小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1024回
HDRテレビをMacの外部ディスプレイに。これでHDR編集できる!?
2022年3月16日 08:00
全然気がつかなかったMacOSのHDR対応
この連載ではHDRで撮影可能なカメラのレビューも多いが、Logで撮影してもサンプル動画を作成する場合にはSDR、すなわちRec.709にして掲載している。なぜならば、HDRのサンプルは見られる環境が限られるからだ。
スマートフォンはHDR対応モデルも増えているところではあるが、最大輝度にしないとHDRのコントラストは体験できない。普段から最大輝度ではバッテリー駆動時間が短くなるし、なにしろまぶしいだけなので、多くの人は周囲の明るさに合わせて自動で輝度調整しているだろう。したがって記事内にHDR動画を埋め込んでも、文章を読みながら動画再生することを考えると、HDRのコントラストで見てもらえる可能性が低い。
一方ノートPCのディスプレイも、2019年ごろからHDR対応のものが出てきている。最近取り上げた話題としては、2021年にミニLEDを採用したLiquid Retina XDRディスプレイのMacBook Proを使って、HDR動画編集に対応できることがわかったところだ。
ところで筆者は、普段原稿書きに使っているMacBook Airに40インチのREGZAをモニター代わりに繋ぎ、マウスやキーボードを別に繋いでLIDクローズ状態で使っている。最近仕事部屋を移動したため、カラープロファイルを見直しておこうと久しぶりに「システム環境設定」の「ディスプレイ」を開いたところ、外部ディスプレイの項目に「ハイダイナミックレンジ」というチェックボックスがあるのに気がついた。
とっくに気がついている人もいると思うが、筆者はこれまでそういうモードがあることに全然気がつかなかった。いったいいつぐらいからこの機能があるのかと調べてみたところ、macOS Catalina 10.15.4以降で搭載されたということなので、2020年3月ぐらいからはすでに対応していたものと思われる。外部ディスプレイのHDR出力対応モデルは、以下のようになっている。またサポートページには記載はないが、3月18日発売予定のMac Studioも能力的に対応しているものと思われる。
- MacBook Pro (2018年以降に発売されたモデル)
- MacBook Air (2020年Appleシリコン搭載モデル)
- iMac (2020年以降に発売されたモデル)
- iMac Pro
- Mac mini (2018年以降に発売されたモデル)
- Mac Pro (2019年に発売されたモデル)
筆者所有のMacBook Proは2016年モデルなので、2020年3月のmacOS Catalinaのアップデートではこの機能が対象外のため、スルーしたのだろう。そしてM1対応のMacBook Airを購入したのが2020年末で、すでにOSはMontereyになっており、このHDRに関するアップデート情報に触れる機会がなかったものと思われる。
今回はせっかくの機能なので、HDR対応テレビに対して「ハイダイナミックレンジ」出力を行ない、動画再生や編集ソフトなどでどのように見えるのかを検証してみた。
UIの印象まで変わる
現在使用中のマシンはMacBook Air M1 2020年モデルだが、これにはHDMIポートはない。よってThunderbolt / USB 4端子にUSBのマルチハブを接続し、そこからHDMI出力を得ている。使用しているハブは、以前クラウドファンディングで購入した「DockCase USB C Visual Smart Hub 7-in-1」である。
接続するテレビは、東芝時代のREGZA「40M510X」だ。
キーになるのは、ThunderboltとHDMIの変換だろう。AppleのサポートページではApple USB-TypeC Digital AV Multiport アダプタとBelkin USB-TypeC to HDMI Adapterが紹介されているが、いわゆるマルチハブでもHDRが出力できるものはあるはずだ。ただ現在は、どんなスペックをクリアしていれば使えるのかが、判然としない。実績のある製品を色々報告し合って、積み上げていくしかないだろう。
「システム環境設定」の「ディスプレイ」で「ハイダイナミックレンジ」にチェックをつけると、5秒ぐらい画面がブラックアウトしたのち、HDR表示に切り替わる。「40M510X」は入力信号の解析機能があるので、これで両方の出力を比べてみた。
これによれば、SDRの時は色深度が24bit、色空間はsRGBで出力されている事がわかる。一方HDRの時は、色深度が36bit、色空間はBT.2020で出力されているのがわかる。またガンマカーブがST 2084となっているので、PQで出力されているのがわかる。
テレビは外部モニター扱いなので、OSのUIもそのまま出力される。HDR出力することによって、UIの見え方も変わってくる。下の画像は、SDRとHDRの出力を、カメラで再撮したものである。カメラ露出はマニュアルで固定、テレビ側の輝度設定も同じだ。HDRのほうは白が飽和しているように見えるが、これはカメラ側のラティチュードの都合で、実際には白が潰れているわけではない。
テレビ側の輝度設定は変わらないのに、HDRのほうが全体がかなり明るくなっている。おそらくHDRモードに変わったことで、バックライト出力が上がったものと思われる。また発色も強く、特に赤色の発色の良さが目覚ましい。一方でUIの黒の部分はバックライト出力に押される形でだいぶ浮き上がっており、黒と言うよりはグレーに近い。
実際にYouTubeなどでHDRコンテンツを視聴してみると、コンテンツ部分はきちんとHDRで発色・発光しているのがわかる。本来ならばUI部分はHDRに引きずられず、対応動画だけHDR表示になることが望ましいのだが、OLEDやMicroLEDのように部分的に明るくするといった機能がない液晶テレビなどは、全体が明るく引っぱられるわけだ。
写真など画像の見え方もビビッドで感触は悪くないが、これで写真の色味や露出を編集使用とすると、一般のディスプレイと見え方が違いすぎるので、あまりいい結果にはならないだろう。通常はHDRコンテンツを視聴する時だけ、HDR表示に切り替えるという使い方が妥当だろう。
HDR編集に使えるのか
とはいえ、せっかくHDR表示ができることがわかったので、動画のHDRコンテンツ制作には役に立つのではないか。
というわけで、各種動画編集ソフトを使ってHDRコンテンツの編集画面をチェックしてみた。今回使用した素材は、パナソニック「GH6」で撮影した、V-logファイルである。
まずDaVinci Resolve Studioの場合、「環境設定」の「一般」で、「Macディスプレイカラープロファイルをビューアに使用」にチェックを付けてアプリを再起動しておく。これでビューワーの表示を、OS側のカラー設定に「投げる」ことになる。
編集時の設定としては、プロジェクト設定のカラーマネージメントで、HDRでもどのような色域とガンマで作業をおこなうかが設定できる。設定では「別々のカラースペースとガンマを使用」にチェックを付け、タイムラインと出力のカラースペースで「Rec.2020」、ガンマに「ST0284」を選択。
この状態で「Color」ページを見てみると、プレビュー画面ではHDR状態で表示できる。一度グレーディングしてしまえば、エディットなど他のページのプレビュー画面でもHDR表示で見られるので、編集はやりやすくなりそうだ。
FinalCut Proの場合も、HDRの対応はプロジェクト単位となる。プロジェクト設定で色空間を「Wide Gamut HDR - Rec.2020PQ」に設定し、素材クリップをロードする。
素材はRec.709として読み込まれるので、素材を全選択してインスペクタ画面下の「設定」を選択し、「色空間の上書き」で「Rec.2020 PQ」を選択する。さらにカメラのLUTで「Panasonic V-Log」を選択すると、おおむねいい具合の見え方に変換できる。あとは自分で好きな色味にしていくという事になる。
FinalCut Proは、Apple純正ツールということもあるのか、ビューワーの表示はOS側の設定とリンクしているようで、サムネイルの色味もおかしくならず、比較的整合性が取りやすいように思う。
Premiere Proの場合は、「環境設定」の「一般」で「ディスプレイのカラーマネージメント(GPUアクセラレーションが必要)」にチェックを付けておく。これもDaVinci Resolve同様、ビューワー表示を、OS側のカラー設定に「投げる」設定となる。プロジェクトの設定にもカラーマネージメントがあるが、ここはデフォルトの「300」でいいだろう。
こちらも素材はRec.709として読み込まれるので、素材を全選択して右クリックから「変換」- 「フッテージを変換」で、カラーマネージメントの「カラースペースを上書き」で「Rec.2100 PQ」に変換しておくと、編集作業中もPQのカラースペースで見られるようになる。
ポイントとしてはまず環境設定等で、ディスプレイ表示のカラー管理をOS側に投げることである。ここを押さえれば、多くの編集ソフトで応用できるだろう。
総論
PCの外部ディスプレイには様々な選択肢があるところだが、MacOS自体がHDR出力をサポートしたことで、HDMIに変換してテレビを繋ぐということに一歩アドバンテージが出てきた。今ほとんどのテレビは、4K対応ならHDRも対応しており、サイズも大きく価格的にもこなれてきている。加えてLogで撮影できるカメラも増えており、HDRでコンテンツが作れる環境も急速に整いつつある。
これまでは、ほとんどのPCディスプレイがHDRに対応していなかったので、映像の確認は特殊なグラフィックスカードを入れて、編集ツール側で別途出力設定をおこなうといった、ポストプロダクション型の方法が主流だった。だがOSレベルでHDRに対応したことで、その方法論もだいぶ様変わりしそうだ。
ただテレビはプロ用ディスプレイとは違って、輝度調整やカラーバランスなどのキャリブレーションが細かくできるわけではなく、ある程度「なりゆき」で表示しているに過ぎないので、過信は禁物である。映像編集の場合もビューアー表示に頼るのではなく、必ず波形モニタで信号とビューアー表示を見比べながら、見え方をチェックしていく必要がある。
今回試した限りでは、このカラーマネージメントでどれぐらい正確な表現ができるのかは検証が十分ではないため、不明である。あくまでも個人で楽しむぶんにはこれでやれるんじゃないか、というだけのことで、業務レベルではやはりきちんとカラーマネージメントできるディスプレイを使うべきだ。
とはいえコンシューマレベルでは、これまで表示を確認するだけでも大変だったHDR編集に、弾みが付くのは間違いない。これをきっかけに、PCのUIごとHDMI外部モニター出力する際のカラーマネージメントについて、方法論が確立していくことを望みたい。