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Westoneのイヤモニ作ったら新兵器“3Dスキャナー”で超高速になっていた

完全ワイヤレスが人気を集める一方で、搭載するバランスドアーマチュアの個数競争も一段落した有線イヤフォン市場は、良い意味で成熟。純粋に高音質を追求するフェーズに入った。それゆえ、「今こそ、こだわり抜いた自分だけのカスタムIEM(カスタムインイヤーモニター:通称イヤモニ)を作りたい」と考えている人もいるだろう。

WestoneのカスタムIEM

一方で、カスタムIEMには“面倒”とか“時間がかかる”というイメージがつきまとう。「いつかは欲しいけど、どこかに行って耳になんか入れて型をとらなきゃダメなんでしょ?」「オーダーしても何カ月も待たないとダメなんでしょ?」と考えると、「フツーのイヤフォンでいいか」と考える人が多くても不思議ではない。

だが、それは大きな間違いだ。確かに、昔は“そういう苦労を乗り越えた人が手にできるカスタムIEM”みたいな状況もあった。しかし、現在は技術が進み、ショップの利便性も大幅に向上。特にWestoneのイヤモニは「え、もう終わり!?」、「これで完成すんの!?」と驚くほどの手軽さで、世界で1つ、自分だけの超高音質イヤフォンが手にできる状況になっている。キーワードは他社に先駆けて導入された“3Dスキャン”だ。

そんなわけで、“知っているようで知らない最新イヤモニ作成記”をお届けする。今回作ったのは、WestoneのESシリーズ最新モデル「ES70」と「ES40」……で、どっちにするかかなり迷ったのだが、どうせ作るのであれば上位モデル! と「ES70」をチョイスした。イヤフォンの特徴については後述する。

素早いイヤモニ製作を可能とする3Dスキャン装置

そもそもWestoneって?

イヤフォンファンにはお馴染みのメーカーだが、歴史も含めて詳しく知っている人は少ないかもしれない。Westoneはアメリカ、コロラド州にあるメーカーで、創業は1959年。なんと60年以上の歴史を持つ“老舗”と言っていいメーカーだ。

創業者のモルガン夫妻は、元々ヒアリングケア製品を専門に作っており、当初の製作場所は自宅のキッチン(!)だったそうだ。カスタムイヤフォンのパイオニア的メーカーらしいエピソードと言える。

創業者のロン・モルガン氏

ミュージシャン向けのカスタムイヤフォンを開発・提供した経験を活かし、Shure初のイヤフォン「E1」や「E5」を共同開発。さらに、Ultimate Earsのカスタムイヤフォンも、初期は製造はWestoneが担当。カスタムイヤモニ黎明期を支えた、“縁の下の力持ち”的なメーカーでもあった。

御存知の通り、カスタムイヤフォンだけでなく、コンシューマ向けイヤフォンや補聴器などの製造・販売も実施。補聴器やヒアリングケアの分野でも先駆者的な立ち位置にある。

そもそもカスタムIEMは何が良いのか?

イヤモニ、カスタムIEMは“カスタム・イン・イヤー・モニター”の略だ。その名の通り“モニターイヤフォン”の一種で、ミュージシャンや音響エンジニアなどが、ステージやレコーディングなどの現場で正確に音をモニタリングする時に使用する。

通常のイヤフォンと違い、利用者の耳型(インプレッション)を作成。そのカタチにマッチするカタチでイヤフォンを作るので、耳にピッタリとフィット。ステージ上で飛んだり跳ねたりしても外れにくく、遮音性も高いので大音量が流れている環境下でも、イヤフォンから流れる細かな音が聴き取れる。

この“うるさい環境でも、自分が聴きたい音が確実に聴き取れる”というのは、耳の健康にとっても重要なポイントだ。ステージ上で爆音にさらされるミュージシャン達は、演奏に必要な音を聴くために、自分の方に向けたモニタースピーカーを、爆音に負けない音量で鳴らしていた。これを長年続けてしまうと、聴力の低下などが起こる危険性がある。そうした事態を避けるためにも、カスタムIEMがプロの間で喜ばれたというわけだ。

同時に、カスタムIEMの特徴は、一般ユーザーにも恩恵がある。遮音性が高ければ、アクティブノイズキャンセリング機能などを使わなくても、屋外で静かな環境が得られる。普通のイヤフォンでも、イヤーピースをじっくり選べば耳へのフィット感を高められるが、やはり自分の耳型から作ったイヤフォンのフィット具合にはかなわない。

さらに、静かな環境では、ボリュームを上げなくても細かな音まで聴き取れる。これは、高音質が楽しめるという利点とともに、“必要以上にボリュームを上げなくて済む”という聴力保護の観点からもメリットがあるというわけだ。

加えて、オーダーメイドで作るので、カラーやデザインを柔軟に選べる(製品が多い)のもカスタムIEMの特徴だ。やはり“世界で1つだけの自分のイヤフォンを作る”という特別感は、ポータブルオーディオ趣味の中でも1つの到達点としてあこがれている人も多いだろう。

1つのビルでカスタムIEMの全てが完結、e☆イヤホン 秋葉原店へ

では、さっそくカスタムIEM「ES70」をオーダーしよう。お店はどこにするか? 耳型はどこでとってもらえばいいか? 実は、ここがかなり大切なポイントだというのが、今回オーダーしてわかった。

お邪魔したのは、AV Watch読者にはお馴染みの「e☆イヤホン」さん。東京・秋葉原にある店舗は「全部試聴してたら日が暮れるな」と思うくらいのイヤフォン/ヘッドフォンが並び、アクセサリや中古まで扱っている専門店。もちろんカスタムIEMのオーダーも可能だ。

まさに“試聴パラダイス”な「e☆イヤホン 秋葉原店」。ポータブルオーディオファンは1日中いられる空間だ
秋葉原の電気街口を出て、UDXを右手に見ながら直進……

住所は東京都千代田区外神田4-6-7 カンダエイトビルの1F、7F、8F。秋葉原の電気街口を出て、UDXを右手に見ながらずんずん直進すると、正面のビルにオレンジ色の「e☆イヤホン」ロゴが見えるのでわかりやすい。しかも7FにはカスタムIEM専門のコーナーがあり、その地下には耳型が採取できる「秋葉原補聴器/リスニングラボ」がある。そのため、カスタムIEMの注文から耳型採取まで、このカンダエイトビルで完結できる。つまり「カスタムIEMが欲しくなったらとりあえずアキバに行けばOK」というわけだ。

正面のビルの窓に見える、オレンジ色の看板が目印だ
こちらがビルの入口

というわけで、秋葉原のe☆イヤホンに到着。カスタムIEMが欲しいと伝えたところ、カスタムIEM担当のムービーさんに、いろいろと教えていただいた。なんとムービーさん自身もWestoneのカスタムIEMユーザーだという。これは心強い。

1階にはイヤフォン・ヘッドフォンの買取センター
カスタムIEM担当のムービーさんに、いろいろと教えていただいた

今回オーダーしたのは、ESシリーズの中から、発表されたばかりの「ES70」だ(受注開始は12月14日から)。BA構成は低域×1基、中域×2基、高域×4基。ES50に採用されている最大サイズの低域用BAと、フラグシップ「ES80」の高域、中域用BAを組み合わせたもので、「きらめくような高解像度の高域とハーモニックコンテンツを再現するように設計された新しいクロスオーバーを主な特徴としつつ、低域もしっかりと耳に届ける構造」になっているそうで、どんな音なのか楽しみだ。価格は180,000円(税込)。

「ES70」

同時に「ES40」というモデルも発表されており、こちらは低域×2基、中域×1基、高域×1基。バランスの取れた、パワフルで明瞭なサウンドステージが特徴で、厚みのある豊かな低域再生能力も備えているという。価格は115,000円(税込)。こちらも注目の新製品だ。

「ES40」

まずは購入時の注意点を説明してもらう。内容としては、オーダーメイド製品なので返品・返金できない事や保証内容など。ムービーさんによれば、通常のカスタムIEMでは、本体の保証が1年のメーカーが多いところ、Westoneは2年の保証があり、さらに普通のメーカーでは保証の対象になりにくいケーブルなどのアクセサリ類にも1年の保証がついているという。それなりの金額を払って、オーダーメイドで作る自分だけのイヤフォンに手厚い保証がついているのは、安心できるポイントだ。

また、カスタムIEMならではの注意ポイントとして“リフィット”サービスがある。これは、完成したイヤフォンを装着したら、ゆるいとか、痛いなどの問題があった時に、製品を受け取ってから30日間であれば形状に対策を施す“リフィット”ができるというもの。

ただ、ムービーさんによれば、自分の耳にフィットしているかどうかの判断時に注意すべき事があるという。それは“装着してからの時間”だ。「通常のカスタムIEMの筐体には硬い素材が使われていますが、Westoneの場合は体温で徐々に柔らかくなる特殊な素材を使っています(フレックスカナルと呼ばれている)。ですので、装着したばかりの時は圧迫感を感じますが、しばらくすると柔らかくなり、耳に馴染んできます。その状態での違和感をチェックしていただきたいです。1カ月時間はありますので、2週間ほどお使いになって、様子をみていただければと思います」。

筐体が柔らかくなった状態でも、ゆるいとか、耳が痛いなどの問題がある場合は、メーカーに送り返して再調整してもらうというわけだ。

また、カスタムIEMは遮音性が非常に高いため、乗り物を運転する時の使用は控える事や、小さな音でもしっかり聴き取れるため、再生時には小音量からスタートして確認しながら音量を上げていく……といった注意ポイントを、購入前に教えてもらえる。

これが注意事項の書かれた紙と、オーダーシート

どんなデザインのイヤフォンにするか

どんなデザインにするか、ある意味ここが一番の悩みどころだ。WestoneのESシリーズの場合、シェル(筐体)のカラーは追加料金が発生しないものでトランスルーセントカラー(18色)、オパークカラー(13色)、アイスカラー(6色)、メタリックカラー(5色)、スパークルカラー(11色)、スワールカラー(9色)から選べる。

カラー見本がこんなに沢山。な、悩む……

さらに有償オプションで、Precious Metalシリーズ(3色)とRyukyuシリーズというカラーも用意されている。このRyukyuシリーズは、2色を混ぜ合わせて作成するもので、色が混ざり合うようなグラデーションが楽しめるだけでなく、琉球ガラスのようにシェルにバブル(気泡)が含まれているのも特徴だ。

Ryukyuカラーのキャンディブルー+キャンディパープル。やばい、これもカッコいい……

これだけカラーや種類があると当然目移りしてしまうが、カスタムなので、左右のイヤフォンで別のカラーにしても良い。

選ぶのはこれだけではない。フェースプレートは6種類から選べる。本物の貝殻を切り出して加工したアバロンシェル(12種類)、リフレクション(10種類)、カーボンファイバー(8種類)、本物の木材を切り出して加工したウッド(9種類)、クリスタル(3種類)、ステンレス(1種類)から選べる。

落ち着いた感じのウッド系フェースプレートも捨てがたい……

このフェースプレートには、30種類から選んだアートワークが入れられるほか、ユーザーが用意したデザインを入れることも可能だ(著作権、肖像権などに問題のないデザインに限る)。フェースプレートを使わない場合には、Westoneのロゴを無料で入れることも可能。ロゴは3種、カラーは7色から選べる。

さらに最近、オプションとして日本の四季をテーマにした期間限定のカラーとフェイスプレートも登場。ちょうど第二弾デザイン「冬」の発売が12月2日~2020年3月1日までの限定でスタートしたという。これがまたオシャレでカッコいい。さらに“期間限定”という部分にもグッとくる。

四季オプションとして、秋・冬・春・夏をテーマにした期間限定のカラーとフェイスプレートも登場。現在は“冬”がオーダーできる

これだけ種類があると「落ち着いたデザインにしようかな」とか「思い切ってハデハデにしてみよう」など、まったく違う雰囲気のイヤフォンが作れる。自由度が高すぎるので、これを考えるだけで数日過ぎてしまうという人も多いだろう。

私も相当悩んだのだが、Webサイトのカスタム例に出ていた左チャンネル「アイスブルー フェースプレート:アバロンシェル Pacifica」、右チャンネル「キャンディレッド フェースプレート:アバロンシェルLava」がカッコよかったので、真似しようと考えた。左右チャンネルで色を変えると、装着時に「どっちが右だっけ?」とならずに便利というのもある。

ただ、店頭でムービーさんにシェルのサンプルを見せていただくと、他のカラーも魅力的に見えてくる。単なるクリアなオレンジかと思っていたカラーが、よく見ると、光に反射して内部に細かいラメがあってカッコよかったり、四季オプションも、落ち着いたトーンながら、内部のキラキラ反射によるゴージャス感もあって捨てがたい。ああ悩ましい……。

単なるクリアなオレンジかと思っていたが、実物を見ると光に反射して内部に細かいラメが……

ムービーさんによれば“無難なデザイン”と“攻めたデザイン”でオーダーする人の割合は、ほぼ半々だという。だが、「デザインのオプションを選ばれる方は半数以上いらっしゃいますね。やはり世界に1つの自分のイヤフォンを作るなら、デザインも妥協したくないという方は多いです。僕も一人のイヤフォンファンとしては同じ意見です。自分で描かれたイラストを持って来られる方もいらっしゃいますよ。e☆イヤホンのスタッフもカスタムIEM好きが多いですが、自分で撮影したお気に入りの写真を切り抜いてシェルに使ったスタッフが以前いて、センスあるなと嫉妬しました(笑)」。

左右を別の色にされる方も多いですね。定番は右が赤、左が青ですが、以前、医学生のお客様で、赤を動脈、青を静脈に見立てて、心臓の左に出るのが動脈、右が静脈だから、右を青、左を赤でと注文される方がいらっしゃって、新しい選び方だなぁと驚いたことがあります」。

決めあぐねてムービーさんに泣きつく

いやぁ皆さんオリジナリティのある面白いオーダーをするものだ。ちなみに、そんなムービーさんが自分用に作ったイヤフォンがどんなデザインか見せていただくと……なにこれカッコいい!!

ムービーさんが自分用に作ったES50。なにこれ超カッコいいんですけど

ES50なのだが、これはトランスルーセントのアクアマリンカラーに、オプションのプレシャスメタルとスパークルを合わせたものだという。そこに、人気のステンレススチールのプレートを配置。「W」のロゴ部分から、透けてメタルとスパークルのキラキラが見えている。

なるほど、キラキラ系の筐体とステンレススチールのプレートを組み合わせるとこうなるのか……

「完成した時にTwitterでつぶやいたのですが、大きな反響がありました。それ以降、店頭でお客様に『実物を見せてください』と声をかけられる事も増えました。デザインで悩まれている時は、ご相談にも乗らせていただきます。やはり悩まれるお客様が多いので、時間には余裕をみてご来店された方がいいと思います」。

ムービーさんに相談にのってもらい、さらにムービーさんのカスタムIEMからアイデアも拝借。私は「限定」というワードに弱いので、四季オプションの“冬”テーマの「スモーク×Precious Metal Silver」と「キャンディーブルー × Precious Metal Silver」を左右それぞれに採用。そこにステンレススチールのプレートを配置。四季のカラーが、Wのロゴから見えるようなデザインに決めた。

ムービーさんの真似をしつつ、限定四季オプションの“冬”で作ってしまおう。フフフ……

最後はケーブルのチョイス。デフォルトではEPICケーブル(52インチまたは64インチ/ベージュは52インチのみ)で、カラーもブラック、クリア、ベージュから選べる。さらにリモコン搭載のアドベンチャーケーブルや、有償となるが極細ケーブルも選択できる。イヤフォン側の端子はMMCXだが、2ピンも選択可能だ。

一瞬で耳型がデジタルデータに! レーザースキャン技術がすごい

オーダーが済んだら、地下の「秋葉原補聴器/リスニングラボ」へと移動。ここで耳型を採取してもらう。

地下の「秋葉原補聴器/リスニングラボ」へ
内部は個室に区切られていて、落ち着いた雰囲気。待合室もあり、待っている間に漫画も読める

流れとしては、耳穴に、柔らかい粘土のような“印象材”を注入。それが数分でカタマリ、引き抜くと耳型が完成するという手順だ。ただ、秋葉原補聴器/リスニングラボでは、この時に以下の5つのタイプが選択できる。

採取は5タイプから選択できる
  • 閉口状態
  • 割りばし横
  • 割りばし縦
  • バイトブロック
  • 須山式

これらは、採取する時の“口の開け方”を意味している。耳の形状は顎の筋肉と繋がっているため、口を開くと、耳の穴の形状が変化するのだ。それを活用し、遮音性の高いカスタムIEMを作ったり、逆に遮音性を意図的に落としたものを作るといったことが可能になる。

耳の内部

閉口状態は読んで字のごとく、口を閉じた状態、普段のリスニング状態に近く、いつでも着けられるフィット感のイヤフォンが作れる、基本となる採取方法だ。

割りばし横は、割りばしを横にして軽く噛んだ状態で採取。閉口時と比べ、顎の関節が動かないので、耳型の変化がなく、正確な型がとれるという。フィット感としては、緩くもなく、キツくもない。

割りばしも完備

割りばし縦は、割りばしの持ち手側を縦にして噛む方法だ。顎の関節がより下に下るため、その状態で型をとったイヤフォンは、閉口状態で装着すると少しキツくなるという。特に耳穴の入り口部分がきつく、遮音性を上げ、適度なキツさが欲しい人に向いた方法だ。

バイトブロックは、小さなブロックを縦か横にして噛む方法。口を大きく開いた状態に合わせて作るので、耳穴の入り口が非常にキツくなる。アーティストなど、歌を歌いながら使う人、ステージで演奏する人向けで、リスニング用としては“玄人向け”だという。ちなみにこのバイトブロックを考案したのはWestoneで、このブロックもWestone製だという。

バイトブロック。考案したのはWestoneで、このブロックもWestone製だそうだ
こんな感じで噛んで口を開いた状態にして採取する

須山式は、須山補聴器の考案した方法で、印象材を注入した後に口を動かす。大きく3回開き、顎を横に動かすのを2回行なう。こうすることで、耳に接する面積は少なくなり、余裕が生まれ、顎を動かしてもズレにくいものになるそうだ。遮音性は低下するが、耳への負担が少ないのも特徴だ。

採取方法がいくつもあると、どれにすればいいか迷ってしまう。ただ、どの方式でも耳に注入する印象材は、注入後に内部で膨らむので 最終的に完成する耳型の形状として、ものすごく大きな差は生まれないという。あくまで微小な違いというわけだ。

閉口状態で採取するのがいいかな……

リスニングラボさんによれば、日本のユーザーはキツ目に作りたいと、以前はバイトブロックを使う人が多かったという。しかし、現在では閉口状態を選ぶ人が多いそうだ。

日本人を含むアジア人は、口を開いた時に顎が斜めに開く傾向があり、耳の形状変化が大きいため、口を開けた状態の耳型でイヤフォンを作ると、口を閉じたリスニング時は、形状が合わなくなる事もあるという。対して、欧米人は縦に顎がひらくため、耳穴の形状変化は少ないそうだ。つまり、カスタムIEMを使う時に、口を開けるかどうか、歌を歌うかどうかで採取方法を選ぶといいわけだ。

また、閉口状態で採取しておくと、完成したイヤフォンを再調整してもらうリフィットの際に、普段使っている閉口状態で「この部分が痛い」とか「この部分をこうして欲しい」と調整の注文ができるため、実際に再調整するメーカー側が、ユーザーの意図を理解しやすいという利点もあるそうだ。

ということで、今回はベーシックな「閉口状態」をチョイス。印象材を注入してもらった。

こちらが印象材
柔らかくした状態で使用する
まず鼓膜まで行かないようにスポンジで蓋をして
印象材を注入!

“耳に粘土のようなものを入れる”と聞くと、なんだか怖い気もするが、実際に体験すると怖さはまったくない。耳穴の奥の奥まで印象材が入らないようにスポンジのガードも入れてもらえるし、印象材は液体ではないのでプールで耳に水が入った時のような違和感もない。完全に耳に蓋がされるので、かつてない静けさに包まれる。内部で印象材が発泡して膨らむ「プチプチ」という音がかすかに聞こえるのが面白い。

ちなみに、注入は2回に渡って行なわれる。まず耳穴の内部から、耳穴の入り口までムリュッと注入。そして2回目は耳穴の外側にも印象材を盛り付け、最後にケーブルを逃がす部分を作っるため、スッと抜く。

1回目の注入後の状態
さらに印象材を盛り付け、耳型に厚みを持たせる

2回に分ける理由は、耳穴のカタチをとるだけでなく、耳型に“厚み”をもたせるためだそうだ。最近は搭載するユニットが増え、セラミックツイーターなど、大型なユニットを入れるイヤフォンも多い。そのため、耳型も余裕をもって、厚みのあるものである必要がある。メーカーによっては、さらに大量の印象材を使う大きな耳型を指定されるモデルもあるそうだ。

逆に、カスタムIEM用の耳型採取に慣れていない場所で採取すると、作りたいイヤフォンが必要とする耳型の厚さが足りず、耳型を採取し直すパターンもあるそう。やはり、リスニングラボのようなカスタムIEM用の採取に慣れた場所や、WestoneなどのメーカーがWebページで案内している場所を選んだ方が良いだろう。

数分後、印象材を抜き出すと、耳型が完成。よく見ると左右で形状が対称ではない。リスニングラボの方は、この耳型を見て「比較的入り口が横につぶれているので、イヤーピースの選択は難しいと思います。先端が先細りしているイヤーピースがマッチしているんじゃないですか? SpinFitみたいな」と一言。さすがプロ、私が普段使っているイヤーピースの形状をズバリ言い当てられてしまった。

自分の耳型が完成! なんだか不思議な気分だ
左右で対称かと思いきや、形状が微妙に違う

ちなみに、採取前に「ユーザーがしておいた方が良いこと」も聞いてみた。採取前に念入りに耳掃除はしてきたが、耳の中はデリケートで、皮膚の厚さが爪くらいしかない部分もあり、あまり力を入れて掃除をするとかえって傷ついたり、出血したりする事があるので注意した方がいいそうだ。また、しばらく耳掃除をしていない場合、耳穴が耳垢で塞がってしまっている事もある。気になる場合は、耳型を採取する前に、耳鼻科に行って耳の中を見てもらうのがベストだ。

一瞬で耳型がデジタルデータに! 3Dスキャン技術がすごい

こうして完成した耳型は、Westoneを扱うテックウインドへ最短で翌日には到着する。遠方にあるお店が、ある程度の個数が溜まってから発送した場合でも、1週間程度でテックウインドに到着する。

これまでは、毎週金曜日に集まった耳型を一緒に、テックウインドから米国のWestone本社に空輸。オーダーから3、4カ月後にようやく完成品が届いて……という流れだったそうだ。

しかし、それは過去の話。他社に先駆けて最新技術が導入され、カスタムIEM作りは劇的に高速化した。その鍵となるのが“3Dスキャン装置”だ。

使い方は簡単。内部に2つの針があり、そこに耳型を突き刺して固定。蓋を締めて、制御用のパソコンでスキャン開始ボタンをクリックすれば、内部でLED照射によるスキャンが開始。耳型がいろんな角度に回転され、細部まで形状を測定。耳型2個を同時に、40秒もかからずスキャン。形状がデジタルデータとなって、PCに保存される……という仕組みだ。あまりに素早くて「え、これで終わり!?」「ちょっと早すぎて写真撮りそこねたのでもっかいお願いします」と言うくらいのスピードだ。

劇的な納期短縮に貢献しているLEDによるスキャン装置
内部にこのような針が
針に耳型を固定する

得られるのはデジタルデータなので、その場ですぐにWestone本社へとインターネットで送信。データを受け取ったWestone本社は、それを基にカスタムIEM作成にすぐ取りかかれる。

内部で回転する耳型。LEDの光が見える
得られたデジタルデータを、米国のWestoneへとすぐに送信

これにより、注文時期や注文の殺到具合にもよるが、早ければ2週間ほどでイヤフォンが完成し、ユーザーの元へ届けられるという。つまり、お店でオーダーしてから約1カ月で、完成品を手にできるというわけだ。

また、採取した耳型に不備があった場合、デジタルデータの送付であれば、すぐに「この耳型はダメなので、作り直してください」とユーザーに連絡ができる。耳型が米国に届いてから「これはNG」と言われるより時間が短縮できる。リフィットで形状を変える場合も、日本のテックウインドに耳型のオリジナルが残っていれば便利だ。

AV Watch読者の中には、カスタムIEMの黎明期に、日本の代理店がまだ無いので英文メールで海外メーカーに直接オーダーし、耳型を送付し、それでもなかなか送られて来ず、問い合わせメールをまた送って……など、大変な作業を乗り越えてカスタムIEMを入手した人もいるだろう。そうした時代から考えると、1箇所でオーダーから耳型採取まででき、1カ月ほどでイヤフォンを手にできる便利さは隔世の感がある。

カスタムIEMを作りたいけど面倒そうだと感じていた人も、これだけ気軽に、素早く作れるとなれば、感じ方は変わるはずだ。e☆イヤホンは秋葉原店の他に、名古屋大須店、梅田EST店、大阪日本橋本店でカスタムIEMを取り扱っているが、こうしたカスタムIEMに強い専門店が近くに無いという場合は、Webからのオーダーも可能。耳型採取可能店は、Westoneのページや、e☆イヤホンのページに記載されている。

イヤフォン選びでメインとなるのは音質だが、カスタムIEMでは遮音性の高さを活用した究極の音質を追求できるだけでなく、装着感やデザインまで“自分にとっての最高”を追求できる“イヤフォンの王様”だ。ポータブルオーディオファンとしては、1つは持っておきたい。あれこれ悩みながらオーダーするのも楽しい作業で、“自分にとってイヤフォンとは何か?”を問い直す時間にもなる。一方で、面倒な作業や時間はできるだけ短縮されており、購入のハードルは下がった今だからこそ、改めてカスタムIEMに注目して欲しい。

というわけで、現在オーダーしたイヤフォンの到着を心待ちにしている。届いたら音質なども含めて紹介する予定だ。