小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1025回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

HDR動画と強力手ブレ補正、進化したInsta360 One RS

3月22日に発表されたInsta360 ONE RS

まだまだ続くInsta360 One

Insta360は名前のとおり、元々は360度カメラとしてスタートしたが、今やGoPro、DJIと並ぶ小型カメラブランドとして一定の地位を築いている。そのきっかけは、2020年発売の「Insta360 One R」だろう。

レンズモジュールとコアユニット、バッテリーベースを組み替えて1つのカメラにするというコンセプトは、GoProがすべての基準になっていたアクションカメラ界に新風を巻き起こした。同年4月には、ライカレンズを採用した1インチセンサー搭載のレンズモジュールをリリースし、3つのレンズモジュールを組み替えられるシステムとなった。

そこである意味完成したかに思われたInsta360 One Rだが、今年3月22日、新たに「Insta360 One RS」がリリースされた。今後はカメラモジュールだけ出すのかと思われたが、全部一式まるっと新製品になった。カメラモジュールは新たに4K BOOSTレンズとなり、コアユニットも新規となっている。

もちろん、既発売の1インチモジュールも使用可能だ。新4Kレンズモジュールと360度モジュールの2つが同梱される「Insta360 ONE RS Twin Edition」の価格は69,800円となっている。

モジュールを取り替えることで多くの用途に使えるというコンセプトは、昨年発売された「DJI Action 2」にもその影響を垣間見ることができる。

モジュール型カメラはどのように進化していくのだろうか。その先陣を切るInsta360 One RSを、早速テストしてみよう。

コンセプトを継承しつつ機能強化

まず外観は、全体のサイズはミリ単位で若干違うようだが、レンズモジュールは2020年発売のOne R用のものと互換性があるということで、構造や端子形状は同じ。

見た目はほぼ同じだが、サイズは微妙に違う

今回は360度レンズも同梱されたツイン・エディションをお借りしているが、360度レンズ自体は2020年発売時のものと同一のようだ。したがって新規モジュールとしての注目度は、4K BOOSTレンズモジュールとコアユニットの組み合わせという事になる。カメラユニットを上下ひっくり返せば自撮りモードになるというところも同じだ。

4K BOOSTレンズモジュール(中央)と360度レンズモジュール(右)も同梱のツイン・エディション

4K BOOSTレンズモジュールのレンズは、35mm換算16mm/F2.4で、前作のF2.8より少し明るくなっている。センサーは1/2インチ48Mピクセルで、静止画解像度は最大で8,000×6,000に、動画も6Kワイドスクリーンモードを使えば最高6,016×2,560@25/24fps となった。

また動画撮影時には、「アクティブHDR」が新設された。動画でHDRというと、Log撮影しておき、あとからカラーグレーディングするか、HLGで撮影するというのがある意味本来のHDRだが、本機でいうHDRは、写真でいうところのHDRに近い。

新レンズにはActive HDRの文字が

写真のHDRとは、撮影時に露出を変えて数枚撮影しておき、それらを合成して1枚を生成する機能である。そのため、暗部から明部までどこも潰れることのない画像ができあがる事になる。ただ時間差で複数枚を撮影しているため、静止画ならともかく、動画では時間差が残像として残るという課題があった。

一方4K BOOSTレンズモジュールは、ゴーストを低減して動画でもHDR効果が得られるという。詳しい技術については資料がないが、レンズモジュールの性能としてこの点が強調されているところからすれば、フレームレート以上に高速で異なる露出で撮影し、画像処理プロセッサ側ではなくセンサー側で画像合成処理するものと思われる。その意味でのBOOSTなのだろう。

加えて新エンジンを搭載したONE RSコアだが、デザインも少し変わっている。スピーカー位置は正面右下で変わりないが、上部角にあったスリットのようなものがなくなっている。マイクは前面と上部、左側の3箇所となり、集音性能をアップさせている。

コア部分も機能アップ

旧ONE RとRSの4Kレンズモジュールの違いを表でまとめておく。

ONE RS+4K BoostONE R+4K Wide
絞りF2.4F2.8
焦点距離
(35mm換算)
16mm16.4mm
静止画解像度8,000×6,000
(4:3)
8,000×4,500
(16:9)
4,000×3,000
(4:3)
4,000×2,250
(16:9)
動画解像度6,016×2,560@25/24fps(6K)
4,000×3,000@24/25/30fps
3,840×2,160@24/25/30/50/60fps
2,720×1,530@24/25/30/60/100fps
1,920×1,080@24/25/30/60/120/200fps
4,000×3,000@24/25/30fps
3,840×2,160@24/25/30/50/60fps
2,720×1,530@24/25/30/60/100fps
1,920×1,080@24/25/30/60/120/200fps
動画モード標準、アクティブHDR、スロー
タイムラプス、タイムシフト
ループ録画、6Kワイド
標準、HDR動画、タイムラプス
Basic手ブレ補正、Pro手ブレ補正
重量125.3g121g
サイズ70.1×49.1×32.6mm72×48×32.4mm
バッテリー75分(4K60p)70分(4K60p)

なお画角は、60pになると少し狭くなる。120や200といったハイスピードになるほど画角はどんどん狭くなっていく。一方6Kワイドアングルモードの画角4K60Pと同じで、上下も狭くなる。

4K/60p
4K/30p
6K/24p

手ブレ補正では、より強力な「FlowState」が使えるようになった。3段階で設定できるが、最高補正にするとプレビュー画面に大きな遅延が発生するものの、強力な補正が期待できる。

マウントブラケットのデザインも一新された。前作では前面からフタをして上部でパッチンと止めるタイプだったが、今回は横から入れて止めるスタイルとなっている。上部デザインがすっきりしたことで、電源や録画ボタンが、ブラケットがあることを意識することなく押せるようになった。

マウントブラケットは横からカメラを入れるスタイルに
カメラを装着したところ

パリッとした絵が魅力

では早速撮影してみよう。気になるのは新HDRモードである。静止画におけるHDR撮影では、異なる露出で3枚撮影し、それらを合成して1枚のHDR画像を得ている。

異なる露出で3枚を撮影
3枚が合成されたHDR画像

合成されたHDR画像では、太陽のあたりは露出がアンダーの画像から、奥の森の部分は露出オーバーの画像からそれぞれ持って来て合成されているのが分かる。

これを動画でやろうというわけである。したがって撮影される動画はSDRではあるが、ダイナミックレンジが圧縮され、ビビッドで見栄えのする映像が撮影できる。

淡い色も強めに出るので、桜の撮影にはちょうどいい
ある意味写真のような動画が撮れる
アクティブHDRで撮影した動画

動画撮影中のデジタルズームも可能だ。ズーム倍率が35mm換算の焦点距離で表示されるので、ミラーレス一眼等と画角を合わせるのにも便利である。デジタルズームなので画質はそれほど良くはないが、4Kで撮影してHDでの使用なら十分だろう。

16mm(デジタルズームなし)
24mm相当
35mm相当
50mm相当

今回はコア側にマイクが3つ搭載されたことで、音声収録も期待できるところだ。オーディオモードとしては、風切り音低減、方向強調、ステレオの3タイプから選択できる。今回のサンプルはすべて「方向強調」で撮影している。

モジュールを組み替えると、いわゆるセルフィースタイルにも変形できるのがウリの1つだが、フロントマイクはモニター画面の反対側にある。したがってセルフィースタイルにすると、フロントマイクが後向きになる。

実際前向きと後向きの両方で音声を収録してみたところ、やはりセルフィースタイルでは多少音がオフになり、明瞭度が下がる。せっかくのセルフィーモードも、VLogなどの喋りに最適化されていないのは残念なところだ。

通常スタイルとセルフィスタイルの両方で音声収録

新手ブレ補正ほかの新機能

より強力になった手ブレ補正「FlowState」は、手ブレ補正あり撮影モードを選ぶのではなく、プルダウンメニューからLow、Std、Highの3段階から選択する。したがってすべての撮影モードで使用できる。

今回はアクティブHDRモードで3段階をテストしてみたが、どのモードでもあまり変わりがないように見える。つまりLowでもかなり効くということである。

新手ブレ補正「FlowState」のテスト

自転車にマウントした映像はほとんど揺れが感じられないが、マウントにショックアブソーバーがあるわけではないので、実際にはカメラはガタガタに揺れている。しかし撮影された映像は、その揺れを全く感知できないレベルで補正されている。

なお補正量が上がるに従って画角などは変わらないが、背面モニターのプレビュー画像の遅延量が大きくなる。Highではプレビューでアングルをみながらの撮影はほぼ無理なので、どこかに固定してノールックで撮影するという事になる。

一方今回は長辺が6Kで2.35:1(12:5)のスコープサイズで撮影できるモードを備えている。こちらも「FlowState」手ブレ補正は設定できるのだが、補正された状態では記録されない。撮影時に補正用のログデータを収録しておき、スマホ用のInsta360アプリか、PC用のInsta360 Studioに読み込ませると、FlowState手ブレ補正を適用することができる。

Insta360 Studioで手ブレ補正をかけて出力できる
6Kワイドスクリーンモード撮影後、Insta360 Studioで手ブレ補正処理したサンプル

もう1つ、これは本体にも設定はなく、ソフトウェア側にしかない機能が、水中撮影時に色味とコントラストを補正する「AquaVision2.0」だ。本機はボディだけで水深5mの防滴機能を有しているので、多くの水中撮影に対応する。

ソフトウェアで付加できるAquaVision2.0

AquaVision2.0の有り無しで比較してみたが、水中特有の緑がかった色味が補正され、コントラストも強くなってより見やすい映像になるようだ。とかく水中撮影は段取りが多く、モード設定を忘れることも多いわけだが、最初から後処理でしかやらないと決め打ちされているのは、撮る側としては楽である。

水中撮影によるAquaVision2.0の効果

総論

これまでInsta360は、とりあえずパッと撮ってあとはアプリで加工するみたいな方向性が強かったが、今回のInsta360 One RSは強力なハードウェアを搭載したことで、アプリの加工なしにある程度完成された映像が得られるという方向に舵を切った。

1つは動画のHDRで、もう1つは強力な手ブレ補正だ。加えてカメラとスマートフォン接続も、Wi-Fi転送が50%スピードアップされたことで、ファイルを転送するまでもなく、カメラ内の画像をオンラインで確認し、加工するぐらいのレスポンスで動くようになった。オンラインでみているのはプロキシ画像だが、加工後にローカルにダウンロードすれば、フルサイズの画像が手に入る。

スタイルとしては前作と大きく変わるものではないが、基礎体力を上げてもう一回仕切り直しで世の中に問うという格好である。こうしたアクション系の小型カメラは、脱GoProの動きが活発化しているが、もはやスポーツ撮り一辺倒ではなく、スマホではやれないことをやるカメラという市場が形成されつつあるという事なのだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。