プレイバック2021

ソニー「ZV-E10」をしゃぶり尽くした今年 by 小寺信良

事前予約して発売日にゲットした「ZV-E10」

音声に強いカメラとして

今年1年を振り返ってみると、やはり音声による自己発信、いわゆる「しゃべりコンテンツ」が飛躍的に増えた年と言えるのではないだろうか。今では遠い昔のように思えるが、Clubhouseが突然の流行を見せたのが今年1月の話である。その流行は2カ月ぐらいで「爆死」と言われるに至ったが、多くの人がテキストではなく、動画でしゃべるコンテンツの制作に目覚めたのが今年のトレンドと言えるのではないだろうか。

筆者もフリーランスに戻った去年の夏頃から、畑を借りて見様見真似で野菜などを作り始めたが、同時に畑の様子を報告するVlog「コデラ家のハタケ」を更新してきた。また西田宗千佳氏と共同で発行するメールマガジン「小寺・西田のコラムビュッフェ」もnote版を並行して発行するようになり、そのオマケとして動画でしゃべるコンテンツを量産するようになった。

これまではパナソニック「LUMIX G7」に外部マイクを繋いだり、音声だけレコーダで同時録音して編集でまとめたりと、音声収録に試行錯誤してきたが、9月にソニーの「ZV-E10」を購入したことで状況が一変した。カメラマイクだけで十分しゃべりの収録に対応できるようになり、セッティングや編集の手間が大幅に軽減された。

せっかくなので、Vlog以外にも活用したい。そのためには、もうちょっとレンズのバリエーションが欲しいところだ。実は筆者宅には、かつてフィルムカメラに凝ったときに買い集めたニコンFマウントの単焦点レンズが5本ある。いつか活用したいと思いつつ、10年以上眠ったままだった。

それらのレンズをZV-E10で使えるよう、ニコンFマウント用のスピードブースターを購入した。スピードブースターとは、一般的なマウントアダプタと違い、0.7倍程度のレンズが仕込まれている。フルサイズ用のレンズをスピードブースター経由でAPS-Cサイズのカメラに付けると、画角がフルサイズ同様になるわけだ。つまりフルサイズ35mmのレンズが、APS-CサイズのZV-E10に付けてもほぼ35mmになるわけだ。

購入したスピードブースター2種。三脚用と手持ち用で使い分けている

最初に効果アリだったのは、リモート会議だった。これまでリモート会議のたびに背景にグリーンバックを張って、バーチャル背景を合成していた。なにもそこまでしなくても、と思われるかもしれないが、CM合成などガチ合成をやっていた身からすると、不自然な「バリ」や輪郭のズレが出る、ソフトによる切り抜き合成がいやだったのだ。だがめんどくさいことはめんどくさい。

そこでNikkor 35mm/F2といったレンズを使うと、被写界深度が浅いので背景はかなりボケる。わざわざバーチャル背景でごまかすより、自然なボケで散らかっている背景の様子をわからなくしたほうが、クオリティが高い。またZV-E10はUSB直結でストリームが出せるので、セッティングも楽だ。リモート会議も、大幅に手間が削減された。

背景がボカせるのでバーチャル背景不要に

写真にも活用

続いて活用したのは、レビュー用の製品撮影である。これもキットレンズではなく、ニコンのオールドレンズで撮影してみると、なかなかキレイである。筆者が扱うのは小物が多いので、近接できる24mm/F2.8か、35mm/F2ぐらいでちょうどいい。

ただ問題があって、これらのレンズだと、単色背景の場合、少し絞ると周囲に収差が出ることに気がついた。1965年ごろのレンズなので、よく映るが設計はたしかに古い。開放なら問題ないのだが、いつも開放で撮るわけにもいかない。

Nikkor 35mm/F2でF5.6で撮影。白い壁に赤いリング状の収差が見える

そこで11月に東京に出張した際、西新宿の中古カメラ店でNikkor 35mm/F2.8を4,000円で購入した。Nikkorの35mm/F2.8は、実は3種類ある。1959年のNikkor-S Auto 35mm F2.8初期型、そこから数年後に改良された後期型、1975年のNEW Nikkor 35mm F2.8だ。今回購入したのは、1975年のNEW Nikkorである。

現在物撮りで使用しているセット

これはレンズ設計などが前作とは世代が違うこともあり、絞っても収差リングが出ない。まさに物撮りにはいいレンズであった。12月に入ってからのElectric Zooma!の製品写真は、すべてこのレンズで撮影している。

NEW Nikkor 35mm F2.8でF5.6で撮影。リング状の収差は出ていない

筆者宅には、フィルム用のフルサイズの単焦点レンズがほかにもゴロゴロしている。中にはexaktaマウントのZeiss Jenaなど、今更どう使うんだよ的なものも転がっているのだが、やはりNikkorレンズ群だけは数も揃っていて特別な思い入れがあり、ずっと使えるようにしたいと思っていた。そのためにフルサイズのα7CやNikon Z6の購入も検討していたのだが、どのみちマウントアダプタは必要になる。

来年は子供たちの進学も控えており、なにかとお金がかかる。そんなときに10万円以下で強力な機能を持ったZV-E10は、現時点での現実解であった。今後も変なアクセサリをいっぱい買って、あと5年ぐらいは凌いでいきたい所存である。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。