トピック
AirPlay 2は今までと何が違う? ワイヤレス音楽&映像の新しい体験
2018年10月9日 07:00
2017年より提供開始された、アップルのワイヤレス再生機能の最新版「AirPlay 2」。iPhone/iPadなどのiOSデバイスだけでなく、ミニコンポやワイヤレススピーカー、AVアンプなどにも対応モデルが増えつつある。
アップルのWebサイトでは「AirPlay 2なら、音楽やPodcastを家中にある複数のスピーカーで再生できます。しかも、すべてが完璧に同期します」と説明されているが、実際にどんな場合で役に立ち、最初のAirPlayとは何が違うのか。改めて現状をまとめた。
AirPlayが誕生するまで
AirPlayを簡単にいうと「iOS/macOSデバイス上の音声や映像をネットワーク経由で他の機器へ配信するストリーミング技術」だ。その後継規格であるAirPlay 2の解説へ進む前に、AirPlayが成立するまでの流れを振り返りたい。
まず、AirPlayには「AirTunes」という前身が存在する。2004年発売の「AirMac Express」(日本以外での名称は「AirPort Express」)で初めて採用された音声ストリーミング規格であり、その後動画ストリーミング対応が追加されたとき「AirPlay」に改名された。
AirMac Express(初代)は、AC電源プラグと一体化した小型Wi-Fiルーター。EthernetとWi-Fi(IEEE 802.11a/b/g)に対応するほか、iTunesから送信されたサウンドデータを受信し3.5mmジャックへ出力する機能を備えていた。このジャックはアナログ/デジタル兼用で、ステレオミニケーブルを接続すれば内蔵のDACチップでアナログ出力を、光デジタルケーブルを接続すればデジタル出力ができた。
そのサウンドデータの伝送用に設けられた規格がAirTunesだ。パソコン(Mac/Windows版iTunesの利用が念頭に置かれていた)で再生したWAVなどの曲は、可逆圧縮のオーディオコーデック「Apple Lossless」に変換されたうえでAirMac Expressへ伝送され、3.5mmジャックからアナログ/デジタル出力されるという流れだ。対応するサンプリングレート/ビット深度の上限は44.1kHz/16bit、CDの音をワイヤレスかつロスレス伝送できる技術としてオーディオファンにも注目された。
もうひとつのポイントがゼロ・コンフィグレーション技術「Rendezvous」をサポートしたこと。ネットワークへ接続すれば自動的にIPアドレスが割り当てられ、他のデバイスとの通信が可能になるため、導入が格段に楽になる。iTunesの音声出力先として簡単にAirMac Expressを選択できる仕組みは、Rendezvousあってのことだ。
しかし、AirTunesが他社にライセンスされることはなかった。2004年といえば、iPodが人気を博していた時期で、AppleはiTunes Music Store(当時)の世界展開など音楽ビジネスに注力していた。iPodを軸とした音楽再生環境の構築にも熱心で、上部にDockを備えたアクティブスピーカー「iPod Hi-fi」もその姿勢を感じさせる製品のひとつだ。当時はiTunes Music Storeで販売される楽曲にはDRM(FairPlay)が付されており、AirTunesがApple製品間専用のサウンドプロトコルとして考案されたとしても無理からぬ時代だったといえる。
「音声」から「音声+映像」へ
そんなAppleに革命的なデバイスが2007年に登場した「iPhone」だ。iPodと同等の音楽プレーヤーとしての機能を持ち(当初音楽再生アプリの名称は「iPod」)、セルラー回線に加えWi-Fiにも対応。音楽のダウンロード販売が一般化しつつあった時期だが、やがて登場するストリーミングサービスも予感させた。
同じ頃にAppleが投入したデバイスが「Apple TV」。40GBのHDDを内蔵、iTunesライブラリから転送した動画や音楽をパソコンなしで再生できることが売りとされた。しかしセールスは期待したレベルに到達しなかったようで、2010年に発売の第2世代機では装いを一新させる。
そのコア技術が「AirPlay」だ。ロスレスコーデックのALAC(Apple Lossless)で伝送できる音声ストリームの仕様を温存しつつ、暗号化対応の映像+音声ストリーム(ALAC以外のフォーマットにも対応)を加えて配信できるよう拡張された、いわば“映像もサポートされたAirTunes”である。第2世代Apple TVと同時スタートした映像作品の販売/レンタルサービスを支える技術として、Appleの戦略とも密接に関係している。
AirPlayは、Remote Audio Output Protocol(RAOP)ベースのサービスであるAirTunesに、新たなサービスを加える形で実装されている。レシーバ側はHTTPサーバとして動作し、最初にAirTunes系の接続が確立したあとにリバースHTTPとして静止画/動画コンテンツ系の接続が始まる形だ。これにより非同期にイベント情報を取得できるようになるため、一時停止やスキップなど即応性が要求される処理が可能になる。
そして動画コンテンツはDRM処理が可能で、MP4コンテナに格納されるマスターキーがなければデコードできないよう著作権保護できる。この「FairPlay」と呼ばれるAppleの著作権管理技術は、iBook Storeなど他のAppleのオンラインサービスをも支えている。
AirPlayがサポートするメディアフォーマット
音声:PCM、Apple Lossless(ALAC)、AAC、AAC ELD
映像:MPEG-4(m4a/m4v/mp4)、QuickTime(mov)
AirPlay 2のキモは「バッファ機能の強化」
では、2018年6月リリースのiOS 11.4からサポートが開始された「AirPlay 2」はどう変わるのだろうか。ざっくりいうと「AirPlayのオーディオ部分に関する機能拡張版」ということになるが、実際の利用を考慮して“オーディオ再生系の足腰を強化”していることがポイントだ。
最大の変更点は、マルチルーム再生機能の追加だ。iPhone/iPadやMac(AirPlayセンダー)からアクティブスピーカーなど複数のAirPlay 2対応デバイス(AirPlayレシーバー)へ音楽を同時送信することが可能になった。ソニーの「SongPal Link」、Qualcommの「AllPlay」、ヤマハの「MusicCast」、D&Mの「HEOS」などで既に実現されている“1つの音源を異なる部屋で同時再生”という機能がAirPlayに追加された、と考えればわかりやすいだろう。
もうひとつは「バッファ機能の強化」。AppleがWWDC 2017で発表した際の言葉を借りれば、『従来のデジタルオーディオ再生技術におけるバッファリングが「秒」だとするとAirPlay 2は「分」』ということになるが、そのくらい長い時間のオーディオデータをバッファできる。
バッファ機能の強化により、いくつかのメリットが生じたことも紹介しておきたい。クライアント(オーディオ再生アプリ)からオーディオレンダラーに音声信号が送信されるとき、クライアントから同期を司るプロセス(シンクロナイザ)にも情報が伝達される。そしてシンクロナイザとオーディオレンダラーが示し合わせて再生を行なうことにより、快適な操作レスポンスや厳密な「画と音の同期」が得られるというわけだ。
再生経路の共有も可能になった。従来のiOS/tvOSでは、音楽再生中に割り込み処理(ex. 電話の着信)が発生すると、音楽再生アプリを一時停止し優先すべきタスクに再生経路を譲る処理を行なっていたが、AirPlay 2ではiOS 11/tvOS 11以降は再生経路を共有できる。アプリをどのように開発するかにもよるが、AirPlay対応デバイスでは電話の呼び出し音を鳴らしつつ音楽再生を続けることが可能なのだ。
AiPlay 2のストリーミング元デバイス
・iOS 11.4 以降を搭載したiPhone、iPad、iPod touch
・Apple TV 4K または第4世代Apple TV(tvOS 11.4 以降)
・HomePod (iOS 11.4以降を搭載)
・iTunesを搭載したMacまたはWindowsパソコン
AirPlay 2のストリーミング先デバイス
・Apple TV 4Kまたは第4世代Apple TV(tvOS 11.4 以降)
・HomePod(iOS 11.4以降を搭載)
・第2世代AirMac Express 802.11n(最新ファームウェアにアップデート済み)のオーディオ出力ポートに接続されたスピーカー
・製品パッケージに「Works with Apple AirPlay」と記載されているスピーカー
身近なAirPlay 2のメリットとは
AirPlay 2の実際のメリットだが、海外と日本では内容が異なると考えたほうがいい。ここでいう海外とは主に欧米であり、マルチルーム再生のメリットが生きてくる広い住宅環境がある大市場だ。実際、オーディオメーカーの製品企画担当者に話を訊くと、マルチルーム再生のニーズは欧米では高いものの、住宅事情等の問題があり日本ではいまひとつという。これは日本に住む多くの人が肌感覚で理解できるところだろう。
規格の普及に関していうと、新製品に順次採用されることに加え、既存製品のアップデートという形でも提供される。例えば、デノン&マランツの「HEOSテクノロジー」搭載Hi-Fiオーディオ/コンポはその一例だ。Apple製品は言うに及ばず対応が進行中で、「AppleTV 4K」は7月リリースのtvOS 11.4の時点からAirPlay 2を実際に体験できるようになっている。今回の記事執筆でも、tvOS 11.4が動作するAppleTV 4KとMacBook Air(macOS High Sierra v10.13.6)との組み合わせにより、各種のテストを実施した。
まず、AirPlay 2対応デバイスの“見えかた”から。AirPlayはゼロコンフィグレーションネットワーク技術「Bonjour」が必須のため、同じLANに接続してさえいればMac(iTunes)やiOSデバイスに自動認識されるという点に変わりはない。しかし、AirPlay 2対応デバイスは出力先を選択する画面の機器名にチェックボックスが現れ、Bluetoothスピーカーなど非AirPlay 2対応デバイスはすぐに見分けることができる。
チェックしたデバイスはAirPlay 2の管理対象となり、それぞれ独立して音量調節できるようになる。たとえば、Mac(iTunes)でミュージックビデオを再生するとき、Macは映像のみで音声オフ、AppleTV 4Kは音声のみで映像オフ、といった使いかたも可能だ。なお、同じことをiPhoneで実行しようとしたところ、iPhoneにはチェックボックスが現れず、映像(音声)のみを再生させることができなかった。そもそもAirPlay 2対応ではないBluetoothスピーカー/イヤホンも同様に、チェックボックスが現れないので管理対象外だ。
使ってみて驚いたのは、そのレイテンシー特性。ミュージッククリップを前述のスタイル(Macは映像のみで音声オフ/Apple TVは音声のみで映像オフ)で再生したとき、目に見えるギターのストロークとその出音にほとんどズレを感じなかった。口の動きと聞こえる声のタイミングも正確で、違和感がない。映像と音のソースはMac側にあり、出力先はローカル(Mac)とWi-Fiで接続されたAppleTV 4Kという一種のマルチルーム環境ではあるが、遅延らしい遅延はほとんど感じなかった。
マルチルーム環境を試すべく、44.1kHz/16bitのCD音源をAppleTVとローカル(Mac)を出力先としてみたが、どちらの音もほぼ同時に(遅延を感じないレベルで)耳に届いた。AirPlay 2対応デバイスが増えれば、同じことが3台、4台、5台……というオーディオ機器で行なわれるということだ。Apple TVが接続されたオーディオコンポからの音とMacの内蔵スピーカーからの音は、左右のスピーカーで鳴らすステレオのようにほぼ同時に聞こえ、なにやら不思議な気分に陥った。
“低遅延”が新しいオーディオ体験をもたらす
マルチルーム再生に対応したことが最大の変更点といわれてきた「AirPlay 2」。確かに、異なるデバイスで同じ音源を同時再生できるインパクトは大きいが、実際に体験してみると、「バッファリング機能の強化」によるレイテンシー特性向上のほうがオーディオ体験としてはプラス要素なのではないかと感じた。
WWDC 2017のAirPlay 2セッションで公開された情報によれば、前述のレイテンシー特性向上はバッファー機能の強化によるところが大きいと考えられる。具体的にどの程度のサイズがバッファーされるかは公表されていないが、ロスレスコーデックのALACや映像コンテンツ(H.264+音声)でも変わらず低遅延なことを考慮すると、これまでのAirPlayの数倍、十数倍はありそうだ。
操作性も向上している。AirPlayを利用してプレイリストを再生すると、(ネットワークの状態にもよるが)曲の早送り/シークでもたつく傾向があったが、AirPlay 2ではレスポンスが向上した印象がある。もし手持ちのAirPlay対応デバイスがファームウェアアップデートでAirPlay 2対応になるのならば、是非操作感を比較してほしい。
オーディオ再生の“お株”はBluetoothに奪われてしまった感のあるAirPlayだが、現在はチップベンダーが1社の寡占状態ではなくなり、以前に比べればオーディオメーカーも取り扱いやすくなったとの開発者の話も耳にしている。クオリティを重視するiPhone/iPadユーザーは、いま一度その魅力を見直してはいかがだろうか。