小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第872回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ボディ、レンズともに容赦なし! ニコン初フルサイズミラーレス「Z 7」

ニコンの新フラッグシップとなるか

今年9月のIFAと前後して、多くのメーカーからフルサイズミラーレス参入の発表が相次いだ。これまでフルサイズミラーレスはソニーの一人旅であったが、ここにきてニコン、キヤノン、パナソニック、ライカ、シグマがスタートラインに付く。

Nikon Z 7

中でもニコンは、かなり早いタイミングでティーザー広告などを展開してきたところから、発売も近い事をにおわせてきたが、2モデルのうち上位機種の「Nikon Z 7」は9月末に無事発売となったようだ。

ニコンはこれまで、一眼レフではFマウントを展開、1つのマウントでフルサイズとAPS-C両方のセンサーサイズに対応してきた。一方ミラーレスはNikon 1という小型センサー機のみで、しかも今年の7月頃に販売を終了したようだ。

この秋から市場投入されるニコンのミラーレスは、「Z 6」と「Z 7」の2モデル。マウントは新フォーマット「Zマウント」でスタートする。キットレンズとして「NIKKOR Z 24-70mm f/4 Sレンズ」も発売されるほか、広角単焦点レンズ「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」、標準単焦点レンズ「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」もリリース。Fマウント用のマウントアダプタ「FTZ」も販売される。

店頭予想価格は、Z 7のボディのみが44万円前後、Z 7+24-70mmレンズが51万3,000円前後。後発のZ 6と24-70mmレンズセットは34万8,300円前後となっている。今回はいち早く、Z 7と24-70mmレンズのほか、「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」、マウントアダプタの「FTZ」をお借りできた。

ニコンの新システムは、どういう絵を見せてくれるのだろうか。早速テストしてみよう。

ボディ、レンズともに容赦なし

まずボディから見てみよう。ミラーレスというと小型ボディを連想させるが、Z 7のボディはそれほど小さくはない。液晶画面を大きくとった関係もあるだろうが、ぱっと見は一眼レフと変わらないサイズだ。

ミラーレスでもそれほど小型ではないボディ

ただフランジバックの短さもあって、奥行きがなく平たい。ニコンの一眼レフは、ファインダーのプリズム部を滑らかに繋ぐ形状のため、なで肩でコロッとしたイメージがあるが、Z 7は軍艦部が平たくなっており、逆にプリズムは無いのにプリズムっぽくファインダが飛び出しているというシルエットになる。

上から見るとボディの平たさがよくわかる

注目のZマウントは、かなり大口径だ。Fマウントと比べても一回りZマウントのほうが大きい。Fマウントにはない拡張性を持たせる意味でも、余裕を持たせた設計ということだろう。

Fマウントより大口径のZマウント

センサーは裏面照射の35.9×23.9mm CMOSセンサーで、総画素数4,689万画素、有効画素数4,575万画素。静止画の最大記録画素数は8,256×5,504ドットとなる。手ブレ補正は、レンズ内補正のほか、イメージセンサーシフト方式の5軸ボディ内手ブレ補正を装備、動画ではさらに電子手ブレ補正も使える。

動画では電子手ブレ補正も併用できる

動画記録は最高4K/30pに対応。HDも120pまでサポートするほか、スロー撮影もフルHDで4倍~5倍速まで対応する。

ボディ上部は左肩にモードダイヤル、右肩にメインコマンドダイヤル、右前方にサブコマンドダイヤルという3ダイヤル体制。背面の円形ボタンは十字キーで、ダイヤル操作はできない。背面にはジョイスティック状のサブセレクターがあり、フォーカスポイントの移動に使う。静止画と動画の切換は、背面のロータリースイッチで切り換える。

モードダイヤルはセンターのポッチでロック解除するタイプ
右肩にはステータスディスプレイ
シャッター脇の赤いラインがファンの心をくすぐる

操作体系としては従来のD800番台に近いが、液晶脇の1列ボタンがなくなり、すっきりしている。そのぶんモニターが大きくなり、チルト式3.2型約210万ドットのTFT液晶で、タッチパネル式となった。ビューファインダーは、0.5型約369万ドットのOLEDだ。

3.2型のタッチパネル液晶を備える
ビューファインダはOLED採用

ボタン類としてユニークなのは、グリップ部の奥にFn1、Fn2ボタンを配したところだろう。中指と薬指で押せるようになっており、右手でカメラをグリップした状態でかなりの操作ができるようになっている。

グリップ奥のFnボタンがユニーク

記録メディアはXQDカード1枚オンリーとなった。スピード面では文句なしだが、メディアとしてはまだ高価だ。ニコンでは以前からハイエンド機で採用例があり、ソニーでは業務用カムコーダで採用例がある。XQDカードも国内で入手可能なのはソニー、ニコン、レキサーあたりだろうか。中でもソニーは32GBから256GBまで、幅広いラインナップを揃えている。今回はGシリーズのカードを使用した。

記録メディアはXQDカードのみ対応
ソニーのGシリーズから「QD-G120F」を使用。XQD規格比で5倍の落下強度、2倍の曲げ強度を持つなど、タフ仕様のカードだ

ボディ左側には端子類が集まっており、イヤフォン端子や外部マイク端子など、動画用の機能も抜かりない。HDMIは、mini(Type-C)端子である。ニコンでは以前から採用されているが、動画系のカメラではMicroかフルサイズが主流になっている。なおHDMI出力からはN-Logとタイムコード出力も可能だが、今回は外部レコーダのテストはしていない。

動画撮影にも対応する拡張端子群

対応のレンズだが、マウント径が大きくなったことで、レンズ径はそれほど小型化されていない。ただ設計の自由度が上がった事で、今後はユニークなレンズが期待できそうだ。

レンズもそれほど小さくない
キットレンズとなるNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sレンズ
同時発売となった「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」

マウントアダプタの「FTZ」は、まさに“Fマウント to Zマウント”という意味だろう。電子接点は受け渡ししてくれるようだが、一部に制限があるようだ。せっかくなので今回は、フィルム時代のFマウントレンズを4本ほど用意してみた。古いレンズでの写りも試してみよう。

マウントアダプタのFTZ
Zマウント側のほうが大きい
FTZを介してFマウントレンズが利用できる

上手にまとめた性能

まずは各モードの画角からチェックしてみる。レンズは24-70mmだ。静止画と動画では、横の画角の差は見られないが、動画には電子手ブレ補正がある。これをONにした場合は、動画の画角が若干狭くなるようだ。加えてスロー撮影ではさらに画角が狭くなる。

静止画:24mm
動画(電子補正OFF):24mm
動画(電子補正ON):24mm
動画(スロー):24mm

AFは、像面位相差AFとコントラストAFを、条件に応じて自動的に切りかえてピント合わせを行なう。またピント合わせの位置も、画面タッチで行なえるようになっており、フルサイズでも不安はない。

動画撮影時も被写体のフォローも可能だが、向かってくる被写体に関しては、時折マニュアルで被写体をタッチしてフォローさせなおす必要があった。ただ人の顔に対してはかなり敏感で、フレーム内に顔を見つけると、高速にピント合わせに行く様子が伺える。

一方で夜間の近距離撮影では、輝度や彩度の差が少ない事もあって、いったん逆方向にフォーカスが動いてから戻ってくるという動作になる事もあった。カスタムメニュー内の「動画」項目から「AF速度」と「AF追従感度」を設定できるので、ここを調整するといいだろう。

【お詫びと訂正】記事初出時、AFの追従性や追従速度などの細かく設定できないと記載しておりましたが、誤りでした。お詫びして訂正します。(10月17日18時)

AFの動作のテスト
focus.mp4(89.45MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

手ブレ補正に関しては、ノーマルとスポーツ2タイプの補正モードがある。比較してみたが、歩く程度の補正であればノーマルのほうが良好のようだ。

手ブレ補正の比較
stab.mp4(49.65MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

手ブレ補正を含め多くの設定は、静止画と動画共通項目が多い。ただしメニューとしては分かれているため、動画撮影のための設定を変更するのに、静止画のメニューに入らなければならないといった矛楯があるものだ。

しかしZ 7の動画メニューUIでは、共通項目は静止画と同じでいいのか、それとも別の設定にするのかが選択できる。動画と静止画では別のセッティングが必要というケースは多いので、こうした設計は使いやすい。

「静止画の設定と同じ」が選択できるのは気が利いている

スロー撮影は、解像度とフレームレートの階層の中に並んでいる。カメラの中にはスロー撮影だけ切り出して別メニューになっているものもあるが、ニコンのUIはまとめられるものは極力まとめていく傾向にあるようだ。そのため表層部の項目はそれほど多くないが、項目内に入ると設定が3ページも4ページも続く事になる。

スロー撮影も画像サイズメニューに一元化
フルHDの5倍速スロー
slow.mp4(20.17MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

例えばピクチャーコントロールは、一般的なピクチャーコントロールに加えて、強烈にエフェクトがかかるCreative Picture Controlもある。これも全部同じ項目に入っているので、項目内が5ページにも渡るメニューとなっている。同じ傾向の機能がまとめてあるので、初めて触る人でも迷いはないだろうが、後列の機能にアクセスする際には操作が煩雑になる。このあたりは良し悪しだろう。

エフェクトまで全部まとめたため、ピクチャーコントロールは5ページにも及ぶ

今回は、標準的なピクチャーコントロールモードのみサンプルを掲載する。Creative Picture Controlは以前ご紹介した「COOLPIX P1000」と同じなので、効果はそちらの記事をご参照いただきたい。

オート
スタンダード
ニュートラル
ビビッド
モノクローム
ポートレート
風景
フラット

夜間にも強いセンサー

本機のISO感度は、64~25600となる。その両脇に、暗い方は減感してLo0.3~1まで、明るい方は増感してHi0.3~2まで設定できる。裏面照射CMOSということで、暗部撮影の特性も気になるところだ。そこでいつもの川で暗所撮影してみた。ISO 100から順に、2倍に上げていく。シャッタースピード1/60、F4で固定である。

感度を2倍ずつ上げていく
ISO.mp4(160.30MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

目視ではISO 6400ぐらいの場所である。シャッタースピードとの関係でフリッカーが出ているが、他機種でもこれで撮影しているため、ご容赦願いたい。フリッカーが出ないようにシャッタースピードを調整すれば、12800ぐらいまでは使えるのではないだろうか。

写真撮影時は、HDR撮影もできるようになっている。具体的には露出を変えて2枚の写真を撮影し、それを合成して良好なコントラストを得るという仕掛けだ。今回は普通の撮影と、HDR撮影とを比較してみた。

標準撮影
HDR撮影
標準撮影
HDR撮影
標準撮影
HDR撮影

HDRというと、コントラストを圧縮するイメージもあるが、普通に撮影していては見えないものや見えない色が見えてくると言う点では、効果は大きい。また暗所ではS/Nを稼ぐという意味でも、画像合成する意義はあると言えそうだ。

せっかくなので、FTZを使って新レンズとオールドレンズを比較してみた。元々フィルム時代からNikkorはシャープな写りが特徴だったが、それでもやはり新しいレンズのシャープさには敵わない。もう少し絞ればシャープさは出るだろうが、発色の深さとコントラストの高さは、さすがに新しいレンズに軍配があがる。

今回使用したオールドレンズ。前列左から24mm/F2.8、35mm/F2、50mm/F1.4。本体に付いているのは135mm/F2.8
24-70mm f/4 Sレンズ(50mm付近)
Nikkor-S Auto 50mm F1.4
NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
Nikkor 35mm F2

ただ、現在Zレンズのラインナップでは望遠がないので、135mmのFマウントレンズはかなり重宝した。動画サンプルの中にも何カットか有るが、あまりその差には気付かないのではないだろうか。

4K/30p撮影のサンプル
sample.mp4(162.49MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

FTZは底部に三脚用の台座が出っ張っているため、三脚のシューも付け替えることになるのが面倒だ。両方のレンズを使い分ける場合は、三脚台座のないマウントアダプタも欲しいところである。

総論

ニコンにはNikon 1というミラーレスが存在したが、これはどちらかというとミニサイズ一眼という位置づけであり、ハイエンドモデルではなかった。他社に比べれば、ミラーレスハイエンドの経験がほぼないのがニコンの弱点だと思われていたが、Z 7はその不安を払拭する出来で安心した。

ニコンは長年動画に弱いと言われてきたが、今回試した限りでは、なかなかいい絵が出ている。ハイエンドモデルだけあってボディにボタンも多いが、タッチ液晶の採用で触ればどうにかなるようにも作られており、上級者から中級者まで、楽しく、軽快に撮れるように設計されているのを感じた。

ミラーレス新時代を切り開く第1号機としては、十分な魅力を持ったカメラである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。