小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1116回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

あのJBLがマイク? ワイヤレスも含む拡充された「Quantum Stream」3種を試す

Quantum Stream Wireless

転身を図るJBL

米国の老舗オーディオブランドは、コンシューマに転身して上手く生き残りを図るブランドもあれば、祖業にこだわるあまり上手くいかなくなるパターンもある。その中でJBLは、かなり上手くやっているブランドだと思う。

若い人はBluetoothスピーカーのメーカーだと思っている方も多いと思うが、昔はモニタースピーカーで知られ、しかもロック系がよく鳴るということで、レコーディングスタジオやビデオ編集室によく導入されていたものである。

そんなJBLがマイクを出したと聞くと、昔のJBLを知っている方からすれば奇異に感じる事だろう。だが、かねてよりゲーミング用として、マイク付きのヘッドセットは大量に製品化しており、ゲーミング用マイク製品も1機種投入していた。

それが今年2月に大幅にラインナップを拡充させ、一気に3製品を投入する。ワイヤレスマイクの「Quantum Stream Wireless」、コンデンサーマイクの「Quantum Stream Studio」、スタンドマイクの「Quantum Stream Talk」だ。

多くの人が動画でコミュニケーションしている今、コンシューマブランドとしてマイクを強化というのは納得できるところだ。今回はその性能をテストしてみよう。

Quantum Stream Studio
Quantum Stream Talk

Vlog収録に。「Quantum Stream Wireless」

昨年あたりから急速に市場が拡がってきたのが、ワイヤレスマイクである。以前からソニーやRODE、Hollylandなどに業務寄りの製品は多くあったが、DJIやAnkerといった異業種が参入してきたことで、選択肢が大きく拡がった。JBLもその異業種参入の1社にカウントできるだろう。

「Quantum Stream Wireless」は、マイク兼トランスミッタとレシーバーが1対となった製品で、公式サイトでの価格は14,300円。著名ブランドの製品としては、かなり低価格だ。

左がマイク、右がレシーバー

マイク部分はバー状になっており、てっぺんに集音部がある。背面にクリップがあり、服に挟み込んで使用する。集音部にはウインドスクリーンも取り付けられる。

上部に集音部
ウインドスクリーンも装着できる
背面に大型クリップ。横に見えるのはミュートボタン

バッテリーを内蔵し、動作時間は最大6時間。充電時間は2時間となっている。重量は11.2gと、かなり軽量だ。

レシーバーは横長のバー状で、上部にUSB-C端子がある。形状からすれば、スマートフォンの充電端子に接続するというのをメインの使い方に想定しているようだ。なおMacに繋いでも普通にUSBマイクとして認識されるが、この形状だと他の端子を塞いでしまうので、延長ケーブルを使うことになるだろう。

USB-Cで接続するレシーバー部

またレシーバーはUSB端子から電源を取るので、バッテリーは内蔵していない。横にUSB-Cの入力端子があり、スマートフォンに接続した場合もスマホへの給電に対応できる。

レシーバーはスマホからの電源で動作する

マイクの充電には、専用ケースを使用する。ケースはワイヤレスイヤフォン用のものを少し太らせたような形状で、これにもバッテリーが内蔵されている。作りとしてはまさにイヤフォン用ケースと同じだ。レシーバーも一緒に収納できるようになっているが、こちらへは充電は必要ないので、ただ穴に入っているだけである。

ワイヤレスイヤフォン的な専用ケース

コントロールアプリは、JBLのイヤフォン用設定アプリである「JBL Headphones」に対応する。変更可能なパラメーターとしては、マイクゲイン、ノイズキャンセリング、マイクエフェクトがある。

コントロールアプリとしてはJBL Headphonesが対応

では早速集音してみよう。今回はGoogle Pixel 8に接続し、撮影している。まずマイクエフェクトだが、「ナチュラル」がデフォルトで、音質も悪くない。ノイズキャンセリングを使わなければ48kHz/16bitで記録できるので、通常の使用には十分だろう。

「パワフル」モードでは、若干コンプレッサーがかかったように、音圧が上がる。音圧を一定にしたい時や、エキサイトしたしゃべりの場合に使用するといいだろう。「Bright」モードでは、低域がカットされるのがわかる。低域のノイズがあるときには有効かもしれないが、男性の声にはあまり向かないだろう。女性の声で使いたいところである。

マイクモードの違いをテスト

ノイズキャンセリングは、スライドバーでフレキシブルに強度が変えられるようになっている。ただしノイキャンをONにすると、サンプリング周波数が16kHzに下がる。ビット深度は変わらず16bitだ。

ノイズキャンセリングの効きがよく、原音に対する影響は少ないので、使いやすいだろう。ただ、多少音質が劣化するのは否めないところだ。

ノイズキャンセリングをテスト

伝送距離もテストしてみた。スペック上は伝達距離100mとなっているところ、順に離れながらテストしてみたところ、100mを過ぎても良好に集音できた。ただ収録現場は特に目立った障害物もなく、人も少ないので電波条件はかなり良好だ。街中で撮影する場合は条件が厳しくなると思うので、収録前に実際に届くかどうか、テストしてから本番収録を行なうほうがいいだろう。

伝送距離をテスト

小さくても超指向性、Quantum Stream Talk

写真で見ると通常サイズのように見えるが、実はかなり小型なのがQuantum Stream Talkだ。台座部、アーム部、マイクが一体となっているが、マイクの角度や向きはボールヒンジで自由に変えられる。公式サイト価格は6,930円。

スタンドマイク型のQuantum Stream Talk

マイクカプセルは6mmのエレクトレットコンデンサーマイクで、超指向性となっている。このため、オンマイクでなくても音が拾えるのがポイントだ。またサンプリングレートは最高96kHz/24bitに対応しており、ハイレゾでの収録が可能になっている。

台座背面にUSB-C端子があり、隣にイヤフォン端子もある。パソコンに接続すると、入出力両方あるUSBオーディオ機器として認証されるので、マイクとして使用しながら、PCからの「返し」の音もイヤフォン端子からモニターできる。ただしマイクからの自分の声は返しには含まれない。

背面端子は台座部にある

脚部にはボリュームノブがあり、回すとモニター音量が制御できる。また3秒以上押してマイクのLEDがマゼンタになると、マイクゲインの調整となる。しばらくするともとのモニター音量調整モードに自動で戻るので、うっかり触ってマイクゲインが変わってしまうということもない。ノブを押し込むとミュートだ。

ダイヤルでマイクゲインやモニターレベルが変更できる
マイク先端のLEDでダイヤルのステータスがわかる

ではさっそく集音してみよう。サンプルの動画ではマイクとの距離は約30cmだが、かなり良好に集音できている。超指向性なので、方向さえズレなければマイクを近くに置かなくてもいいのはメリットだ。マイクベース内にショックアブソーバーを内蔵しており、マイクごと動かしてもあまり派手にゴソゴソ言わないのも、ビデオ会議や配信で使いやすいだろう。

Quantum Stream Talkで集音

音質的にはコンデンサーマイクということもあり、高域の抜けが良く、明瞭感がある音だ。周波数特性は50~12kHzなので、声の帯域に特化したということだろう。従って楽器や環境音などの集音には向かない。また指向性が強いので、1人でのしゃべりに最適化されている。複数人のしゃべりを集音するには、後述するQuantum Stream Studioのほうがいいだろう。

なお音質調整ツール「JBL QuantumENGINE」にも対応するとあるが、実際にはマイクを認識しなかった。これはQuantum Stream Studioも同じである。

JBL QuantumENGINEはマイクを認識しなかった

1台でマルチに使えるQuantum Stream Studio

Quantum Streamの最上位モデルがQuantum Stream Studioだ。14mmのコンデンサーマイクカプセルを3つ内蔵し、それらを組み合わせて4通りの指向性が選択できる。以前にQuantum Streamというマイクを製品化していたが、あれはマイクカプセルが2つだった。Studioでより拡張したという事だろう。公式サイト価格は22,000円。

本格マイクのたたずまい、Quantum Stream Studio

マイクカプセルは水平方向に向けられているので、円筒形の周囲から音を拾うようになっている。一般のマイクのように、長手方向を音源に向けるようにはできていないので、その点は注意していただきたい。

サンプリングレートは最高192kHz/24bitで、この点でもQuantum Stream Talkより上位スペックだ。周波数特性は50~16kHzで、こちらも上のほうが伸びている。

前面のダイヤルは、モニターボリュームだ。もう一度押すとマイクゲインに切り替わる。ダブルプッシュすると、マイクとモニターの返しバランスが決められる。こちらはTalkと設計が違うようで、マイクからの音声も返しに含まれる。ダイヤルの回りのリングライトは、レベルメーターを兼用しており、マイクゲインの参考になる。

ボリューム回りのLEDはレベルメーターにもなる

ミュートボタンは天面にあり、こちらは触ってもボコボコいわないよう、タッチセンサーになっている。Talkと違ってショックアブソーバを内蔵しないので、テーブルの上の振動をかなり拾う。底部の台座は回せば外せるので、マイクスタンドにも取り付けられるだろう。

ミュートは天面をタッチするだけ

指向性の切換ボタンは底部にある。パターンとしては、単一指向性、無指向性、ステレオ、双方向(前後)の4つだ。出力は基本2チャンネル出力が出るが、ステレオモード以外は左右同じ音が出るモノラルとなる。

指向性は底部のボタンで切り替える

実際に指向性がどう変化するのか、テストしてみた。指向性はそれほど鋭いわけではないが、1本で多用に使える事がわかる。音質的には高域の抜けも綺麗で、コンデンサーマイクの良さがよく出ている。対面でのトークが1本で収録できる双方向マイクはあまり廉価なものがないので、ポッドキャストなどしゃべり系のコンテンツ収録には重宝するだろう。

Quantum Stream Studioで指向性の違いを検証

総論

JBLは元々スピーカーメーカーなので、マイクの出来はそれほど期待していなかったのだが、どれもちゃんとしていて驚いた。自社設計・製造ではない可能性もあるが、OEMだとしてもモノとしては良くできている。

Stream Wirelessは同社初のワイヤレスマイクだが、音質や電波の飛びなど、マイク専門メーカーと遜色ない出来となっている。USB-C直刺しなのでデジタルカメラ等には使えないが、音声だけスマホ録音して編集で合わせればいい。またパソコンでも使えるので、リモート会議などでも使えるだろう。ただしミュートにするのを忘れてトイレに行ってしまうと悲惨なことになる。

Stream Talkは一番シンプルなマイクだが、小型スタンドマイクで超指向性なのは珍しい。また価格も6,000円台とかなり安いのも魅力だ。ショックアブソーバーもあり、同じ机の上でキーボードをタイプしても、振動を拾わない。

Stream Studioは、4タイプに指向性が変えられるのが面白い。またマイク集音の状態もモニターできるので、一種のUSBオーディオインターフェースという扱いになる。マイクスタンドを使って逆さ吊りで使っても面白いだろう。

JBLとしてはStreamシリーズをゲーミングマイクと位置づけているようで、サイトでも「ゲーミング」製品として分類されている。とはいえマイクとしての素性もよく、何しろ安いので、ゲーム配信だけでなく、もっと広い用途に使っていきたいところだ。どう使えるか、まさにユーザーの知恵が試される。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。