プレイバック2025

45年物のプリアンプ「C-280V」メンテに明け暮れた by市川二朗

アキュフェーズのプリアンプ「C-280V」

2025年も古いオーディオ機器のメンテに明け暮れた1年だった。最近は自分の機器のメンテはあまりしていないのだが、レファレンス機器のメンテだけは怠らずやるようにしている。

今年はレファレンス機器のトラブルは比較的少なく、メンテしたのは唯一、プリアンプのアキュフェーズ「C-280V」だけだった。ただ、内容がちょっとやっかいで、単純な修理ではなく不定期に発生するノイズとの戦いであった。

アキュフェーズのプリアンプ「C-280V」とは

C-280Vは1990年発売で価格は800,000円。当時のアキュフェーズのフラッグシップで、さらには国内のプリアンプの最高峰を標ぼうする名機だった。長岡鉄男先生が音にほれ込んで竣工したてのシアタールーム『方舟』のレファレンスとして迎え入れた。

僕は自分のシアタールームが完成した1999年に中古で購入して、メーカーのオーバーホールを受けて、それ以来26年間使い続けている。ちなみに長岡先生は導入の8年後に後継の「C-290V」にあっさり交換してしまった。

僕がかくも長きにわたってC-280Vを使い続けているのには理由がある。

まずは音が気に入っているということ。全体にハイスピードで鮮度が高く、高域の鮮鋭感や低音の馬力は他のプリでは聴けない。多少の色付けを感じるところもあるが、最近の機器は総じて低歪みで優しくクリアで、僕の耳には物足りないのだ。また同クラスの新品のプリアンプは予算的に導入が難しいという世知辛い問題もある。

現用のC-280Vは、実は2台目だ。1999年に購入したあと長らく問題なく使っていたが、2019年にフォノ入力でときどきノイズが発生するようになった。このときは原因究明に1年要してようやく直ったのだが、3年後に症状が再発してこのときも不屈の闘志で何とか直したのである。

2台目は1台目のノイズと格闘していたとき、バックアップとして購入したものだ。1台目が完治したので完動品のC-280Vの2台持ちという贅沢な状況であったが、1台目は昨年末知り合いに譲ったのである。

まさかの2台目からもノイズ発生……原因は一体どこ?

2台目は購入直後に自分でメンテナンスをおこない、1台目が不調のときの代打として使っていて、1台目が嫁入りしたあとはレファレンスとしてラックの中央に鎮座することになった。それは昨年の12月のことである。

しかし、今年の3月にまたもやフォノ入力からノイズが発生したのである。ああ、ブルータス、お前もか……。

トップパネルを外した状態
底面

このノイズはとても小さなレベルで「ボソボソ」と不連続で発生する。聴感では1台目のノイズと似ているのだが、1台目が左チャンネルのみだったのに対し、今回は片方だったり両側だったり、非常に不安定なのである。

ここ数年、自分の機器のメンテの記録は「メンテノート」に書き留めてあって、X-01のDAC交換やCD-10の復活劇など網羅的にみることができる。

メンテノート

1台目のノイズとの格闘の記録を客観的に読み直していたら、2台目のノイズとは原因が根本的に異なるように思えてきた。

1台目ではふたつの原因があった。ひとつは、本機専用のカスタムマイカコンデンサの経年劣化。このときは無信号時だけノイズが発生し、いったん信号を入力すると消えてしまうという珍しい現象だった。もうひとつの原因は、基板のはんだ割れで2台目と似た感じのボソボソノイズが発生していた。

今回のノイズは3月に初めて発生した。そのときははんだ補修とBord to Bordコネクター(基板同士を直接つなぐコネクター)の接点補修で直ったかにみえたが、4月末に再発してしまった。

はんだやコネクターが原因ではないと考えて、5月には3回にわたってコンデンサー、半固定抵抗、トランジスタ、ツェナーダイオードなどの部品交換を含むメンテをおこなった。毎回祈るような思いでメンテを繰り返したが、願いかなわず7月初旬に再発。ああ、1台目を売らなきゃよかった……と、後悔の念に駆られながら酷暑の夏を迎えたのである。

部品交換をおこなうも、しばらくすると症状が再発……

Bord to Bordコネクターの接触不良が原因なのでは?

そこで改めて冷静になって考えてみた。

ノイズの質や出現の頻度は当初から全く変化がない。ノイズ発生の条件は温度や信号の有無などとの関係性は見いだせず不確定要素が多い。ただ、何かしらの処置をすると頻度や発生するチャンネルが変化する。これらの事実からして、Bord to Bordコネクターの接触不良が原因と判断するに至った。

もしかして、コネクタの接触不良なのでは……!?

そこでコネクターの篏合(かんごう)を再度点検し、接続が強固になるように木の棒を使ってコネクター部分を直接押して挿入したり、端子の向きを調整したりしたところノイズはようやく収まった。

コネクター部

2025年のいちばんの思い出は、C-280Vのフォノのノイズとの格闘であった。あれから半年が経過したのでもう大丈夫だろう。

しかし、45年前のアンプである。いつ何が起きてもおかしくないのだが、また壊れたらまた直せばいい。こんな老いぼれアンプでもいい音を奏でてくれるのだから、オーディオとは至極愉悦なものである。

メンテから半年が経過。もう大丈夫……そう?
市川二朗

1966年、東京都渋谷区出身。元々は故・長岡鉄男氏宅に出入りするオーディオマニアだったが、出版社に誘われ、1996年から執筆活動を開始。20年以上に渡り会社員(ソニーサービス)と二足のワラジを履きながら執筆活動を続け2020年にフリーランスとなる。現在はビンテージオーディオ機器のメンテナンス業も営む。
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