小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1087回

“裁断せずに”本をスキャン、「CZUR ET24」を試す
2023年8月9日 08:00
自炊ブームももう10年以上昔……
2010年は、電子書籍元年として記憶されている。この年iPadが発売され、同時に電子書籍サービスが数多く登場したからだ。Amazon「Kindle」も日本で発売され、ソニー「Reader」やシャープ「GALAPAGOS」といった端末も登場した。
とはいえ、欲しい本がどんどん電子化されていったわけではない。だが書籍を端末で読みたい。こうしたことから、紙の本を自分でスキャンして電子化する、いわゆる「自炊」が同時にブームとなっていった。
多くのスキャナーは平たいペーパーが連続スキャンできるに過ぎなかったため、本を裁断してページをバラバラにしてから、スキャンするという方法が主流だった。当時は裁断機がAmazonで爆売れし欠品、秋葉原のPCショップでも裁断機が販売されるなどの珍現象も観測された。
すでに電子書籍は当たり前のものとなり、今もなお紙の本を裁断して自炊している人は少なくなっているだろう。とはいえ、裁断することができない希少本などは、電子化されないまま存在する。また昨今はDX化が合い言葉になっていることもあり、役所を始め会社などでも旧来の紙の資料を全部電子化して、紙は全部処分といった大規模作業も行なわれるだろう。
こうしたニーズに答える商品の最上位モデルが、この8月3日よりクラウドファンディングに登場した。CZUR(シーザー)「ET24 Pro」がそれである。現在はクラファンサイトで最大35% OFFにて割引販売されているが、一般販売予定価格は94,500円。
今回は「ET24 Pro」およびオプション品のサンプルをご提供いただいたので、実際にどんなものなのか、早速試してみたい。
よく考えられた作り
メーカーのCZURは2013年創業の中国メーカーで、すでに前モデルは日本の大手家電量販店でも販売されている。「ET24 Pro」はすでに海外では販売されているが、今回のクラウドファンディングで日本で初めて、公式日本代理店から正式販売される運びとなった。販売期間は8月3日から10月4日18時までとなっている。現在Amazon等で販売されている同製品はおそらく並行輸入品で、国外仕様ではないかと思われる。
製品としては、上部のユニットから下向きにカメラとLEDライトが照射するオーバーヘッド型のスキャナーだ。上部には簡易ディスプレイもあり、スタンド部には操作ボタンがある。パッと見るとゴツいデスクライトぐらいの感じである。
同梱品として、サイドライトがある。これは真上からの照明ではライトが反射してしまうような印刷物に対して、横から滑らせるようにライティングするためのものだ。
そのほか、手元でスキャンボタンが押せるハンドボタン、足でスキャンボタンが押せるフットスイッチ、ページを押さえるための指サック、作業マット、ケーブル類が付属する。
また別売のオプションとして、アシストカバーがある。これは開きが硬くて手を離すと閉じてしまうような本などに対し、表紙部分を押さえておくためのカバーだ。一般販売予定価格は6,000円。
もう1つ、周囲が明るくてうまく撮影できない場合に使用する、組み立て式のスタジオボックスがある。光がよく回るよう内側には銀色の反射版があり、ケーブルを外に逃がす穴も付けられている。1辺60cmあるので、まあまあ大きい。スキャンに使わない時は撮影用のライトボックスとしても使えそうだ。これは一般販売予定価格13,000円。
無音高速のスキャン
では早速スキャンにトライしてみよう。今回使用した書籍は、筆者が昨年オーム社から出版した「仕事ですぐに使える! DaVinci Resolveによる動画編集」だ。ビデオ編集を覚えたいと言う方はぜひ。B5判型でおよそ300ページと、割と厚みのある本である。
使用するソフトは専用の「CZUR Scanner」で、Windows、Mac、Linuxに対応している。USBでPCと接続し、ソフトを立ち上げてスキャン画面に移動すると、すでにライブカメラとしてスキャン画面が見える。
「ページ処理法」で「湾曲した本」を選ぶと、中心線が現われるので、それに合わせてスキャンする本の位置を調整する。これでソフト上のスキャンボタンをクリックするか、スタンド部にあるカメラボタンを押すか、USBで接続したカメラボタンを押すと、見開きの状態が撮影され、1ページずつに分割される。スキャンデータはUSB接続されたパソコンの専用ソフト上に格納され、解像度は最高2,400万画素、320dpiで処理される。
開きにくい本は指などで押さえておく必要がある。この場合は付属の指サックを使用する。ページ押さえの部分にマーカーのようなものがあるが、これを認識すると指サックの形を自動認識し、AIによる補間処理で指サックを消してくれる。
今回は特に開きにくい本ではないので指サックはただ置いただけだが、実際に使う場合は両手が塞がってしまう。このときにフットスイッチを使って、スキャンするわけである。
感心したのは、「手めくりで自動スキャン」という設定だ。これをONにしておくと、本のページをめくるたびに自動でスキャンしてくれる。いちいちスキャンボタンを押す必要がなく、ただページをめくり続けるだけでいい。1ページにかかる時間は、およそ1秒程度。
サイトの説明によれば、300ページの本なら約10分でスキャンできるそうである。これは早い。ScanSnapなど、自動でローディングしてくれるスキャナでも、いっぺんに300枚はセットできないので、どうしても途中で中断することになる。それが一気にスキャンできるわけだ。
裁断していない本のページは当然湾曲しているわけだが、CZURではページの湾曲具合もレーザーでページ面の立体情報を取り、フラットな状態に補正してくれる。OCR機能も搭載しており、読み取った紙面からテキストデータを取り出すこともできる。
コントラストや色味補正は、スキャン後に一括で行なう。また「標準化」という機能では、余白部分をバックグラウンドカラーで埋めて、ページのサイズを均一に揃えるといった機能もある。読み取ったスキャン画像はJPEGのほか、PDFやWord、Exel形式で出力できる。
本のスキャンだけじゃない
本機の機能としては、本をそのままスキャンできることがメインだが、もちろんそれ以外のものもスキャンできる。名刺やレシート、紙焼き写真など、画面に入る範囲でバラバラに置いても、それぞれを正対させて別々のファイルにして保存できる。B3ぐらいの範囲をいっぺんにスキャンできるので、相当の枚数を一度にスキャンできる。
またA2などの大きな地図は、半分ずつスキャンして1枚に統合することもできる。古地図や紙の図面などを資料化したい場合などにも便利に使えるだろう。
背面にHDMI出力が付いているところからもわかるように、ライティング付きのオーバーヘッド動画カメラとしても使える。出力はフルHD・60Pだ。プレゼン中に手元の資料を見せるといった使い方もできる。
オートフォーカスではないようだが、被写界深度が深く設定されており、高さ15cmぐらいまでなら立体物でも問題なくフォーカスが合う。紙の資料だけでなく、模型や操作中の手元なども真上から見せられるのは、意外とありそうでなかったデバイスである。
また専用ソフトの「CZUR Scanner」には、「ビジュアルプレゼン」というモードがある。これを使うと、スキャナに写っている映像を動画として録画できるほか、実はヘッド部分にマイクも内蔵されており、しゃべりながら手元の操作で実演するといった動画を収録できる。
画面内には、マウス操作によるレーザポインタで重要部分を指し示したり、手書きで書き込んだり、拡大や縮小もできる。意外に多機能だ。
こうした機能は、紙の教科書を使わざるを得ない学校等で、急にリモート授業を行なう際にも便利に使えるのではないだろうか。PowerPointで事前に資料を作る必要もないのは、緊急時には助かるはずだ。
総論
裁断せずに本をスキャンできるスキャナは、これまで図書館などにかなり大がかりな装置として導入されてきた。それらは自動でページをめくったりといった、ロボットに近い機能を持っており、それなりのお値段でかなりのスペースを占有する。
一方CZUR ET24は、ページは人がめくらなければならないが、それ以外は全自動である。ここまでの機能を持つスキャナが10万円以内で購入できるとは、驚きだ。
また本体だけなら、フットプリントが意外に小さいのもメリットがある。使わない時は普通にライトスタンドとして使っても問題ないという。使う時だけ作業マットを広げてセッティングすればいいわけだ。それなら全然話が違ってくる。
「自炊派」の人達はすでに欲しい本はスキャン済みだろうが、これからDX化を迎える役所や企業などでは、まだまだこれから需要がある分野だ。社外秘の内部資料などはスキャンを外注に出すわけにもいかず社内で誰かがやるしかないわけだが、こうした機器が1台あるだけで、半ば諦めかけていたDX化が進むかもしれない。
また学校にも1台あっていいスキャナだ。GIGAスクール構想によって1人1台の端末は行き渡ったが、デジタル化された資料が少なく、紙の資料を写真に撮って生徒に配布している学校も多い。タブレットやChromebookのカメラでは画質的にも不十分で、さらには照明もちゃんとされていないので非常に見辛い画像で子供たちは勉強させられている。こうした「プアデジタル」の解消にも繋がる機器である。
デジタルスキャナは、市場を探せばまだまだどころか、これからが本番だとも思える。AIとの組み合わせで、ますます賢くなっていく分野だろう。