小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第927回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

“誰でもスマホでLIVE”時代に差をつけろ! ローランド「GO:LIVECAST」

「誰でもLIVE」の時代

日本でネット配信が一般的に認知されるようになって、もうかれこれ10年になるのではないだろうか。かつてUstreamを使った「ダダ漏れ」スタイルの配信は、テレビとは全く違うネットならではのライブコンテンツとして注目を集めたが、あれが東日本大震災のちょっと前だったので、2009年から2010年頃の事だったはずである。

ローランド「GO:LIVECAST」使用イメージ

もちろん今もなおネット配信は、ウェブキャスティングなどと呼ばれ、テレビのようなマスメディアに頼らない中小規模のメディアとしてそのポジションを固めているところだ。ウェブキャスティングは、広報やプレゼンテーションの機会を拡大する装置として、機能し始めている。

とはいえ、複数のカメラを使って切り換えたり、テロップを入れたり、音楽効果を入れたりといったことをやるには、それなりに高価な装置を導入する必要があった。それが今、価格破壊の最中であり、昨年末にご紹介した「ATEM Mini」のように一通りの機能を備えながら、35,980円といった製品も出てきている。

一方で、それとは全然違う文化のライブ配信もある。スマホ一つで簡単に配信できる17 Liveのようなプラットフォームで活躍しているのは、ほとんどが女性だ。トークや歌、あるいはその美貌を武器に、一定層はマネタイズに成功している。YouTuberとはまた違う、ネットコミュニケーションのあり方がそこにある。

今年1月のCESで発表されたローランドの「GO:LIVECAST」は、そうしたスマホ配信にターゲットを絞った配信補助ツールだ。1月25日より発売開始で、店頭予想価格は28,000円前後。

GO:LIVECAST製品パッケージ

以前からローランドは、初心者をターゲットにした「GO:PIANO」「GO:KEYS」「GO:MIXER」といったGOシリーズを展開しており、今回のGO:LIVECASTもその流れを組む製品だ。正直GO:MIXERまでは音楽寄りの製品であったが、GO:LIVECASTは同社VRシリーズのような映像機器であり、多少方向性が異なる。早速テストしてみよう。

仕組みがわかれば簡単

まずGO:LIVECASTがどのように機能するのか、概要を掴んでおこう。スマホを使ってのライブ配信では、17 LiveにしろYouTubeにしろFacebookにしろ、そのプラットフォーム専用アプリを使う。しかしその方法では、スマホカメラの映像・音声に他のソースを割り込ませられないので、GO:LIVECASTでは専用アプリを使用する。そのアプリの配信先として、各プラットフォームを割り付ける事になる。

したがって配信カメラはスマートフォンのカメラという事になる。当然、インカメラもフロントカメラも切り換えて使える。

ではGO:LIVECASTのハードウェアを見てみよう。本体は手のひらよりも少し大きい程度のサイズで、操作しやすいよう手前側に傾斜している。GO:MIXERと同じく白を基調としており、男女問わず親しみやすいシンプルなデザインだ。

白を基調とした親しみやすいルックス

天面には10個のボタンと2つのツマミ。数字の付いたボタンには、専用アプリを使って音や映像を割り当てることができる。いわゆる「ポンだし」ボタンだ。その音量が、左のツマミである。右のツマミは、外部マイクを接続した際の音量だ。

左側には、外部音源を繋ぐアナログ端子と入力レベル、ヘッドフォンやヘッドセットを繋ぐ端子とそのボリュームがある。

左側は音声の入出力端子

右側はマイク入力で、XLRと標準プラグ兼用のコンボジャックとなっている。横の小さいスイッチは、コンデンサーマイクを接続した際の電源供給スイッチだ。

マイクはコンデンサー型も使える

背面はMicro USB端子が2つ。1つはGO:LIVECASTの電源供給用で、市販のUSBアダプタやモバイルバッテリーから電源を供給する。もう1つはスマートフォンと接続するための端子だ。

端子の用途はアイコンでわかる

付属ケーブルは3つ。iPhone接続用に片側がLightningになったもの、Android接続用に片側がUSB-Cになったもの、もう一つは電源供給用だ。

付属ケーブル

専用アプリも「GO:LIVECAST」という名前でダウンロードできる。マニュアルもここからアクセスできるので、まずはアプリをダウンロードするといいだろう。今回はiPhone XRを繋いでテストしてみる。

接続さえ間違えなければ簡単に動く

では早速使ってみよう。GO:LIVECASTには電源ボタンがないが、Micro USB端子に電源を繋いで、スマートフォンに接続すると、上部パネルのLEDが光って電源が入った事がわかる。

手前の小さい穴が電源表示。奥の4つの穴は内蔵マイクだ

専用アプリを起動すると、スマホカメラの映像にオーバーレイして、各種メニューが表示される。一番左が、本体のボタンに機能を割り付ける部分だ。1〜3は音声、4〜6は映像の割り付けとなる。音楽や効果音は、すぐに使えそうなものがアプリにプリセットされている。スマホ内のライブラリにもアクセスできるので、そこから曲を選ぶ事も可能だ。ただし楽曲利用の包括契約を結んでいるプラットフォームなのか、その楽曲は契約内容に含まれているのかの確認は自分でやる必要がある。

専用アプリ「GO:LIVECAST」

ボタン4には動画が割り当て可能だ。こちらもアプリ内にプリセットされているが、自分で撮影した動画も割り当てできる。5の静止画も同様だ。6はテロップの割り当てだ。こちらもプリセットから選べるほか、オリジナルのテロップも作成できる。

ボタンの割り当てを決める画面
オープニングの音楽も選び放題
動画のプリセットもかなり種類がある

これらボタンの割り当ては、「ライブセット」という形で保存する事ができる。配信内容ごと、また番組のコーナーごとに呼び出して使用できるので、6つのボタンへの割り当てを切り換えながら、多くのソースを扱う事ができる。

動画配信先は、設定メニュー内から設定する。プリセットではFacebook Live、YouTube、Twitch、ツイキャスがあり、それ以外の配信プラットフォームはCustom RTMPで設定する事になる。このあたりは若干知識が必要になるが、PCでの配信でも当たり前に必要になる設定なので、探せば解説サイトもあるだろう。またライブ配信だけでなく、事前収録という形でスマートフォン内に録画する機能もある。編集したのち動画共有サイトに上げるのを日常的に行なっている人にも、使える機器となっている。

YouTubeアカウントへ割り付けているところ

カメラに関しては、別スマホに同アプリをインストールしておき、アプリのオープニング画面で「サテライト・カメラ」を選択すれば、そのスマホのカメラ映像も配信で使用できる。つまり最大2カメスイッチングやPinP(小画面表示)ができるわけだ。今回はあいにくGO:LIVECASTアプリがインストール可能なスマートフォンを準備できなかったので、テストは1台のみで行なった。

PinPや切り換えといったオペレーションが可能
実際に配信テストしてみた

総論

17 Liveを見ていると、iPhone付属のイヤフォンで一生懸命配信している姿を見かけたりするが、やっぱりちゃんとしたマイクを使って配信しているユーザーのほうが、視聴者数は多いようだ。ただこれまでちゃんとしたマイクを繋ぐには、それなりの音響機器と映像機器を組み合わせる必要があり、急にハードルが上がる傾向があった。

しかしGO:LIVECASTは、あくまでもスマホ配信というベースはそのままに、映像と音声ソースを拡張するためのデバイスだ。これぐらいなら、映像や音声の知識がない人でも、配線さえ間違えなければ確実にワンランク上の配信が見込める事になる。加えてちょっとした効果音なども別の機器を用意する事なく、本機があれば賄えてしまう。拍手や笑い声など、どこから手配すればいいのか分からない人も多いと思うが、自由に使える音源までGO:LIVECASTに付属していると考えれば、「手配の手間」という点で大幅に楽になるわけだ。

本格的な機材が扱える人でも、出先で配信したい時のポータブルセットとして、本機は使えるだろう。モバイルバッテリーとヘッドセットマイク、スマホスタンドだけ持っていれば、どこでも電源なしでハイエンドな配信が可能だ。

アマチュアでもライブ配信でマネタイズできるようになった昨今ではあるが、スマホ1つの配信で稼げるほど世の中甘くはない。視聴者を楽しませる演出がなければ、次のステージへは上れないのが現実だ。そうした次のステージへのステップアップアイテムとして、GO:LIVECASTは位置づけるべきだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。