小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第879回
アレ? 動画なら最高なんじゃね? ニコン「Z 6」を入魂の50mm/F1.8レンズで撮る
2018年12月5日 07:45
秋のフルサイズ祭り、もう一度Nikon
先週に引き続き、秋のフルサイズ祭り第3弾は、Nikon Z 6である。Nikon Z 7が9月28日の発売であったのに対し、Z6の発売は少し遅れて11月23日と、最近出たカメラということになる。
価格的にZ 6はZ 7の廉価版的な位置づけと受け止められているが、動画撮影に関してはフル画面全画素読み出しするZ 6のほうが、画質的に期待できる。そういう意味でZ 6は、動画に向いたスペックではないか、と考えられるわけだ。
今回はそのへん実際どうなのか、検証してみたい。基本的な操作感やメニュー構成はZ7と同じなので、そのあたりはZ7のレビューを参考にして頂ければと思う。
また今回は、Z 7のレビュー時には間に合わなかった新レンズ、「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」(83,500円)もお借りすることができた。Nikonの自信作だという。今回はこのレンズも徹底的に使い倒してみよう。
センサー以外は同じ作り
まずボディだが、外見上はZ 7と全くといっていいほど同じだ。ボタン数なども同じなので、操作性は一緒だと言える。ファインダーも同じ、液晶モニターも同じだ。唯一見分けられるのは、正面のロゴ部分のみである。
通販サイトの安いところでは、ボディのみのZ 6が25万円前後、Z 7が33万円前後と、8万円ぐらいの開きがある。違いはセンサーだ。どちらも裏面照射CMOSだが、有効画素数はZ 7が4,575万画素なのに対し、Z 6は2,450万画素。半分とまではいかないが、それに近い。撮影可能な静止画ピクセル数も、Z 7が最高8,256×5,504ピクセル(45.4M)なのに対し、Z 6は6,048×4,024(24.3M)となる。
常用ISO感度は、Z 7が64~25,600なのに対し、Z6が100~51,200となる。この明るいセンサーをどう評価するか、ということになる。
動画撮影時には、Z 7も全画素読み出しとあるが、注釈に「DXフォーマット時のみ」とあるところから、フルサイズ時には全画素読み出ししていないものと思われる。一方Z 6は注釈なしで全画素読み出しとあるので、フルサイズでも全画素読み出しなのであろう。
このスペックで思い出されるのが、ソニー「α7R III」と「α7 III」の関係だ。Z 7/Z 6とは有効画素数が多少違うが、同じ裏面照射ということで、センサースペック的にはかなり近いもののようである。なお、動画は最高で3,840×2,160/30p/25p/24pの撮影ができ、フルHDでのスロー撮影も可能だ。
続いて新レンズの「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」も見ておこう。ニコンではZマウント用レンズを「S-Line」と位置づけており、年内にズームレンズの「24-70mm f/4 S」、「35mm f/1.8 S」単焦点、「50mm f/1.8 S」単焦点の3本を投入する。その1本がこれだ。
ほぼストレートの鏡筒部にフォーカスリングが1つだけというシンプルさだが、開放からシャープに解像する、使いやすい50mmだ。最短撮影距離は撮像面から40cmまで可能とあるが、レンズ前からという意味では27cmぐらいである。なお同じ50mmクラスのレンズは、来年「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct」が、2020年には「50mm/F1.2」が計画されており、単焦点50mmはかなり層が厚くなるはずである。
解像感の高い動画
では実際に撮影してみよう。今回はあいにくの曇天で、昼間にしては光量が不足がちだった。液晶モニターを見ながら+0.7程度AEシフトして撮影したが、必要なかったかもしれない。
期待の「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」は、開放から高い解像感と自認するのは伊達ではなく、全域で高い解像感を誇る。
標準ズームレンズである「NIKKOR Z 24-70mm f/4 Sレンズ」と撮り比べてみた。絞りは同じF4、ホワイトバランスも同じである。双方を見比べてみると、50mm f/1.8 Sのほうが若干暖色に見えるほか、ボケの形に歪みが少ないのがわかる。解像感については、ズームレンズもなかなか健闘しており、そのあたりはさすがNikkorである。
Z 6はフルサイズの全画素読み出しということもあり、レンズの解像感は4K撮影で十分感じられる。特に50mmレンズの表現力というか説得力を動画でも楽しめる機体となっている。
フルサイズ全画素読み出しの良さは、スロー撮影にも現れる。Z 7ではスロー撮影時は撮像範囲がDXサイズになってしまったが、Z 6ではそのままの画角でスロー撮影が可能だ。
一方弱点として、手ブレ補正を駆使したハンディ撮影では、ローリングシャッター歪みを感じるところがある。このあたりは、別途ジンバルやスタビライザー等で補強する必要があるだろう。
夜間に強いカメラ
センサーが明るいということで、夜間撮影にも期待がかかるところだ。そこでいつものように、ISO感度を順に上げて撮影した。NIKKOR Z 24-70mm f/4 Sレンズのワイド端、シャッタースピード1/50、F4である。
サンプルをご覧になってお気づきかと思うが、ソニーα7シリーズで撮影した際の印象にかなり近い。ノイズリダクションはかなり上手く処理されており、のっぺりしすぎという評価もあるかもしれないが、個人的には動画コンテンツの中に入れ込むとしたら、ISO 25600ぐらいまでなら普通に使えるレベルだ。
実戦でも夜間撮影性能は、かなり高い。街灯が遠くから灯るぐらいの明るさでも、照明を焚いたかのように撮影できる。昼間の曇天で撮っても夜間で撮っても、背景が見えなければあんまり変わらないという結果となった。
最後に、独特のホワイトバランスにも注目してみた。オート設定のなかにも、色温度の低い照明に対するオートホワイトバランスにバリエーションを設けており、難しいマニュアル設定なしに雰囲気を出す事ができる。これもまた、夜間撮影には強力な機能だ。
総論
フラッグシップとしてZ 7の存在は揺るぎないところではあるが、そこまで高解像度はいらないというユーザー、夜間撮影が多いユーザー、ビデオグラファーには、Z 6は良い選択肢だ。特に夜間撮影の強さは、これまでソニーα7の独壇場であったが、Z 6は性能的にほぼ同じレベルであり、ある意味「ニコンレンズが付くα」という見方もできる。
ただ、αは本体のみで動画のLog撮影ができるので、そこの違いは大きい。Z 6/7は、HDMI出力に対してはN-Log出力が可能だが、せっかくXQDという高速な記録メディアを採用しながら、本体内でLog撮影ができないのは残念だ。
50mm f/1.8 Sは、ニコンの自信作というだけあって、開放からF16までの切れの良さ、ボケの美しさ、色味の良さなど、実に楽しめるレンズになっている。24-70mm f/4 Sもいいレンズだが、明るさが欲しいシーンには単焦点がいい。
写真の世界ではニコンのファンは結構多いが、正直動画の世界では、あまりファンを作る事には成功していない。昨今はフジフイルムも動画に強くなり始めており、ニコンはその中で出遅れた感があった。だがZ 6をベースにして、今後も細かいところをブラッシュアップしていけば、動画でも一定のファンを掴む基盤は十分作れるのではないだろうか。