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カーオーディオの始め方。スマホ連携からハイレゾ再生、音質グレードアップ術まで

安全かつ自由に移動できる車のなかは、音楽を楽しむ空間としても重要な役割を担う。音の良いオーディオがあれば、車内で長い時間を過ごすのも苦にならないという人は少なくないと思う。

車内で音楽再生を担う「カーオーディオ」は、いま変貌期の真っ只中にある。大きくとらえると、自動車の基本構成が激変するなかで、ナビやオーディオなど、関連する電子機器すべてが影響を受け、操作インターフェイスもダイナミックに変化しているのだ。

最近は車のコンピューターに様々な機能を統合する動きが目立ち、市販のカーオーディオ機器を導入したり、純正のナビやオーディオシステムをカスタマイズするのが次第に難しくなってきた。

その一方、スマホと連携する形で車のオンライン化が進み、ナビやカーオーディオも機能拡張やアップデートの自由度が上がっている。新しいアプリを追加するだけで車載オーディオの使い勝手が一変することも珍しくない。

だが、変化のスピードが速く、全体像を把握するのが難しくなったことも事実だ。いま使っているカーオーディオの音質や使い勝手に不満があっても、どこをどう変えればいいのか、答えを見つけにくい。

今回は、現在のカーオーディオを取り巻く環境の変化に触れながら、音質や使い勝手の改善につながる情報やノウハウを紹介する。

1. 操作性を見直してみよう!

手軽に始められるアップル「CarPlay」と、グーグル「Android Auto」

手持ちの車載オーディオが対応していれば、追加投資や面倒な設定なしにすぐ導入できる事例として、アップルの「CarPlay」と、グーグルの「Android Auto」を最初に紹介しよう。

アップルの「CarPlay」。対応車種はコチラ

登場してからすでに6年経つが、純正だけでなく市販のナビやオーディオユニットにも対応機種が増えてきた。すでに活用している人も多いと思うが、もしも未体験ならまずは試してみることをお薦めする。音楽再生ではiOSのミュージックやAndoroidのGoogle Playミュージックほか、SpotifyやAmazon Musicが対応アプリを用意しているので、ストリーミング再生の使い勝手も同時にたしかめられる。

起動はどちらも簡単だ。CarPlayは、iPhoneを車のUSB端子につなぐと、自動的に立ち上がる。Android AutoもAndroid 10以降のAndroid端末もUSBケーブルでつなぐだけで簡単に起動できる。Android 9以前の端末は、事前にアプリをインストールしておけばすぐにAndroid Autoが使えるようになる。

グーグルの「Android Auto」。対応車種はコチラ

いずれも画面に大型のアイコンが並び、一覧から目的のアルバムや曲を選ぶ操作もタッチするだけ。SiriやGoogleアシスタントを用いた音声コントロールでも曲送りなどの操作ができ、画面にタッチする必要もない。運転に集中できるようにインターフェイスを工夫しているため、既存のカーオーディオに比べて操作の手順は直感的で、選曲や曲送りの操作に煩わされる心配がない。

CarPlayのアプリ一覧画面。iPhoneにインストール済みのアプリからCarPlay対応アプリだけが一覧表示される
Android Autoのアプリ一覧画面

ドライバーが自分で選曲するときは、CarPlayやAndroid Autoの使い勝手の良さが際立つ。音声コントロールに加え、車種によってはハンドル上の操作ボタンで選曲や音量の操作ができるので、手を画面に伸ばす必要もない。

ナビや車載オーディオのBluetooth機能でもスマホの音源を聴けるが、選曲操作はもう少し面倒だし、音質の観点からもお薦めできない。一般的に有線のUSB接続の方がBluetoothよりも音が良くなることが多いためだ。毎回USBケーブルをつなぐのが面倒と感じるかもしれないが、習慣にしてしまえばよいだけのこと。運転中にスマホの小さな画面を操作しなくて済むので、安全面でも不安がない。

CarPlayのミュージック再生画面。ブルーで表示されたタイトルをタッチするとアルバムの全曲が一覧表示される
ベルリン・フィルのデジタルコンサートホールのアプリもCarPlayに対応。映像ストリーミングサービスだがCarPlayでは音声だけを再生する。ダウンロード再生も可能だ
Amazon Music HDの再生画面。CarPlayよりも表示はシンプル
Amazon Music HDには、ロスレスやハイレゾ音源のプレイリストも用意されている
車載オーディオのオンライン化

CarPlayまたはAndroid Autoに限らず、スマホを介して車載オーディオをオンライン化すると、車のなかで聴ける曲の選択肢は桁違いに増える。

音声コントロールについても、SiriやGoogleアシスタントに劣らぬ強力なツールとして、AmazonのAlexaが存在感を増している。最近発売されたAmazonの「Echo Auto」を、Bluetoothか外部入力を持つ車載オーディオにつなげば、スマホのAlexaアプリを介して音楽再生を音声コマンドで操作できるハンズフリー環境が簡単に実現する。ナビ一体型ユニットにもAlexaを載せる動きがあり、これから普及が進みそうだ。

Echo Autoの使用イメージ
付属マウントで送風口に取り付け使用する

スマホを介したオンライン化は、音源の拡張と操作性向上につながるので大歓迎だが、その際に気を付けたいのは通信容量の問題だ。

毎日何時間も聴き放題状態で使っているとギガ単位でデータ消費量が増えていくので、通信容量に余裕のある回線契約で使うことが肝心。アルバムを1枚通して聴くとAACで100〜200MB、ロスレスだとその数倍のデータ量になる。

BIGLOBEモバイルの「エンタメフリー・オプション」や、OCN モバイル ONEの「MUSICカウントフリー」など、特定のストリーミングサービスを対象にしたプランも候補に上がるのだが、使い放題が適用される音質設定がサービスごとに決まっていて、高音質モードは選べないことがあるので注意したい。

BIGLOBEモバイルの「エンタメフリー・オプション」。定額料金でデータ通信量の制限なく、YouTubeなど対象の動画や音楽が楽しみ放題になる、スマホ向けオプションサービス。通信速度制限中でも、対象サービスは速度制限されない
Amazon MusicやANiUTa、AWA、dヒッツ、Google Play Music、LINE MUSIC、Spotifyなど、対象サービスなら通信容量を消費せずに楽しめるスマホ向け通信サービス「MUSICカウントフリー」

通信容量を気にせず車内でストリーミングサービスを長時間楽しみたい場合は、自動車専用のWi-Fiルーターを利用する方法もある。

パイオニア・カロッツェリアの「DCT-WR100D」はそんな用途を想定した車載専用のWi-Fiルーターで、年間契約だと1カ月あたり1,000円で高速なLTE接続(docomo in Car Connect)を制限なく利用できる。本体を購入する費用が別途25,000円かかり、車外では使えない仕様になっているなどの制約があるが、通勤などで毎日長時間運転する人なら選択肢に入れて良いのではないだろうか。同乗者がネットの映像コンテンツで退屈を紛らわせるといった用途にもうってつけだ。ルーターの電源はエンジン・スタートと連動するので、個別に操作する煩わしさもない。

カロッツェリアブランドの車載専用Wi-Fiルーター「DCT-WR1000」。25,000円で12月発売予定
高速LTEデータ通信を定額で制限なく使用可能。Wi-Fi接続は最大5台まで
ストリーミングサービスを賢く使う

高音質を確保しつつ通信量を抑えるなら、自宅などのWi-Fi環境であらかじめダウンロードした高音質音源の再生と、ストリーミング再生を適宜使い分けるのが現実的だろう。

気になっていたアルバムや話題の新作を車での移動時間を利用して聴くという音楽ファンは少なくないと思うが、そんなリスニングスタイルならオフラインとオンラインの使い分けは難しくないはずだ。

「Amazon Music HD」はダウンロード時に高音質設定が選べるので、ストレージに余裕があるならCDのロスレス以上の音源でライブラリを揃えられる。「Apple Music」は圧縮音源だが、ダウンロード再生なら通信状態に左右されることがないので、こちらもストレスなく楽しむことができる。どちらのサービスもダウンロード音源だけを一覧表示する項目があるので、選曲時に迷う心配もない。

「mora qualitas」のアプリはいまのところCarPlayに対応していないのでiPhone側での選曲操作が必要だが、CarPlayを終了することなく、ダウンロードした音源をそのまま再生することができ、音質も高水準だ。

Amazon Music HDはダウンロードした音源を「オフライン楽曲」で一覧できる

2. 高音質再生に挑戦しよう!

最近は遮音性能の高い車が増え、EVはもちろんのこと、ガソリン車でも車内の騒音レベルは以前より改善されている。エンジンの動作音やロードノイズの軽減が進み、いつのまにか車内が静かになっているのだ。

静かな環境はもちろん音楽鑑賞にプラスにはたらき、音源のフォーマットごとの音質の違い、そしてカーオーディオの音質を改善したときの効果は従来より聴き取りやすくなっている。メインユニットやスピーカーを交換するなどハードウェアのグレードアップを試す前に、まずは音源のクオリティをあらためて見直してみよう。

多様化したメディア、どれを選ぶ?

ホームオーディオと同じようにカーオーディオの音源もメディアの多様化が進んでいる。

比較的最近のシステムなら、メディア選択メニューに5〜8種類の入力が並んでいることも珍しくない。具体的には、CDやDVDなどのディスク、HDDやSSDなどの大容量ストレージ、USB、メモリーカード、Bluetooth、Wi-Fi、アナログのAUX入力などが選べるわけだが、果たしてどれを選ぶのが正解なのだろう。

純正オーディオシステムの入力選択画面の例

音質優先で判断すると、CDとファイル再生はロスレス(非圧縮)という点で優位に立つだろう。ただ、内蔵ドライブでリッピングする場合、CDを非圧縮で取り込める機種は一部に限られるので、ディスクやSDカードに匹敵するクオリティが得られる機種は多くない。一方、パソコンなどでダウンロードした音源については、純正と市販ユニットどちらもハイレゾ対応が急速に進んでいる。

SDカード再生ではハイレゾ音源に対応する例も増えてきた

アナログ入力とUSB入力は周波数帯域やダイナミックレンジに余裕があり、接続するプレーヤーを吟味すれば、メディアのダイレクト再生と同等またはそれ以上の高音質を引き出すポテンシャルがある。ウォークマンやiPodなどデジタルオーディオプレーヤーは原則としてアナログ接続よりもUSB接続の方が音質面で有利となる。

スマホのUSB接続で実現するストリーミング再生は2つのグループに分かれる。

Amazon Music HDやmora qualitasはハイレゾでのストリーミング再生に対応しているので、通信が安定した状態など、条件が整えばCD同等以上の高音質が実現する可能性がある。

一方、SpotifyやApple Musicなど、一般的なストリーミングサービスは圧縮音源が中心なので、USB接続でも情報量の制約が音に現れてしまう。Bluetoothも、LDACなど一部の独自規格を除いて音質劣化が避けられないので、ディスクや音楽ファイルのダイレクト再生に比べると周波数レンジやダイナミックレンジなどのスペックが明らかに見劣りし、音質の違いは思いがけず大きくなる。

キーワードはロスレス&ハイレゾ。圧縮音源とどれくらい違う?

ロスレスやハイレゾと圧縮音源の違いはアコースティック楽器のアタックや声の発音、小さな音の音色などに現れるため、音量の変化が少ないポップスやロックでは気付きにくいこともある。走行中はエンジン音やロードノイズが大きくなるのでなおさらだ。

しかし、アイドリングストップ時やもともと動作音が小さいEVなど車内が静かな環境では、ジャンルを問わず、ほとんどの人が気付くほど音の違いは大きくなる。

具体的にどんな違いがあるのか、一例を簡単に紹介しておこう。

まず、ロスレスとハイレゾに比べると、圧縮音源は音のにじみやこもり感が気になりやすい。アタックを正確に再現するのが難しいので、音色の鳴らし分けも得意とは言えない。周波数が高い音域には音の立ち上がりや音色を再現する重要な情報が含まれているのだが、圧縮の過程でその情報の一部が失われてしまうため、楽器イメージのにじみが生じたり、音色の変化が曖昧になりやすい。

長い時間聴いていると劣化した音に慣れてしまいがちだが、圧縮音源をしばらく聴き続けた後で同じ曲をロスレスやハイレゾで再生すると、音の違いが非常に大きく、鮮度の差に驚くことがある。鮮度という表現は浸透力の強さ、見通しの良さ、明快な発音などを総合したものだが、それ以外に余韻の広がりなども差が出やすい。

以上の要素をまとめると、利便性と音質がほぼトレードオフの関係にあることがわかる。

情報量に余裕のあるハイレゾやロスレスの音源はデータ量が大きく、物理メディアが有利で、プレーヤーからのデータ伝送も無線よりは有線接続の方が劣化を抑えられる。データ量を抑えたストリーミング再生やBluetooth再生は便利さと引き換えに音楽の重要な情報の一部を失っているのだ。

3. システムをグレードアップしてみよう

カーオーディオシステムの基本構成

ハイレゾ・ロスレス音源と圧縮音源の音質の違いをどこまで聴き分けられるかは再生システムの性能や調整によって決まる。

音質面で有利なメディアや接続方法を選んでも、手持ちのシステムではその違いがほとんど聴き取れないという場合は、どこかに課題が潜んでいる可能性が高い。機器やパーツのグレードアップ、またはチューニングによってその課題をクリアすれば、本来の鮮度の高い音に近付くはずだ。

一般的なカーオーディオシステムは、アンプとプレーヤーを統合したメインユニットとスピーカーで構成される。

スピーカーユニットの数と構成は様々なバリエーションがあるが、純正オーディオではフロント左右とリア左右の4チャンネル構成が多く、少し凝ったシステムでは前方または前後のスピーカーが高音用と中低音用を分けた2ウェイや3ウェイのマルチウェイ方式になったり、各スピーカーユニットを独立したアンプで鳴らすなど、高度な信号処理が行なわれる。

マツダ「MAZDA 3 FASTBACK」が標準装備する、オーディオシステムのレイアウトイメージ

サブウーファーを追加したシステムでは、低音域を専用ユニットが受け持つため、中低音ユニットの負荷が減ってクリアな音を引き出しやすくなる。純正ではそこまでこだわったシステムは少数派だが、オーディオメーカーと提携した専用システムをオプションで用意する場合など、高音質を狙った仕様では採用例が増えている。

上記社種をボーズサウンドシステムに切り替えた場合のレイアウトイメージ
最初に何をグレードアップするか?

音質改善の具体的な手法は車載オーディオの構成やグレードによって異なり、残念ながら共通の解は存在しない。設置スペースが限られているため、ホームオーディオのようにコンポーネントを入れ替えるだけでは済まないことにもカーオーディオならではの難しさがある。

ディスプレイを含めて専用設計のオーディオを組み込んだ車は、1DINや2DINなど共通規格のユニットで置き換えにくいこともあるし、内蔵スピーカーをサイズやユニット構成の異なるスピーカーに交換する場合は内装材の加工や交換など大がかりな施工が必要だ。自分だけで解決しようとすると、ホームオーディオとは違うノウハウが必要で、事前の情報収集にも時間がかかるだろう。

まずはスピーカーを見直す。デッドニングも効果大

いろいろな制約があるなか、比較的手軽で確実な効果が期待できるグレードアップとして、純正スピーカーを同サイズのハイグレードなユニットに交換する方法だ。

安価な例では4〜6万円ほどの予算で左右ペアのユニットをハイファイ志向のスピーカーに交換でき、音質改善の効果はかなり大きい。ユニットのサイズや取り付け方法が純正と変わらないトレードイン方式なら作業も比較的スムーズで、取り付け後も外見上は純正と変わらないため、インテリアの雰囲気を変えたくない人には人気がある。

トレードインタイプのスピーカーは、FOCAL(フォーカル)Morel(モレル)JBLETON(イートン)など、ユニットの開発を手がける海外メーカーのブランドが国産車、輸入車用に多くのバリエーションを用意している。DIYでも取り付けは可能だが、ドアの内張りを外す必要があるので、不安があればカー用品店やプロショップに依頼した方が良い。

FOCALのトヨタ用スピーカーキット「IC TOY 165」。165mm径の2ウェイ同軸ユニットで、価格は36,000円。対応車種は86、ハリアー、ノア、カローラスポーツ、アクア、ヴィッツなど
フランス特産の“麻”(フラックス)をコア材に用いたWサンドウィッチコーンを特徴とするFOCALのミドルシリーズ・FLAX EVO「PC 165 FE」。価格は42,000円

スピーカーのユニット交換と同時に、ドア構造材(多くは鉄板)の共振を抑える制振シートを用いてデッドニング処理を行なえば、特に低音の質感が大幅に改善される。車種によって施工にノウハウがあるので、専門ショップに依頼することをお薦めする。

オーディオテクニカのドアチューニング・AquieT(アクワイエ)シリーズのキット「AT-AQ407」。制振材、吸音材、防音材、遮音材など、ドアチューニングに必要な素材をセットにした商品。価格は13,200円(税込)
取り付け例
メインユニットのグレードアップ

スピーカー交換だけでも確実な改善効果が得られるが、次のステップのグレードアップとして候補に挙がるのが、オーディオ・メインユニットの交換だ。

メインユニットの世代が古く、ファイル再生機能など不満がある場合は、最新のオーディオユニットやナビ一体型ユニットに交換することで大半の課題が解決し、アンプの音質と出力も向上する。物理的に交換可能かどうかをウェブの情報や専門ショップで確認したうえで、機種を絞り込むことがポイントになる。

ケンウッドパナソニック(ストラーダ)パイオニア(カロッツェリア)三菱など、オーディオメーカーの最新モデルはFLACやDSDを含む幅広いファイル形式に対応し、MQAファイルやMQA-CDをデコードできる製品も登場している。

なかでもパナソニックのナビ最上位機種は有機ELディスプレイを採用し、Blu-ray再生にも対応した豪華な仕様となっており、車内のオーディオとAVの再生環境が一気に最先端に生まれ変わる。スピーカーと同時に交換すると予算がかさむが、得られるメリットは非常に大きい。

ケンウッドの最上位“彩速ナビ”「MDV-M907HDF」。独自のフローティング機構も特徴。店頭予想価格は13.5万円前後
カロッツェリアの“サイバーナビ”「AVIC-CQ911-DC」。NTTドコモの車内向けインターネット接続サービス・docomo in Car Connectをサポートする。店頭予想価格は21万円前後
高音質パーツをふんだんに搭載したオーディオクオリティ特化の「AVIC-CL902XS III」。価格は27.8万円
業界初の10型有機ELディスプレイを搭載した、パナソニック・ストラーダの最上位モデル「CN-F1X10BLD」。BD/DVDドライブも搭載する。店頭予想価格は21万円前後(税込)
「ディスプレイオーディオ」という新提案

ナビはスマホを利用し、音楽再生に用途を絞ったシンプルなオーディオユニットの需要が拡大している。

高解像度のモニターを統合した製品ならCarPlayやAndroid Autoを快適に使えるし、スマホのアプリを大画面に表示すればナビの操作性も向上する。“ディスプレイオーディオ”とも呼ばれるこのスタイルは、スマホとの連携を意識した合理的なもので、今後は次第にラインナップが増える可能性がある。

大型ディスプレイと最先端のオーディオ機能を組み合わせたこのジャンルの製品は、単独でも活用範囲が十分に広いのだが、システムの拡張やグレードアップの余地が大きいことにも注目しておきたい。

特に入出力インターフェイスが充実した上位機種は、外部パワーアンプの導入、スピーカーのマルチ駆動、サブウーファーの追加などのグレードアップがスムーズに実現できるメリットが大きい。

カロッツェリアの“ディスプレイオーディオ”「FH-8500DVS」。店頭予想価格は4万円前後
ケンウッドのディスプレイオーディオ「DDX-5020S」。店頭予想価格は3.98万円前後
新カテゴリーの注目モデル

機能を拡張しながらグレードアップを実現するというコンセプトは、現在のカーオーディオの新しいトレンドとして注目を集めている。ソース機器からスピーカーまで数多くの製品が登場しているが、そのなかから2つのモデルを紹介しよう。

カロッツェリアの「DEQ-1000A」(2.8万円)は、デジタルプロセッサー(DSP)に分類されるエントリー仕様の製品だ。

カロッツェリアのデジタルプロセッサー「DEQ-1000A」

現在のカーオーディオ環境ではデジタル信号処理を行なうDSPが重要な役割を演じている。左右スピーカーとの距離が異なり、音響特性も車によって大きく異なるなど、車内のリスニング環境はかなり特殊なのだが、その空間のなかで自然なステレオ再生に近付けるためにデジタル領域で信号処理を行なうことがDSPの主な役割だ。

距離の差を補正するタイムアライメント、周波数補正を行なうイコライザー(スマホ使用時は31バンド)、マルチアンプ駆動用のフィルターという3つの機能に焦点を合わせ、スマホ用の専用アプリできめ細かい調整ができる。純正システムにアドオンで組み合わせるのが基本だが、内蔵アンプ(4ch)によるスピーカー駆動にも複数の応用がきく。メインユニットにアクセスする必要があるので取り付けはプロショップに依頼しよう。

純正カーオーディオシステムはそのままに、タイムアライメント、イコライザー、出力レベルなど、プロセッサーの多彩な音響調整能力を追加することができる
無料の専用アプリ「Sound Tune」をダウンロードして1000Aと接続すれば、直感的なインターフェイスで音質調整が行なえる

音源の多様化に焦点を合わせたカーオーディオ用メディアプレーヤー「AT-HRP5」がオーディオテクニカから登場した。

手持ちのオーディオユニットのアンプ機能を活かしつつ、ハイレゾを含む多様なファイルのハイレゾ再生を担う。デジタルの音楽ファイルに加えて映像ファイルの再生にも対応し、ディスプレイとの接続はHDMIで行なう。メインユニット側が対応していれば音声のデジタル接続で高音質を確保できる。モニター接続時に表示される操作メニューは独自開発のわかりやすい内容で、リモコンの操作にも対応する。

オーディオテクニカの車載用メディアプレーヤー「AT-HRP5」。価格は10.45万円(税込)

総括

ホームと同じようにカーオーディオにもハイエンドの世界が広がっている。今回はハイエンドに踏み込む手前のエントリー領域に限っているが、それでも確実な音質改善が見込めるものを厳選して紹介した。これをきっかけに、カーオーディオの世界に興味を持ってもらえたら幸いだ。

そしてその先には、DSPを駆使したマルチスピーカー&マルチアンプシステムの世界が広がり、さらにリスナーを上質なサウンドで包み込むイマーシブオーディオの技術もすでに一部の車で実用化されている。

自動運転を視野に入れた車の世代交代が着実に進むなかで、オーディオを中心にしたカーエンタテインメントは近い将来、さらに大きな変化の波にさらされることだろう。

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。