小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第997回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

VLOGCAM第2弾、今度はミラーレス。ソニー「ZV-E10」

ZV-E10

やっぱりそう来たか

昨年6月に登場したソニーVLOGCAMこと「ZV-1」。遅ればせながら日本でもVLogがブームになり始めたところで、RX100シリーズで培ったアーキテクチャを上手く使いながら、新しい目的のカメラに仕上げてきた。

加えて今年2月にはファームウェアのアップデートにより、USBでPCに直刺ししてWEBカメラとしても使えるようになった。つまりリモート会議やウェビナーなどでも使えるカメラへと進化したわけだ。デジカメに拘らない使い方をどんどん開拓していく急先鋒として、さすがソニーと言わしめたカメラだった。

だが同じVLog用としてパナソニックが2020年7月にリリースした「LUMIX G100」は、マイクロフォーサーズを手のひらサイズに凝縮し、ノキアの技術「OZO」を搭載してマイクの指向性を変えられるという、これまた面白いカメラだった。やっぱりレンズ交換できるというのは強い。

そんなわけで我々としては、VLog向けカメラはコンデジタイプがいいのか、ミラーレスがいいのかで悩む事になったわけだが、ソニーのVLOGCAM第2弾はミラーレス機として登場した。

「ZV-E10」は9月17日の発売で、すでに7月30日から予約受付がスタートしている。もともと7月7日からティーザー広告がスタートしていたが一旦取り下げられ、7月27日発表に延期されていた、あのカメラである。

あのモフモフの正体、 ZV-E10

店頭予想価格は本体のみが78,000円前後、「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」が付属するレンズキットが89,000円前後となっており、なんとレンズ付きでもZV-1より安い。

今回は早くもデモ機(ブラック)をお借りすることができた。VLOGCAM第2弾はどういう使い勝手なのだろうか。早速テストしてみよう。

これまたコンパクトなボディ

APS-Cセンサーのミラーレスということで、基本的にはα6000シリーズがベースになっているものと考えられるが、サイズ感は近いものの、全く別物のカメラとなっている。ただ、αのロゴはボディにつけられており、αシリーズの一員ではあるようだ。ZV-1はサイバーショットシリーズの中に入っていなかったのだが、本機はマウントとレンズの都合でαシリーズの中にも入っているということだろう。

ボディサイズはα6000シリーズとほぼ同じ
VLOGCAMながらαファミリーの一員

ボディーカラーは最初からブラックとホワイトの2色が揃っている。今回はレンズキットのブラックを借りている。

レンズキットとして同梱されるレンズは、「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」で、単体で買うと希望小売価格44,000円だ。ボディのみとレンズキットの差額は11,000円しかないので、Eマウントのレンズを持ってないという方は、レンズキットを買った方がお得だろう。

電源OFFのレンズ沈胴状態
電源ONの撮影可能状態

センサーはAPS-CサイズのExmor CMOSで、裏面照射ではない。ただ銅配線の採用と回路プロセスの微細化により、フォトダイオードの上にある配線層の高さと太さを抑えることで、受光面積を拡大した。有効画素数は約2,420万画素で、動画では6,000×3,376ピクセル(16:9時)の6K相当画素数から4Kへ凝縮する形で収録できる。HDと比べるとほんの少し画角が狭くなるが、レンズは自由に選べるのであまり不都合はないだろう。

センサーはAPS-CサイズのExmor CMOS

ZV-1と同じく、ボディにはビューファインダがない。その代わり3型の液晶モニターは横出しのバリアングルになっている点は、VLOGCAMの共通仕様のようだ。

液晶モニタは横出しのバリアングル

中央部に大きなマイクがある。今回はZV-1よりもさらにマイクの内部構造を見直すことで、集音性能が向上したという。この辺りは後で試してみよう。

内部構造を見直して集音性能が向上したマイク部

アクセサリーシューは左側に寄せられた。お馴染みのモフモフウィンドウスクリーンも付属する。またアクセサリーシューは、デジタルオーディオインターフェース対応となった。同社のショットガンマイクやワイヤレスマイクロホンが、ケーブル接続なしで使用できる。マルチインターフェース搭載は、APS-Cセンサー搭載モデルとしては初という事になる。

マルチインターフェース対応のアクセサリーシュー
アクセサリーシューに装着するウインドスクリーン

ボタン配置も似ているようで微妙に違う。軍艦部には録画ボタンが大きくフィーチャーされており、シャッターボタンとほぼ同じサイズだ。モードダイヤルはなく、静止画・動画・スロー&クイックの切り替えはボタン押しである。電源はスライドスイッチになっており、α6000シリーズでは電源ボタンになっていたシャッター周りのスイッチがズームレバーになっている。基本はおまかせオートで撮影するタイプのカメラだが、1発で背景がぼかせるボタンを搭載している。

電源ボタン、ズームレバー、モードボタンなど、かなり機能が違う

背面のボタンも微妙に違いがある。従来メニューボタンは横長であったが、今回は液晶モニターの設計の都合もあるのか、丸型の小さいボタンとなっている。またゴミ箱ボタンは、撮影時には「商品レビュー用設定」ボタンとなる。

背面ボタンも若干の違いが

端子類は左側に集中しており、USB-TypeC及びMicroHDMI、イヤフォン端子がある。また上部にはマイク入力もある。

左側の端子類

ストラップの取り付け金具も変更されている。α6000シリーズでは三角リングを使ってストラップを通す仕様だが、本機はストラップが直接取り付けられる平型金具となっている。三角リングがカチャカチャいうのを避けるためだろう。

ストラップ取り付け用の金具も変更されている

なおZV-1ではファームアップで対応したWEBカメラモードだが、本機では最初から対応している。ZV-1では動画4ページ目に追加されていたが、本機では動画メニューの1ページ目で、撮影モードの中に並ぶ形となっている。

USBストリーミングは最初から対応

ミラーレスでも柔軟性の高い撮影能力

では早速撮影してみよう。今回はキットレンズのほかに、ズームレンズ「E 10-18mm F4 OSS」と、単焦点レンズ「E 35mm F1.8 OSS」も借りている。

今回使用したレンズ、左から「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」「E 10-18mm F4 OSS」「E 35mm F1.8 OSS

動画の撮影モードとしてはXAVC S 4KとXAVC S HDに対応しており、4Kでは4:2:0, 8bitで30Pと24p撮影が可能だ。ビットレートは100Mbpsと60Mbpsの2タイプで、この辺りの仕様はα6000シリーズと変わらない。またピクチャープロファイルもS-Log3まで対応しており、VLOGCAMとは言うものの、機能的に普通のαとできることは同じ、と考えていいだろう。

まず気になるのは、音声収録だ。VLOGならば当然喋りが一番重要であり、カメラマイクでちゃんと集音できるかどうかが重要になる。今回はカメラ前1mと50cmでテストしてみた。相当に風の強い日で、集音にはかなり不安があったが、結果的にはよく録れている。ウインドスクリーンの効果も絶大で、マイクユニットが平らに張り付いているわりには、あまり風音を拾わない。

風音低減モードと比較してみたが、風量低減を使うと低域がかなりカットされてしまうので、オンマイクでしゃべるのでない限りは、OFFの方が良さそうだ。なおキットレンズ撮影時にハレーションのようなものが写っているが、これはうっかりレンズに指紋が付着したのを気づかなかったものである。ご容赦いただきたい。

カメラ前1mで風量低減のOFF→ON、カメラ前50cmで風量低減のOFF→ON

歩きながらの撮影では、話者とマイクの位置が近いこともあり、かなり良好に集音できる。また動画でもアクティブ手ぶれ補正が使える。ただ、手持ちフィックスで撮影する際には強力だが、歩きながらの補正とはちょっと相性が合わないように思う。引っかかっては動き、みたいな絵になってしまい、安定感に欠ける。

歩きながら撮影。手ぶれ補正は強力だが……

移動しながらの補正は、かつてアクションカムを作っていたチームが得意としていた部分である。Vlogこそあのノウハウが必要なのに、普通のαと同じアルゴリズムが搭載されているのは残念だ。

夜のVlog撮影もテストしてみた。本機は動画撮影時のISO感度が最大32000だ。その状態で撮影してみたが、裏面照射ではないのでSNはそれほど良くない。だが顔認識もちゃんと動き、フォーカスもあっている。

ISO32000ではSNは劣化するが、AFはちゃんと動く
夜間撮影のテスト

たまたま飛んできた航空機を撮影してみたが、多くのカメラは黒い中の光の点をAFで合わせるのは苦手である。だが本機ではうまくフォローできており、離陸直後で客席の明かりが点灯状態から徐々にオフになるところが確認できる。AFモードの変更もなく、瞬時に多くのシーンに対応できる点は素晴らしい。

夜空の航空機にもちゃんとフォーカスが合う

単焦点レンズでも使える背景ボケ・商品レビュー用設定

では次に、室内での撮影を想定したテストをやってみよう。ZV-1で好評だったのが、ボタン1発で動作する背景ボケと、商品レビュー用設定だ。

背景ボケ機能は、絞りを開放にして被写界深度を浅くし、背景をぼかす「ぼけ」モードと、絞りをなるべく閉じて被写界深度を深くし、背景もはっきり写す「くっきり」モードを切り替える機能である。絞り優先やマニュアルモードで撮影すれば同様の効果が得られるわけだが、これはプログラムオートやおまかせオートでも動作するのがポイントである。

今回は単焦点レンズ「E 35mm F1.8 OSS」でテストしてみた。35mm換算で50mm程度になるレンズなので、絞り開放にすればかなり背景ボケを作れる。加えてセンサーサイズもZV-1の1インチよりだいぶ大きいので、背景ボケも大きくなる。本機のポイントは、キットレンズだけでなく他のレンズでも動くということであろう。

背景ボケ機能を使えば、背景を簡単にぼかせる

続いて商品レビュー設定もテストしてみた。これはカメラ前に商品を持ってきた際に、綺麗にAFを追従させるための機能である。

これも同様「E 35mm F1.8 OSS」でテストしてみたが、このモードを使わなくてもそこそこ追従はできる。だが顔と同時に商品を出した場合は、顔認識の方が優先されるので、商品側にフォーカスが行かないというのが弱点となる。

一方商品レビュー設定を「入」にした場合は、顔と商品のフォーカス移動がスムーズになるだけでなく、顔と商品を同時に出した際にも商品の方にフォーカスが来るというアクションになる。この動きが、このモードのメリットだろう。

顔が入っていても商品にフォーカスが合うのがポイント
背景ボケ・商品レビュー用設定のテスト

ZV-1でも効果が感じられた機能だが、ミラーレスになることで、より機能が強調されることがわかった。

総論

現在Vlogerと呼ばれる人たちは、機材にこだわる人はフルサイズ一眼に、機動性を重視する人はハイエンドスマートフォンにと二分されているように思う。ZV-1はコンパクトデジカメ文脈のカメラで、その中間をうまくさらったという格好だった。

コンパクトデジカメというアーキテクチャを見直すきっかけとなる製品ではあったが、やはり背景ボケやレンズバリエーションを考えると、ミラーレスのパナソニック「LUMIX G100」に分があるというのが正直な感想だった。

だがZV-E10の登場で、ZV-1で感じたモヤモヤが払拭された。キットレンズでコンパクトにも使えるし、いいレンズを使えばそれだけ表現の幅が広がる。加えてZV-1よりも低価格という事になれば、もうカメラ周りはこれだけで十分戦えるという事になる。

一般の写真や動画撮影も、α6000シリーズで搭載されている機能のほとんどが搭載されており、普通のミラーレスとしても十分使える。むしろ音声収録機能の充実ぶりを考えれば、α6000シリーズを機能的には上回るとも言える。

ビデオカメラが市場から消えてずいぶん経つが、Vlogという形でまた動画撮影むけのカメラが登場したのは、喜ばしいことだ。歴史は繰り返すというが、DVカメラ登場からおよそ25年、歴史が1回転した瞬間に我々は立ち会っているのかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。