“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第557回:目玉ギョロギョロのカムコーダ、ソニー「HDR-PJ760V」

~もんのすごい手ブレ補正+プロジェクタも楽しい!~


■手ぶれ補正の極み

 広角側でも手ぶれ補正をガッツリ効かせるというアイデアで「ああそうか、そう言えばそうだね!」と全カメラメーカーが膝を打ったのが、'09年にソニーが「HDR-XR520V」で導入した「アクティブ手ぶれ補正」である。以降各メーカーもこれに追従し、様々な取り組みを行なっているが、基本的には従来のシフトレンズ式光学補正のアルゴリズムをチューニングしていくという方法であった。

 一方、この分野で常に先行してきたソニーが1月のCESで発表したのが、センサー部分までを含めたレンズユニット全体を動かして補正を行なう「空間光学手ぶれ補正」である。動作の様子はCESの時の動画を見ていただければいいと思うが、レンズユニット全体がブレを吸収する方向に動くのだ。この技術を延長していけばそのうち横目でジロリと睨むハンディカムもできそうだが、久々に現われた新技術である。


「空間手ブレ補正」で動作するユニット部分。水色の光で囲われた部分全体が動くようになっている従来の光学式手ぶれ補正は、手ぶれ補正用のレンズのみが動く仕組みになっている
【空間光学手ぶれ補正】

 その新技術を取り入れ、ハンディカムラインナップとしては2Dの最上位モデルとなるのが、今回取り上げる「HDR-PJ760V」(以下PJ760V)だ。PJという型番からお気づきのように、これまでは特定ラインナップのみだったプロジェクション機能が、最上位モデルにも搭載されている。

 実はプロジェクション機能付きのモデルはこれまでレビューしていないので、この機能もはじめてのテストとなる。いろいろ詰め込んだハイエンドモデルPJ760Vの実力を、早速テストしてみよう。



■ボディはやや大型

 まずボディを見ていこう。本機は内蔵メモリに撮るタイプだが、小型軽量化を追求したCXシリーズと違い、ボディはやや大ぶりである。本体重量は580gで、最近のカメラとしてはやや重い部類に入る。物理的にレンズを動かす空間光学手ぶれ補正機構、プロジェクタ、ビューファインダーまで内蔵と、フル装備なので致し方ないところか。

ハイエンドモデルらしく大ぶりなボディ新設計の光学部

 レンズは35mm換算で26~260mmの光学10倍ズームレンズ。広角側はハンディカムとしては一番広いレンズとなる。ただ手ぶれ補正のアクティブモードを使うと画角はやや狭くなる。その代わりにエクステンデッドズームが使えるようになるので、ズーム倍率は17倍となる。逆に言えば、手ぶれ補正OFFではエクステンデッドズームが使えないので、光学10倍止まりとなる。

撮影モードと画角サンプル
(35mm判換算)
手ブレ補正モードワイド端テレ端
OFF
26mm

260mm
スタンダード
26mm


260mm

アクティブ

 レンズの周囲は、やや緑がかった球面でカバーされており、異物が挟まるようなことはなさそうだ。ただ砂やホコリまで完全にカバーできるわけではなさそうなので、ビーチやスキー場での撮影ではプロテクターを付けた方がいいだろう。

 レンズ径そのものは従来とそれほど変わっていないが、動き幅を確保するためにフィルタ径が52mmとやや大きくなっている。このため、従来の37mm径用として売られているワイド・テレコンバージョンレンズがそのままでは付かなくなったが、本体には52mm-37mmのステップダウンリングが同梱されている。ただワイコンだけは、アクティブモードではケラレが出るとの理由から、ワイコン装着時にメニューの「コンバージョンレンズ」を「ワイコン」に設定すると手ブレ補正モードが外れるようになっている。

コンバージョンレンズ用のステップダウンリング付属レンズフードも付属しているが、格好としてはいまいち……
レンズ脇にはマニュアル調整用のダイヤルが

 レンズフードも付属しているが、径が大きいためにかなり大仰なものになっている。上部にビデオライトがあるので、それを避けるためにさらに上の方向に広くなっているためだろう。

 固定方法は正面からリングを回すというちょっと変わった方法。フード装着によって長くなることを嫌った作りだが、なにせレンズが26mmとものすごくワイドなので、フードもかなり広い。正面から見るとそうでもないのだが、横から見ると吸盤でどっかに吸い付きそうな感じで、正直非常にかっこ悪いと思うのは筆者だけだろうか。


マイクは上部にあり、サラウンド収録可能

 絞りは6枚羽根の虹彩絞りで、そこに妥協はない。撮像素子は1/2.88型 "Exmor R" CMOSセンサーで、総画素数655万画素、動画の有効画素数は614万画素となっている。

 マイクは上部に付けられており、5.1chサラウンド仕様となっている。もちろん2ch収録も可能だ。ただレンズフードを付けると、その影に隠れてしまうため、カメラマイクでの集音に影響が出るのではないかと心配になる。

 液晶モニタはタッチ式で、3.0型92.1万ドットのエクストラファイン液晶。液晶画面から見て裏、ボディの表側に、DLP Pico方式のプロジェクタが内蔵されている。明るさは最大20ルーメンで、専用プロジェクタには及ばないが、暗くした部屋なら十分な明るさだ。解像度は640×360とそれほど高くはないが、5m離れて100インチが投写できる。液晶部の上には、プロジェクタ用のフォーカススライダーがある。


3.0型のエクストラファイン液晶モニタ液晶モニタ部にプロジェクタを内蔵

 液晶内部はかなりボタン類が充実している。再生、プロジェクタ切り換えボタンがやや大型になっているほか、ナイトショット、ビデオライト、電源ボタンがある。HDMIとUSB、メモリーカードスロットもここだ。

 背面にはビューファインダがある。引っ張り出すとONになるが、さらに上に曲げることができるので、ローアングル撮影にも対応できる。

液晶内部のボタン類ビューファインダは上に曲げられる

 動画・静止画のモード切り換えと録画ボタン、ACアダプタのコネクタも背面だ。グリップ側にはマイク、イヤホン、アナログAVといったアナログ系の端子がある。ただこの位置だと、ハンディ撮影時に外部マイクやイヤホンの使用がちょっと難しくなる。

 グリップベルトの根元からUSBコネクタが生えており、ここからでも充電や画像の転送ができる。なお、借りた機材はたまたまグリップベルトが半回転ねじれた状態になっていたが、実際の製品はねじれていないそうだ。

 上部のアクセサリーシューのフタは、開口部を広く持たせつつプランプランしないように、二段のヒンジ構造となっている。

大きめの録画ボタン。右のグリップ部分にUSBコネクタが見えるアナログ系の端子はグリップ側に


■さすがの補正力

【動画サンプル】
stab.mp4(61.8MB)

アクティブモードとスタンダードモードの手ぶれ補正の違い
※AVCHDで撮影し、編集ソフトで編集したmp4ファイルです
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 では実際に撮影してみよう。注目の手ぶれ補正だが、ワイドでもテレでも約13倍ブレない、というのがウリだ。これは何に対して13倍かという基準があるのかというと、昨年の春モデル「HDR-CX700V」のスタンダードモードに対して13倍、ということだそうである。各メーカーも同じように何倍ブレないと謳っているが、基準が各社それぞれ違うので、単純な数字比較はできない。

 新機構によるワイド側での効きには目を見張るものがある。アクティブモードを使い、併走で撮影すると、レールを敷いての撮影に近いなめらかさを実現している。ただ、比較したスタンダードモードも、広角寄りならばかなりの補正力はあるようだ。


 従来のシフトレンズ方式では、補正のために大きくレンズが動くと、光学的には光軸をまっすぐではなく曲げている関係で、周辺解像度が落ちたり、明るさが微妙に変化したりするという問題があった。一方、空間光学手ぶれ補正では、撮像素子まで含めた光学部全体を動かしているため、光軸が途中で曲がらない。従って周辺まで高い解像度を維持でき、さらに明るさの変化も少ない。

 現時点では、物理的な動きは縦横方向しか動かないが、ローテーション方向の補正は画像処理プロセッサ「BIONZ」で行なっているという。

空間手ブレ補正を説明した断面図。上が従来の手ブレ補正、下が空間手ブレ補正。カメラ自体が前後に動いても、レンズとセンサーを一体化したユニットは動いていない

 ワイド端で手持ちフィックスでの撮影では、揺れはまったくゼロにはならないものの、かなりの補正力だ。感じとしては、大きな船の上で三脚で撮影しているような雰囲気になる。

【動画サンプル】
sample.mp4(175MB)

28Mbps/60pで撮影した動画サンプル。大半は手持ち撮影だ
※AVCHDで撮影し、編集ソフトで編集したmp4ファイルです
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 テレ端でのフィックス撮影では、人物を追いかけたりするぶんには、向こうも動いてるしあまり気にならないが、静物を撮るとやはり補正の限界が見えるところもある。まあ花鳥風月的な静物を撮るときには三脚で、という点はあまり変わらないと思われる。

 また、この空間光学手ぶれ補正(アクティブモード)とエクステンデッドズームはセットになっており、17倍ズームを使いたい場合はアクティブモードにしないといけない、という縛りがある。レンズがワイドになったぶん、光学10倍では寄りきれないケースが多く、エクステンデッドズームの必要性は高い。

 エクステンデッドズームの画質は、拡大して荒れるという感じはないが、フォーカスが若干甘い感じがする。ズーム倍率が違うので単純に光学のみとの比較はできないが、光学領域ではまずまずシャープな絵なだけに、違いがわかるわけだ。かといって光学領域を甘くするわけにもいかず、悩ましいところである。


光学10倍ズーム
エクステンデッドズームでの17倍

 手持ちでは威力を発揮するアクティブモードだが、三脚使用時にエクステンデッドズームが使いたい場合、いろいろ副作用が起こる。単純に固定して撮影するだけなら、ユニットの動きが安定するまで待って構図を決めればいいが、パンやチルトで動かした時に、絵の動きが予測できない。

 特にパン尻では、いったん行き過ぎて戻るというアクションになるので、変な絵になってしまう。というのも動きが止まったことを検出すると、レンズがセンター位置に戻るからだ。一方、最初から手持ちでの撮影では、「だいたいこれぐらいずれるだろうな」という範囲を予測してパン尻を止めれば、まず大きな揺れ戻しはないようだ。元々そういう動きは想定範囲ということだろう。

【動画サンプル】
tilt.mp4(92.8MB)

アクティブモードと三脚の併用
※AVCHDで撮影し、編集ソフトで編集したmp4ファイルです
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 三脚との両立は、アルゴリズムとして解決できるところもあるのではないか。例えばこの方式ならばシフトしたままでも画質劣化がないのだから、撮影中に動きが止まれば、レンズもシフトしたままの状態で止まっているといった工夫で解決できるのではないだろうか。レンズをセンターに戻すのは、撮影が終わってからにして欲しい。

 撮影時に困ったのは、モニターが若干アンバーに表示されるクセがあり、撮影する時のホワイトバランスがよくわからない。ビューファインダではノーマルに見えたのでそのまま撮影したが、撮影された映像は問題ないようだ。これが個体差の問題なのかはよくわからない。

 レンズフードは屋外での撮影では必須だが、これがあることで前方にあるマニュアルダイヤルの中央ボタンが押しづらい。筆者の指は窮屈ながら押せる程度には入るが、指が太い人、あるいは手袋した状態では押せないのではないか。

 ソフトウェア的なメリットとしては、画面をタッチすると、機能を3つまでショートカットとして表示しておける機能があることだ。フォーカスや露出、手ブレモードの切換などが割り当てられ、さらにマニュアルダイヤルにも1つ機能が仕込めるので、見た目でいろいろ補正しながらの撮影には便利だ。

 暗部撮影では、このクラスとしては初めて「AGCリミット」が付いた。24dBから0dBまで、増感をコントロールできる。元々はキヤノンが裏面照射CMOSに対抗するために付けていた機能だが、裏面照射を積んだソニーが逆輸入するという、面白いことになっている。


機能を3つ、画面左にプリセットしておけるAGCリミットも搭載
【動画サンプル】
room.mp4(116MB)

室内撮影サンプル。AGCの値を変えながら撮影している
※AVCHDで撮影し、編集ソフトで編集したmp4ファイルです
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 これにより増感なしの裏面照射でどれぐらいまで写っているのかというのを、多くの人は初めて知ることになったわけだ。単純な増感ではなくかなり複雑な画像処理を行なっているのだろうが、元絵のS/Nがいいのでかなり増感してもOK、ということのようである。




■ビデオの見方を変えるプロジェクター

 次に再生系を見ていこう。これまで撮影したものを大画面で見るという事に関しては、HDMIケーブルでテレビに繋ぐ、パソコンに取り込んでそっちで見るなどというソリューションがあった。だが現実的には、カメラにケーブルを繋ぐということが面倒だったり、どう繋げばいいかわからないという人も存在する。

 そこに対する一つの解として、カメラにプロジェクタを付けて、それで見るという方法がある。たぶんこれを最初にやったのは2009年のニコンのデジカメ「COOLPIX S1000pj」だろうと思うが、カムコーダでやったのは2011年春のソニー「HDR-PJ40V/20」が最初である。

プロジェクタで見るという新しい楽しみ方を手軽に実現

 といっても、いわゆる本物のプロジェクタにあるような、例えば台形歪み補正とかオートフォーカスといった機能はなく、機能は単純に投影するだけのシンプルなものだ。

 明るさも20ルーメンとそれほど明るくはないが、実際に投写してみると、フォーカス精度がいいこともあって、非常によく見える。自分で撮影したものが、暗い部屋で大きく上映されるという快感は、なにものにも代えがたいものだ。本機は24p撮影や、シネマモードもあるので、それを使って映画風な撮影&上映を楽しむというのも、一つの使い方だ。

 最大100インチが投写できるが、そんなサイズどこに投写するのか、という疑問もあるだろう。じつはこの機能で一番多く実践されているのは、天井に向かって投影するという使い方だそうである。

 天井までの高さ、だいたい60インチ程度の投写ができるのだが、まるで天井に新しくテレビが生えたようなお得感がある。家族と一緒に寝転んで天井を見上げながら、撮影した成果を楽しむというのも、なかなかいいものだ。

 小さい子の場合、自分が映っているだけで満足なので、何でもない日常の様子を撮影してこれを天井に投影し、寝かしつけに使う家庭も多いそうである。コンパクトな投影機として見れば、写真などもスライドショーにして、これで投写したいというニーズも産まれるだろう。

 パソコンへの取り込みツールとしては、もはやPMBではなく、この春からサービスインするクラウドサービス「Play Memories Online」に対応する「Play Memories Home」へと変更されている。

新しいPC向けプラットフォーム、「Play Memories Home」

 同梱のディスクはなく、カメラ本体に基本機能だけに絞り込んだLite版が格納されており、PCへ接続時にカメラからインストールすることになる。インストール後はネットから必要な機能を追加インストールして、フル版になるという流れだ。

 まだクラウドサービスが始まっていないので、現時点でやれることはPMBとさして変わらない。ただカメラからPCに画像を取り込む前に、カメラ内の映像に直接アクセスしてサムネイル表示や再生ができるという点が違っている。




■総論

 今回の目玉機能としては、やはり空間光学手ぶれ補正の威力がどうなのか、というところである。実際に使ってみると、手持ちでほぼフィックスが撮れるというのは驚きの機能だ。特にワイド側では、気をつけてホールドすればほぼ三脚いらずと言っていいだろう。

 テレ端で動きを追いかけたりというシーンでも効果があるが、場合によっては補正が行き過ぎてしまうこともある。ただ、本来ならば手ブレでまともに撮れないものが、比較的安定して撮影できるという意味では、こちらも驚異的だ。

 光学ユニット全体を動かしたからといって、手に慣性が伝わるようなこともないし、バッテリ消費も従来とほとんど遜色ないレベルである。ただ、今後レンズを改良したりすればまたユニット全体のモーメントを計算して補正機能を作り込むことになるため、このタイプの補正が今後どれぐらいまでラインナップが拡充できるのかは、割と体力勝負になってくるのではないか。さらなる小型・軽量化にも期待がかかるところだが、「そこまで本当にいるのか」という気持ちも、正直なきにしもあらずである。

 今回プロジェクタの機能をはじめて使ってみたが、液晶パネルの裏側という狭いスペースによくこれだけの光学系を入れたなと感心する。輝度は今後の白色LEDのスペック次第のところはあるが、明るさもそこそこあり、非常に楽しめる機能となっている。

プロジェクタの投写口

 細かい点だが、プロジェクタの投写口が非常に指で触りやすい位置にあり、指紋汚れがすぐ付いてしまうのが若干イヤな感じなので、ここは汚れが拭き取りやすくする工夫が必要だろう。

 Wi-Fi機能といった新機軸が搭載されていないのは残念だが、撮るから見るまでオールインワン的に完結したモデルである。ただハイエンドモデル故にマニュアル撮影機能もてんこ盛りなので、子どもを撮ればいいという層には使わない機能もかなり出るだろう。

 ここから機能を削り込んで、「シンプルだけどやってることはすげえ」ってカメラが出てくると、ファミリー向けにはもうそれで決定だろう。

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(2012年 3月 14日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]