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古いミニコンポのスピーカーを、最新ピュアオーディオアンプで復活させる

古いミニコンポ、眠っていませんか?

“断捨離”や“ミニマリスト”なんて言葉をよく聞く今日このごろ。けれど、なかなかモノが捨てられない皆さん、こんにちは。私も捨てられない人です。特に思い出のあるAV機器なんて“場所をとるのに捨てられないモノ筆頭”。押入れを開ければ、なつかしのミニコンポとご対面。

ミニコンポ、最近使っていますか? かつては、CDやMDやラジオなどが1台で聴ける“家庭内のメインオーディオ”として活躍していたけど、スマートフォンが音楽を聴くメインデバイスになって以来、小さなBluetoothスピーカーや、ワイヤレスヘッドフォン/イヤフォンに活躍の機会を奪われ、そもそもサブスクメインでCDを再生する機会も減り、私と同じように押入れの中に……なんて人も、少なくないのでは。

ただ、時代とともに再生するメディアが変化しても、“家の中で良い音で音楽を鳴らしてくれる機械”は存在して欲しいもの。「小さなBluetoothスピーカーより、昔のミニコンポの方が良い音してたなぁ……」、「ミニコンポも、スピーカーだけならまだまだ活躍できるのでは?」なんて考えが。

そこで、「古いミニコンポのスピーカーを、最新のオーディオスピーカーでドライブしたらどんな音がするのか?」、「最新のストリーミング音楽なども楽しめるのか?」を実践。結論から言うと「めちゃくちゃ楽しい」。これこそ“オーディオ再入門”に最適なのでは、という体験になった。

このミニコンポ、覚えていますか?

ソーテックのミニコンポ「VH-7PC」

長年、オーディオやパソコンを趣味にしている方なら、写真を見た瞬間に「あったあった!」と膝を叩くかも。このミニコンポ「VH-7PC」、覚えていますか?

ブランドはソーテック。ソーテックは、かつてオンキヨーが販売していたパソコンのブランドで、「AFiNA AV」というPCに同梱されていたのがこのコンポ。PC自体もコンポと同じようなデザインで、“PCをまるでコンポの1つとして並べて使う”“PCを感じさせないPC”がコンセプトだった。発売は2000年10月なので、今から約21年前……もうそんなに経ったのかとショックを受ける。

ちなみに、コンポを手掛けたのはケンウッドで、ミニコンポ「AVINO」シリーズがベース。「そもそも、なんでPCとミニコンポがセットで?」と思われそうだが、このミニコンポ、当時は先進的だったUSB DAC機能が内蔵されていて、PCと親和性が高かったのだ。当初は単品販売されなかったものの、2001年1月に直販39,800円で単品販売を開始。その後、14,800円でローソンで販売されたり、秋葉原で1万円くらいで売られたりと、“高機能なミニコンポなのに激安”と話題になり、“知る人ぞ知るお買い得コンポ”として人気になった……という経緯だ。

構成としては、スロットインCDや、USB DAC、アンプなどを備えたメインユニットと、2ウェイのブックシェルフスピーカーという、ミニコンポとしてはオーソドックスなもの。久しぶりに引っ張り出しみたところ、CDプレーヤーはお亡くなりに。ただ、外部入力やラジオチューナー、USB DAC機能などは健在。

メインユニットの背面

スピーカーは2.5cm径のツイーターに、11cm径のウーファー。筐体やウーファーは青く、未来的な雰囲気だが、バッフルに木目のプレートを配置してオーディオっぽさを出すなど、先進的なデザインは20年以上経っても古さを感じさせない。

最新かつユニークなプリメインでドライブする

そんなVH-7PCのスピーカーを、最新のピュアオーディオアンプでドライブして、現代に蘇らせよう。最新アンプとして選択したのは、マランツの「NR1200」で、価格は116,600円。ミニコンポの価格からするとちょっと高価だが、昔流行った“ハイコンポ”と似た価格帯。しかし、NR1200はれっきとしたピュアオーディオ用のステレオアンプだ。

選んだ理由は大きく2つ。1つは、本格的なピュア用アンプながら、高さは105mmと薄型な事。ミニコンポはその名の通り、“ミニ”で設置しやすいのが利点なので、ピュア用アンプであっても、コンパクトな機種を選びたかった。

マランツの「NR1200」

もう1つの選択理由は“ピュア用アンプなのに高機能”である事。具体的には、HEOSテクノロジーによるネットワークオーディオ機能を搭載しており、例えばハイレゾの「Amazon Music HD」など、音楽ストリーミングサービスを、このアンプだけで再生できてしまう。

「NR1200」だけでAmazon Music HDも再生できてしまう

さらに注目は、ピュア用アンプなのに“HDMI入力”まで搭載している。つまり、テレビと接続したり、BDレコーダーやゲーム機などを接続して、テレビ番組や映画、ゲームソフトの音を高音質に再生できてしまう。しかもHDMIは5入力/1出力と豊富で、AVセレクターのようにも使えてしまう。かつてのミニコンポは、MDやCDやラジオなど、家庭内の様々なソースの再生を一手に引き受ける存在だったが、NR1200であれば、それと同じような役目を、ピュア用アンプながら果たせるというわけだ。

「NR1200」の背面。HDMI入力が5系統も並んでいる

多機能だからといって、音質面でも抜かりはない。大型のアルミ製ヒートシンクを搭載し、大出力のパワーアンプを放熱するほか、ヒートシンクを“梁”のように使い、薄型筺体の剛性も高めている。

この大型ヒートシンクに、フルディスクリートパワーアンプのL/Rチャンネルを、左右対称に配置するシンメトリカル・レイアウト。左右の電源ライン、信号ラインを等長にする事で、チャンネル間の音質差を無くす、Hi-Fiアンプらしい設計になっている。定格出力も75W×2ch(8Ω)と立派だ。

パワーアンプのL/Rチャンネルを、ヒートシンクの中央から、左右対称にリッチに配置

高音質なアンプには何よりも電源が重要となるが、電源トランスには大型のEIコアトランスを採用。巻線を回路ごとに独立させ、繊細なアナログオーディオ回路やパワーアンプ回路へのノイズの回り込みを排除している。

電源トランスには大型のEIコアトランスを採用

懐かしのミニコンポ、どんな音だっけ?

まず、VH-7PCの音を思い出そう。比較のために、外部入力やUSB DAC機能を使って音楽を聴いてみた。

思いのほか、量感のある低音が出てきて驚く。なかなか立派な音だ。「低価格ながら高音質」と人気だったのもうなずける。ブックシェルフでも低域に迫力があるので、ミニコンポとしては、かなり満足度の高いサウンドと言えるだろう。

だが、ピュアオーディオ的な目線で聴くと、気に入らない部分もある。先程「立派」と書いた低域の中身だ。量感は悪くないのだが、低い音がモコモコしていて不明瞭だ。例えば「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」にはアコースティック・ベースが豊富に入っているが、その音が「ブォオオーン」とふくらんで、弦が震える様子や、音の細かな輪郭がまったく見えない。ロックでは迫力が大事ではあるが、分解能が低いと、ベースの音も、ドラムの音も、同じように聴こえてしまい、気持ちよさが無い。

さらに、モッコモコな低音が音楽の中心にズドーンと居座っており、そればかりが目立つ。「迫力がある」と言えばあるのだが、中高域の細かな音が聴き取れないため、“ステージがあって、ここにボーカルがいて”というような、映像を見ているような音場や、音像の定位感に乏しい。その結果、音楽が大味に聴こえる。中高域がこもっているというわけではないのだが、低音がブォーンと膨らみ過ぎているので、その良さが耳に入らないのだ。

「マイケル・ジャクソン/スリラー」は、ビートのキレや、夜空に浮かぶSEの定位が面白い曲だが、VH-7PCではモコモコなのでキレが感じられない。音が前に押し出してくる迫力はある程度あるのだが、その押し出される音も情報量が少なく、“ヤワ”なので、インパクトが無く、なんとなく“聴き流して”しまう。BGM的に楽しむならこれで良いのだが、スピーカーと対峙して、じっくり聴き込もうという気になれない音だ。

「宇多田ヒカル/花束を君に」のような、シンプルな女性ボーカルの楽曲ではそこまでアラは目立たない。ただ、声の表情の細かさ、音像の口の開閉などは不明瞭で、あまり“ホログラフィックな音像が部屋の中に出現した!”という感じにはならない。

何曲か聴いていると、まるで素材にこだわり、下ごしらえも丁寧に、熟練の料理人が作ってくれた和食のコースに、全部ケチャップをぶっかけて食べているような気分になってくる。

音楽だけでなく、アナログ入力を使ってゲーム機とも接続してみた。Nintendo Switchの某「狩りゲー」の新作をプレイ。個人的に、双剣など、攻撃スピードの速い武器で、モンスターを斬りつける“ザシュザシュ”という音が気持ちよくて好きなのだが、音にキレがないので「ボシュボシュ」みたいに聞こえ、あまり爽快さが無い。

人気のバトルロワイヤルゲーム「Apex Legends」もプレイしてみたが、これも気持ち良さという面では今ひとつ。ブックシェルフスピーカーらしい広い空間表現は楽しめるのだが、攻撃した時の「ズドドド」という銃撃音の分解能が甘く、ちょっとこもった音で迫力がない。このゲームでは、敵が装備しているアーマー(鎧)に一定のダメージを与えると「バキン!」という音を立てて“割れる”のだが、その音にも気持ちよさが足りない。

NR1200でドライブ、ミニコンポは復活するか!?

では、NR1200でドライブしてみよう。いくら最新機種かつ、ピュア用アンプとはいえ、スピーカーは古いまま。「アンプを変えるだけで、そこまで音は変わるのかな?」と、ちょっと不安だ。

だが、音が出た瞬間にぶったまげた。さっきまでモコモコしていたVH-7PCのスピーカーから、超高解像度な、現代的なサウンドが飛び出してきたのだ。思わず「お前、こんな音出せたの!?」とスピーカーに話しかけてしまう。

先程の「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」も、ベースのモコモコがスッキリと消え、弦が震える細かな描写がクリアに聴き取れる。モコモコ低域に覆われて、よく見えなかったドン・ヘンリーのボーカルもクッキリだ。ベースの低音と、ドラムのビート、同じような低い音でも、音色の違いがキッチリ描けているため、両者がくっつかず、ハッキリと分かれて聴こえる。

先程「ミニコンポでもブックシェルフスピーカーなので音場の広さが出る」というような事を書いたが、NR1200でドライブした音場はそれどころではない。音が良くなっただけでなく、空間の広さ、奥行きの深さも一気にアップ。まるでスピーカーの間にある壁が消滅したように感じる。あまりの違いに唖然としてしまう。

「マイケル・ジャクソン/スリラー」も、冒頭から広大な空間に、犬の遠吠えや足音が響く。ビートのキレが比較にならないほど良くなり、鋭く切り込む低域のソリッドさにゾクゾクする。低域の迫力もアップしているが、不必要に膨らまず、タイトさがあるため、多くの音が聴き取れてとにかく気持ちが良い。

「宇多田ヒカル/花束を君に」も、まるで違う。彼女の音像の定位が明瞭になり、その声が広がっていく空間の広さ、そしてサビの前に入る「ハァーッ」という吐息のリアルさも、圧倒的にNR1200の方が上手だ。というか、ほんとうにコレは同じスピーカーから出ている音なのだろうか。

HDMI入力を活用し、こちらでもゲームをプレイ。Apex Legendsも、フィールドが拡大したのではと思うほど、空間表現力がアップ。銃を乱射しても、「ズドドド」という射撃音はタイトで端切れが良く、敵キャラのアーマーを破壊した時の「バリーン!!」も明瞭で気持ちが良い。

「狩りゲー」も激変。モンスターとのバトル中に、重厚なBGMが流れる時があるのだが、その音楽も微細かつパワフルに再生するので、説得力があり、グワッと胸に迫るものがある。そして、オーケストラによる重厚なBGMが流れる中でも、「くらいなさい!」「いくよー!」というような、モンスターと戦うキャラクター達の声が明瞭に描写できている。

テレビとの親和性が高いところもポイント

アンプを変えるだけで、ここまで変わるのかという変化具合に驚いたが、音以外にもNR1200と接続しながら「あー、これはイイわ」と思うポイントがある。前述の通りHDMI入出力を備えているので、メニューや設定画面がテレビに表示できるのだ。

ミニコンポや単品のピュアオーディオ機器は、搭載しているディスプレイが小さく、表示される情報量も少ないため、説明書とリモコンを手に「えーっと」と、何度も操作ミスをしながら設定していくイメージがある。

しかし、NR1200の場合はテレビ画面なので情報量が桁違い。しかもセットアップナビ機能においては、スピーカーケーブルの“剥き方”や、接続する端子まで、イラスト入りで教えてくれる親切仕様。これなら、本格的なコンポに触れるのが初めてという人も、説明書無しで使いこなせるだろう。

AVアンプっぽい機能ではあるが、便利なことに違いはないので、他の2chのHi-Fiアンプでもぜひ搭載して欲しい。

非常に丁寧なセットアップナビ
入力端子の割り当て変更なども一目瞭然だ

HDMIを搭載しているので、テレビの音もリッチなアンプ×スピーカーで再生できるようになる。サラウンド再生という面ではAVアンプにはかなわないかもしれないが、テレビ内蔵スピーカーと比べると、NR1200×VH-7PCスピーカーのサウンドの方が桁違いに良い。

テレビドラマや映画、アニメなどを重厚かつ広大なサウンドで再生できるので、テレビの楽しさ自体も大幅にアップする。音楽を聴く以外の時間もNR1200×VH-7PCスピーカーを活用できるようになるので、コストパフォーマンスを高める意味でも大きなポイントだろう。

それにしても、古いミニコンポスピーカーをNR1200でドライブした時のサウンドは衝撃だ。「誰でも違いがわかる」というレベルではなく、おそらく聴いたら「マジかよ!」と笑ってしまうほど違う。ミニコンポのメインユニットと、単品ピュアオーディオアンプを比較している時点で当然と言えば当然なのかもしれないが、それ以上に、オーディオ機器の20年以上の進化も感じられる。

音質だけでなく、使い勝手の面でも進化を実感する。CDプレーヤーも無いのに、スマホのアプリをちょちょっと操作するだけで、オンライン経由で超大量のライブラリから好きな曲をNR1200×VH-7PCスピーカーからすぐ再生できる。CDを入れ替える必要もない。使ってみると、やはり便利で後戻りはできない。

“古いミニコンポスピーカーの再生”という意味では大成功な結果となったが、しばらく聴いていると「インシュレーターを変えたらもっと良くなるかな」とか「スピーカーを最新モデルに変えたら、音はどうなるんだろう?」とか考えて、オーディオ熱に火がついてしまう。いずれにせよ、押入れに古いスピーカーが眠っているという人は、最新アンプで鳴らしてみるところから“オーディオ再入門”してみるのも、面白いハズだ。