を得ることができる。

Clipsの後処理

 Clipsには、字幕テロップ、フィルター、フキダシ、画面取り切りのタイトルの4種類の効果が実装されている。前者3つは撮影しながら付加していく効果だが、字幕テロップ以外は後処理でも付加することができる。特にフキダシは、挿入する位置やタイミングがズレていると面白くないので、撮影時よりもあとから入れた方が上手くいくだろう。

 それ以外にも、後処理でやりたいことは沢山あるはずだ。例えばClipsでの撮影では、iPhone 7 Plusで搭載された映像の光学ズームが使えない。そうでなくても、iPhoneのカメラでは遠すぎて上手く狙えない被写体を拡大したり、撮影位置を調整したいというケースはあるだろう。

 このような時は、被写体が遠くでも構わないので、いったん標準のカメラで4Kで撮影しておく。このクリップをClipsのライブラリから読み込む際に、「長押しでクリップを追加」状態となる。これは先ほど説明した「やりくり」と同じ手法だ。

4K動画をライブラリから読み込み、ズームした

 4Kで撮影した映像は、16:9画角だし、解像度にも余裕がある。ズームしても、4倍ぐらいまでは画質的にも問題なく使えるはずだ。

 同様の「やりくり」の方法を使って、すでに撮影したクリップに対してアフレコしたり、テロップを追加したりできる。「長押しでクリップを追加」の際に、エフェクトとして「テロップ」を選択し、長押ししてクリップを追加する際にナレーションをしゃべればよい。一発勝負で撮影しながらのナレーション付けは難しいが、これならあとから何度でもやり直しができる。

ライブラリに書き出してインポートすれば、アフレコもできる

総論

 Clipsは、一見シンプルな編集しかできない、どちらかというと撮影中心のツールのように見えるが、「やりくり」の手法を使えば意外に複雑なコンテンツを作る事ができる。やれることがシンプルなだけに、iMovieが難しいという方にも使えるはずだ。

 ただ注意したいのは、エフェクトというのは誰が使っても効果は同じなので、多用しているとすぐに飽きられるという事である。エフェクトの見本市みたいな動画は、内容がちっとも頭に入ってこないので、評価も低い。効果とは、ここぞというところにピリッと効かせるワサビみたいなものなのである。

 また編集すれば長い動画も制作できるが、SNSで使うのであれば、10~20秒ぐらいで完結するように作った方がいいだろう。YouTubeとは違い、SNSでは長い動画を作っても、出だしからよほど面白い物でない限り、10秒程度で離脱されてしまう。SNSとは、そのスピード感で情報が消費されている世界なのである。

 テレビコマーシャルも、短いものは15秒、長いものでも30秒だ。今度コマーシャルを見る時は、この短時間にどれだけの情報が詰め込まれているか、じっくり見てみると参考になるだろう。

 まずは15秒コマーシャルを作るつもりで、SNS動画にチャレンジしてみて欲しい。

Clipsのサンプル動画 -AV Watch

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。