小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第927回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ランニング時の「ボインボイン問題」を解決せよ! GLIDiC「Sound Air SPT-7000」

ランニング用は数々あれど……

イヤフォンは音楽用とは別に、“ランニング用”という名目で、全く別ジャンルが成立する分野である。この分野での先進国はアメリカで、昔は日本のイヤフォンメーカーも米国のみのモデルとしてスポーツイヤフォンを開発、展開していた時期もあった。当時日本では、スポーツ向けモデルはあまり売れなかったものだった。

GLIDiC「Sound Air SPT-7000」

だがBluetoothでワイヤレスイヤフォンが主流になってくると、差別化のために多くのメーカーがスポーツ向け、ランニング向け製品を投入するに至る。ジョギングブームはそれ以前から来ていたので、市場はすでにあったのだ。

過去ワイヤードの時代にもランニング向けイヤフォンは多数存在したが、どうしてもケーブルが体に当たることで発生する「タッチノイズ」が耳に届いてしまうので、快適とは言えなかった。快適と言えるスポーツモデルの登場は、ワイヤレスイヤフォンの登場からと言えるだろう。

そもそも何を持ってスポーツ向けとするかは諸説あるが、基本的には防水・防滴機能を持つものとされている。なぜならば汗で濡れることもあるし、汗汚れを水洗いしたいというニーズがあるからだ。

もう一つは、装着性だ。ランニングしていてポロポロ外れてしまうのでは使えないので、シリコン型イヤピースで耳に密着させたり、イヤフォンからフィンを伸ばして耳介のひだに固定したり、耳に引っ掛けるためのフックを用意したりと、様々な方法が開発された。

昨今、ランニング人口が増えるに従って注目され始めたのが、安全性だ。耳穴に挿入するタイプはどうしても遮音性が高まるので、周囲の交通状況が耳に入ってこない。それでは危ないということで、各社ともなるべく周囲の音を取り込むべく努力している。ノイズキャンセリング搭載機はイヤフォンにマイクがついているので、ジョギング時にはそのマイクで逆に周囲の音を集音する、いわゆるノイズキャンセリングの逆をやるモデルも登場している。

昨今スポーツ用として売られているモデルは、概ね上記3つの条件を満たしているようである。ただ、完全ワイヤレスイヤフォンが主流の昨今では、どうしても耳穴にイヤピースを挿入して固定する形を取らざるを得ない。

この時の問題は、ランニング時の振動で、イヤフォン自体がノイズ源になることだ。シリコンなどのイヤピースでイヤフォンを装着した場合、イヤフォン本体は外耳道に直接接していない。イヤピースを介して、宙に浮いている状態だ。

だがランニングすると人の頭は上下に激しく動くので、慣性の法則によってイヤフォンが上下に揺さぶられる。その振動が鼓膜に伝わって、ドシンドシンとかボインボインといった低音の大きなノイズとなる。激しいものになると、その音で音楽がクリップして、ちゃんと聴こえないようなことにもなる。筆者はこの現象を、「ボインボイン問題」と称している。

これはある意味宿命というか、構造上仕方がない事だと多くの人は思っていたはずである。だがこの問題の解決に果敢にチャレンジした製品が登場した。SB C&SのオーディオブランドGLIDiCの「Sound Air SPT-7000」だ。

GLIDiC「Sound Air SPT-7000」
ランニング用を歌うSPT-7000のパッケージ
中もランニングを激しくアピール

SoftBank SELECTIONのオンラインサイトにて、1月31日より発売開始。カラーはインディゴブルーとグレイッシュブラックの2色で、販売価格は1万5,400円(税込)となっている。今回はインディゴブルーをお借りしている。

ボインボイン問題は解決されたのか、さっそくテストしてみよう。

見た目は普通だが……

Sound Air SPT-7000は、型番からすると昨年発売されたTW-7000の姉妹機のように見られがちだが、構造的にはかなり違っている。TW7000が本体内にドライバも内蔵し、本体からは音導管が出ているだけの構造だったのに対し、SPT-7000はバッテリーや回路部が乗る本体部分とは別に、ドライバ部が接続されたような構造になっている。これを「RunFit構造」と呼ぶようだ。

印象的なインディゴブルー
本体部とドライバ部の連結構造

10mm径のドライバは、開口部が前方を向いている。そこだけ見れば、iPhone付属イヤフォンやAirPodsなどと同じ作りである。そのドライブ部分ごと耳に入れるというのも同じだ。

ドライバの開口部は前方のみ

ただしAirPodsがイヤピースなしだったのに対し、SPT-7000はFREEBITと呼ばれるイヤピース兼スタビライザーが付属する。スタビライザー部は大きく厚みもあるが、かなり柔らかい。

スタビライザーは3サイズが付属

イヤフォンスペックとしては、Bluetooth5.0対応で、コーデックはSBC、AAC、aptX。左右を独立して接続する、QualcommのTrue Wireless Stereo Plusにも対応している。またタッチセンサーも備えており、音楽の再生・停止や、着信応答が可能だ。また輝度センサーによって、イヤフォンを耳から外すと音楽が停止する機能も備えており、AirPodsの使い勝手を意識した部分も見られる。防水・防滴等級はIPX5相当。

ボディ表面にタッチセンサーを備える

専用ケースによる急速充電にも対応しており、10分の充電で1.5時間の再生が可能だ。ただ、こうした完全ワイヤレスを単体のままで、充電が切れるまでテーブルに放置しとくみたいな扱いは普通しないだろう。片方無くしただけでアウトなので、ほとんどの人はケースにしまうはずである。

やや大型の充電ケース
ケースへの収納は磁石でピタッと引き込まれる

イヤフォンのフル充電は約1時間、ケースのフル充電は約2時間となっている。フル充電時の連続再生時間は、約8時間。ケースの充電端子は、残念ながらMicroUSBだ。イマドキの製品なら、USB-Cを採用して欲しかったところである。

長年のボインボインが解消

では実際にテストしてみよう。SPT-7000を耳に装着すると、「耳にピッタリ」という感じはしない。どことなくユルいというか、スカスカ感がある。普通はイヤフォンを耳に挿入した時点で、多少なりとも外部の音は遮音されるところだが、本機ではほとんど遮音された感がない。人から話かけられても、普通に対応できるレベルで外音が聞こえる。

音楽を再生してみると、どこからともなく遠くから鳴っている感じがする。耳にピッタリフィットしていないので、耳穴に音が注ぎ込まれる感は薄い。耳奥に入れないぶん、低音の薄さが気になるところだが、音楽的には成立する程度には鳴っている。EDMなどドッコンドッコン系を聴きながらランニングしたい人には物足りないだろうが、ランニングのBGMとして聴き流すぶんには十分だ。

イヤピース兼スタビライザーは、S/M/Lの3サイズが付属する。最初Mを装着してランニングしてみたが、なぜか左耳だけポロポロ外れる。筆者は右に比べて左の耳穴が若干小さいので、これは意外だった。サイズをLに変えると、安定して外れなくなった。本機の場合、外れやすさは耳穴のサイズではなく、耳穴と耳介のヒダまでの距離で決まるようだ。つまり、本体はほぼフィンで支えている構造なのだろう。実際に使用する際は、耳穴の大きさはいったん忘れて、3サイズを順に試して、外れにくさを確かめたほうがいいだろう。

さて注目の「ボインボイン問題」だが、ランニングしてみると確かに不快なボインボイン音は聞こえない。全く衝撃音がないわけではなく、多少衝撃に合わせてカサッカサッと聞こえるが、音楽がマスキングされてしまうほどの大きな音ではない。従来のカナル型のボインボインに比べれば、相当軽減されている。

また周囲の音も非常に良く聞こえる。後ろから自転車が接近する気配なども感じることができ、イヤフォンを装着していない状態とあまり変わりなくランニングすることができた。

音切れテストのため、本機を装着した状態で埼京線に乗車してみたが、特に音切れを感じることはなかった。スマートフォンはiPhone XRなので、True Wireless Stereo Plusではなく片側接続だが、音切れには強いようだ。

車内アナウンスなども問題なく聞こえる。ただ音楽をちゃんと聴こうとして音量を上げると音漏れはするので、本機使用時には常にBGMレベルでの使用を心掛けたい。

GLIDiC Sound Air SPT-7000【スポーツワイヤレスイヤホン】

総論

日常的にランニングする方は、だいたい1回のランニングは30分から1時間といったところだろう。忙しい日常のなかでそれだけの時間を割くわけだから、音楽を聴く時間もそのときぐらいしかないという人も多いことだろう。ストイックに走る人は音楽など聴かないだろうが、ホビーランナーはこの時間は貴重なはずである。

完全ワイヤレスも差別化が難しくなっている中、ランニングの衝撃音に邪魔されずリスニングできる本機は、なかなか面白いところに目を付けたなと思う。その快適さに1万5,400円出せるかとなると、そこはもう個人の価値観による部分ではあるが、ボインボイン問題にもう何年も悩まされ続けているランナーにとっては、他に代わるものがない神機となりそうだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。