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コジマプロダクションでもmocopi!? キャラ動作のベースや動きのアイデア出しに活用
2025年3月25日 12:00
ソニーのモバイルモーションキャプチャー「mocopi」。人間の腕や足に取り付け、VRChatやバーチャルYouTuberのキャラクターを動かす事などに使われる事が多いコンシューマー向けの製品だが、その活躍の場は、ゲーム制作など、クリエイティブの現場での事例も増えてきている。
キッカケは、直接PCと接続できるレシーバーと、2セット組み合わせて最大12点で利用できるプロフェッショナルモード(Proモード)の登場だ。実際、ゲーム作りの現場でどのように使われているのだろうか?
「DEATH STRANDING」などを手がけるゲーム開発スタジオ「コジマプロダクション」に潜入。日頃の開発でmocopiを活用しているというアニメーターの宇佐美景太氏と、ゲームデザイナーの倉持信人氏に話を聞いた。
専門職でなくても動きのアイデアを手軽に伝えられる
コジマプロダクションのゲーム制作において、mocopiが使われるシーンは主に「アイデア出し」の部分になるという。そこで、まずはゲーム制作の流れについて簡単に説明してもらった。
倉持氏(以下敬称略):ゲーム製作の流れは、ゲームデザイナーが企画としてラフな状態のアイデアをまとめた資料を作成して、その中にある様々なアイデアを比較しながら全体の構成を決めていきます。全体の構成がある程度決まると、次に詳細を固めた「仕様」という状態へ落とし込んでいきます。この段階から、アート系の専門職の人やプログラマーの話も聞きながら、仕様に合わせた技術の選定や、細かい問題が発生した場合は仕様を調整して、完成していきます。
仕様が完成すると、次はその仕様を元に「実装」していきます。アニメーターやプログラマーなどの専門職の人達が、仕様に沿ってゲームを作り込んでいき、完成に進んでいくという流れになります。
これらの流れの中で、mocopiの出番はこの仕様と実装の両方にあるという。
倉持:仕様を作っていく上でも、「ちょっと試しに動きを見てみよう」というタイミングがあります。まさにそういった場面でmocopiが登場してきます。mocopiを使うことで、アニメーターなどの専門職ではない私達のようなゲームデザイナーでも、コストをかけずに仮の動きのテストデータが作成できるというわけですね。
さらにもう1歩踏み込んでイメージを作り込んでいく中で、いくつかデータを作ってイテレーション(短期間で繰り返す開発サイクル)を回して調整していこうというときにも、ゲームデザイナーがmocopiを使って「こんな動きはどうだろう」というモーションデータを簡単にいくつも作成していました。
アニメーターの人達が作り込んでいく作業に、このデータを直接使うことはまだ難しいのですが、それをベースにするという形で使っています。
宇佐美氏(以下敬称略):アニメーターなどのチームでは、出来上がった仕様と、動きの希望などを受け取って、プログラマーなどの人たちと、実際にどのような動きとして実装するのがいいか、という話をして、構成を決めていきます。
この構成を作る作業も一発で正解が出ることはなかなか難しいので、基本的には仮のアニメーションを作っていきます。仮とはいえアニメーションを作る作業というのは、どれだけ高速化しても時間がかかる作業になりますので、そこでmocopiを活用しています。クリーチャーのようなものは難しいですが、人型のキャラクターであれば、モーションデータを撮って、それをゲームエンジン内にそのまま入れることで時間の短縮に繋がります。
もしモーションキャプチャー無しで仮のアニメーションを作ろうと思うと、1種類に対して4〜5時間から半日くらいかかってしまうこともあるのですが、mocopiであれば、気になる動きを10種類くらいキャプチャーして、数時間後にはPC上で編集できるような状態になりますので、とてもスムーズです。ゲームエンジンに取り込むだけでしたら、30分や1時間以内で確認できてしまいます。
動きを撮って、実際のキャラクターに乗せた時に、雰囲気がどうなるか、企画内容に合っているか、という確認がスピーディにできます。
作業の効率化の面では、mocopi以外のモーションキャプチャーでも同じことができるわけだが、その中からmocopiを選定した理由はその「手軽さ」にあったという。
倉持:(mocopi)導入はゲームデザイナーがとっかかりでした。専門職ではないのですが、アニメーションをゲームにどうしても取り入れたいというところがあっても、やはりデータが無いと“手触り感”や雰囲気もわからないという状況でしたので、なるべく“早く手軽に”(動きのデータを)用意できないかと考えたところで、モーションキャプチャーを探していました。
その中で、複数のカメラを設置してキャプチャーするものなども試したのですが、その機材を置くスペースや、キャリブレーションの手間、ランニングコストなどが課題となりました。
そういった中で、mocopiを試した際に、キャリブレーションも手間なく1人でも手軽に使えるものだったので、これをツールとして使ってみようと決めました。
宇佐美:こういったモーションキャプチャーを使わない場合は、ちょっとした動きの確認をするためにも、候補から絞った上で一度専門職側に発注して、仮のアニメーションを作ってもらって……という手間とコストが発生してしまいますが、(mocopiを使えば)選別の部分も企画側のイメージ通りに作ってもらって、エンジニアはそれを実装して、という流れがスムーズにできました。専門職じゃない人も手軽に試せて、アイデアを掘り出すことができるので、こういった点ではとても有用かなと思います。
私自身も気軽さがmocopiの一番優れている点だと思っていて、「この動きどうしようかな?」と思ったときには、鏡をつかって確認してみたりもするのですが、同じ感覚でちょっとキャプチャー撮ってみるかと、自席でmocopiを付けて演技をしてみて、そのままエンジンに入れて「意外と良いな」と確認したりしています。スタジオで撮る場合はまずスタジオに行って、スーツを着て1時間くらいかけてキャプチャーして……となってしまいますからね。
コジマプロダクションでは、従来の6点での使用に加えて、mocopi12点とレシーバーを組み合わせたProモードも先行して使用し、ソニーへのフィードバックを行なっていたという。その中で感じた現状のmocopiの所感や今後の期待についても聞いてみた。
宇佐美:手軽さとトレードオフになってはしまうのですが、簡易的な環境ということもあって、精度面、正確性はまだ少し課題があると思っています。12点と言わずにもっといっぱい付けてもと思う反面、やはりセンサーが増えるにつれて、手軽さの面が薄れていってしまう。6点のときは非常に手軽でしたが、12点になると……。
倉持:ちょっと面倒くさくなりますよね(笑)
宇佐美:そのあたりのバランスが取れると良いですよね。少しのズレを許容できるのであれば、もうパーカーを羽織るくらいの気持ちで装着できるとか。
お金をかければかけるほど、高精度なものは撮れてしまうので、あまり高精度の方向は(mocopiが)戦う場所ではないのかなと使っていて感じますので、より利便性であったり、手軽さの部分や、精度はAI学習の部分で頑張っていただいて(笑)。
倉持:私は専門職ではないので、mocopiのカジュアルさはメリットに感じています。センサーにマグネットが入っていて、バンドに正しい方向でしか付かなくなっている部分など、お手軽に、カジュアルに付けられるという点で、気の利いたオペレーションになっているなと、使っていて感じましたね。
宇佐美:あとはレシーバーがとても気に入りましたね。(スマホアプリでの受信よりも)接続が切れなくなった。長いUSBケーブルを使ってちょっと離れたところの動きも撮れるようになりました。例えばドアを開ける、段差を置いて撮ってみるなど、幅広く素材を撮りやすくなりました。
倉持:精度面は、ゲームデザイナーが仮で作る分には全然問題ないとは思いますが、精度は上がれば上がるほど使いやすくなりますし、グローブなどを使って手先の動きを撮ったりすることもあるのですが、mocopiでもっと手軽にできるようになったら良いなとは思います。
宇佐美:6点版の時は、立ったり座ったりあまり動きの大きくない動作を撮っていましたが、上半身だけ撮るなどは割りと便利に使えていました。移動が伴うと、なかなか面白いポーズが出てしまっていましたが、12点版でそういった部分での精度が上昇して、とくに座るシーンなどは実際に撮って、使えそうだなと実感しました。
歩きなど移動が伴う動きは、他のキャプチャシステムでも結構苦労しているとは思うのですが、足の滑りであったり、腰の重心であったり、アニメーター目線ではもうちょっとこうなって欲しいなと思ってしまう部分はまだまだありますね。
倉持:まだまだこれからどんどん向上していくツールになると思いますし、立ち位置がどんどん高まっていけば、ゲーム製作上の工程の中で使われる回数もどんどん増えていくと思いますし、我々の製作の速度も上がっていくと思いますので、mocopiがより精度高くデータを撮っていけるようになることに期待していますし、我々もそれによって恩恵を得たいと思っています。
宇佐美:使い所とタイミングを上手く使うと最大に有効活用できるツールですが、プロフェッショナルモードを超えるスーパープロフェッショナルモード(笑)ができれば。本来の販売意図とは違ってしまうかもしれませんが、開発に耐えられるような、そういったものもあると面白いんじゃないかと思っています。期待しながら見ていきたいと思います。