小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第888回
これが昭和だ! レコード/ラジカセ/TVがミニチュア化、タカラトミー「ザ・昭和」
2019年2月20日 08:00
時代の変わり目に
30年間続いた平成も今年の4月で終わり、新元号に切り替わる。そう考えてみれば、今30歳以下の方は平成時代しか知らないわけだから、「元号が変わる」という瞬間もご存じないという事になる。
元号の変更は一つの時代の区切りだと言えるが、実際にはそこからすぐに世の中がガラッと変わるわけではない。基本的には連続した時間の一つの節目でしかないわけだが、時間をかけてその時代を象徴するイメージというのができあがる。
昭和時代は実に60年以上続き、その間第二次世界大戦もあった。戦前戦後で生活は大きく違うが、筆者(50代)のイメージする昭和は、戦後から10数年経過した後の高度経済成長期になる。生活が右肩上がりに豊かになり、多くの「欲しいもの」が登場した。そして大人たちは、その欲しいものを手に入れるために必死に働いた。
今はすべての娯楽がネットに吸収され、スマホを通じて流されるものになった。物理的なモノが欲しいという欲求は、次第に薄れてきており、「モノからコト」へと経済価値が転換するのが今だと言われている。
そんな中、昔懐かしい“モノ”の復興は、我々の心にゾクリとする疼きを与える。そのモノを通じて、忘れかけていた思い出が甦るからだ。タカラトミーアーツが展開するミニチュア家電ガジェットシリーズ「ザ・昭和シリーズ」は、まさにそうした思いを反映する「ミニチュア」である。
今回は2月28日から発売される「昭和レコードスピーカー」、「昭和ミニラジカセ」、「昭和スマアトテレビジョン」の3製品を試してみる。発売日はいずれも2月28日だ。
これ見たことある! 「昭和レコードスピーカー」
まずは「昭和レコードスピーカー」からだ。価格は4,980円となっている。こうしたポータブル型のスピーカー付きレコードプレーヤーは、筆者が小さい頃には存在した。どこでもレコードが聴けるというフレコミで、テレビコマーシャルもやっていたはずだ。
ただこれは、一般家庭には案外普及しなかったのではないか。筆者が子供の頃にはどこの家にもそこそこのオーディオセットぐらいはあり、レコードならそれで聴けた。こうしたポータブル型のプレーヤーは、むしろ贅沢品だったのではないだろうか。むしろ、学校の備品としてなら見たことがある。そもそも一般人が外にレコードプレーヤーを持っていってどうするんだ、レコードも一緒に持っていくのか、という話である。
さてこの昭和レコードスピーカーは、そうしたポータブルレコードプレーヤーを模した、小型Bluetoothスピーカーとなっている。なーんだ、と思われるかもしれないが、ちゃんとレコードプレーヤーライクになっているところが面白い。
取っ手部分の近くに2つのツマミがあるが、LEDに近い方が電源およびボリュームノブだ。もう一つのノブは同じ形だが押しボタンになっており、Bluetoothのペアリングを行なう。
電源を入れてペアリングボタンを押し、スマホとペアリングしたら、レコード盤を乗せよう。ソノシートを模した半透明盤と、ドーナツ盤が付属。ドーナツ盤には、センターにはめ込むアダプタも付属する。
ソノシートは、よく童謡の絵本に挟み込まれる格好で付属していた。出版社が書店で音楽も販売できるという、画期的なシステムであったのだ。
そう言えば思い出したが、昔のターンテーブルはシングル盤サイズで、LPを乗せるとターンテーブルから大幅にはみ出したものだった。LP盤サイズのターンテーブルが主流になったのは、おそらく第1期オーディオコンポブームのときだろう。
アームをレコード盤のほうに持っていくと、ターンテーブルが回転し、同時にスマホからの音楽の再生が始まる。ターンテーブルが盛大にシャコシャコいいながら回転するので、スピーカーからの音楽は聴こえにくくなるが、アナログの雰囲気は感じられる。
ターンテーブル脇には33と45の回転切り換えスイッチがある。スマホ側で一般的なストリーミングサービスなどを利用している場合、スキップと巻き戻しスイッチとして機能する。
専用アプリ「昭和レコードスピーカー」を使うと、アプリ内でプレイリストが作成できる。また再生時は、回転数スイッチが45のときに通常速、33の時にはゆっくり再生されるなど、本当のレコードプレーヤーと同じ動作をする。またアプリ内のターンテーブルを指で触ると、スクラッチプレイも可能だ。
本物のアクションを再現「昭和ミニラジカセ」
日本において音楽の普及に大きく貢献したのは、ラジカセの登場で間違いないだろう。レコードが家庭の決まった場所でしか聴けなかったのに対し、レコードをカセットテープに録音すれば、どこでも聴く事ができた。ウォークマンが登場する前までは、ラジカセこそが「モバイル」だったのだ。
筆者が初めてラジカセを買って貰ったのは中学に入学するときで、白い巨大なウーファが搭載された日立パディスコ「TRK-5240」であった。迫力ある低音にノックアウトされたが、残念ながら「モノラル」であった。
のちに母親に泣きついて安いステレオのラジカセを買って貰う事になるのだが、当時はステレオ仕様というのがようやく普及し始めたときだったのだ。日本全国でFM放送がステレオで受信できるようになったのは、1978年以降だったのである。
さて「昭和ミニラジカセ」だが、赤くて横長のルックスは、おそらく三洋のおしゃれなテレコこと「MR-U4SF」あたりがモチーフとなっているようだ。価格は5,480円。
「ユーフォー」のニックネームで知られた三洋のU-4シリーズは、当時銀や黒が多かったラジカセにおいて赤や青のようなポップなカラーを採用。さらには機能が増えるにしたがってずんぐりした形になるラジカセが多かった中、高さを抑えて横に長くするという独特のスタイルを作りだし、ヒット商品となった。
昭和ミニラジカセは、本当にラジオが受信でき、録音もできる。電源は左側のスライドスイッチで、FMおよびAM放送が受信可能。デザイン的にはスピーカーが2つあるように見えるが、片方は塞がれており、音が出るのは右側のみだ。
受信感度はまずまずで、ロッドアンテナを伸ばせば室内でもFMの受信は可能だ。正面にあるチューナー表示はただの絵なので、ダイヤルを回しても針は動かない。もちろん、チャンネルのメモリー機能もない。「確かこのへんだったよな」という記憶を頼りに毎回チューニングダイヤルを回すのだ。
面白いのは、カセットテープ部分である。ミニチュアサイズのカセットテープが付属しており、これを前面にセットすると、録音ができるのだ。録音できるのは、スイッチを「TAPE」側に倒しておけば内蔵マイク録音、「RADIO」側に倒していれば、ラジオがライン録音できる。
録音開始は、ラジカセボタンの一番右のボタンだけを長押しである。5秒ぐらい長押ししていると電源ボタンが点滅し、録音が始まる。ただし実際にテープに録音されるわけではなく、本体内蔵のメモリー内に最長5分間だけ録音できる。カセットはA面B面が認識できるようになっている。カセットの一部に切れ込みがあり、本体のレバーがそれを検知することで、今A面かB面かを判定するようだ。つまり本体にはメモリーバンクが2つあり、その2つのどっちを再生・録画に使うかを切り換えているというわけである。
巻き戻しや早送りボタンを押すと、「キュルキュル」と早送り音がして「ガチャコン」、と停止する。再生ボタンを押すと、やはり「ガチャコン」と音がしたのち再生が始まる。見た目はオモチャっぽいし実際にオモチャなのだが、無駄なダミーボタンが1個もないという、丁寧な遊びマインドが施されている。
雰囲気抜群!「昭和スマアトテレビジョン」
では最後の「昭和スマアトテレビジョン」を試してみよう。これは本体のみでは動作できず、スマホをセットしてその画面を昔のテレビ風のハコに入れて鑑賞するという製品になっている。価格は3,980円。
モデルとなったテレビははっきりわからないが、おそらく1970年代に多かった20型程度の家具調テレビのイメージである。まだリモコンもなく、チャンネルもダイヤル式のものだ。画面は当然ブラウン管で、内部回路もほぼ真空管で構成されていたため、かなりの容積が必要だった時代である。屋根部分が大きかったため、花瓶置き場になったりネコの定位置になったりしたものだ。
今にして思えば、テレビの上に水物を置くのは危ないと思うのだが、なぜか世のお母さん方は聞かなかった。手編みのレースの花瓶敷きの上に花瓶が置かれていたご家庭も多いのではないだろうか。
さて昭和スマアトテレビジョンは、まずスマートフォンに同名のアプリをインストールする。ここに見たい動画が5つまで登録できる。この5つをチャンネル切り換えできるというわけだ。
本体は背面が大きく開くようになっている。ここにスマホを設置し、ポジションを決めよう。スマホの大きさが違っても、ある程度は調整して固定できるようになっている。
ボディの横からもスマホが差し込めるようになっているが、差し込んでいる途中で電源ボタンに触って画面が消えたり、ボリュームがゼロになったりするので、やはり背面からセットしたほうが無難だろう。
テレビ本体内部には、チャンネルの回転に合わせて動くタッチ部分がある。いわゆるスマホ用のタッチペンと同じようなもので、ここが上下に動く事で動画切り換えボタンが押されるという仕組みである。
今回はiPhone XRを使用したが、画面位置などはセットした後に調整できるようになっている。今はほとんどの動画が16:9だと思うが、本体の画面枠が4:3なので、端の方は切れてしまう。まあ、雰囲気を味わうためのものなので、細かいところを言い出したらキリがない話だ。
専用アプリでは、「時代設定」が可能だ。選択肢としては、50年代、60年代、80年代、地上デジタルの4種類である。それぞれその時代にありそうな画質で再生される。なお地デジ以外のモードでは、時々画面が砂嵐になる。そのときはテレビ本体をコツコツと叩くと直るという、昔の謎機能も再現されている。
ただ筆者が試した時には、残念ながら動画から音が再生されなかった。まだ発売前なのでソフトウェア的な問題と思うが、音声がどのように再生されるのかも知りたかった。
商品としては一番難易度の高いテレビを、スマホを使って再現したのは面白い。iPhoneではいわゆるPlusサイズの大型機では本体からはみ出して興ざめしてしまうので、小型スマホを使ったほうがしっくりくるだろう。
総論
昭和時代に一世を風靡したAV機器を再現したミニチュアモデルというのはこれまでもあるが、多くは形だけで本当には動かないものが多かった。だがこの3モデルは、一部はスマホの力を借りるものの、本当に動くものばかりだ。
特にミニラジカセは、本当にA面B面に分けて録音できるところまで凝ったのには少なからず驚いた。しかも本当にラジオが受信できて、ライン録音もできる。エアチェックに夢中になった世代には、たまらないだろう。
これが実用的か、と言われると疑問の残るところではあるが、今となっては本物を入手するのも難しいものばかりである。同世代の人たちと飲みながら、一つの時代が終わる節目を自分が青春時代を一緒に過ごした機器をいじりつつ、それぞれの思い出を語るというのは、悪くない趣向である。