小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第881回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

小学生の息子に贈る音楽プレーヤーどうする!? 案外高い“サブスクの壁”

小学生にオーディオプレーヤー?

小学5年生(11歳)の息子が、クリスマスプレゼントはミュージックプレーヤーがいいと言い出した。そういうのは父ちゃんじゃなくてサンタさんに言わないと、という話は上にお姉ちゃんが2人もいるともう通用しなくなっており、やっぱり父ちゃんが頑張るしかない。もっともサンタさんにお願いされても、所詮頑張るのは父ちゃんなのだが。

なんだメモリープレーヤーか楽勝じゃん、と思っていたのだが、いざAmazonで検索していてふと気がついた。このプレーヤーに、誰が、どうやって、どこから音楽を入れるんだ?

息子は最近洋楽に興味を持ち始めているのだが、自分で好きな音楽を探して聴かせるというのが、イマドキだろう。だが自分のパソコンを持っておらず、調べものはもっぱらタブレットだ。パソコンという母艦がなければ、メモリープレーヤーを持っていてもどうにもならない。

ストレージ内蔵型のメモリープレーヤーが登場して、もうそろそろ20年ぐらい経つんじゃないか思うが、未だ大半の製品は「パソコン周辺機器」から進化してないと言う事実に、改めて衝撃を受ける。

筆者が契約している音楽サービスはすべてサブスク型で、ダウンロードして子供のプレーヤーにコピーできるようにはなっていない。もちろん個別に楽曲を購入するなら別だが。手持ちのCDをリッピングしたデータはあるが、ジャーマンプログレとかそんなのばっかりなので、子供の好みに合うものは少ない。

小学生に自由に音楽を聴かせるのは、簡単そうに見えて、ちゃんとやろうとすると意外に難易度高いのではないか。今回は、小学生の音楽環境をどうすればいいのかを考えてみたい。

「スマホ」という選択肢の難易度

ものすごく直球で考えるならば、子供にスマートフォンを持たせて、サブスクサービスのファミリーメンバーとして登録するというのが、最短コースだろう。

Appleの場合、13歳未満の子供はApple IDが作れないが、ファミリーメンバーとしてなら、13歳未満でもApple IDを作る事ができる。つまり小学生でも、Apple IDが作れるわけだ。

Appleでは13歳未満はファミリーメンバーとしてならIDが作れる

ファミリーメンバーであれば、親が登録しているApple Musicにファミリーメンバーとしてログインできるので、サービスが利用できる。実際に上のお姉ちゃんは、これで利用させている。ただしApple Musicの利用には、原則iPhoneのようなApple製品が必要になる。

iPhoneは、小学生のクリスマスプレゼントにポンと買ってやるようなものではない。iPodは現行機種がiPod touchしかなく、価格は32GBで21,800円からと、これもちょっと高い。

iPod touch

Apple MusicにはAndroid用のアプリもある。使わなくなったAndroidスマホをSIMなしで与えるという方法も考えられる。だが筆者手持ちのAndroid端末でApple Musicアプリをテストしてみたところ、何度やってもログイン時にエラーになってしまう。Google Play上では有料会員なのに音楽が聴けないという報告も多数あり、どうも安定性に欠けるようだ。

AndroidにもApple Musicアプリはあるが、ログインできなかった

ではAndroidで使えるサブスクサービスではどうか。Googleの場合、Apple同様13歳未満は自分のアカウントを作る事はできないが、保護者のアカウントに紐付いた子供用アカウントを作る事は可能だ。この方法であれば、古いAndroid端末があれば、Google Play Musicをファミリープランで利用させることはできる。

GoogleはAndroid端末があれば13歳未満のアカウントが作れる

だがそもそも息子は、スマートフォンを欲しがっているわけではない。音楽専用機が欲しいのだ。またここで安易にスマートフォンを持たせてしまうと、せっかく芽生えた音楽への興味そっちのけでゲームに突っ走ってしまう恐れもある。日頃から「正しい音楽Lover」に育って欲しいと常々思っている筆者にとって、それはもったいない話だ。

実際、他のサブスクリプションサービスの利用規約をチェックしてみたが、Spotifyは13歳以上、LINE Musicは学割サービスがあるが、学生認証が必要になる。それ以前にLINEアカウントが必要なので、電話番号のあるスマホかFacebookアカウントが必要になる。

つまり現時点で小学生にサブスクサービスを聴かせようと思ったら、iOSかAndroidの端末でファミリー向けIDを発行し、AppleかGoogleのサービスをスマホで利用させる、というのが最短コースのようである。

Spotifyは13歳以上

だが音楽を聴かせるためにスマホを買い与えるという選択肢は、どうなんだろうか。サブスクサービスはオトナは便利だが、「子供のため」ではないというところに、サービスの限界があるのではないか。

オールドメディアの現在

5年生の男の子が、洋楽を聴くためにプレーヤーが欲しいというのは、筆者の子供の頃とダブる。筆者が洋楽に興味を持ち始めたのも小学5年生のころで、音楽ソースはもっぱらラジオからであった。

筆者は4年生のときにポータブルラジオを買って貰って以降、外に遊びに行くのにもいつも自転車のハンドルにポータブルラジオをぶら下げているような子供だった。

時は折しもBCLブームだった。BCLといわれてももはや55歳以上じゃないとご存じないと思うが、「Broadcast Listening」の略で、海外の国際短波放送を受信するというものである。

それほど難しいわけではなく、短波が強烈に入るラジオを買ってダイヤルを合わせれば受信できるわけだが、ダイヤルを回してたまたま受信できた放送局から、雑音まみれで流れてくる外国の音楽に心奪われた。そこから高音質を求めてFMエアチェックに精を出したのが、音楽に傾倒するきっかけとなったのだった。

今という時代は、ラジオを知らないままで育つ子もそこそこいるのではないだろうか。筆者宅は車に乗ればFMラジオをかけるので、聴いたことはあるだろうが、ラジオは「車でしか聴けないもの」と思っているだろう。音楽情報への入り口として、ラジオが一つの選択肢であることは、今も変わらないような気がする。

一方音楽CDはどうだろうか。筆者が自分の好きな音楽を潤沢に聴けるようになったのは、レンタルレコード店の存在が大きかった。ちょうど高校生のときに筆者のふるさと宮崎市でもレンタルレコードができ、土日には自転車に乗って足繁く通ったものである。

現在も東芝やソニーでは、「CDラジオ」というジャンルの製品を販売している。語学学習でラジオ講座は堅いところだし、学習教材もCDで配付というものが多い。以前レビューした、東芝エルイートレーディング・Aurexブランド「TY-AK1」のような「CDラジカセ」も無くはないが、ポータブルタイプではないし、カセットに録音してもウォークマンのようなポータブル再生機は少なくなっている。

東芝エルイートレーディングがAurexブランドで発売しているCDラジカセ「TY-AK1」

さらに今住んでいる街には、近所にレンタルショップがない。以前はあったのだが、リニューアルしてリサイクルショップになってしまった。レンタル店では、12歳以下の未成年でも、会員証を作る際に保護者同伴か同意書があれば貸してくれるそうだが、近くに店がないのでは仕方がない。

小学生にCDプレーヤーを買ってやるという選択肢は、もう今の時代はないと言える。ラジオよりもCDのほうが先にお役御免になるとは、10年前は想像できなかった。

総論

今回小学生向けの音楽環境を調査してわかったことは、ネットの音楽配信サービスは小学生が使うことを想定しておらず、現状は保護者が所有する機器を、保護者のアカウントで使わせるしかないということだ。そのためだけにスマートフォンを持たせるというのも、ちょっと違うだろう。

AppleとGoogleは、保護者が利用者であれば、小学生以下でもアカウントを作る事はできる。ネット端末ということではiPod touchの存在が光るところではあるが、ここまでの端末はほぼスマートフォンと変わりがない。Wi-Fiが繋がるAndroidの音楽専用端末というのは、案外青少年向けとしては需要があるのではないだろうか。

Astell&Kern、FiiO、ACTIVOなど、一部の音楽プレーヤーではAndroidベースのOSを使い、Wi-Fiも備え、音楽配信アプリが使えるのは知っている。だがそれらはハイレゾ音源のダウンロードサービスを利用するための高級ハイレゾプレーヤーが多く、価格面で小学生向きとは言えない面もある。

ACTIVO「CT10」

逆算で考えれば、小学生のうちから家庭内で余っているタブレットを勝手に使って、音楽はYouTubeからタダで聴くもの、という認識を持ってしまうのも、無理はない。音楽を聴くのは中学生になってからで十分と、誰かが決めたわけではないだろうが、現実はそうなってしまっている。

筆者が子供のときに比べれば、今はまさにシャワーのように音楽を浴びることができる環境であることは間違いない。だがそれも、“中学生以上に限る”という但し書きが付いていることを初めて知った。

結局筆者宅では、Amazonで見つけた「Newiy Start」のようなFMラジオのチューナーが入って録音もできる多機能メモリープレーヤーを購入する事になりそうだ。アナログ入力で録音する機能もあるので、家にある音楽CDを録音して聴くことも、本人が望めばできる余地がある。価格的にも4,000~5,000円で収まるところから、小学生のクリスマスプレゼントとしても妥当な金額だろう。

もしみなさんだったら、どういう手を考えるだろうか。もし何かいいアイデアがあったら、Twitter等でご紹介いただければ幸いだ。

Amazonで見つけた「Newiy Start」

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。