プレイバック2017
4.4mmヘッドフォン端子の可能性と、8Kテレビのインパクト by 海上 忍
2017年12月22日 07:00
製品やサービスで1年を振り返るというこの企画、ターゲットの絞り込みがかなり難しい。評価軸をどこに置くかで顔ぶれがガラリと変わるからだ。クオリティを重視すれば重厚長大な製品が多くなり、1年のトレンドを押さえられない。かといって機能を重視すればITに偏ったチョイスになってしまう……というわけで、今回は「来年以降の上昇期待株」という視点で、オーディオ/ビジュアルの2分野から2017年を振り返ってみたい。
オーディオ分野では、ややニッチな感はあるが「4.4mm/5極バランス端子」(以下、4.4mm端子)を挙げたい。今年もヘッドフォン/イヤフォンリスニングの分野は大賑わい、特にBluetoothカテゴリでは左右完全分離の「トゥルーワイヤレスイヤフォン」が躍進したが、オーディオファイル視点でいえば4.4mm端子により大きな可能性を感じるからだ。
4.4mm端子がJEITAで規格化されたのは2016年のことで、規格策定に深く関わったソニーの製品のみの展開に留まったが、今年はゼンハイザー「HDV 820」やティアック「UD-505」(据置型ヘッドフォンアンプ)、ゼンハイザー「HD 660 S」(開放型ヘッドフォン)、Acoustic Research「AR-M200」(DAP/デジタルオーディオプレーヤー)など複数カテゴリで対応製品が登場。ソニーも「NW-ZX300」という傑作DAPを生み出し、4.4mm端子がいよいよ本格普及期に入ったことを実感した。
バランス接続用には2.5mm端子がDAPを中心に多く採用されているが、サイズの都合上根元の電極(LチャンネルのGND)がオーディオ機器の外装に触れてしまいがちで、音途切れやノイズを引き起こす。2.5mm端子用に絶縁シールが商品化されているのはそのためだ。他の端子規格でも同様の問題は起こりうるが、2.5mm端子ほどシビアではない。
手前味噌で恐縮だが、筆者がグランドデザインと進行管理/部品調達を担当したRaspberry Pi用DACボード「AVIOT DAC01」(現在出荷準備中)は、4.4mm端子用のパターンを用意している。工場出荷時点では2.5mmバランス端子を実装しているが、ハンダ付けを厭わなければPentaconn製4.4mmジャックに換装できる設計なのだ。このジャックは高価(@数千円)なため見送らざるを得なかったが、可能性は残しておきたかったということで……有志の挑戦を心待ちにしている。
ビジュアル分野では「8K」を挙げたい。テレビ製品単体の完成度としては、パネル下部に搭載したアクチュエーターにより画面全体を振動させて音を出すソニー「BRAVIA A1シリーズ」に心惹かれたが、製品ジャンルの可能性という点では「8K/HDR」、現在市販されている製品ではすなわちAQUOS 8Kということになる。
評価ポイントは「8K解像度が生み出すリアリティ」、これに尽きる。素材が8Kネイティブという前提条件を付すが、映像の立体感・奥行き感たるや。有機ELパネルと比較すると、黒の沈み込みなど液晶パネルの限界も感じてしまうが、8Kという情報量がもたらす説得力はまた別モノだ。
開発にかける意気込みも印象的。4月にチューナー非搭載の「LV-70002」を発表、8K/HDR対応なれど約800万円という価格がネックと見ていたところ、半年も経たないうちにチューナー(2K)搭載の「AQUOS 8K LC-70X500」を投入、しかも価格は8分の1の約100万円。春に取材したときにも、"テレビ"として出す折には価格は努力する旨のコメントは得ていたが、まさかこれほどの水準とは。8Kに賭ける新生シャープのマインドも評価したい。
とはいえ、いまのところ他社は鳴りを潜めている。2016年にパナソニックとソニーが8Kテレビ向け技術を共同開発する発表があったものの、2017年はついぞ具体的な話が聞こえてこなかった(共同開発とは関係なさそうな業務用8Kカムコーダの発表はあったが)。来年12月には「新4K8K衛星放送」が開始されることもあり、1月のCESには何かありそうな気もするのだが……動向を見守りたい。