小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第704回:ハイエンドコンデジの理想形? 1型MOS/4K/SIMフリーの「LUMIX DMC-CM1」を試す

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第704回:ハイエンドコンデジの理想形? 1型MOS/4K/SIMフリーの「LUMIX DMC-CM1」を試す

Androidスマホとデジカメが合体?

 パナソニックから、1インチセンサーのカメラ機能を備えたコミュニケーションカメラ「LUMIX DMC-CM1(以下CM1)」が3月12日より、2,000台限定で国内発売された。すでに欧州では昨年11月から販売されているが、これまで国内発売は未定とされていた。

 価格はオープンプライスで、店頭予想価格は12万円前後。ネットの通販サイトを調べてみると、現在15万円程度。量販店では通販を行なわず、店頭のみでの販売としているところもあるようだ。筆者も長い事この連載をやっているが、発売2週間もしないうちに店頭予想価格よりもネットの実売のほうが高いというのは初めての経験である。

 “スマホとデジカメの融合”というコンセプト自体は、2012年のCESで発表されたポラロイドの「SC1630」があった。その後国内では、2012年9月にニコンから「COOLPIX S800c」が発売されている。

 スマホ+デジカメの考え方としては、2通りある。コンパクトデジカメのOSとしてAndroidを搭載するという方向と、スマートフォンのカメラにコンデジ相当の性能を持たせる方向だ。COOLPIX S800cは前者で、構造的には明らかにデジカメであった。一方CM1はSIMロックフリー端末でもあるところから、ボディは完全にスマートフォンで、そこに高級コンデジクラスのカメラが乗っているものと見る事ができる。

コンパクトデジカメのOSとしてAndroidを搭載した「COOLPIX S800c」

 スマートフォンのコンシューマ事業からは撤退したパナソニックだが、カメラの方は好調だ。このような強烈に特徴のあるスマートフォンは、他社には作れないものとして、競争力のある商品である。CM1の実力をテストしてみたい。

表と裏で顔が違う作り

 まず見た目だが、カメラ側から見れば極薄のコンパクトデジカメである。レンズが右に寄りすぎてるのが多少気になるが、LUMIXのロゴやLEICAロゴがあり、知らない人が見てもカメラに見えるだろう。レンズの付近はなめらかに薄くなっており、レンズだけがぼっこりと出っ張るような印象はない。

表から見ると超薄いデジカメ
レンズがあるあたりはボディが薄くなっている

 一方裏を返すと完全にスマートフォンで、カメラ的な要素はまったくない。側面にはカメラ起動ボタンとシャッターボタンがある点が違うと言えば違うところだ。イヤフォン端子、SIMカードスロット、microSDカードスロットを備え、充電用のmicroUSB端子もある。外形寸法は約135.4×68×21.1mm(縦×横×厚さ)、重量は約204gだ。

裏から見れば完全にスマホ
シャッターボタンとカメラ起動スイッチを備える
SIM、microSDカードスロットを備える
上部にmicroUSBとイヤフォン
底部の大きなスリットはスピーカー

 カメラ側の仕様は、35mm換算28mm/F2.8の単焦点レンズ。合焦範囲は10cmからとなっている。カメラを起動すると、レンズ中央部が5mmほどせり出して撮影可能になる。レンズ鏡筒部はマニュアルリングになっており、撮影モードに応じて設定変更ができる。

カメラが起動すると5mmほどレンズがせり出す

 ズームはiAズームが2倍まで、デジタルズームで4倍まで可能。ボタン操作でのズームはできないが、コントロールリングを回したり、画面をピンチイン/アウトすることでズーム操作が可能だ。

 絞りはスペックシートには虹彩絞りとあるが、実際には3枚羽根で、各羽根にカーブが付けられており、絞り穴はおにぎり型の六角形となる。めいっぱい絞ると羽根の角度が効かなくなるので三角形になるが、絞ればボケないので、絞りの形の影響は少ないだろう。開放からF11まで可変する。

画面のピンチインでズーム。コントロールリングを回す事でもズーム操作ができる
絞りもきちんと連続可変する

 レンズ周囲のシルバーの円盤は外せるようになっている。ここに37mmのエクステンションチューブを取り付ければ、各種フィルターやコンバージョンレンズも使える。海外ではすでにその手のアクセサリも出ているようだ。

 撮像素子は1型の2,090万画素のMOSで、カメラ有効画素数は2,010万画素。最近ハイエンドコンパクトでは1インチからフォーサーズが増えてきているが、その流れに乗ったものと言えるだろう。

 静止画フォーマットはJPEG+RAW撮影が可能で、動画はMP4。動画解像度は最高が3,840×2,160/15fpsで、それ以外はフルHD、720p、VGA、1:1(640×640)でも撮影できる。ただしフレームレートはすべて30fpsだ。動画ファイル撮影時間は29分59秒か、4GBに達するまで。ビデオビットレートは50Mbpsと、フレームレートの割には結構高い。オーディオはステレオのAACで、160kbps/48kHzだ。

フレームレートは4Kのみ15fpsで、あとはすべて30fps

 スマホとしてのメインプロセッサはQualcommのSnapdragon 801(2.3GHz/Quad Core)だが、それとは別に画像処理エンジンとして「ヴィーナスエンジン」を搭載している。液晶モニターは4.7型フルHDのTFTだ。

 OSはAndroid4.4で、5.0へのアップデートは5月中旬に予定されている。したがって現在はまだ4.4のままだ。SIMロックフリー端末なので、プリインストールのアプリは少ない。パナソニック製のカメラ関連アプリのほか、今いる場所で他の人が撮影した写真を閲覧できる「Photo Search」、風景写真の撮影場所・条件を共有できる「Pashadelic」といったアプリがプリインストールされている程度だ。

OSは5.0へのアップデートを予定

多彩な撮影モード

 ではさっそく撮影である。今回は子供を連れて新潟県湯沢のスキー場へ行ってきたので、そのついでに色々撮影してみた。

 カメラの起動は、側面にカメラ起動ボタンですぐに撮影状態に入る。いちいちAndroidのロックを外す必要もなく、撮影に専念できる。ただデジカメとして使うには、ストラップホールがないため、脱落が心配である。

 撮影はシャッターボタンで行なう事になるが、背面のほとんどが液晶画面なので、カメラを構えると親指の置き場に困る。特に片手で撮影する場合、右手でカメラを握り込む事になるので、親指のグリップは重要である。しょうがないので液晶画面のさしさわりのなさそうなところに親指を当てるしかないのだが、ふとした拍子に動画ボタンを触ってしまって動画撮影になってたりという事が何度かあった。

側面にカメラ起動ボタンですぐに撮影状態に。撮影機能が右側に集中するので、親指の置き場がない

 撮影モードは、ハードウェアとしてのモードダイヤルはないものの、ソフトウェアダイヤルを表示させ、マニュアルリングで変更が可能だ。モードは一般的なコンパクトデジカメ並みにちゃんとあり、iAが2つ、P、A、S、Mのほか、シーンモード、クリエイティブモード、パノラマなどがある。シーンモードは22、クリエイティブモードは18あるので、相当いろんな撮影が楽しめるだろう。

撮影モードは一般的なデジカメと同等
シーンモードはサンプル画像と説明文を参考に選択できる
クリエイティブモードはタイル状に表示

 カメラ設定としては、シャッター音がOFFにできるところが一般的なスマホカメラと違うところだと言える。日本では盗撮防止という意味合いから、スマホカメラは必ずシャッター音を出すようにメーカー間での取り決めが行ななわれているようだ。ワールドワイドモデルのスマートフォンでは、日本のSIMを入れるとシャッターON/OFFの項目が無くなるものもあるようだが、CM1ではMVNOのSIMだからかもしれないが、シャッター音がOFFにできた。

国内事業者のMVNO SIMを入れてもシャッター音がOFFにできる

 実際にシャッター音があることで、盗撮にどれぐらいの抑止効果があるのか不明である。またシャッター音を消すアプリも多数出回っている。これらは何もやましいことをするために存在するのではなく、子供の寝顔を起こさずに撮りたいといったささやかな希望を叶えたい人もいることだろう。世界の他の国ではできることを、我々日本人だってやりたいわけである。ごくごく一部のふとどき者のために、日本中のスマホユーザーに不便と迷惑がかかるような施策は、社会デザインとして正しくない。

 今回ほとんどが雪山のため、色味はスキーウェアぐらいしかないが、立木の細かさなどはさすがの描画力だ。遠景の解像度も素晴らしく、当然だが普通のスマホカメラで太刀打ちできるようなものではない。背面の液晶モニタは、輝度を明るくするモードもあるのだが、それでも雪山ではほとんど見えなかった。ファインダもないしフードなども付けられるわけではないので、明るい場所での撮影は困難を極める。

細かい描画力はさすが
ジオラマモードで撮影
シーンモード18「料理をおいしそうに撮る」で撮影
シーンモード13「夜景を暖かく撮る」で撮影

 夜景も専用モードがあるので、簡単に撮れる。なおシーンモードには長時間露出モードもあるが、三脚穴もないボディでどうやって撮れというのか、難しいところもある。CM1のようなカメラユーザーは、大仰な仕掛けは好まない(それをやるぐらいなら別のカメラを使う)だろうから、使われるかどうか疑問である。

 深度表現は、開放でも大きくボケるわけでもないが、このぐらいが一番使いやすいところだろう。なおF11まで絞れば、ほぼパンフォーカスとなる。

F2.8(開放)で撮影
F11で撮影

 パノラマモードは、実はパナソニック機で初めて試したのだが、最初にどちら方向に動かすか決める必要がなく、左右どちらでも動かし始めれば、カメラが自動的に判断する。縦方向には撮れないが、それはカメラを縦にすれば解決するので問題ない。なかなか賢いモード設計である。

パノラマモードで撮影

 4Kの動画も撮影してみたが、残念ながら動画カメラとしては十分とは言いがたい。手ぶれ補正もないし、15fpsぐらいがまた丁度手ブレが余計に目立つのだ。同じ4K撮影可能なスマートフォンのソニーXperia Z2では、30fpsで撮影できるのに加え、手ぶれ補正も効いたので、動画カメラとしては十分使えた。ただ放熱に問題があり動作が安定しなかったので、パナソニックではフレームレートは上げない方向に振ったのかもしれない。

4Kで動画撮影したサンプル
sample_4k.mov(108MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

撮影後の処理がポイント

 CM1における4Kは、動画ではなく静止画連写機能として使うという方向がメインのようだ。別途「4Kプリ連写」というアプリを使えば、シャッターを押した前後1.5秒を4Kで撮影、その中からベストな1枚を選ぶという機能だ。つまりこのアプリを立ち上げると、4Kのループ録画が始まる。シャッターを押した瞬間から前1.5秒と、押した後の1.5秒を一時保存することで、あとからユーザーが切り出したい静止画を選べるようになるわけだ。

 撮影される静止画は、前22枚+シャッターの瞬間1枚+後22枚の、合計45枚。3秒で45枚なので、フレームレートとしては12fps(12枚連写)程度となる。シャッタースピードは光量に合わせて高くなるので、動きのブレはない。通常のカメラ連写は、連写した写真全部が保存されていくが、この機能では選んだ1枚だけを残して、あとは消える事になる。決定的瞬間を捉えたい、でも大量の連写画像は欲しくないという、ユーザーには便利な機能だろう。

「4Kプリ連写」で画像選択中

 また撮影した4K動画から静止画を切り出す「4K Photo」アプリもある。4Kプリ連写では、その場で1枚を選ばなければ次の撮影ができないが、動画でざっと撮っておき、あとからゆっくり選ぶという使い方ができる。ただ4K Photoで動画を選び、写真にしたいあたりを選択すると、そこから実際に写真へ切り出す動作は「4Kプリ連写」に渡されるようだ。

4K動画から静止画を切り出す「4K Photo」

 また撮影後の写真は、パナソニック提供の「ギャラリー」アプリにより、後処理で様々な効果が付けられる。元々Instagramなどでは当たり前の機能だが、では振り返ってデジカメで後から画像のエフェクト処理ができる機種が沢山あるかといえば、あまり聞いた事がない。撮影前にエフェクトを選ぶものはいくらでもあるが、まさに撮影現場でそんなことしてられるかと言えば、むしろシャッターチャンスに集中したいわけだから、よほど狙いがある場合を除けば、使うチャンスなどこれまでほとんどなかったのではないだろうか。

「ギャラリー」では写真に後付けでエフェクトが設定可能

 このあたりは、ある意味スマホアプリの能力ではあるのだが、デジカメとスマホが一体化したCM1のような製品ならではだろう。当然そこからInstagramなりFacebookなりのSNSに、そのまま投稿できる。当然、テキスト入力も可能だ。デジカメからシームレスにそこまでできるものは少なかっただけに、コミュニケーションカメラという新ジャンルであることは間違いない。

 さらに観光地などに行った際、みんなどんな場所でどんな写真を撮っているのか、知りたくなる事だろう。パナソニック提供の「Photo Search」は、そういう希望を叶えてくれるアプリだ。もちろん今居る場所だけでなく、これから行く場所、行きたい場所のロケーションも確認できる。

現地で他の人が撮った写真が見られる「Photo Search」
PashadelicはPhoto Searchよりも詳細に撮影データが参照できる

「Pashadelic」はパナソニックのアプリではなく、一種の写真共有SNSだ。撮影場所や時間のほか、カメラ名、絞り、シャッタースピードといった情報とともに写真を共有することで、ある場所で何時頃ならこういう設定でこんな写真が撮れるといったことがわかる。かなりレベルの高い写真が多いので、現地での撮影の参考になるだろう。

 CM1の威力はこのように、撮影時よりもむしろ、写真を撮ったあとにこそ発揮されると言える。

総論

 現在1インチ以上のセンサーを搭載した、いわゆる高級コンパクトと言われるクラスのカメラは、6~7万円からといったところだろう。上を見ればライカ、ハッセルブラッドの20数万~30万越えの世界まで拡がっている。その中でのCM1は、1インチ2,020万画素のセンサーは立派だが、レンズはそれほど大きくもない事もあり、実売12万円という価格が妥当かという疑問は残る。

 しかしカメラ+Andoridという組み合わせにおいて、スマートフォンとしての姿を維持しつつ、レベルの高い写真、しかもそれを加工・共有まで1台でこなせるという、最大限のシナジーを引き出すバランスに押し込めたという点で、他にないカメラである。

 さらにカメラOSがAndroidベースなので、ファームウェアやアプリのアップデートも本体のみで行なえるという強みもある。アプリで成長する要素を残したカメラとしては、ソニーのカメラが対応している「Camera Apps」があるが、アプリの追加やアップデートなど、使い勝手の面ではスマホに劣る。

 このあたりを全部Android側で面倒見てくれて、勝手にアップデートしてくれるのであれば、CM1のメリットはかなり大きい。もっとも、Android OSそのもののアップデートともなると、パナソニックが何年CM1の面倒を見る気があるかにかかってくる。とりあえず5.0までは面倒みてくれそうなので、一安心だ。

 欲を言えば、ここまでセンサーをがんばるのであれば、もう少しレンズもがんばってほしかった。だがそれではこのボディサイズにはならなかっただろう。ソニーがレンズスタイルカメラとして、スマホとドッキングするQXシリーズをリリースしたが、あれが一体になっていたらスマホとしては使いづらい。

 このような製品が作れるメーカーは、本当に限られる。ガチのカメラとスマートフォンが作れるところと言えば、パナソニック、ソニー、サムスンぐらいだろうか。そして、今これを作ったパナソニックの気概を評価したい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。