小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第882回
Electric Zooma! 2018年総集編、フルサイズミラーレス戦国時代、起死回生のGoProなど
2018年12月26日 08:00
今年のしめくくり
この年末は曜日の巡りがよく、カレンダーどおりでも29日から来月6日まではお休みになるところも多いだろう。久しぶりにのんびりしたお正月を計画されていらっしゃると思うが、振り返り記事の一つとしてお楽しみ頂ければ幸いである。
1年間の総括ということで、今年取り上げた製品を振り返りながら、トレンドを探っていこうというこの企画。取り上げた製品をジャンル分けすると、カメラ×14、オーディオ×8、ガジェット×11、スマホ×5、レコーダ×3、ドローン3、アプリ×2という内訳になった。アクションカメラや360度カメラのようなものは、ガジェットではなくカメラに分類している。加えてスマートフォンはほとんどカメラ性能しかフォーカスしてないので、これもある意味カメラであることを考えると、やはりこの1年は映像撮影関連のネタが多かった。またオーディオ製品も、個性的な製品多かったのも印象的だ。
では早速ジャンル別に、今年のトレンドをまとめてみよう。
カメラ篇
動画を撮影するカメラといえばもうすっかりデジタル一眼の事と思われるほどに定着した。今ビデオカメラなんて、それこそ運動会ぐらいでしか見かける事がなくなったのではないだろうか。
そんなデジタル一眼動画は、今年はいくつかのトレンドが生まれた。一つはHDR撮影である。本来HDR撮影は、Logで撮影して編集時にグレーディングするというワークフローだが、それを簡易化する形でHLG(ハイブリッドログガンマ)で撮影し、そのまま対応テレビに繋いで見るという流れができた。この手法は、テレビ報道向けには「インスタントHDR」という名称でソニーが提唱しているワークフローとだいたい同じだ。
パナソニックの「GH5S」は、動画撮影向けに画素数を減らし、DCI 4K(4,096×2,160)/60pで撮影できるようにしたモデルだが、HDRに関しては従来同様V-Log収録のほか、HLG収録にもいち早く対応したモデルだ。そのほかタイムコード同期機能を備えるなど、一眼とは思えないビデオカメラ的機能を実装した、まさに意欲作であった。
・4K撮影のスタンダード機となるか!? 動画ファン垂涎の1台、パナソニック「GH5S」
発売日は昨年11月だったが、ソニー「α7 III」もHLG撮影が可能なカメラだ。ご存じのようにα7シリーズは、無印がベーシックモデル、Sが高感度モデル、Rが多画素モデルという棲み分けで、動画ならSが有利だったが、IIIになってスタンダードモデルでもかなりの動画性能を有する事になった。他社のフルサイズミラーレス機に対するリファレンスとしても重要な位置を占めるカメラである。
・これでベーシックモデルなの!? ソニー「α7 III」でHDR撮影
今年の大きなターニングポイントは、ソニーが独占してきたフルサイズミラーレスに他社参入の発表が相次いだことだろう。ニコン、キヤノン、パナソニック、ライカ、シグマが参入を発表し、実際に年内にはニコンが2モデル、キヤノンが1モデルを発売した。
ニコンは「Z 7」と「Z 6」の両方を取り上げたが、ちょうどα7におけるRと無印の関係に似たモデルである。つまりZ 7は静止画向け多画素モデルなのに対し、Z 6は全画素読みだしで動画にも強みを見せるスタンダードモデルという位置づけだ。
ニコンはこれまで動画撮影に対してあまり他社よりも優位性を持たなかったが、改めてZシリーズで再起動を図っていく事だろう。惜しいのは、LOGやHLG収録が本体ではできないところだ。将来性を考えると、動画ユーザーにとってHDR対応はもはや必須条件だ。ここが対応していれば、完璧だった。
・ボディ、レンズともに容赦なし! ニコン初フルサイズミラーレス「Z 7」
・アレ? 動画なら最高なんじゃね? ニコン「Z 6」を入魂の50mm/F1.8レンズで撮る
一方キヤノンのフルサイズミラーレスは、動画撮影機能にはあまり注力されていないのが意外であった。なぜならばセンサーで受光した映像をライブビューで見せ続けるという構造は、ビデオカメラの構造そのものなので、敢えて動画に力を入れないというのは、意図的にそう選択したということだからである。
加えてデジタルカメラで動画を撮ることを世界的なブームにまで押し上げたのが、キヤノンであったという事もある。どうもキヤノンの中では、動画はEOS Cinemaシリーズか一眼レフのEOS 5Dシリーズで線引きされており、例えフルサイズであっても、ミラーレスはMシリーズを拡張したもの、という関係性なのかもしれない。
・キヤノン期待のフルサイズミラーレス「EOS R」、その動画性能を試す
EOS MとEOS Kissの融合モデル、EOS Kiss Mもミラーレスの小型・軽量・簡単操作を実現したカメラだが、動画性能はそれほど高くなかった。キヤノンとしては、今後EF、EF-M、RFと3つのマウントを面倒見ていくことになる。他社はせいぜい2種類か、1種類に徐々に集約という戦略を取るが、どこまで3つのマウントを維持できるのか。棲み分けが維持できるほどの市場規模がある時代でもなくなっていることを考えれば、ユーザーとしてはヒヤヒヤしながらキヤノンの出方を待っているところだろう。
・可愛いボディで4K動画、キヤノンのミラーレスエントリー「EOS Kiss M」
もう一つ隠れたトレンドは、レンズの高倍率ズーム化である。今年2月にパナソニックが「DC-TX2」で1型センサー+15倍ズームを実現した。1型センサー搭載の高級コンパクト路線はソニー「RX100」シリーズから始まったが、高画質追求からあまりズーム倍率は上げない傾向にあった。そこに15倍を投入するというのは思い切った戦略だが、まさにコンデジでやれることを全部やって10万でどうだ! 的な思い切りのあるモデルであった。
・1インチセンサー + 15倍ズームはアリか!? パナソニック「DC-TX2」
一方のRX100も、今年「M6」で8倍ズームに到達した。全画素超解像の電子ズームも入れると、HDで16倍、4Kで12倍となる。こうした動きは、高級コンパクトデジカメで差別化できる部分がそこぐらいしかなくなってきたという見方もできるが、もう一つはプロセッサによる補正能力が上がってきて、ズーム倍率のクオリティを光学性能だけに頼らなくて良くなったという技術進歩もある。
・ソニーRX100についに高倍率ズームが! 第6世代になった「RX100M6」
ズーム倍率と言えば、35mm換算で3,000mmのバケモノ、ニコン「P1000」を忘れるわけにはいかない。24mmスタートで光学125倍ズームという、驚異的な倍率を実現したネオ一眼だ。撮像素子が1/2.3インチと小さいが、それをカバーして余りある魅力を持ったカメラだった。
・月のクレーターを狙え! 超望遠3,000mmのモンスターカメラ、ニコン「P1000」
同じカメラとはいえジャンルが違うものに、アクションカメラがある。「GoPro Karma」の失敗もあり経営状態の悪化が伝えられたGoProだが、起死回生の「GoPro HERO7 Black」は素晴らしい手ブレ補正を実現した。暗部に弱いという点も指摘されるところだが、魚眼補正機能も使い勝手が良く、日常でポケットに突っ込んでおくカメラとしても面白い。
・ついに完成!? 超強力手ぶれ補正搭載の「GoPro HERO7 Black」
同じくポケットカメラという点では、年内ギリギリに滑り込んできたDJI「Osmo Pocket」も人気の高いカメラだった。現物を見ると、「モノとしての力」がある製品に、久しぶりに遭遇したなと思う。特に同時期、電子決済の大型キャンペーンが行なわれたこともあり、予約された方も多かったようだ。
・めちゃめちゃ遊べる! DJI最少のジンバルカメラ「Osmo Pocket」
最後に360度カメラにも言及しておきたい。これまでは「VRで360度を見せるためのカメラ」として使われてきたが、「GoPro Fusion」や「Insta360 One」は、空間と時間をログとして全部記録しておいて、あとで必要な情報だけ切り出して使うという方法論を確立した。この発想は未来のカメラを語る上で非常に重要だと考えるので、ここに特記しておきたい。
・なるほどそういうことか!“空間キャプチャ”がスゴイ「GoPro Fusion」
・強力手ブレ補正&空間キャプチャが面白い! Insta360 One X(転倒シーンもあるよ)
オーディオ篇
昨年は完全ワイヤレスイヤフォン起動の年で、ずいぶん多くの製品を取り上げたが、今年はサウンドバーをはじめとする据え置き型スピーカーの人気が高まった年だった。
ソニーのサウンドバー2種を扱った記事は、意外にも今年本連載中でもっとも多く読まれた記事である。リーズナブルな価格、サブウーファ要らずの低音など、技術的にも見所の多い製品であったのは確かだが、AV機器の中でオーディオへの関心が高まってきているというのも、一つのトレンドと言えるかもしれない。
・これは流行る! ソニーの2万円台/HDMI搭載サウンドバーを聴く
オーディオ関連では、上記事に続いて多く読まれたのが、東芝のハイレゾラジカセの記事だった。なぜ今? という思いで記事を書いたのだが、その正体はカセットテープも含めあらゆる音楽ソースを再生できるオールインワンスピーカーであった。読めないのはMDとDATぐらいだろうか。なお、見た目はラジカセだが、乾電池では動かない。
CDも今となってはオールドメディアの仲間入りをしそうだが、自力アプコンでハイレゾ化という道を切り開く機器であろう。
・なぜ今ラジカセ? カセットテープをハイレゾ再生!? 東芝「TY-AK1」を聴く
イヤフォンでは、ソニー系の製品を多く扱った。今年のトレンドは、外音取り込み型のイヤフォンが市民権を得たことだろう。特に「Xperia Ear Duo」は、今でも街でよく見かけるほどのヒット作となった。
・ながら聴き最高!「ambie wireless earcuffs」と「Xperia Ear Duo」を試す
・ソニー注目のスポーツイヤフォン、左右分離でNC「WF-SP700N」、1万円切る「WI-SP500」
ガジェット篇
特にジャンル分けできないものを、便宜的にガジェットに分類した。今年前半を賑わせたのは廉価なVRヘッドマウントディスプレイだろう。5月に相次いでLenovo「Mirage Solo」と「Oculus Go」が発売され、一気に盛り上がった。
プラットフォーム的には“Google対Facebook(Oculus)”という格好だが、Oculusはすでに開発の歴史も長く、コンテンツの豊富さでは有利であった。筆者も個人的にOculus Goを購入してその世界観に満足したが、逆にデメリットも感じた。VRは他のことが“ながら”でできないので、「時間泥棒」なのである。
計画的に使っていかないと、時間がいくらあっても足りない。そういう中毒性の高い製品だった。Oculus Goは多くの人が購入したはずだが、その後継続的な話題になっていないのは、どういうわけだろうか。
・来たぞVR! Lenovo Mirage Solo + Cameraで180度撮影とVR鑑賞を試す
・“次の世界”感がものすごい!「Oculus Go」で動画観賞三昧
ガジェット的なものとしては、撮影用ジンバルはもはや特殊なものではなく、誰でも使えるものになったというのが今年だろう。大幅に低価格化し、縦撮りにも対応したDJI「Osmo Mobile 2」は、初期型に比べてPlusサイズの大型スマホにも対応し、安心して使えるものとなった。スマホ用ジンバルとしては、最強だろう。
・自撮り棒は卒業して次はこれ! 安くて軽くなったDJI「Osmo Mobile 2」
また一眼用ジンバルとしては、シングルグリップの「RONIN-S」もなかなか良かった。一眼ながらもスマホと組み合わせて様々な機能を実現できるスタイルは、大型機とOsmoのような小型機の特徴を上手く組み合わせている。こちらも10万円以下と、ハイアマから業務ユーザーあたりには買いやすい価格だ。
・ミラーレスの手ブレを強力補正、小型化したDJIのジンバル「RONIN-S」
先に紹介したOsmo Pocketもそうだが、日本においてジンバルはほぼDJIに席巻された格好である。他社の盛り返しにも期待したいところだ。
スマートフォン篇
最後にスマートフォンの動画機能も今年熱かったものの一つだ。複数のカメラを搭載することも、4K撮影ももはや当然の機能となり、加えて「現実より全然綺麗に写る」として、一気にレベルが上がってきた。
未だにその写りで伝説的な人気を誇るのが、シャープ「AQUOS R2」と、HUAWEI「P20 Pro」だ。AQUOS R2は、動画と静止画のカメラを分けることで、動画撮影中にも任意のタイミングで静止画が撮れるというのは、まさにリソースをフル活用した例だろう。HDRもカメラ側は対応しないが、ディスプレイ側で拡張して対応するなど、満足度の高い仕上がりとなった。
・動画・静止画で別カメラ!? シャープ本気の最上位スマホ「AQUOS R2」
一方のP20 Proは、標準、3倍、モノクロの3カメラを組み合わせて様々な効果を実現するという離れ業が光る逸品となった。ただし静止画ではAIによる自動シーン判定や無段階ズーム、暗所撮影機能等が使えるのに対し、動画では制限されるなど、動画としてのマルチカメラの使いこなしにはもう少し時間がかかりそうだ。
・スマホカメラの革命か!? 夜景撮影も強力、3カメラ搭載Huawei「P20 Pro」
新iPhoneも「iPhone XS」と「iPhone XR」の2モデルをレビューした。日本ではユーザーの多いiPhoneだが、カメラ写りの好み、特にインカメラのフィルタリングに関しては、シャープやHUAWEIなどアジア勢の後塵を拝している。もっともiPhoneの魅力はカメラではなく、そのプラットフォームに拡がるアプリ群だ。スマートフォンのカメラは単にその場所を写し取るものではなく、今後は画像からどのようなデータが取れるかにシフトするだろう。そうなったとき、スマートフォンのカメラの意味はもう一つ変わってくるはずだ。
・かなり進化! iPhone XSのカメラを試す。ボケ表現と4K HDR動画に注目
・来たぜオレのXR!“一番売れるiPhone”と目されるその実力をチェック
総論
映像の世界は、要するに綺麗な絵を撮るために進化してきた。HDRも4Kも、それを表現するための方法論である。もちろん空間情報を余すところなく記録しておかないと、表現に困るというのは真実だが、その一方で人が喜ぶような映像を先読みして作り上げるComputational Photographyも、スマホの強力なプロセッシングによって、手の中で可能になってきた。今後の映像論は、この2方向の方法論のせめぎ合いになっていくことだろう。
一方で、DJIやInsta360のようなハードウェアもソフトウェアも両方やれる中国企業が登場し、世界の勢力地図を書き換えようとしている。ガジェットとしても面白く、品質も急速に向上しており、日本はアメリカと中国、両方の動きを見ていなければならなくなった。
オーディオの世界では、日本メーカーが地道な頑張りを見せており、それが市場に実を結び始めたところだ。一方で韓国や中国のオーディオメーカーもレベルが上がってきており、特にハイエンドが油断ならない状況になってきている。
AV機器として従来は外せなかったテレビ周辺機器は、BS4K放送が始まったのが今年12月からということで、年内の盛り上がりには間に合わなかった。このあたりは来年春頃には様々な新商品が登場してくることだろう。
そんなことを期待しつつ、今年の本連載は終了である。来年はCESのレポートでお目にかかる予定だ。それでは皆様、良いお年を。