小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第821回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニーからも登場した完全分離型イヤフォン、動き合わせてNC制御「WF-1000X」

盛り上がるイヤフォン市場

 秋はイヤフォンの季節である。勝手にそう断言するわけだが、根拠がないわけでもない。夏を過ぎるとヨーロッパではIFAが開催され、ヨーロッパや日本企業から多くの新製品が発表される。またAppleが例年iPhoneを発表することもあり、周辺機器の座を狙ってワイヤレスイヤフォンが多数投入される。加えて11月には「ヘッドフォン祭」もあり、そこでの新製品お披露目も見逃せないところだ。

ソニー「WF-1000X」

 発売は発表から1~3カ月ほど待たされる事になるが、それでも年を越える製品は少ない。新製品発表の場でIFAがクローズアップされるのに反比例して、1月に米国で開催されるCESでは、イヤフォン関係は大きな発表がなくなってきているように思う。

 ワイヤレスイヤフォンで現在もっとも熱いのが、左右分離型である。以前はベンチャー製品が多かったが、AppleのAirPodsの大成功により、老舗メーカーも重い腰を上げることとなった。ソニーもそんな企業の1つである。

 もちろんソニーが作るからには、「AirPodsのようなもの」は誰も期待していないだろう。そんな期待の中9月に発表されたのが「WF-1000X」だ。ハイエンドシリーズ「1000X」の名前を冠する、ソニー初の左右完全分離型イヤフォンである。発売日は10月7日で、店頭予想価格は25,000円前後となっている。

 果たしてソニーの完全分離型は「買い」なのか。早速試してみよう。

意外に大型?

 本機のポイントは、完全分離型でありながら、定評のあるノイズキャンセリング機能を搭載しているところだ。元々1000Xシリーズの元祖は、ハイレゾ対応+ノイズキャンセリング+Bluetoothを実現した「MDR-1000X」である。一方完全分離型の本機は、ノイズキャンセリング+Bluetoothではあるが、ハイレゾには非対応である。

 対応コーデックはSBCとAACのみで、aptX HD、LDACには非対応。さらにソニー独自のアップサンプリング+ビット拡張技術であるDSEEにも対応しない。消費電力や価格などの問題もあるようだが、それで果たして1000Xシリーズで良かったのかなと疑問も残る。

 カラーはブラックとシャンパンゴールドの2色。今回はブラックをお借りしている。ブラックとはいっても、実際には濃いグレーに見えるガンメタリック塗装だ。

本体は鈍い光沢感のあるガンメタリック塗装

 サイズ感としては、「EARIN」などと比べると残念ながら小型とは言いがたく、「中型」ぐらいのサイズ感。どこまでをボディ部と見るかにもよると思うが、音導管がだいぶ長い印象がある。

サイズ的には中型?
昔のBluetoothヘッドセットぐらいのサイズ感

 形状は左右対称で、L/Rの表示は大きめだ。左右を間違えても装着できなくはない形状なので、敢えてわかりやすくしてあるのだろう。

 表層面にはノイズキャンセリング用のマイク穴がある。先端部はアクリルとなっており、状態を示すLEDの光が綺麗に回り込み、どこに光源があるのかわからないようなデザインだ。

表面部の穴は、ノイキャン用マイク

 底部には物理ボタンが1つずつあり、左右で役割を分けてある。このあたりはあとで説明しよう。

底部には物理ボタンが1つある

 イヤフォン形式としては密閉ダイナミック型で、ドライバは6mm口径。本体重量は左右とも各6.8gで、充電時間は1.5時間、連続再生時間は最大3時間となっている。

 付属イヤピースは得意のシリコン型で、特に長さのあるロングタイプが4サイズ。そのほか発泡シリコンのショートタイプが3サイズ付属する。恐らくトリプルコンフォートイヤピースとして販売されている「EP-TC50S」と同じものだろう。発泡型イヤピースは、一部のユーザーに根強い人気があり、他社ではわざわざComply製のものを付属させている製品もある。

パッケージにはイヤーピースがぎっしり

 さらに装着を安定させるため、フィッティングサポーターも2サイズ付属する。耳の凹みに、このサポータの凸部をはめ込むように装着する。

イヤピースを外したところ。根元の輪っかが飛び出している部分が、フィッティングサポーター

 続いてケースを見ていこう。完全分離型の場合、ケースは充電機となるため、本体を入れて毎日持ち歩く重要なパーツとなる。

 本機のケースはかなりの横長で、本体をはめ込んで充電できる。ケース内にバッテリを搭載し、本体を2回分充電できる。ケースバッテリの充電時間は約3時間。

やや大型のケース

 本体のはめ込みは、ケース側に物理的なツメがあり、本体を押し込むようにしてカチッと固定する。AirPodsは手を離せば磁石でスルッと収まるので、わざわざ力を加えて押し込むのは、ちょっと野暮ったい感じもする。

本体のセットは、物理的にツメで引っ掛けて固定する方式

 背面に充電用のMicroUSB端子がある。ケース重量は約70g。重さは大したことないが、サイズ的にポケットには入れづらいので、ポーチやバッグの中に入れて持ち歩く事になる。

背面には充電用MicroUSB端子

一歩進んだノイズキャンセル動作

 では実際に使ってみよう。左側の物理ボタンが電源ボタンになっているが、基本的にはいちいち電源を入/切する必要はない。ケースに入れれば自動的に左右とも電源がOFFになり、ケースから取り出せば自動的に電源がONになる。

 左右のペアリングは特に設定する必要はなく、片方の電源だけ故意に切らない限り、左右の電源は常に連動する。

 ペアリングは、R側をケースにセットしたままでL側だけを取り出し、電源ボタンを7秒間押し続ける。ちょっと変則的なので、久しぶりに新しい機器とペアリングする時などは、すっかりやり方を忘れていそうだ。

 NFCを使ってのペアリングもできる。ただNFCポートはケースの底面にあり、左右のイヤフォンを取りだした状態で、スマホとケースとをペアリングする。すると情報がイヤフォンに転送されて、ペアリングされるという仕掛けだ。

 再生のコントロールは、右側の物理ボタンで行なう。1回押しが再生とポーズ、2回押しが次へスキップ、3回押しが前へスキップとなる。R側の電源が切れている場合は、電源ONボタンを兼ねるが、押し続けても電源OFFにはならない。電源OFF動作は、ケースに入れるほか、左側の状態と常に連動する。

 一方左側の物理ボタンは、2秒押しで電源のON/OFFとなる。また1回押しで、ノイズキャンセリングの3つのモード、ノイズキャンセリング、アンビエントサウンド(外音取り込み)、OFFがトグルする。

 先週ご紹介した、この秋の「h.ear」シリーズ同様、本機でもコントロール用アプリ「Sony | Headphones Connect」が利用できる。ここでの注目は、「アダプティブサウンドコントロール」である。

自動的に今の状況を検知するアダプティブサウンドコントロール

 これは、スマートフォンの加速度センサーやGPSの情報を元にユーザーの行動を検出し、あらかじめ設定したノイズキャンセリングモードに変更するという機能である。

 ステータスとしては、止まっている時、歩いている時、走っている時、乗り物に乗っている時の4つが検出可能。それぞれに対し、ノイズキャンセルのモードを割り付けておく。例えば「止まっている時はノイズキャンセリング オフ」、「歩いている時は外音取り込みのボイスモード」、「ランニング時は外音取り込みのノーマルモード」、「乗物に乗っている時はノイズキャンセリング フル」、といった具合だ。

走ってる時は外音取り込み-ノーマルモードになるよう設定

 実際に試してみると、行動を変化させた時から実際にモードが切り替わるまで、約20秒ほど時間がかかる。これは普通に歩いていても信号待ちで止まったりするし、電車だって駅に止まるしということで、あまり敏感に反応してちょこちょこモードを変えるとうっとうしくなるため、行動の切り換えを比較的慎重に見ているという事だろう。

 モードの切り換え時には、「ポンポーン」と音がして一瞬音楽が途切れたのち、モードが切り替わる。できればシームレスに変わって欲しかったところだが、音楽が突然切れると、通信の調子が悪いのかなと誤解されることもあるので、音を出してから切り換えているのだろう。

 だが元々スマートフォンからは、メールだのメッセージだのと各種通知が来るので、聞き慣れない音がすると一体何事かといちいちスマホを確認してしまうような事が起こる。昨今はJアラート発令など物騒な事も起こっているので、ユーザーとしては聞き慣れない通知には敏感になっているところだ。やはり究極的には、無音でシームレスにモードが切り替わるのが理想であろう。

 一方で、本機のノイズキャンセル動作は、モードが少ない。先週のh.earにあった「風ノイズ低減」モードがないほか、外音取り込みのレベル調整もできない。

 またハードウェア的にも、同じ1000Xシリーズであるアラウンドイヤー型ヘッドフォン「WH-1000XM2」に搭載されている、個人の装着状態に合わせてNCの特性を最適化する機能や、WH-1000XM2とネックバンド型イヤフォン「WI-1000X」が対応している、大気圧に合わせてノイキャン特性を最適化する「NCオプティマイザー」、内外2つのマイクを使ってノイズを集音する「デュアルノイズセンサーテクノロジー」を搭載していない。

同じ1000Xシリーズであるアラウンドイヤー型ヘッドフォン「WH-1000XM2」、ネックバンド型イヤフォン「WI-1000X」

 ノイキャンの利き具合としては、そもそも密閉型であり耳栓スタイルなので、フィジカルな部分でのノイズキャンセル効果は高いのだが、プロセス処理としての効果は兄弟モデルよりは劣る。小型軽量化のために色々切り捨てざるを得ないのは仕方がないが、やはり残念感は残る。

 現時点ではイコライザーも使用できないが、これは10月中旬以降のアップデートで対応予定である。h.earシリーズ同様、イコライザーを使うとSBCモードに落ちてしまうのかは、今のところ不明だ。

音質的な不満はない

 今回3日ほどずっと試し続けているところだが、装着感は問題ない。やや大柄ではあるものの、重くはないので、耳への負担は少なく、普通のカナル型イヤフォンをしているのと変わりなく使う事ができる。

 ただし、片耳から外すだけで再生が停止するような機能もないし、触っただけで外音取り込みするような機能もない。一方で物理スイッチ操作なので、タッチ式よりも確実に動作が見込めるのはメリットだ。ハードボタンをクキクキ押すと耳にうるさいのではないかと思われるかもしれないが、カナル型の本体をタップしたほうがよっぽどうるさい。ハードボタンの採用は、今風ではないかもしれないが、実用上妥当な選択である。

 イヤピースの種類としては、シリコンかフォームかを選ぶところになるが、フォームのほうが密閉度が高いため、アクティブノイズキャンセリング効果の威力があまり感じられない。ノイキャン オフでも、かなり外音が遮断されているからだ。

 一方シリコン型は装着感が軽く、密着性があるので外れにくい。一度フォームタイプを装着してランニングしてみたら、30mぐらいのところで両方とも耳から外れてしまった。シリコン型ではそのような事はないので、フォームのサラッとした耳滑りの良さが逆に災いすることもあるという事だ。またシリコンタイプのほうが、ノイキャンのモード変更などの効果は、設計者の意図がわかりやすいように感じた。

 装着性という点では、耳穴にきちんと固定されるので、移動していても安心感がある。AirPodsは“落ちそうで落ちない”のがポイントだが、本機の場合は“落ちなさそうで実際落ちない“。ただし、急にダッシュする時は要注意である。

 音質に関しては、コーデックがAAC止まりということで、ハイレゾ音源を用いてもあまり音源の良さは堪能できないのは残念だ。完全分離型でLDAC搭載は、今後数年の大きな課題となるだろう。ただ、きちんとソニーの音として過不足なくまとまっているので、音質的な不満はない。低音のパンチの強さは、昨今のソニー機の傾向そのままである。

 Bluetooth Ver.4.1対応という事で、最大通信距離は見通しで10mと書かれているが、実際に屋外でテストしたところ、30m程度は問題なく聞こえた。ちょこっと部屋を離れてトイレに行くぐらいの距離なら、わざわざスマホと一緒に移動するまでもないだろう。

 ソニー初の完全分離型、1000Xシリーズながら3万円を切る価格と、かなり戦略的な製品だが、機能が制限されたポイントもある。この秋は他にも分離型が沢山発売されるので、冷静に他社製品と比較する目を持ちたいところである。

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ソニー WF-1000X

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。