小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1137回
手元も会議も領収書も。デスクトップで何でも撮れる「CZUR Fancy S Pro」
2024年8月8日 08:00
あの「CZUR」から今年も新モデルが登場
ちょうど昨年の今ごろ、オーバーヘッドスキャナのCZUR(シーザー)「ET24 Pro」をご紹介した。そして今年もまた新製品が出るというので、サンプル品をご提供いただいた。
「CZUR Fancy S Pro」は、従来のようにオーバーヘッドスキャナとして書類などをスキャンすることはもちろんだが、カメラの角度を自由に変えて、手元の動画撮影やWEB会議用のカメラとしても使えるという、3in1のカメラとして登場した。
価格も「ET24 Pro」から大幅に下がり、24,860円。現在はクラウドファンディングサイト「Makuake」にて先行予約販売が開始されており、執筆時点では単体24% OFFの18,890円で販売されている。
ただのWEBカメラならいくらでもあるが、手元を真上から撮ったり、紙を位置合わせ不要で連続スキャンしたりと、机の上で何でもできるカメラというのはなかなかいいアイデアだ。
そんな「CZUR Fancy S Pro」の使い勝手は実際どうなのか、検証してみよう。
アーム一体型のCMOSカメラ
CZURは元々ブックスキャナやドキュメントスキャナの専門メーカーで、昨年ご紹介した「ET24 Pro」はその中でもハイエンドモデルである。
実際は収納性を重視したコンパクトモデルのほうが主力製品で、グレード違いでShineシリーズやLensPro、Auraシリーズといった製品を多数ラインナップしている。今回の「Fancy S Pro」も、収納性重視の新シリーズという事になる。
実はFancyもシリーズ製品となっており、本家サイトにはセンサー解像度がちょっと低い「Fancy Pro」という製品もある。日本向けには高解像度のFancy S Proのみの販売となっている。
製品の概要としては、アームが付いたCMOSカメラという事になるだろう。アーム部は2箇所で折れ曲がるようになっており、収納時はほぼ棒状に、展開時は逆L字型になるという格好だ。
スタンド部に重りが入っており、アームを真横に突き出しても倒れる事はない。ヒンジ部にはつまみが付けられており、ヒンジのカタさが調整できるようになっているので、どういう角度でもピタリと固定することができる。
先端のカメラ部は円筒形になっており、背面のスイッチ部を回すと、90度回転できるようになっている。ソフトウェアで縦横変換するのではなく、物理で回してしまうというのが強みだ。
縦撮りも可能、ということになるが、リモート会議で縦撮りが求められることはあまりないだろう。現実的な用途としては、俯瞰で手元を撮影する際に、真正面からだけでなく真横からアームを突き出して撮影もできるという使い方になる。
カメラ性能としては、画素数1,200万画素の1/3.1インチCMOSセンサーを採用。解像度としては4,000×3,000ピクセルとなっている。ビデオ性能は、4Kで15fps、フルHDで60fps。
レンズは視野角74.4度となっているので、35mm換算ではだいたい28mmぐらいだろうか。AFもあり、シングルAFとコンティニアスAFの切り替えができる。またカメラ部にマイクも内蔵しており、WEBカメラとして使用する際には音声も収録できる。
カメラ背面には同心円状に並んだコントロール用のボタンがあり、露出の±、180度回転、AF、ライトが操作できる。カメラ下のLEDライトは3段階で調光できる。
スタンド部背面にからUSB-A接続するケーブルが伸びており、ケーブル長は150cm。重量はスタンド部に重りが入っているので590gと、見た目よりはずっしりしている。
またオプションとして、A3までカバーできる折り畳み式の専用マットも発売された。ハードタイプなので、収納時に丸めたクセが付いてしまうということがない。こちらは現在50% OFFの1,650円で販売されている。
カメラとしての性能は?
では早速使ってみよう。本製品には2タイプのソフトが提供されている。「CZUR Visualizer」は、本機をWEBカメラとして使う際に使用するソフトだ。まずはこちらから見ていこう。
起動すると、カメラスルーの映像が表示される。左上のカメラアイコンをクリックすると、カメラの設定画面となる。解像度はQVGAから4,000×3,000まで選択できるが、フルHDまではハイフレームレートも選択できる。通常は30P、ハイフレームは60pだ。
ただ製品が中国製なので、デフォルトの駆動周波数が50に設定されており、リセットするとこの値に戻ってしまう。つまり25pか50pになる。
昨今はビデオ映像もネットに上げたりスマホで見たりするようになり、あまりフレームレートを意識しなくても済むようになってはいるが、他のビデオカメラと合わせるなら60に設定したいところだ。日本国内向けの製品は60をデフォルトにできないだろうか。
このツールでは、様々な機能を提供する。一番わかりやすいのは、動画カメラとしての利用だろう。アーム部を展開すれば、テーブル上でちょうど顔の正面にカメラが来る高さなので、しゃべりコンテンツの収録が可能だ。画面右下のビデオボタンで動画が録画できる。実際に本機のカメラとマイクを使って撮影してみた。
カメラとしての画質は、デジタルカメラに比べれば落ちるところだが、WEBカメラとしてはまずまず普通なのかなと思う。AFも効いているので、フォーカスもしっかりしている。
音声に関しては、一応問題ないレベルとは言えるが、ピンマイクや指向性マイクを使うなど、もっと良く集音できる方法はいくらでもあるので、しゃべりのコンテンツを収録するのであれば、別途マイクを繋いだほうがいいだろう。「CZUR Visualizer」ではマイク入力の切り替え機能もあるので、別途USBマイクなどを接続して収録に使う事ができる。
いわゆる手元カメラとして使用する場合、画面上にマウスで書き込みができる。重要な部分をハイライトしたり、またマウスポインタをレーザーポインタ風に変更することもできるので、プレゼンやウェビナーといった用途には便利だろう。
またパソコンに内蔵のカメラと合わせて、PinP合成を行なう機能もある。手元カメラと説明者の顔を合成し、それを録画することができるので、動画の説明コンテンツも簡単に作成できる。
このソフトは、タブを切り替えるとスキャンモードになる。ただ本格的なドキュメントスキャナーというよりは、書類の形で切り抜いてJPEGにするという、画像スキャナーだ。2箇所を同時にスキャンできるなど、画像の切り抜きのようなことが得意な一方、OCRの機能はない。ドキュメントのスキャンは、別の「CZUR Fancy」というソフトウェアを使用する。
ドキュメントスキャナーの性能は?
では提供されるもう一つのツール、「CZUR Fancy」を見ていこう。以前ご紹介した「CZUR ET24」には「CZUR Scanner」という強力なスキャンツールが付いていたが、「CZUR Fancy」はそれの簡易版といった作りになっている。
スキャン画面では、ページの処理方法として、フラットペーパー、湾曲した本、結合側、主導範囲指定といったモードがある。このあたりは「CZUR Scanner」と同じだ。
スキャン範囲は、スペック上はA3となっているものの、そのままだとA4範囲しか撮れない。おかしいなと思ったら、なんとアーム部を上に引っ張り上げるともう一段伸びるという作りになっていた。こうした高さを稼ぐことで、A3まで撮れる。
サンプルとして、筆者が2022年に上梓した「仕事ですぐに使える! DaVinci Resolveによる動画編集」をスキャンしてみた。スキャン時にはページが湾曲しているが、スキャンするとまっすぐに補正されている。このあたりが「CZUR Visualizer」のスキャンモードと違うところだ。
「CZUR ET24」にはスキャンのタイミングをフットスイッチや手元のスイッチで制御することができたが、本機にはそこまでの機能はない。そのかわり、ページをめくると自動スキャンするモードがあるので、連続でスキャンしたい場合でもそれほど苦労はない。
今年から電子帳簿保存法がスタートし、紙のレシートや領収書をスキャンして保持しておかなければならなくなったが、こうしたものもポンと置くだけで形状を自動認識してくれるので、無駄なエリアまでスキャンされてしまうことはない。
またスキャンした映像はOCRにより、文字情報埋め込みでPDFなどに書き出せるので、テキストを選んでコピー&ペーストもできる。
総論
前回ご紹介した「ET24 Pro」は価格こそ10万円以下だったが、実質的には学校や会社で使用する業務用機であった。一方、今回の「CZUR Fancy S Pro」は個人向けの製品として価格をさ下げたほか、WEBカメラや手元カメラとしても使えるという部分を押してきた製品と言える。
顔を写すカメラとしては、ノートPC内蔵カメラとそれほど変わらない印象だが、動画配信ではメインではなく、ちょい見せするためのカメラとしてなら、角度も自由に固定できるし、手軽に使えるのではないだろうか。
ソフトウェア上で別カメラとPinPできる機能もあり、説明動画などを作りたい場合には編集いらずで一発撮りができる。
またドキュメントスキャナとしても湾曲補正やOCRといった機能も使える。世の中DXとは言っても、領収書やレシートはまだ紙文化が色濃く残っており、いちいちプリンタ複合機のフタを開けてガラス面に並べて……という作業は面倒だ。会社に行けばスキャナやコピー機もあるだろうが、テレワークで家での作業ではそもそもプリンタも複合機もない、という人も多いだろう。
本機なら普段は5cm角程度のフットプリントしか必要とせず、いざとなればキーボードをどかした程度のスペースですぐスキャンできるのは、かなりの省スペースである。
難点を上げれば、ライトがカメラのそばにあるので、ツルツルした光沢のある紙ではあまりうまくスキャンできないところだろう。上位モデルの「ET24 Pro」では横から滑らせるようにライティングするサイドライトも同梱されていたが、このあたりはコストを考えれば仕方がないところか。ただ昨今はLEDスタンドライトなどいくらもしないので、そうしたものを利用すればいいだろう。
個人的には、手元の操作を見せる、いわゆる「書画カメラ」としての用途は小さくないと思う。意外と真下を撮るというのは、なかなか普通のカメラや三脚では難しいのである。意識して探せば専用機もあるのだが、案外多くの人が苦労していたところではないだろうか。かく言う筆者も僚誌「窓の杜」でのDaVinci Resolveの動画連載で、手元を見せるのに苦労してきた。早くにこれがあれば楽できたのに、と思った次第だ。
ハードウェアとしてはある意味アイデア一発で大したことないとも言えるが、業務市場で鍛えられたソフトウェアが2本付いてくるところが大きい。価格的にもよくこなれている商品である。