小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第817回
花火にトーク、この夏は“音にこだわる!”デジカメ用マイク4種を試す
2017年8月23日 08:00
画・音揃っての4K
動画撮影にビデオカメラを使う人もすっかり少なくなってしまった。ほとんどはスマホで撮ってしまうところだろうが、その代わりズームを使いたい、高画質で撮りたいというニーズは、デジカメで対応する事になる。
しかしデジカメは、所詮写真機。写真の延長線上として動画が撮れるとはいえ、音に関してはかつてのビデオカメラほどには、メーカー側も注力していない。映像のクオリティはどんどん上がっていくのに、音のクオリティは逆に下がっていっているのが現状である。撮影した映像をテレビに映してみんなで鑑賞するというときに、音がショボければ、映像もショボく感じてしまうものだ。
そこで今回は、ミラーレス以上のデジカメと組み合わせて使える近年発売のマイク4種をピックアップして、聴き比べをしてみたい。入門機からプロも納得の高級機まで、各シーン別に最適なマイクはどれか、早速試してみよう。
個性的な4製品
今回のテストで使用したカメラは、パナソニック 「DMC-G7」である。発売後2年が経過するが、4K撮影可能なミラーレスとしてはリーズナブルで、今も筆者の取材用カメラとして現役機種である。
外部マイクを使用してデジカメで映像収録をする場合、最低でもミラーレスクラスのカメラは必要だ。多くのカメラマイクは、アクセサリーシューに固定するようになっており、加えてマイク入力端子が必要である。コンパクトデジカメでは、アクセサリーシューがあるものもいくつかあるが、マイク入力端子があるモデルはほとんどない。そこまでの本格的動画用途を想定していないのだろう。
では今回テストするマイク4モデルを順にご紹介しよう。
まずはカメラメーカー純正品として、パナソニック「VW-VMS10」をお借りした。希望小売価格は9,800円で実売7,000円弱といったところである。
単一指向性の小型ステレオマイクで、エレクトレットコンデンサ型である。コンデンサ型は電源が必要だが、これはカメラのマイク端子経由で供給することになる。現在マイク端子からの電源供給は規格化されており、よほど特殊な設計でない限り、ほとんどのカメラで電源供給は可能なはずだ。電源スイッチなどは特になく、カメラに繋げば使えるという簡単仕様だ。
周波数特性は80~20kHzで、ローカットフィルターはない。これぐらいの価格帯だと、普通はスポンジのウインドスクリーンが付属するだけだが、ウインドジャマーが付属しているのはポイントが高い。
2つ目は、RODEの「Stereo VideoMic Pro」だ。RODEはオーストラリアのマイクメーカーで、最近プロ業界でも注目されている。オーストラリアはBlackMagic DesignやATOMOSなどのプロ機器メーカーがどんどん勢力を拡大しており、実に頼もしい限りだ。
以前「VideoMic Pro」というモノラルマイクがあったが、それのステレオ仕様が本機である。マイクスポンジが球形で見た目もユニークだが、内部も円形のシールド内にXYステレオ構成のコンデンサーマイクが配置されている。オープン価格で、実売は30,000円前後といったところ。
周波数特性は40Hz~20kHzで、フラットと75Hz以下のローカットフィルターの切り換え。また出力は–10dB、0、+20dBの3切り換えとなっている。電源は、最近ではあまり使われなくなってきた9V電池で、連続100時間以上の動作が可能。
アクセサリーシューから本体を浮かせるためのショックマウントは、発売当初のものから構造が違い、現行品はRycote製のショックマウントになっている。オンラインで製品登録すると、10年の延長保証が受けられる。
3つ目は、AZDENの「SMX-30」だ。AZDENことアツデン株式会社は、コンシューマの方ではあまり知られていないと思うが、近年突如サイレントディスコ・無音フェス用のワイヤレスヘッドホン「MOTO」シリーズで注目された。だが元々は、放送業界でマイクやワイヤレス機器メーカーとして知られている老舗メーカーだ。
このマイクのポイントは、モノとステレオマイクの切り換え式になっているところだ。ステレオをセンターに混ぜればモノになるが、このマイクはモノとステレオ用にそれぞれ別マイクを搭載している。
モノマイクは超指向性で、ステレオマイクは単一指向性マイクカプセルを120度V字型にマウントしている。ORTFステレオっぽいニュアンスとでも言えばいいだろうか。価格は希望小売価格36,000円だが、実売27,000円前後。
周波数特性はどちらも20Hz~20kHz。フラットと120Hz以下のローカットフィルターの切り換え。出力は–10dB、0、+20dBの3切り換えとなっている。また出力は–10dB、0、+20dBの3切り換えとなっている。マイクカプセルはどちらもエレクトレットコンデンサーで、電源は単三電池×2で24時間以上の動作が可能。
電源は、普通にスイッチのON・OFF以外に、カメラ電源と連動してON・OFFするAUTOモードを備えており、うっかりマイク電源を切り忘れても、カメラ電源がOFFならばバッテリーを消費しない親切設計だ。
スポンジ製ウインドスクリーンの他、その上からさらにウインドジャマーを装着することができる。ただしウインドジャマーは別売だ。ショックマウントもシューからフロートさせるタイプとなっている。
4つ目はTASCAMのショットガンマイク「TM-150SG」だ。サイトの説明によれば、インタビュー動画などの話者収録用とされているモデルである。バックエレクトレット・コンデンサー型で、電源は単三電池1本。
今回のマイクの中では唯一接続ケーブル直付けではなく、別途XLRのケーブルを接続するタイプだ。48Vのファントム電源でも動作できる。本来は別途レコーダに接続して使用するのが前提だろうが、今回は条件を揃えるため、XLR- miniの変換ケーブルを用いて、カメラに直結している。なお、TASCAMではXLR端子に直接接続できるリニアPCMレコーダ「DR-10X」なども用意している
周波数特性は50~18,000Hzで、フラットと100Hz以下のローカットフィルターの切り換え。標準でスポンジ製ウインドスクリーンが付属する。シューマウントアダプタは仰角が変えられるタイプだが、ショックマウントとしての性能はやや弱めだ。
自然音を聴き比べ
では実際に音を聴き比べてみよう。今回はできる限りマイクの素の特性を聞くということで、ローカットフィルタは使用していない。またカメラ側で適正な入力レベルになるよう調整し、カメラ内蔵のリミッターも使用していない。
まず最初に、水音とセミ時雨である。水源までの距離はおよそ2m。注視したい水音と、周囲のセミ時雨がどれぐらいの比率で聞こえるか、そうしたところが注目ポイントだ。
最初はカメラ内蔵マイクだ。近くのセミの声はよく拾っており、ステレオ感もそれなりにあるが、水音はほとんど聞こえてこない。指向性が前方に向いてないので、正面の音を拾うわけではなく、カメラ周囲にある音全部を拾っている。
パナソニック「VW-VMS10」では、ステレオマイクとはいえ、指向性が前に向いているので、水音はかなりよく聞こえる。内蔵マイクに比べると音のチャリチャリ感もなく、中域の表現はなかなか良い。
RODE「Stereo VideoMic Pro」も、前方の水音を中心として、全体の立体感がある。水音は高域まで綺麗に特性が伸びており、「涼しげな音」だ。
AZDEN「SMX-30」のステレオ収録では、ステレオ感は強いが若干中抜け感があり、RODEよりも水音が少し奧へ引っ込んだ感じがある。トーンも大人しめで、派手さはないが、トータルとしてはしっくりくる音だ。
「SMX-30」のモノラル収録では、指向性がかなり前に向くため、水音はかなり大きく拾う。モノラルなので周囲のセミの音の立体感はなく、かなり抑えめとなっている。1本のマイクでこれだけ特性の違う音が拾えるのは、面白い。
TASCAM「TM-150SG」では、指向性が鋭いため、前方の水音はよく聞こえる。セミの音が潰れた感じに聞こえるのは、元々横方向の音はきちんとした特性が出ないからだ。このマイクは比較的静かな場所で、遠くから人の声を狙うためのものなので、自然音の集音には無理がある。
大音量を録る
次は夏の風物詩ということで、花火大会における花火の破裂音を収録してみた。かなりの大音量や体に響く低音を綺麗に収録できるか、また周囲の音をどれぐらい拾うかに注目していただきたい。
まずカメラ内蔵マイクだ。花火の音自体は上手く拾えているが、左側にいる女子中学生のグループのおしゃべりが盛大に聞こえる。こうした公共の場での集音の場合、自分1人のために人払いをするわけにも行かず、当然周囲の音も入ることになる。こうした周囲音とターゲットとする音をどれぐらい分離したいかという点でも、マイク選びのポイントが変わってくる。
パナソニック「VW-VMS10」では、さすが同じメーカーだけあって、音質の傾向は内蔵マイクとかなり近い。花火の音にしろ周囲のガヤにしろ、明瞭度がかなり上がり、内蔵マイクよりもステレオ感が増したのが分かる。
RODE「Stereo VideoMic Pro」は、低域も高域も表現が豊かで、周囲の虫の声まで明瞭度高く拾っている。アッテネーターで-10dB絞れるが、そこまで絞るとカメラ側のアンプで増幅しないと適正値に達しないため、0dBで収録した。しかしカメラ側でギリギリまで絞っても、若干ピークレベルに飛び込む感じだったので、多少コンプレッサーがかかったような音になっている。
AZDEN「SMX-30」のステレオ収録では、-10dBまで絞ってもカメラ側のマイクアンプで0dBで集音できたので、花火音と周囲の環境音のバランスが良い音となっている。花火のアタック音もよく捉えており、現場音の迫力に近い。
「SMX-30」のモノラル収録では、超指向性ではあるものの、かなり周囲の音も拾っている。ただ特性は落ち気味なので、周囲の声の明瞭度は低い。そのぶん花火音に集中できる。
TASCAM「TM-150SG」では、かなり音がクリップされており、他のマイクの音とは別物となっている。この理由は、超指向性の高感度でありながらアッテネーターがないため、カメラ側のマイクゲインをギリギリまで絞ってもまだピークレベルを突き破ってしまうからで、この歪みはカメラ側に起因するものだ。そもそもこのマイクで花火のような大音量を録るのは無理があった。
人の声を録る
続いて人の声を収録してみた。カメラとマイクの位置は約1m。人の話を聞く距離としては妥当なところだろう。なお今回は人の声だけ拾えればいいと言うことで、ローカットフィルターが設定できるものに関してはONにしている。
まず内蔵マイクでは、そもそも音声が周囲のセミの音に負けてしまっているのに加え、ノイズゲート的な音声レベルの動きが見られる。
パナソニック「VW-VMS10」では、比較的声がよく通っているが、多少肉声としては硬い。明瞭感はあるが、音痩せした感じもある。
RODE「Stereo VideoMic Pro」は、音声の音痩せは少ないものの、周囲のセミの音が位相がズレてシュワシュワした感じがある。
AZDEN「SMX-30」のステレオ収録では、周囲のシュワシュワ感は少ないものの、正面の音声は低域をあまり拾っておらず、硬い音になっている。
「SMX-30」のモノラル収録では、特性がかなり前に向いているだけあって、比較的音声もしっかり拾えている。もう少し中低域が拾えれば、さらに良かったかもしれない。
TASCAM「TM-150SG」は、さすがインタビュー用を謳うだけあって、音声帯域のバランスがいい。1m離れても、オンマイクのような肉声に集音できる。周囲がもう少し静かなほうがいいのだろうが、こうしてシチュエーションで威力を発揮するマイクだ。
総論
今回4モデルのマイクをテストしたが、それぞれに音の個性があり、また使いどころによって向き不向きがある事がお分かり頂けたかと思う。これの意味するところは、カメラマイクは何か1つ買っとけばいいというわけではなく、何をどう録りたいかで使い分けで行く必要があるということである。
とはいえ、実際にこの手のカメラマイクは、本当にカメラに接続して集音してみないと特性がわからないわけで、店頭で展示機を見て確認出来るようなものではないというのが、難しいところである。
ただ、メーカー推奨のシーンというのはあって、インタビュー用、自然音用などと書かれているのであれば、そっちには向いてるんだろうという想像はできる。一方低価格なマイクほどオールマイティを目指すもので、無難な特性となっていくが、「これを録るならこれ」といった強みや個性はなくなっていく。
難しいのは、超指向性マイクの使い方だろう。特性が前方にとんがっているだけに、横から大きな音が入ると、きちんとした特性を出しにくい。そう言われてしまうとなかなか手が出ないとは思うが、ベースには無難にステレオマイクで押さえておいて、PCMレコーダなどと組み合わせて別途超指向性マイクでも録ってみる、といった使い方がいいだろう。
カメラやレンズに比べれば、マイクはかなり安い。映像をグレードアップする投資としては、コストパフォーマンスは高い。この夏、カメラマイクを新調するというのも、悪くない作戦であろう。