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ヴァルテレからオリジナルアイテムまで、話題の輸入商社タクトシュトックに迫る。新製品は謎の“放射特性調整器!?”
2026年6月9日 08:00
「今、タクトシュトックが熱い!」と言っても、ご存知ない方もいるだろう。タクトシュトックは庵 吾朗さんともう一人の方が約6年前に立ち上げたオーディオの輸入商社で、アナログプレーヤーのヴァルテレ、スピーカーのエポス、ネットワーク関連機器のエディスクリエーションなどを取り扱っている。
何が熱いのかというと、日本のマーケットを熟知しているからこその日本仕様(ジャパンモデル)を提案し販売している点です。今回、試聴室にお邪魔しながら、庵さんがオーディオの輸入商社を立ち上げるに至った経緯と輸入商社の仕事、そして今夏発売の謎が謎を呼ぶ謎アイテムをご紹介します。
オーディオ機器との出会い
多摩市の住宅街にあるタクトシュトックのオフィス。インターホンを押すと「ようこそ起こし頂きました!」と庵さんは明るい声で出迎えてくれました。見た目はお若いですが、年齢はアラフィフ。でもオーディオ業界でアラフィフは若造扱いされたりも……。かくいう不肖もアラフィフです。
試聴室に招かれると、これがウッディで落ち着きのある、多くのオーディオファイルが憧れるようなオトナの空間。そしてラックに並ぶコンポーネントもまた、オーディオファイルが憧れる機械ばかり。気を抜いたら「いいなぁ」と心の声が漏れてしまいそう。いや、漏れていました。
オーディオの話の前に、イケメンの庵さんが何故オーディオにハマり、そして輸入商社を立ち上げようと思われたのか、を尋ねてみることにしましょう。
「僕は高校生の頃、吹奏楽をやっていました。その時、自分達の演奏をラジカセで聴いていたんです。ある時、遠征先で民泊をしたのですが、そこにオーディオ機器があったんです。聴かせてもらって驚きました。それが最初の出逢いです」
「その後、大学に進学した時、自分のオーディオコンポーネントを組もうと思い、とある販売店に立ち寄ったら、凄い音がしていて。そのお店の方に色々な事を教えて頂きながら、コンポーネントを購入したんです」。
オーディオ業界で働くようになったのは、暫くして、そのコンポーネントから異音がするようになった事がキッカケ。「修理をお願いしたら、当時の輸入元の方が家にいらしたんですよ。頂いた名刺をみたら、代表取締役社長と書かれていて、自分のような学生のところに社長さんが来るなんて、と感動したんです。それから、その方と仲良くさせて頂くようになりました」
「その後、就職を考える時期になって幾つか候補があったのですが、その輸⼊代理店の社⻑さんからお誘いを頂きまして、思い切って就職することにしたんです。で、(初出勤で)⾔われた場所に行ったら、社長以外誰もいなくて。要するに個人事業主みたいな会社だったんです。そのため、ホームページ作りとかリリース作成とか、営業も含めて全て私がやることになったんです」(笑)
庵さんは笑いながら当時を振り返りますが、よく考えたらかなりハードな話。ですが、ここで商売のイロハだったり、Adobe系ツールの使い方を学んだそうです。学んだといっても、ほぼ独学だったそうですが。
「その後、次のオーディオ輸入商社に転職しまして。そこが一番長かったですね。ここでは若い人にもオーディオの魅力を伝えたいと、学割キャンペーンを始めたり、色々なことをさせてもらいました。そこから、また違うオーディオ輸入商社に転職をしたり紆余曲折あったのですが、自身が惚れ込んだオーディオのみを取り扱う仕事がしたいと考え、2021年に今のタクトシュトックを設立する運びとなりました」
ヴァルテレとの出会い
こうして1国1城の主となった庵さん。最初からアナログプレーヤーのヴァルテレというブランドを取り扱うことを心に決めていたそうです。
「ヴァルテレは、ロクサンを主宰していたトラジ・モグハダムさんが興した会社。ロクサンが大好きだった僕は、絶対に取り扱いたいと何度もコンタクトを取ったんですよ。日本で未だ取り扱いがなかったことも幸いして、代理店契約を締結することができました」。
噂に聞くところによると、トラジさんは気難しい方でコミュニケ―ションが難しかったのでは?「いえいえ、凄くフレンドリーな方で。主にメールとかでやり取りをしていました」とのこと。
そうか、長年輸入商社に勤めると英語ができるようになるのか……と思いきや「英語? 全然喋れません」というから驚き。「基本的に翻訳アプリに翻訳してもらっています。最近はアプリが翻訳しやすい日本語がわかるようになりました」と、新しい技術を活用されているあたりに、時代を感じずにはいられません。
「ですから、僕と会った人は『お前、喋れないのか!?』と驚かれるんですよ」と笑う庵さん。英語が話せないと輸入代理店ができないと思っていたのですが、そうではないのですね。
タクトシュトックは現在、ヴァルテレのほかに、レコードクリーニングマシンのキース・モンクス、スピーカーはジャーマン・フィジックス、エポス、フィンクチーム、アンプはカノア・オーディオ、ネットワーク関連機器のエディスクリエーション、アクセサリーのインクレケーブル……と、多くのアイテムを扱っています。英語ができないのに、どのようにして見つけ、代理店契約に至るのでしょう?
「まず出来る限り、他社さんが手をつけたことがあるブランドは止めようと。ジャーマン・フィジックスは、先方から熱烈なオファーがあってやっていますが、基本的には新ブランドをやることにしています」という。
メーカーとの出会いは海外のショウで発見するか、もしくは紹介が多いという。「フィンクチームは2019年のミュンヘンショウで音に感動して代理店になったのですが、そのフィンクチームから『ここのアンプ、音が良いぞ』とカノアを紹介してもらって……と、増えていきました」と、人の繋がりによっても増えていったのだそう。
ブランドの代理店をやるか否かという判断は、「スペックは見ず、音を聴いた時に感動できるか。そして、その後のコミュニケーションですね。あとメールの反応速度とか。要するに音と人に惚れるかどうかですね」と語る。
「タクトシュトックが取り扱う商品は確かな物であるというイメージが重要だと思っています。だから自分が惚れ込んだものを取り扱うことにしています」。輸入商社として、とても真っ当な考えだとおもいます。
ということで、試聴室でシステムを拝聴すると……。
聴いていて愉しい気持ちになる音!トランジェントが高く、それでいて細かい部分まで見通せる解像度の高さ。でありながら、それを誇示しない。全体のまとまり、佇まいをしっかりと提示します。今も吹奏楽の指揮をされていることが、試聴室の音にも表れているんだなぁと思ったり。
ちなみに2026年6月28日に庵さんがタクトを振る「六角橋吹奏楽団」の第23回定期演奏会がミューザ川崎シンフォニーホールで行なわれます。お時間のある方は是非。ちなみに今回お邪魔した試聴室は一般には開放していないとのことですが、販売店の方と同伴なら……とのこと。
謎が謎を呼ぶTAKTの「Sound Radiation Adjuster(放射特性調整器)」とは?
順調にアイテムを増やされたタクトシュトック。ですが4年目に危機が訪れます。
「8月と9月頃、このままの売り上げでいったら潰れるという状態になったんですよ」。オーディオ機器は1年を通して夏の売り上げは落ちると言われていますが、それがタクトシュトックにも襲ったのです。「ですが、エディスクリエーションのネットワークハブとメディアコンバーターが10月にモデルチェンジしてくれたんですよ。それで10~12月の売り上げで、8~9月のマイナスをなんとかカバーできまして、ギリギリトントンで1年が終わったんです」。その経験もあって、夏をどう乗り切るか、というのが5年目の課題になり、インクレケーブルというアクセサリーを取り扱うことにしたのだそう。
そして6年目の今年、6月1日より、謎が謎を呼ぶアイテムを販売することになりました。
それがスピーカーの上と外側に置かれたTAKT(タクト)の放射特性調整器(Sound Radiation Adjuster)。
スピーカーの上に設置されている無数の穴が空いた黒いサイコロが「Dice Cube J」(ペア11万円)、スピーカーの内側に置かれた棒状の置物が「Cubit J」(ペア27万5,000円)というもの。庵さんの説明によると、スピーカーの回りに発生する音波を整えて、リスナーに正しい音を届けるのだとか。
「庵さん、いくら疲れているからといって……」と疑いの目を迎えると、どうやらジェローム・キムさんという韓国・高麗大学などで教鞭を執るT.M.D(Tuned Mass Damper/制振装置)理論の専門家が創ったものなのだそう。
ジェロームさんは、高麗大学(Korea University)で基礎免震、耐震のエンジニアリングを学び、工学博士号を取得。卒業後は、風に関しての研究も実施。基礎免震、耐震、風力学の能力を活かして、産学連携によって橋やビル、超高速鉄道などの風の影響に特化したデザイン会社を設立。日本の橋梁会社からの依頼で、関西方面の大橋の中核デザインも担当されたそうです。
そんなジェロームさんは、スピーカーのユニットから放出される音が、キャビネットのエッジやバッフル面の影響を受けることに着目。様々な形状のスピーカーの放射パターンを独自に解析し、放出される音がキャビネットの存在による悪影響を受けないよう調整するものとして、放射特性調整器を作ったそうです。
詳しい説明はタクトシュトックのホームページに委ねるとして、Dice Cube JとCubit J、どちらも手に取るとズシリと重たくヒンヤリとした感触。
もともとはアルミ製で、Dice Cubeの本国仕様は左右で同じ穴の配置だったそうですが、それを庵さんは「日本人は左右対称でないと気になってしまう」ことから、日本向けは左右対称の穴配置とし、さらに素材を超々ジュラルミン製に変更した日本独自仕様のDice Cube“J”にしたとのこと。
疑いを抱きながら、まずはDice Cube JやCubit Jを置かない状態で試聴。
これで十分でしょう。何を求めるんですか? と思っていたところに、まずはDice Cube Jをスピーカーの上に設置。
すると中高域がスッキリして、音が前に来るような印象。空間表現がより見通せるようになり、これは一体何が起こったのかと庵さんではなく、自分の耳を疑った次第。
続いてスピーカーの両内側にCubit Jを配置すると、今度は低域がスッキリして明瞭。低域にまとわりついていた音が綺麗に消えて、ノイズフロアーも下がったかのような変化。こちらも空間表現が大幅に向上して、まさに“見える音”になるではありませんか。
ちなみに外側に設置すると、効果はあるものの内側の方が顕著。設計者も最初は内側で、追加するなら外側が良いとのこと。両方置いたら凄いことになりそう。
とにかく笑うしかなく、「デモをすると、皆さん同じ表情をされるんですよ」と笑いながら語る庵さん。
試聴はトールボーイ型でしたが、ブックシェルフ型でもスピーカースタンドの内側に置くと効果があるのだそう。理屈はよくわからないのですが、音色は変わらず見える音場が得られるTAKT。この夏、話題を集めること間違いナシです。
こだわりの末に、オリジナルアイテムも開発
タクトシュトックは輸入代理店だけでなく、自らもTAKTLINK(タクトリンク)ブランドでアイテムを開発しています。そのひとつが「REV-STYLUS 01」というレコード針のクリーナー。価格は1万3,750円と、ちょっと高価ですが効果はバッチリなアイテムです。
ヴァルテレの輸入元でもあるくらい、庵さんはヴァイナルジャンキーなのですが、さらに「ルーペで針先を見るのが好きなんですよ」という変わった御仁。
「針先をクリーニングしても、ルーペで見ると取れてないんですよね」と、普通はそこまで見ないよなぁというところが気になられるようです。「僕は長年あるスタイラスクリーナーを使っていました。音はよかったのですが、それでも、なかなか針先の汚れが取り切れないんですよ。ですから、針先が確実に綺麗になるクリーナーを自分で作ろうと思いました」と、既存のクリーナーに満足しなかった事をきっかけに、自ら開発に乗り出したと言います。
「スタイラスクリーナーって、結構音が変わるんですよ。だったら自分好みで、かつ処理後にルーペで確認しなくても確実に針先が綺麗になるクリーナーにしようと思いました」と、確かにスタイラスクリーナーで音は変わりますが、積極的に自分好みの音になるクリーナーにしようと言った人は、恐らく庵さんが初めてでは……。
「ノンアルコールのクリーニング液を3種類混ぜているのですが、その配合で音が変わるんです。そして83パターン目に、高域も、中低域も、S/Nも、エネルギッシュさも!という理想的なクリーナーが完成したんです!」と熱く語ります。
やり方は簡単。付属するクリーニング・ブロックに2~3摘、クリーニング液を垂らして5回スタイラスチップに優しく当てながら、手前に真っすぐ、ゆっくりとクリーニング・ブロックをスライドさせるだけ。これが本当に変わるから不思議です。
他にもTAKTLINKブランドからは、オーディオボ―ドとカートリッジとヘッドシェルの間に挟むスペーサーなども企画。どれもコダワリたっぷりで、さらに言えば日本人にしかできない細かい作り込みをしているとのこと。「これらは輸出も始めたばかりで、これからは日本の良い技術を世界に届けていきたいですね」と意気込みます。
今後、タクトシュトックはどのようになるのでしょう?「拡大路線は全くないですね」とキッパリ。「僕はオーディオしか知らないですけれど……30年間オーディオで食べさせて頂いたんで、この素敵なオーディオの魅力を自分より年下の人に、あと20年間どうやって知ってもらうかだと思っています」と語ります。
「いま若い人はCDを買ったことがない人が殆どなんですよ。みんなストリーミングで聴いている。ストリーミングなんて音が悪いとか言う人がいらっしゃいますけれど、Qobuzとかをちゃんとした機器でインフラを整備して聴くと十分に良い音が出る。これをどこまで愉しくいい音にできるか。そして、ストリーミングで大好きな音楽を”良い音”で聴くという文化を、僕よりも下の世代に伝えていきたいと思っています。今はまだ高級機中心となっていますが、今年の後半からもう少し買いやすい価格帯の製品もラインナップしていきますよ」と、熱く語ります。
そう、この熱さ、情熱こそタクトシュトックの魅力そのもの。若い代理店だからこそできる、若い人に向けたアピールに期待しています。



























