小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第992回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

1型カメラ + ズミクロンの衝撃、シャープ「AQUOS R6」で撮る

シャープ「AQUOS R6」

注目が集まる1インチ

スマートフォンは、もちろんネット接続端末ではあるのだが、カメラというものの様々な可能性を切り開いてきたガジェットと言える。単焦点しかありえない薄型設計の中で、様々な画角を実現するために複数のカメラを搭載したり、深度表現を行なうために3Dセンサーを搭載して測距し、ぼかした背景と合成するなど、カメラの歴史上類を見ない速度で進化しているのが現代である。

レンズ、センサー、画像処理エンジン、ディスプレイの組み合わせで、やれることは全部やってきた感があるが、ここにきてセンサーの大型化に振ってくるかもしれない。シャープの「AQUOS R6」が搭載する1インチセンサーは、コンパクトデジカメの高級モデル、例えばソニー「RX100」シリーズなどに搭載されてきたものと同等のサイズである。

価格はソフトバンクオンラインショップで133,920円、docomoオンラインショップで新規および機種変が115,632円、MNPが93,632円となっている。また今後、AQUOS R6をベースにしたライカモデル「Leitz Phone 1」も発売される。18万7,920円という価格でこちらも話題になっている。

ライカモデル「Leitz Phone 1」

過去1インチセンサーを搭載したスマートフォンには、パナソニックの「LUMIX CM1」があったが、位置づけ的にはAndroid搭載デジカメと見たほうがよい製品だった。パナソニックもライカとのパートナーシップが長いが、今回カメラの監修をライカが担当したというAQUOS R6は、どんな絵を見せてくれるだろうか。早速試してみよう。

満足度の高いボディ

本体サイズは約162×74×9.5mmで、ディスプレイサイズは約6.6インチ。解像度は1,260×2,730で、アスペクト比としては6:13(1:2.17)という事になる。シネスコサイズよりちょっと横が足りない程度だ。

ボディは6.6インチのスリムタイプ

ディスプレイは世界初の1Hz~240Hzで駆動するOLEDディスプレイ「Pro IGZO OLED」。ディスプレイがボディ脇の湾曲部分にまで及んでおり、ほぼ全面ディスプレイといった格好だ。またディスプレイ内に3D超音波指紋センサー「Qualcomm 3D Sonic Max」を備えており、画面に向かって指紋認証するというのはなかなか新鮮だ。

両脇の湾曲部分までディスプレイが及ぶ

フォルムとしては、両脇の長辺は凸型だが、上下短辺は真ん中がえぐれた凹型となっている。SIMカードスロットも含め、端子類はすべてこの凹短辺に集まっており、コネクタ類の先端が自然に端子センターへ滑り込む。端子周辺に余計な傷がつかないという点でも、優れたデザインだ。ただエッジ部も背面も非常になめらかなので、うっかり滑りそうである。シリコン系のカバーが欲しいところだ。

上下短辺は凹型になっている

注目の1インチセンサーは、有効画素数約2,020万画素のCMOS。レンズはライカ ズミクロンで、35mm換算19mm/F1.9の単焦点レンズ。右側にはレーザー測距の照射部と受光部、LEDライトがある。カメラは背面にこの1つだけで、ユニット全体が3mmほど出っ張っている。昨今のスマホからすればかなり出っ張っているほうだと思うが、デザイン的にあまり目立たない。

注目のカメラ部は四角い出っ張りの中にある

インカメラは上部中央にあり、ディスプレイの上端真ん中にパンチホールが空いているのは珍しいように思う。こちらは有効画素数が約1,260万画素のCMOSで、焦点距離35mm換算で27mm/F2.3となっている。

インカメラは上部センターにある

チップセットは2.8GHz+1.8GHz オクタコアのSnapdragon 888で、メモリー12GB、ストレージ128GB。バッテリー容量は5,000mAhだ。

深度表現も楽しめる1インチ

まず画角からチェックしていこう。レンズとしては35mm換算19mmのカメラだが、カメラアプリではワイド0.7倍、標準1倍、望遠2倍の3段階がプリセットされている。このワイド0.7倍が、レンズそのままの19mmに相当する。つまりカメラアプリの1倍は、19mmを拡大した27mmぐらいの範囲という事になる。インカメラの画角と合わせたのかもしれないが、1倍標準が拡大画像というのも、なんだか変な感じだ。

カメラアプリUI画面

ただ、この焦点距離はおそらく静止画を撮影した場合で、4K動画では多少狭くなる。また4Kでも30pと60pが切り替えできるが、60pのほうが画角が狭くなる。おそらく4K/60pでは1インチセンサーを全画面駆動できないためだろう。

静止画 0.7倍
4K/30p 0.7倍
4K/60p 0.7倍
静止画 1倍
4K/30p 1倍
4K/60p 1倍
静止画 2倍
4K/30p 2倍
4K/60p 2倍

動画も静止画も、マニュアル撮影モードを持っている。マニュアルモードでは画面の水平垂直を示すマーカーが表示されるのに加え、明瞭度、コントラスト、色合い、ISO感度、ホワイトバランスを手動で設定できる。ただ動画撮影のみ、シャッタースピードの設定がない。静止画のマニュアルモードにはあるので、機能的にできないわけではなさそうだが、動画では必要ないという判断なのだろうか。

「マニュアルビデオ」のUI

多くの人が1インチセンサーに期待するのは、被写界深度表現という事になるだろう。本機の場合、0.7倍も1倍も2倍も所詮は同じレンズとセンサーで撮っていてそれをクロップで切り出しているだけなので、どの画角でも被写界深度は同じである。つまり19mmのワイドレンズでどれぐらい被写界深度が稼げるのかという話になるわけだが、背景と遠近差が大きければ、ナチュラルなボケは得られる事がわかった。

以下のショットは被写体をかなりレンズ前に持ってきている例だが、マクロ的な撮り方をすると結構背景ボケは期待できる。

マクロ的な撮り方をすると大きな背景ボケが得られる

一方でメインの被写体がそこそこ離れていると、パンフォーカス的な絵になる。レンズは1つだが、撮り方次第で様々な表現ができるカメラである。

被写体がカメラ前から遠ければ、パンフォーカス的な絵になる

なお静止画モードの一つとして、ソフトウェア処理で背景をぼかす「背景ぼかし」というモードがある。これも試してみたが、画角としては1倍に近くなるようだ。

「背景ぼかし」で撮影

ただ、普通に被写体に近づいて撮れば何もしなくても背景は綺麗にボケる。人物撮影で使うことを想定しているのだろうが、近寄れるモノの撮影ではあんまり使う必要がないかもしれない。

近づいて普通に撮影

背景がボケるとなると、気になるのがAF精度である。画面タッチでAFのポイントを指定でき、高速にピントが合うが、合焦直後にちょっと暴れるクセがある。サンプル動画では、後ろの端にAFを合わせているつもりなのだが、花を通り過ぎて背景にフォーカスが合ってしまっている。モノとしては隙間が多いので、測距レーザーが後ろに抜けてしまうのかもしれない。

画面タッチによるAF移動の挙動

豊かな発色と優れた解像感

動画撮影では、手ブレ補正が気になるところだ。本機は電子補正のみ搭載しているが、補正範囲はなかなか大きく、歩きながらの撮影ではかなりの補正力があるのが確認できる。

角と手ブレ補正の関係

歩きながらの補正には強いが、手持ちでフィックスを撮ると、2倍ではなかなか止まらない感じがある。そもそも同じ補正量の画像を拡大しているだけなので、ブレ量も2倍になるということだろう。

動きながらの撮影におけるAFや手ブレ補正のテストとして、筆者が個人的にアップしているV-LOG「コデラ家のハタケ」をR6で撮影してみた。レポート的な動画において、インカメラや集音の性能などがわかるはずだ。

「コデラ家のハタケ」をR6で撮影してみた

今回は晴天の畑の中で撮影したわけだが、ボディの温度がかなり上昇したため、動画撮影が何度も停止し、温度が下がるまで撮影できなくなった。海岸に出れば風もあるので止まることはなかったが、ボディも黒なので、夏場の4K撮影はちょっと厳しいケースが出てくるかもしれない。また録画開始と停止も、ボタンの反応が鈍い事がある。いわゆる逆スイッチが起こりやすく、今回も数カットを取り逃した。

撮影して驚くのは、発色の良さだ。インカメラもメインカメラもかなり色味が強く、花の撮影は楽しめる。また解像感も高く、素性の良さを感じさせる。

繊細な色合いも綺麗に表現できる
透明感の高い表現も得意
4K/30pで撮影したサンプル

大型センサーということで、夜間撮影も期待が持てるところだ。本機は静止画に関してのみ「ナイトモード」を備えるが、通常撮影でも右端の「AI」がONになっていれば、夜の撮影では自動的にナイトモードになる。

ナイトモードは、その場で30秒ぐらい露出して静止画を撮影するので、できれば三脚に固定したほうが、撮影者が楽だろう。同じアングルで通常撮影とナイトモードを比較してみたが、かなり明るく撮れることがわかる。

通常撮影
ナイトモードで撮影

その一方で、30秒露光してもこの程度かという気持ちもある。以前レビューしたiPhone 12 miniやPixel4a 5Gでは、5秒の露光でかなりいい感じに撮れたことを考えると、30秒露光ならもう少し明るく撮れてもいいんじゃないかという気がする。

一方動画ではナイトモードはないが、黒の締りやSNは悪くない。ただ、夜はAFが決まるのに時間がかかる。またフォーカスブリージングがかなり大きいので、AFが迷うと画角のブレがかなり大きい。

夜間動画撮影サンプル

総論

本編では触れなかったが、ディスプレイは非常に高品質だ。サブスクサービスでHDR動画コンテンツを見ると、画面サイズに余裕があることもあり、かなり楽しむことができた。

スマートフォンではディスプレイが一番バッテリーを食うわけだが、本機搭載のPro IGZO OLEDは必要がなければリフレッシュレートを1Hzまで下げられるので、高コントラストの割には高い省エネ性能を誇る。むしろカメラのほうがバッテリーを食う。

画面内の指紋認証機能は、専用センサーと違い、指の角度や位置にシビアで、筆者が使った限りでは、一発で認証が成功する事が少ない。顔認証と違ってマスクを外さずパッと使えるのが指紋認証のいいところだが、急いでカメラを起動したい時などにちょっとイラつく。

肝心のカメラは、非常に発色がよく、カラーグレーディングしなくても十分な色味で撮影できる。自然なボケ味も楽しめるので、花や料理などマクロ撮影する機会が多い人には楽しめるだろう。

一方フォーカスブリージングが大きいので、AFが難しい被写体だと映像がビヨンビヨンしてしまうという難点がある。写真ならAFが止まったところで撮ればいいだけだが、動画ではビヨンビヨンまで含めて撮影されてしまう。デジタルカメラでは動画と写真でAF動作を変えてあるのだが、本機は同じ動作になっているようだ。そのあたりはまだ経験不足ということだろう。

また特殊撮影としてはタイムラプスには対応するが、ハイスピード撮影には対応しない。1インチセンサーの高フレームレート駆動が難しいからだろう。

シャープとしてはまだ1インチセンサー初号機なだけに、若干暴れ馬的な部分も感じるが、出てくる絵は非常に好感が持てる。スマートフォンは昨今ミドルレンジのレベルが上がってきているが、“ハイエンドモデルであればこれぐらいは”という手本を見せたモデルと言えるだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。