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Shiftall新ヘッドセットは“VRChat特化”で機能選定

「MeganeX superlight 8K」

Shiftallは10月10日、都内で片目8Kを実現したVRヘッドセット「MeganeX superlight 8K」の発表会を開催し、このなかで同モデルをVRChatなど「VR SNSユーザーに向けた最高のヘッドセットを作る」をテーマに開発したことを明らかにした。

MeganeX superlight 8Kは、片目4K/90Hz/10bit対応の1.35型マイクロ有機ELパネルと、パナソニックが独自に開発したパンケーキレンズを組み合わせることで、両目7,104×3,840ドット/2,727万ピクセルの高解像度を実現しつつ、本体部のみの重さを185gに抑えたVRヘッドセット。

すでに予約受付を開始しており、価格は249,900円。2025年1~2月ごろの発送開始を予定している。

用途別に細分化しているVR市場。「どこに向けて作るのか、企画・設計の段階からしっかりやらないと」

「MeganeX superlight」は「競争力不足と判断」され開発中止に

発表会にはShiftallの岩佐琢磨代表取締役CEOが登壇。新製品の紹介に入る前に、2024年1月のCESで発表した片目2.6K、重さ200gのヘッドセット「MeganeX superlight」は「競争力不足と判断」して開発を中止したことを報告。続けて、昨今のVRヘッドセット市場について、PCと同じく用途ごとに細分化が進んでいると語った。

「HMDもPCのように用途別になってきています。軽量に特化したものがあれば、重量機だけどFOV(視野角)が広いもの、これは軍用などで使われています。あとは動画再生に特化した3DoFのもの、超低スペックだけど入門機などですね」

「なぜこの話をしたのかというと、他社の発表会を見ていても、なかなか用途を限定して『ここに向けて作りました』、『この人たち買ってください』といったことは言いません。当然ですが、そう言ってしまうと、お客さんが狭まってしまいますし、なるべく多くの人に買ってもらうということを、大企業は考えています」

「特に我々のような小さなプレイヤーは、そこはちょっと違うかなと。明確に誰の用途か、どこに向けて作るのかを、製品企画・設計の段階からしっかりやってないといけません。使うチップや形状を決める最初の段階で、どの用途向けとして作るか、これがとにかく大事であるという風に思っています」

またVRアプリ向けのヘッドセットでは、「例えばフィットネス系アプリの場合、どちらかというと画質はそこまで求めない。けれど体を動かすので、かっちり固定できて、使えるのは短時間で構わない。動き回るのでケーブルレスが求められます」と説明。

「他方で、VR SNS系のアプリでは画質が重視されます。また長時間使う方が多いので、快適性が大事。VR SNSで動き回ることはあまりなくて、基本的には座っていることが多いので、有線でも構わない。むしろ有線のほうが良かったりします」

「これだけ対照的なものを、ひとつのヘッドセットでこなすのは結構難しいものだと思っています」

そのなかで、岩佐CEOは国内でも使用率が高まっており、グローバルでは“一強状態”とも言えるほど人気のVR SNSアプリ「VRChat」を挙げ、こういったVR SNSユーザーに向けたヘッドセットを作ることをテーマにしたという。

画質や軽さを追求。MR機能やバッテリーは排除

片目4K、1.35型のマイクロ有機ELパネルを採用

本体は「軽さは正義」として、「最近の3眼スマートフォンより軽い」という185g未満の軽さと、片目4Kの高画質を両立。この重さは「調べきれていないが、おそらく世界最軽量」とのこと。また、レンズやディスプレイを収めたヘッドセットの“重量物格納エリア”は41mmという薄さで、これは「1円玉2枚とちょっと」という厚みだとした。

会場にはパネルの実物も展示されていた

画質面では、BOE製の1.35型マイクロ有機ELパネルを採用。またパナソニックが、このヘッドセットのために新たに設計したパンケーキレンズを組み合わせることで、高画質を実現。画素数はアップルの「Apple Vision Pro」の2,300万画素よりも多い、2,727万画素を実現した。

色域もDCI-P3のカバー率95%を達成。有機ELならではの映像表現も相まって「VRChatの人気ワールドのひとつ『星屑の原』など、明暗差が大きなワールドでは美しさが段違い」という。

一方で、ヘッドセット装着時に外部の映像を取り込む「MR機能」については非搭載。これは日常利用されるほど人気のXR/MRアプリがないこと、MR機能を導入する場合、追加でカメラやセンサーを載せる必要があり、本体重量が重くなる、製品価格も高くなるなどの理由から非搭載を決めたという。

また既存ヘッドセットにおけるMR機能の主な用途は、テーブルに置いてある飲み物を取ったり、手元のキーボードを確認したりなど、周辺確認が主だと指摘。そこでヘッドセットを片手で跳ね上げられるようにすることで、手元を確認するときはヘッドセットを跳ね上げ、肉眼で確認できるようにした。

有線接続についても「無線は便利ですが、競合製品の場合、最高解像度でPCVR伝送すると内蔵バッテリーでは1時間少々しかバッテリーが持ちません。また片目4Kの高画質を劣化させずに無線伝送する技術も、今はありません」とコメント。

さらに「VR SNSはおしゃべりがメインで、3~4時間は使い続けることが当たり前なので、1時間ちょっとでは“足りない”どころではありません。またバッテリーでは重量物で、1gでも(ヘッドセットを)軽くしたいし、重量配分も良くしたい」とバッテリー非搭載で、有線接続でのみ利用できる仕様にした理由を語っている。

そのほか会話用のデュアルマイクは内蔵したものの、「好みが分かれる」としてスピーカーは非搭載。PC接続用とは別に、拡張USB-Cポートを備えているため、USB-Cイヤフォンを接続して音を楽しめる。

このUSB-Cポートには、ハンドトラッキング/フェイストラッキング用のデバイスを取り付けることも可能。

ヘッドセットの角度やレンズとの距離は細かく調整可能

MR機能やバッテリーなどはオミットした一方で、電動IPD(瞳孔間距離)調整や手動のピント調整は「大事な要素」だとして搭載。「軽くてもフル機能。家族で共有したり、友人に自慢したり、ビジネス用途でも活用できる」とした。

またSteamVRトラッキングにも対応し、ベースステーションがあれば追加アクセサリーなどは不要でトラッキング機能を利用できる。

「MeganeX superlight 8K」を装着する岩佐CEO

Shiftallのヘッドセットといえば、メガネ型のモデルが印象的だが、今回のMeganeX superlight 8Kは付属のバンドで頭に装着するタイプ。本体の重みは額だけで支える機構で、目の横や頬に重さを感じることもなく、メイク崩れもしにくいとのこと。

また本体が軽量のため、バンドをきつく締める必要がなく、締めつけによる頭痛も起こらないと説明。バンドは側面や後ろには調節機構などの硬いものが一切なく、ベッドに寝転がったり、ソファーのアームレストにもたれたりしても快適に使えるとした。

そのほかビジネス用途として、ヘッドセットに三脚穴を追加するプレートも製品に付属。「虫眼鏡を覗くような感覚でVR空間を楽しめる」という。

また発表会にはパナソニックの事業開発センターでXR統括を務める小塚雅之氏も登壇。軽量、かつ高画質なVRヘッドセットは、自動車業界やクリエイター向けとしてニーズがあるとコメント。

MeganeX superlight 8Kは競合製品と同等の解像度や色域、リフレッシュレートを持ちつつ、階調数やコントラスト、軽さ、価格などで優れているとした。

ヘッドセット本体を跳ね上げたところ

試作機を体験してきた。競合製品よりも高精細

試作機を試してみた

短時間だが、試作機を装着してみた。MeganeX superlight 8Kは額で本体の重さを受け止める仕組みのため、装着感は「PlayStation VR/VR2」などに近い。ただ重さがかなり軽量なので、「重いものを額で支えている」という感覚は一切ない。バンドもほとんど締め付ける必要なく、本体を保持できた。

NeoRealXによるパノラマ映像を視聴

今回はXRコンテンツの製作などを手掛ける日本テレビとアルファコードによる映像制作会社「NeoRealX」が手掛けたパノラマ映像や、BtoB用途を想定した自動車の内装/外観が確認できるアプリを視聴した。

なお、今回展示されていたヘッドセットは試作機で、「マスターモニターのような階調表現を優先」したという映像モードで各コンテンツを視聴した。コンシューマ向けには「ド派手な色合いにすることやパキパキにシャープネスを効かせたモード」を別途用意するとのこと。

筆者はふだん、Metaの「Quest 3」をPCの外部ディスプレイがわりにしたり、シューティングゲームを遊んだりしているほか、PS VR/VR2なども使った経験があるが、それらと比べると映像の精細さは一目瞭然。

パノラマ映像の「神庭洞窟に向かう道中の林道」では、足元にある小石や枝、落ち葉などが立体感を持って描かれていたほか、「東扇島公園」や「潮浜公園」など海辺のシーンでは、水面に照り返す夕日の様子や、打ち寄せた波が消波ブロックに当たってできた泡の粒が、ひとつひとつ見分けられるのではないかという鮮明さだった。

3Dで作られた自動車の内装/外装をチェックできるコンテンツでは、青空が広がる埠頭にグリーンのスポーツカーが置かれているシチュエーションを体験。HDR対応のパネルの表現力が生かされており、外から強い光が差し込んでくる状態でも車内の内装を細かくチェックできたほか、光の当たり方によってグリーンの濃淡が細かく変わる車体の様子がしっかりと確認できた。

本体の一部をスケルトンにしたものも展示
「MeganeX superlight 8K」の本体
遮光するアイカップはかなり柔らかく、しっかり目の周りを覆ってくれる
酒井隆文