トピック

ハリウッド大作強化で4K映画推進するスカパー!の本気

PPD導入の理由と高画質への拘り。総火演4K生中継も

 3月1日に放送開始した「スカパー! 4K」。日本初の商用4K放送として、「スカパー! 4K 総合」(Ch.596)は、Jリーグ中継やドキュメンタリー、バラエティなどの総合編成で、「スカパー! 4K 映画」(Ch.595)は、映画専用チャンネルで1作品500~700円のPPV(都度課金)放送を行なっている。

 4Kテレビが盛り上げる中で、足りないピースとなっていた「4Kコンテンツ」が、この春からは毎月続々と追加される“仕組み”がようやくできあがったとも言える。ただし、3月のレポートでも書いたように「映画」のラインナップは、古めの邦画が中心で、4Kを楽しむという意味ではやや物足りなさも感じていた。

 だが、6月からはパラマントやソニー・ピクチャーズといったハリウッド大手の作品が追加され、ようやく“4Kならでは”の高画質を自宅で楽しめる環境が整いつつある。また、ハリウッド作品の追加にあわせて、「スカパー! 4K 映画」で見たい番組を1日単位で購入できるPPD(ペイ・パー・デイ)方式を導入。購入することで、同日の同作品放送中は何度でも視聴できるようになった。

 今回映画強化の理由をスカパーJSATで4K放送を推進するスカパーJSAT 有料多チャンネル事業部門 事業戦略室 事業戦略部 開発チーム サービス開発主幹の今井豊氏と、放送事業本部 チャンネル運営部 チャンネル事業チーム アシスタントマネージャーの軽部岳大氏に、これからの4K放送展開を聞いた。また、東芝REGZAの画質設計を担当する住吉 肇氏と三廼 浩太氏には、4K放送ならではの高画質化へのポイントを伺った。

左からスカパー!JSAT軽部氏、今井氏、東芝住吉氏、三廼氏

ハリウッド大作追加で本格化するスカパー! 4K映画

 スカパー! 4Kは、124/128度CS放送の「スカパー! プレミアムサービス」上において展開。「スカパー! 4K 総合」(Ch.596)と、映画専用の「スカパー! 4K 映画」(Ch.595)の2チャンネルが用意されている。スカパー! プレミアム契約者であれば、スカパー! 4K総合と4K映画の一部放送は無料で視聴できるが、また、4K映画は作品ごとに費用が必要となる。

 対応機器も、ソニーやシャープのチューナに加え、スカパー!のレンタルチューナなどがあるが、重要なのはテレビだろう。スカパー! 4K開始当初から対応していた東芝のREGZA Z10Xシリーズに加え、7月からはソニーのBRAVIA X9400C/X9300Cシリーズ、X8500Cシリーズも発売開始。徐々に視聴環境は整ってきた、

 また、4K総合のコンテンツも、ポール・マッカートニーやMr.Childrenの4Kライブ、長渕剛のMTV Unplugged、Jリーグ、プロ野球、ドキュメンタリーなど、特にスポーツや音楽ライブを中心に魅力的なラインナップを揃えている。

 さらに、8月23日には陸上自衛隊による平成27年度富士総合火力演習「そうかえん」を生中継。8月28~30日には、「FUJI ROCK FESTIVAL '15」も放送する。まさに総合的に4Kの魅力を訴求している。

 一方、やや物足りなさを感じさせていたのが、「4K映画」のほうだ。「時をかける少女 4K Scanning」などの角川映画とネイチャーなどのドキュメンタリーが中心。「4K映画」で期待したいのは、やはり最新の大作映画だと思うが、サービス開始当初はやや物足りないラインナップになっていた。

 しかし、6月からは「スカパー! 4K映画」にも、新たにハリウッドメジャー作品の放送を順次開始された。6月には、「スター・トレック」、「G.I.ジョー バック2リベンジ」、「フォレスト・ガンプ/一期一会」などパラマント作品を3本、7月から「アメイジング・スパイダーマン」、「アメイジング・スパイダーマン2」、「ANNIE/アニー」、「パトリオット」、「ゴーストバスターズ」などが追加された。ようやく“4K映画”らしいラインナップになってきたといえる。

軽部氏(以下敬称略):6月には、「スター・トレック」など3本を配信開始し、7月27日から「アメイジング・スパイダーマン」や「ANNIE/アニー」などの5作品を追加します。合計8本ですが、今後もだいたい月4本ぐらいのペースで追加していく予定です。4K総合は毎月20本ぐらいの作品を追加していますので、7月までに、映画と総合をあわせて大体120本の新作コンテンツを揃えたというのが現状です。

 また、4K映画の不満点としては「録画不可」という点も課題だった。4K総合ではHDD録画も可能だが、4K映画は著作権保護等の関係上録画できない。そのため、3月の放送開始当初は、テレビの前で番組の開始を待って購入するという、あまりカジュアルでない仕様になっていた。

 しかし、6月1日からは、見たい番組を1日単位で購入できるPPD(ペイ・パー・デイ)方式を導入。スカパー! 4K映画は1作品500~700円のPPV(都度課金)だが、PPDの導入により、1日のPPD作品は1作品のみとなり、10時~25時までのスカパー! 4K映画放送時間であれば、何度でも視聴できるようになった。録画不可は従来通りだが、その日のうちであれば何度も見直せる、というのは大幅な前進といえる。

軽部:10時から25時まで、1日合計5回放送されていて、一回購入すれば、どの回でも見れます。「いつでも見られる」という意味では、録画ができればいいのですが、4Kの場合は原盤に近すぎて、録画は禁止されています。なんとか「録画に近い使い方」と考えると、1日中何回も見られるPPDが、放送というシステムでの最適解かな、と考えています。

今井:現時点では、ストック(録画)する仕組みについて、業界のコンセンサス(合意)がありません。どういう技術でメディアを使えばいいなど、映画会社が合意した仕組みが存在しない中、利便性を考えると、今はPPDが良いと判断しています。

 PPDになることで、確かに利便性は高まるといえそうだ。ただし、PPD化による弊害が無いわけでもない。というのも、6月以前のスカパー! 4K映画では、1日数本の映画を編成し、放送されていたが、PPD導入後は1日1本のみ。つまり、放送できる本数がかなり限定されることになる。

PPDのため映画の放送波1日1本に

 軽部氏も「だいたい、月に4作品ぐらい新作を入れて、徐々に移し替えていくというイメージ」と語る。あまり作品数を増やせない中、4K放送する作品はどう選んでいるのだろうか? だが、現状それほどこだわっていない。という。

軽部:多くの場合、スタジオと話をしても、4Kのイニシャル(最初の)ユーザーになります。各スタジオで持っている4K作品のリストがありますが、まだ本数は多くありませんので、人気のありそうなタイトルを選ぶ。夏だから「子供と一緒に見られそうなメン・イン・ブラックを入れよう」ぐらいですね。細かく視聴実績を取って分析、判断する、という段階までは、いっていないですね。それよりは、どういう品質のマスターを持っている? というところから話していっています。

一番いい画質へのこだわり

 軽部氏が語るように、スカパー! 4K映画で、作品を選ぶ際に重視しているのが品質。特に各スタジオには最高のものを出して欲しいと依頼しているという。

今井:4Kマスターについては、とにかく「一番いいマスターを」とお願いしています。とにかく拘っているのは画質です。業界的にも、4K放送や配信で、どこまで必要なのか、というのがまだわかっていない段階ですが、とにかく最高の画質のものが欲しい、と依頼しています。

スカパーJSATで4K放送を推進する今井氏

軽部:現状、4K放送や配信向けに、どいうフォーマットでやりとりするか、というスタンダードがありません。HDであればある程度決まってきますが、4Kでは各社によって、コーデックもファイル形式も違う。例えば、あるスタジオはProResで、他のスタジオはIMFできたり、ある作品は数百Mbpsだけど、次の作品はその半分ぐらいだったりとか。

 スカパーの放送サーバーでは、XAVCを使っています。その変換作業は社内や外部のプロダクションにお願いして行なっていますが、それ以上に手を加えることはありません。ですから、とにかく最高のマスターが欲しいと。

今井:特にP3(DCI-P3:デジタルシネマ イニシアチブが規定する映画用の広色域規格)については要望をしています。

HEVC/35Mbpを効率的に伝送。色域も重要に

 「なにも手を加えない」が画質に関してのポリシーという、スカパー!4K映画。解像度は3,840×2,160ドット、映像コーデックはHEVCで、ビットレートは35Mbps。10bit、BT.2020広色域の伝送にも対応している。「4K」放送というと、解像度に目が行きがちだが、広色域対応も画質面の特徴だ。そこはREGZA Z10Xにおいても、きっちり対応されているという。

住吉:最近の作品でデジタル撮影されていれば、ほとんどはDCI P3です。(スカパー!4Kが)BT.2020に対応しているので、P3の色域のまま完璧に送られてきます。Z10Xの色域も、ほぼP3の相当ですから、そのままの画質で見られます。特に、シアンとかレッド、オレンジの彩度の高い部分などでは顕著な差がでます。

今井:P3とBT.709の違いでは暗部に色が残るという違もあります。BT.709ですと、暗部に色が残らず黒くなってしまうのですが、P3ではきちんと色がついている。だから色域が広いコンテンツであれば、BT.709にクリップせずに、“そのまま”送るのが重要です。

今井:映画は元々24pですが、スカパー! 4Kのファイルフォーマットでは59.94pだけです。ですから送るときに、2/3プルダウンした信号にするのですが、今のエンコーダ/デコーダは非常に効率よく出来ていて、24pを2/3プルダウンして60pにする際に、そのまま2と3を1枚1枚作るのではなくて、時間方向の圧縮をきちんとやります。

 厳密ではないですが、イメージ的には2と3の頭のIフレームがすごく大きくなっていて、それをテレビで受けてデコードした時に、それから1枚作る。だから、60pで連続的に動いているものよりも、ビットレート的にはかなり効率的で、いい画質になるはずです。

 60pを35Mbpsで送るわけですが、実際には60pでも24pで送るのにかなり近いビットレートの割り当てができますから。

 「スター・トレック」の4K放送を見ながら取材を進めたが、東芝 住吉氏が指摘したのは、フィルムグレインの違い。BDでもかなり粒状のフィルムグレインが入っており、ノイズのように見えてしまうが、4K放送では、フィルムグレインが目障りではなくなっているという。実際に映像を見ても、グレインが入っているにも関わらず、映像を妨げず、自然に感じられる。ある程度、ビットレートが高くないと、フィルムグレインにビットレートを取られて圧縮歪みが出やすいが、35Mbpsというレートの高さも画質に寄与しているという。

65Z10Xでスカパー! 4K総合を視聴

 住吉氏に、REGZA Z10Xでのオススメ画質モードを聞いてみたが、「暗室であれば[映画プロ]、コンテンツモードはオートでOK」とのこと。では、4K放送ならではの使いこなし方法はあるのだろうか?

住吉:4K放送だから、というわけでもないのですが、やはりデジタル圧縮されているものについては、モスキートノイズが一番気になります。REGZAでは4Kノイズクリアという技術を入れて、エッジの強いところの周囲のモスキートノイズを見つけ、その部分には超解像をかけない、という処理を入れています。ただ、実際にスカパー! 4Kを見てみると、狭エッジの周辺のモスキートノイズがかなり抑えられています。

 4Kノイズクリアをオートにしておいてもエッジの超解像を抑える処理を入れていますが、スカパー! 4K映画であれば[オフ]にしたほうが、4Kらしいテクスチャがでてくるように感じます。

 また、さきほど今井さんがお話していましたが、映画はもともと24pで、それを60p化して送られてくるのですが、35Mbpsがちゃんと有効に活用されており、2枚、3枚のIPictureにビットレートを多く与えてあげれば、原画にかなり近い状態で表示できる。だから、あまりノイズ処理みたいなものを入れずに、原画に近い表示を行なうことが、よい映像にするコツかな、と考えています。

 こうした4K映画のノウハウは、次のREGZAではどう生かされるのだろうかだろうか? 住吉氏は、「まだアイデア段階だけれど……」と断りながらも、次世代REGZAでの4K放送対応の構想を語ってくれた。

住吉:アイデアとしては、映画は基本的には24pですが、スカパー! 4K映画では60pで送られてきて、テレビ側でまた24p変換します。なのでその変換を、あらかじめ24pに入りやすいようモードを持っていたほうが、より映画本来の状態で見られるんじゃないかな、と考えています。また、スカパー!4K映画は、映画専用のチャンネルですから、画質モードが[標準]や[おまかせ]モードであっても、4K映画視聴時には映画よりのパラメーターを使う、といったを振る舞いにしてもいいかもしれません。もう少し映画を見て、リサーチした上で、パラメータなどを積み上げていけたいですね。

映画プロ
4Kノイズクリア

画質へのこだわりが音にも影響? 実は全作吹替

 画質にこだわる「スカパー! 4K映画」。その考え方は、“音”にも影響を及ぼしている。番組表を見てみると気づくのだが、実は全て「吹き替え」にしており、ドキュメンタリーを含め、現時点ではスカパー! 4K映画で字幕のものはない。

軽部:今は全部吹き替えです。スタジオの意向や、4K映像に字幕制作作業が非常に大変というのもありますが。公開当時の音声がある場合は、それをそのまま使って放送しています。

今井:字幕を入れると、映画の奥行き感や透明感みたいなものが消えてしまう。そこに“面”を感じさせてしまうので。例えば、セレンゲッティの広大な風景を見せたいのに、字幕が入ってしまうと狭く感じてしまう。4Kの画の力、画面を壊さないようにしたい。4Kでドキュメンタリーをやるときに実際に比較テストしたのですが、全然違ってしまうので……。

軽部:総合的に判断し、いまは吹き替えのみにしています。そちらのほうが4Kのメリットが多いだろうと。4K総合でも基本的には吹き替えになります。

 ただ、今後ずっと字幕をやらないというわけではないとも語る。現時点では、4Kの良さを活かすための判断として、吹き替えを優先しているとのことだ。

本気で4K放送を推進。総火演も4K生中継

 6月のハリウッド大作導入以降の反応は上々で、「明らかに数は増えている」という。視聴環境としては「3,000~4,000ぐらい」のことだが、REGZA Z10Xシリーズに加え、7月にソニーから4K BRAVIA 3シリーズが発売され、さらなる4K受信環境の拡大が期待される。軽部氏も「店頭でも、どういうコンテンツが見られるの? という質問は多いと聞きます。映画もそうですが、ポール・マッカートニーの武道館とかMr.Childrenというとすごく興味を持ってもらえるそうですから、機器の普及とともに、我々はコンテンツの充実を進めていきたい」と語る。

今井:REGZAが最初にチューナを入れてくれましたが、テレビならではの使いやすさもありますし、一体型ならでは画質の向上も重要だと思っています。4K放送という箱をきっちり用意したので、楽しんで欲しいですね。もっと4Kが当たり前になるためにも。

 もちろん、メジャーなコンテンツを揃えるのは重要ですが、新しいジャンルのものもどんどん増えてほしいと思っています。いまは、35mmフィルムは映画業界が支えてしていますが、一方で新しいデジタルの機材はほとんど4Kに対応しています。ある程度の規模の撮影になれば、4Kがほとんど唯一の選択肢になっていますから、例えば自然だったり、新しいジャンル、コンテンツがどんどん増えて欲しいですね。

 また、今井氏が語るのは、4Kにかけるスカパー!の「本気」だ。

今井:例えばMr.Childrenの撮影は、カメラを35台入れて、ライブスイッチングしています。そんな規模でやっているのは、海外にもないです。スポーツも毎週生中継1試合やっていますし、「放送」としてスケジュール化しています。ドラマも「アカギ」を4Kで撮影しています。力は入っています。8月に向けて、総火演の生中継など、面白い取り組みも本気で用意していますから。

臼田勤哉