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ゲーム音楽の“イトケン”、新世代Acoustuneイヤフォンを聴く。「新しい世界が開けた」
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2020年11月20日 09:00
伊藤賢治という人物をご存じだろうか。伊藤賢治、通称“イトケン”。主にゲーム音楽をメインに活躍する、ゲームファンには説明不要の人気作曲家だ。我々オーディオファンは、イヤフォンやスピーカーで様々な音楽を楽しんでいるが、最近ではアニメソングに加え、ゲームミュージックを聴くオーディオファイルも増えている。
そこで今回、“ゲームミュージックの作り手”である伊藤氏に、こだわりや制作環境について話を伺うと共に、オーディオファンの目線で、ハイクラスなイヤフォンで自身の楽曲などを試聴していただき、その感想も聞いた。“ゲームミュージックならでは”のこだわりだ。
制作時のチェックに、薄型TVやスマホも活用!?
伊藤氏は1990年より、株式会社スクウェア(現・株式会社スクウェア・エニックス)でコンポーザーとしてのキャリアをスタートし、「ファイナルファンタジー外伝 聖剣伝説」、「ロマンシング サ・ガ」シリーズ、「サガ フロンティア」など、数多くのゲーム作品の音楽を担当。2001年にスクウェアを退社後は、フリーの作曲家として活動。ゲームはもちろん、舞台やTVアニメの劇伴、シンガーへの楽曲提供、ユニットを結成してのアーティスト活動など幅広い分野で活躍している。
近年では、「パズル&ドラゴンズ」の音楽でもファンを大きく広げた。また、2018年に放映されたTVアニメ「あかねさす少女」では、イトケン節炸裂のメインテーマを提供し、オールドファンを歓喜させた。
スクウェア時代のコンポーザー、特に90年代の作品を彩った作曲家たちは、今やレジェンドとして伝説的な存在となっている。植松伸夫、光田康典、下村陽子といった名前を一度は意識したことのあるゲームファンは多いことだろう。伊藤氏も、ロマンシング サ・ガ(サガシリーズ)の成功によって、その名声を不動のものとした。30代以上はもちろん、今や幅広い年齢層に熱狂的に支持される作曲家、それが伊藤賢治=イトケンなのである。
筆者とイトケンミュージックの出会いは、「ロマンシング サ・ガ3」だ。厳しかった筆者の家庭は、テレビゲームをプレイしたのがこの時が最初。既に携帯ゲーム機でゲーム音楽大好き少年に成長していた筆者にとって、ロマサガ3のバトル曲は悩殺されるのに十分過ぎるほどの破壊力を持っていた。
お小遣いが足りず、レンタルでサントラを借りてMDにダビングして何度も聴いた。サガフロンティアのサントラは買って聴きまくっていた。その後、2012年にロマサガのバトル曲をバンドアレンジしたシリーズ「Re:Birth II」でイトケン愛が再燃。ライブに何度もお邪魔したほか、筆者の音楽ユニットBeagle Kickがご縁で、「One Night Re:Birth」ライブの楽屋にお邪魔させていただいたことも。来年には「伊藤賢治作曲活動30周年記念オンラインライブ」が開催予定で、One Night Re:Birthで超絶技巧を披露したバンドメンバーが集結。Beagle Kickで筆者の相棒・和田貴史も出演するので、2021年1月30日はモニターの前で待機確定だ。
そんな伊藤氏に話を伺うと、“ゲームミュージックならでは”のこだわりが非常に面白い。例えば、音楽制作において、音のチェック用として、モニタースピーカーやモニターヘッドフォンが使われている事は、ご存じの方も多いだろう。これに加え、スタジオにはよくソニーやビクターのCDラジオが置かれている。これらの小型コンポは“普通の家庭で再生した時、どのような音で聴こえるか”をチェックするためのもので、ほとんどのクリエイター/エンジニアが実施する工程だ。
しかし、伊藤氏の場合はそれだけではない。ゲーム音楽が再生されるのは? そう、“薄型テレビ”だ。今ではスマートフォンも多い。それらの環境でも、どのように聴こえるかをチェックし、違和感があればミックスに戻って修正し、思った通りのイメージで鳴るように追い込んでいくという。なんと、オリジナルをMP3に圧縮してスマートフォンで聴いた時の鳴りもチェックしているそうだ。配信時には音楽が圧縮されて使用されることを想定しての手法だろう。スマホ付属イヤフォンも、チェックに使っているそうだ。このようにポータブル機器も念頭に置いた確認をする事で、現代のイトケンミュージックは作り出されているのだ。
そんな伊藤氏は、音楽制作を離れ、リスニング目的で音楽を聴くときも、主に制作用のモニタースピーカーで聴く事が多いという。そのため、オーディオファイル向けの高級イヤフォンはまだ体験したことがないそうだ。
とはいえ、ゲームプレイヤー目線でも音にこだわる伊藤氏が、ハイクラスのイヤフォンの音をどう感じるのか。オーディオファンの1人として興味が沸く。
そこで、今オーディオファンの間でも注目が高まっているAcoustuneのイヤフォンを、伊藤氏に聴いていただいた。音楽を生み出すクリエイターは、どのような印象を持つのだろうか?
実は“メイドインジャパン”なAcoustune
Acoustune(読み:アコースチューン)は香港発祥のブランドだが、実はメイドインジャパンだ。パッケージもMade in Japanロゴが印刷されている。現在では設計・開発・生産・パッケージングはもちろん、音決めも日本のエンジニアが担当している。全工程が一貫して日本で行なわれており、日本のユーザーからの声も多くフィードバックされているのが特徴だ。
第4世代のミリンクスドライバーを搭載したラインナップは3機種。音響チャンバー部に強力な共振抑制効果のあるチタンを使用した「HS1697TI」(オープンプライス/直販税込109,980円)、同じく音響チャンバー部にステンレススチールを採用した「HS1677SS」(同82,980円)、ブラス(真鍮)を採用した「HS1657CU」(同71,980円)だ。
いずれもダイナミック型ドライバーを採用している。シングルダイナミックドライバーのイヤフォンを徹底的に突き詰めているのが特徴のAcoustune。技術的な特徴は大きく2つ、「ミリンクスドライバー」と「モジュラーメタルボディ」だ。
ミリンクスドライバーは、Acoustuneを代表する独自技術。人工皮膚や手術縫合糸などに使われるポリマーバイオマテリアル「ミリンクス」を振動板素材に採用。軽さと強度を兼ね備えることで、過渡特性に優れた高解像度かつ広いダイナミックレンジを実現している。
非常に微細な振動まで再現できる一方で、ミリンクスを制御して振動板として使う技術はとても難しいそうだ。Acoustuneは、常にその技術をアップデートし、音に磨きをかけ続けているそうだ。
ハウジングは、音響チャンバー部(ドライバー格納)と機構ハウジング部(コネクター格納)を完全に分離したモジュラー構造になっている。これにより音響部分と機構部分の相互干渉による音質劣化を抑制。機構ハウジング部はアルミニウムで各モデル共通だが、音響チャンバー部は、モデル毎に真鍮、ステンレススチール、チタンと、異なる金属を採用。チャンバー部の素材を変えることで音の響きも変わってくるので、パッと見の形状は同じでも音は異なるのだ。素材の違いとそれに伴う加工難度は、価格に反映されている。
伊藤氏に、3機種を聴いていただいた。再生用のプレーヤーは、伊藤氏が最近導入されたというご自身のAstell&Kern「A&ultima SP2000」(Copperモデル)。SP2000に保存した自身の楽曲などで試聴している。
真鍮を採用した「HS1657CU」
「HS1657CU」から聴いていただいた。振動膜テクスチャー、コイル、マグネット、チューニングプロセスなど、全てを刷新した第4世代ミリンクスドライバーを搭載。前述のように、音響チャンバー部には余分な共振を抑制させつつも良い響きは残す真鍮(ブラス)を、機構ハウジング部にアルミニウムを採用。100% CNC切削されたブラスチャンバーによる、高い応答性と深い低域表現、響きの良さが持ち味だ。
「落ち着いていて、聴き疲れの少ない音ですね。初めて聞いたのに、どこか聴き慣れた感じがします。音的には入門機といいますか、どんな音楽ジャンルにも合いそう。万人受けしそうです。これが物足りなくなったら、上位グレードを選ぶと良いのではないでしょうか」(伊藤氏)。
“落ち着き”や“耳馴染みの良さ”は、周波数バランスの良さが影響しているのだろう。やや中域寄りのサウンドで、高域が耳に刺さることなく、金属製の音響チャンバーによる音の“硬質感”も強くはない。まさに伊藤氏の言葉通り“万人受け”しそうなモデルだ。
ステンレスチャンバーのシャープなサウンド「HS1677SS」
「HS1677SS」は、HS1657CUと同一の第4世代ミリンクスドライバーを搭載。音響チャンバー部にステンレス、機構ハウジング部にアルミニウムを採用。寸法安定性に優れ、チタンに匹敵する高い剛性を持つステンレスを採用し、共振抑制効果がアップ。ドライバーのポテンシャルを引き出し、解像度が高くクリアなサウンドになったという。
「一聴して、パキッとした音。それぞれの音が分離して聴こえるから、細かい音が分かり易いです。じっくり聴くとお腹いっぱいになりそうだけど、耳コピするにはいいと思いますね(笑)。ブライトな音の傾向がありますから、自分のゲーム音楽とかアニソンはもちろん、現代的なポップスやロックとの相性がいいと思います」(伊藤氏)。
ブライトな音により、音像がとてもシャープに聴こえるのは筆者も同意だ。HS1657CUと比べ、音場の空間もクリアになり立体感が増した。楽器の輪郭まで見えるようだ。やはりオススメのとおり、ゲームミュージックを聴き込みたい。伊藤氏の近作では、「Romancing SaGa Re;univerSe」のオリジナルサントラが注目だろう。完全新曲のバトル曲はファン必聴だ。
チタンが決め手の「HS1697TI」
「HS1697TI」のドライバーは、先のHS1657CUやHS1677SSと異なり、ミリンクスの振動板と、薄膜加工したチタンドームを組み合わせた複合膜構成「ミリンクスコンポジット」を採用した、進化型第4世代ミリンクスドライバーとなっている。このミリンクスコンポジットは振動板に金属を蒸着する製法に比べて、エッジには柔軟性、ドーム部は高剛性にするという二つの要素をより高く両立することが可能となるそうだ。これにより、ミリンクス単体に比べてさらに振動板の特性を引き出すことが出来たという。
音響チャンバー部にはチタンを、機構ハウジング部にアルミニウムを採用。チタンは生体適合性が高く、非常に高い剛性を持つ材料である。その高い性能から金属加工が非常に困難であるのも特徴だ。チタンチャンバーの高い剛性という特性により、共振抑制効果が向上し、ドライバーのレスポンスも改善。このチタンチャンバーと、進化型ミリンクスドライバーとの組み合わせにより、再生音域と音場の拡大を図ったモデルだ。
「サウンドに深みと温かみがあります。まるで真空管を通したみたいですね。ジャズクラブで聴いているような雰囲気と言うのでしょうか。これは生音がメインのジャンル、クラシックやアコースティック系の楽曲が合うと思います」(伊藤氏)。
音に温かみ、いわゆる質感表現の向上を確かに感じる。HS1657CUと同じように“金属っぽい音の癖”は皆無で、周波数バランスはフラットに近い。ドラムやピアノなど生楽器は、温度感が付加されて、聴いていて楽しくなれる。伊藤氏のハイレゾ作品「サガオケ!」を再生すれば、没入感満点で楽しめることだろう。個人的には、音像のディテール表現力は全機種の中で屈指の仕上がりだと感じる。
デザインや装着感については、どう感じたのだろうか?
「見たことのない外観にまず驚きました。もうルックスからして期待が高まりますよ。ケーブルはいっぱい捻ってあって大丈夫なのかと思いましたが、これ(2重ツイスト)は音質のためなんですね。イヤフォンの重量感にもびっくりしました。でも、付け心地はナチュラルでよかったです」(伊藤氏)。
個人的にうれしかったのは、SP2000にプリインストールされている筆者の音楽ユニットBeagle Kickの楽曲も、試聴に使っていただけたことだ。KANN CUBE以降の新機種には、ホール録音の楽曲2曲がMQAのデモ音源として収録されている。「安価なイヤフォンで聴くのと比べ、本当に音が良くて感動した」とコメントをいただいたので、Astell&Kernのプレーヤーをお持ちの方は聴いてみてほしい。
気になるのは、“伊藤氏がもっとも気に入った機種”だ。ズバリ聞いてみた。
「HS1677SSが一番好みですね。細かい音がハッキリ聞けるパキッとした音が気に入りました。いい音で聴くと、それ以下のものはなかなか選べませんよね。新しい世界は間違いなく開けました(笑)」。
ちなみに、伊藤氏が感じる“いい音”について聞いてみたところ、「満遍なく全ての要素が高いステータスで聴けることが大事」と答えてくれた。“曲の良さがすべて伝わるようなサウンドを再生してくれるのが良い音である”と。まさに制作者らしい視点だ。
普段スピーカーをメインに聴いている伊藤氏だが、イヤフォンの方が集中して聴くことになるので、「好きな曲をのめり込んで聴くのには良いと思う」と、リスニングスタイルの違いについて語る。
高級イヤフォンを初体験し、ラジオや落語、ドラマCDといった音声コンテンツはどのように聴こえるのかにも興味津々の様子。確かにクオリティの高いイヤフォンで聴くと、音声系のソースが“聞き取りやすい”だけでなく、話者の熱や声の温度感といったものまで伝わってくる。
Acoustuneのイヤフォンは、クリエイターの目線で聴いても「こんな音で聴いてほしい」と言わしめる実力がある。その音質に加え、デザイン性、付け心地のナチュラルさといった面でも、高いクオリティを実現している。
また、音響チャンバーの素材の違いによる音の変化は見た目以上。店舗などで試聴し、好みの機種を見つける楽しみもある。筆者が個人的にお気に入りなのは「HS1697TI」だ。Beagle Kickはこんな音で聴いて欲しい。
音楽ルーツは歌謡曲?
伊藤氏の音楽ルーツは、日本の歌謡曲にあるという。小学時代は、郷ひろみなどの新御三家からはじまり、中学時代はニューミュージックの影響を受けてシンガーソングライターに憧れていたという。イトケンファンにとっては意外かも知れないが、ロックはあまり聴いていなかったそうだ。
高校時代になって、アルフィー、X JAPANなどの邦楽ロックに触れ、とにかくJ-POPが好きでずっと聴いていたそうだ。当時聴いていた音楽が今に生きているか聞いてみると、「メロディアスな部分が生きていますね。“インストでも歌えるようなメロディ”を作りたいんです。単なるBGMではなく、心に残る曲を書けるように」と答えてくれた。
昨今のゲームは映像や演出が昔と比べ、格段にリアルになった。ゲーム音楽と映画音楽の垣根がなくなってきているとも言えるだろう。伊藤氏への音楽制作の依頼内容も、こうしたゲームの進化と共に変わってきているのだろうか?
伊藤氏によれば、クライアントからは「伊藤さんの曲を下さい」という依頼が多いのだそうだ。つまり、“イトケン節を下さい”ということだろう。それもそのはず。現在ゲーム制作の現場で活躍するスタッフは、スクウェアのゲームで育ったチルドレン達。イトケン節が好きな人達ばかりというわけだ。
「個人的には、今の自分の新しい楽曲を出したので、(イトケン節を下さいと言われると)ちょっと葛藤はあります。求められるイトケン節と、自分の今だから書ける曲のバランスはよく考えますね。イトケン節って言っても、何が“節”なのか自分では分からないんです(苦笑)。ただ、イトケン節にハマると『それです! それです!』って言っていただける。逆に何かに日和って書くと『そうじゃないんです』って。結局は、自分らしくで良いんだなと」。
イトケン節と言えば、バトル曲の制作舞台裏も気になるところ。
「やっぱりプレイする方の気持ちを高ぶらせる曲を作らなければいけませんから、自分も作っている最中はずっとたぎってますよ。特にイントロは、バトルシーンに気持ちを持っていくための“キモ”ですからこだわってますね。ネタ切れにならないように、流行りの曲を勉強して何が“モードなのか”を研究します。咀嚼して取り入れて、新曲を作っていきます。「この曲聴くとたぎる!」ってツイート見かけたりすると嬉しいですが、1曲作り終えたらいつもクタクタなんです(笑)」。
ゲーム音楽は曲数が非常に多い。全曲イトケン節とはいかないだろうし、“自分らしさ”をどのように出しているのだろうか。
伊藤氏は、迷わず「メロディライン」と答える。ギターソロであろうが、ピアノソロであろうが、メロディに焦点を絞れば“自分本来のものが滲んでくる”という。
近年の伊藤氏の作品には、アレンジ(編曲)を外部のミュージシャンやアレンジャーに任せる楽曲も多いが、それは意図してのものであり、「才能のある優秀な方と組んで、自分自身も新たな影響を受けたい」と語ってくれた。
「ゲーム機内蔵音源だからと妥協はするな」
古くからのゲームファンとしては、“内蔵音源時代”の話も聞きたいところ。若い方はピンとこないかもしれないが、80年代~PlayStation 2の頃まで、ゲーム機には専用のシンセサイザー(音源チップ)が組み込まれており、そのスペックの枠内で音色と音楽が作られていた。あらかじめ作られた音楽ファイルを流すのではなく、内蔵音源がリアルタイムに奏でていたのだ。
BGMとSEを合わせた同時発音数は、SFC(スーパーファミコン)で8音、PlayStationで24音、PlayStation 2で48音と有限だった。初期GB(ゲームボーイ)に至っては、なんと“3音”である。今では信じがたい話だが、SFCくらいまでは効果音が鳴るとBGMのトラックの一部が瞬間的に聞こえなくなったりした。
現代のゲーム音楽は、完パケで作り込まれた音楽をゲーム機が再生している。生演奏はもちろん可能だし、内蔵音源のサウンドメモリにクリエイティビティが犠牲にならない、(予算面を脇に置けば)まさに制約無しの環境だ。
伊藤氏は当時を振り返り、「実は、内蔵音源だからやりにくいとか、そういう感覚はそもそもなかったんです」と語る。「スクウェアに入社してすぐの時、植松伸夫さんに『3音しかないゲームボーイの内蔵音源だからって妥協するな』と言われました。サントラとかでアレンジ版を作るときは、フルオケで作るかも知れないけど、“それ”が本編ということではなくて、“ゲームボーイのスピーカーから鳴っている音が貴方の作品なんですよ”と。つまり、最終的にゲームハードで鳴っている音こそが、自分の作品の完成形だと思って作り込め……ということです。時代が変わって、内蔵音源ではなく生音になりましたが、その時々の環境で、自分はベストを尽くすだけなんです」。
内蔵音源の時代、一切の妥協なく音楽を作り続けたレジェンド達。伊藤氏もそんな作曲家の1人だからこそ、今も当時の内蔵音源の音を愛するファンがいるのだろう。現代のチップチューンで旧スクウェアソフトの楽曲を選ぶアレンジャーが多いのも頷けるというものだ。
ちなみに、ゲームボーイは3音しかなかったので、仕事をしながら対位法の勉強や、オーケストラレーションを学ぶことができたそうだ。内蔵音源の制約が思わぬ成果をもたらしていたわけだ。
時代はハイレゾストリーミングへ
そんなゲームミュージックも、最近ではハイレゾかつストリーミングで楽しめる時代。
伊藤氏も、制作側から求められればハイレゾで録ったり、リリースしたりすることには特段抵抗はなく、むしろ、いい音で聴いてもらいたいという気持ちがあるので、ハイレゾで楽しんでもらえるのはありがたいそうだ。
一方で、音楽を聴く手段や機器はとても多様化しているので、基本は“ユーザーにお任せするスタンス”。電車の中でもプレイできるスマホのゲームでは、そもそも音楽を聞いてもらえないシーンすらある。しかし作り手側としては高音質な機器で聴いてもしっかり楽しめるよう、情報量を詰め込んでいるので、「ぜひお気に入りの機器で聴いてみてほしい」とのこと。
そして、ファンとしては気になる今後の展望についても、話を伺った。
「私はコンポーザーなので、曲作りが主軸にはなります。ただ、プロデュースはやっていきたいですね。音楽に関することを一から十まで自分でやるのではなく、いろんな人と一緒にやりたいです。分業が好きなんですよ。極端なこというと、曲作りじゃなくてMCで関わったりとか。とにかく自分の可能性を広げたい。例えば、作曲すら他の方に任せて、サウンドプロデューサーに徹するとか将来的にはあり得ると思います。」
ゲームと言えば、3Dオーディオに対応したPlayStation 5も登場した。「(PS5の)Tempest 3Dですか? そうですね……音楽もゼロからそのために一緒に作りましょうとなってくれば興味あります。多様な才能が集まったチームで、自分の力を発揮して音楽を作っていきたいですね」。
大御所とかレジェンドとか呼ばれるようになってもこの貪欲さ、仕事への真摯な姿勢。本当に感動してしまった。伊藤賢治がこれから紡ぐプロジェクトに目が離せない。
なお、伊藤の直近の作品としては、オンラインアクションゲーム「アラド戦記」、そのオリジナルアニメ「アラド:逆転の輪」のサウンドトラックが11月18日に発売された。劇伴音楽全47曲に加え、OPED主題歌のテレビサイズも収録。CDブックレットには伊藤氏による楽曲解説も掲載されているのでチェックして欲しい。
最後に読者へのメッセージをいただいた。
「音楽を提供している側からすると、“感じてもらいたいサウンド”というのはあって、環境によっては聞き逃してしまう音はあると思います。Acoustuneのような高品質なイヤフォンなら、こちらが表現したかった音に気付けたり、新たな発見があります。決して安価ではないですが、興味のある方はぜひトライしてみてほしいですね」
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