レビュー
“HDMIオーディオ”のススメ。TVやゲームの音がマランツ「NR1710」と「NR1200」で格段UP
2020年4月17日 08:00
YouTubeやNetflixといった動画ストリーミングサービスが浸透した現在、テレビなどの映像機器は高画質化・大画面化だけではなく、様々な映像配信サービスに対応することも重要な要素となった。
テレビで今まで以上に多種多様なコンテンツを楽しめるとなれば、それに伴い「もっといい音で楽しみたい」要望が生じるのはごく自然な流れといえる。そんななか、「薄型テレビと組み合わせるオーディオ機器」として、マランツのアンプ「NR1710」と「NR1200」が市場で大きな存在感を放っている。
似ているようで結構違う2機種。“HDMI付き”をどう活かす?
NR1710とNR1200はどちらも「HDMI入出力を搭載して映像コンテンツとの親和性に優れ、高さと奥行きを抑えたコンパクトな筐体により薄型テレビとの組み合わせに適したアンプ」である。HDMIケーブルでテレビと繋げばARCで「テレビの音」を再生でき、様々な映像機器とテレビを仲介するハブにもなる。価格はNR1710が90,000円、NR1200が78,000円。リビングで使いやすく、かつオーディオ機器として高価になりすぎていないことも大きなポイントだ。本体カラーはシルバーゴールドのほか、NR1710にはブラックも用意する。
共通する機能も多いが、NR1710はAVアンプであるのに対し、NR1200はHi-Fiのプリメインアンプであり、両機の立ち位置は必ずしも同じではない。ゲーム機やストリーミングデバイスなど、最近の映像機器は映像/音声出力兼用としてHDMI出力のみ搭載する場合も多く、その点で、Hi-FiアンプであるNR1200が従来のデジタル入力に加えてHDMI入出力を搭載したことは画期的といえる。今回は両機種を“HDMIオーディオ”と呼んで、それぞれの音の良さや利便性などを紹介したい。
共通機能が多いとは書いたが、NR1710とNR1200では搭載するアンプのチャンネル数以外にも、機能の有無や内容で差がある。例えば、NR1710が対応するeARC(Enhanced ARC)は、ARCの進化版であり、テレビからAVアンプへの非圧縮の5.1chや7.1chのオーディオ信号、Dolby Atmos/DTS:X信号の伝送が可能になる。もちろん、アンプやDACチップといったオーディオ機器としての要素にも両機種に違いはある。
詳細は後述するが、実はNR1710とNR1200で真に同等と言えるのはネットワーク機能くらいのもので、細かな部分では結構な違いがある。とりあえず機能面では、「NR1200にできてNR1710にできないことはない」くらいの認識で問題はない。
今回の記事ではNR1710とNR1200を様々な用途で試しつつ、機能面で違いがあればそれに触れていくことで、それぞれの魅力を紹介したい。組み合わせるスピーカーにはB&W 607を使い、各種検証は筆者のデスクトップ環境/ゲームシアターで行なった。
NR1710とNR1200の主な違いや共通点
AK4458VNの2.1ch仕様、各chはダブル・ディファレンシャル構成(NR1200)
お手軽派orこだわり派どちらも対応可能
まずはスピーカーとの接続など、使用に先立つセットアップから見ていこう。
NR1710とNR1200はどちらも、接続したディスプレイに各種設定を表示できる。メニュー画面と、初回起動時などに接続等をガイドするセットアップアシスタント機能があるが、NR1200はNR1710と比べると簡易的な表示となる。
AVアンプであるNR1710は、付属のマイクを用いて、部屋の音響特性に合わせた自動音場補正を行なうAudyssey MultEQが利用できる。
一方のNR1200は自動音場補正機能を持たないため、NR1710以上にきちんとしたスピーカーの設置が重要になる。置く位置を自分で細かく調整しながら決めるなど、追い込み甲斐があるともいえる。
今回、NR1710はB&W607をフロントに、Monitor Audio MASSをサラウンドに使う4.0ch構成でセットアップした。最初の設定が済んでしまえば、実際に使うスピーカー/チャンネルの数はさておき、両機の使い勝手の差はほとんどないと言っていい。
テレビや動画配信、ゲームの音が手軽にレベルUP
それでは、実際にNR1710/NR1200とB&W 607で様々なコンテンツを視聴していく。
まずはテレビ番組から。今の環境ではテレビではなくPCディスプレイを使っているので、レコーダー→NR1710/NR1200→ディスプレイという接続経路となる。
映画やゲームといったコンテンツとの差異を出すため、ここではあえて報道番組やドキュメンタリーを中心に視聴したのだが、やはりディスプレイに内蔵しているスピーカーとの音の違いは歴然としている。最も顕著な違いが出るのはずばり「声」。B&W 607の能力の高さもあり、アナウンサーや番組出演者の声が濁らず明瞭に、実体感を伴って再生され、画面に対する集中力がまるで変わってくる。
もちろん、ドラマや音楽番組ではますます恩恵が大きくなる。たとえ何気なく流し見るような番組であっても、「いい音」によって別物のような印象に生まれ変わる。
なお、テレビ番組はどうしてもステレオ音声が多いこともあり、あくまでもテレビ(放送)の音を良くしたいということを第一に考えるなら、NR1710の機能は持て余すかもしれない。
続いてPS4 Proを繋ぎ、映像ストリーミングサービスとゲームを試す。
今回使った映像ストリーミングサービスはAmazon Prime Video。かなりの数のタイトルがサラウンド(5.1ch)で配信されており、今回のシステムは4.0ch構成ながら、AVアンプであるNR1710が大活躍する。
とはいえステレオ再生のNR1200では楽しめないかと言われれば決してそんなことはなく、ディスプレイ内蔵のスピーカーを使った時とは次元の違う満足度が味わえることも確か。テレビ番組とは異質なレベルで作り込まれた映画音響を再生するにあたり、NR1710/NR1200とB&W 607はその能力をいかんなく発揮し、作品への没入感を高度に醸成する。
ゲームは人気の「モンスターハンターワールド:アイスボーン」をプレイ。本作のようにサラウンドに対応したタイトルであれば、環境がサラウンドか否かはゲームプレイに決定的な差異をもたらす。精緻に作り込まれた音がプレイヤーの操作にリアルタイムに反応して全方位から押し寄せ、それによって生じる圧倒的な臨場感はサラウンドでしか味わえないものだ。
オーディオ機器の導入に際し、特に最新世代のゲームを上質な環境で楽しむことに大きなウェイトを置くのなら、ぜひNR1710をおすすめしたいところだ。仮に当面はステレオ2chでシステムを構築するとしても、将来的な発展性があることの意味は大きい。
さて、ここからはいったんテレビ/映像から離れて、NR1710/NR1200を純粋に“オーディオコンポ”として活用していく。
NR1710/NR1200は、アナログとデジタルの入力を持つプリメインアンプとして使えることはもちろん、Bluetoothのワイヤレス入力など多彩なネットワーク機能を持つ。
Bluetoothの利用は簡単で、ペアリングもすぐに終わり、接続に不安定さを感じることもなかった。ごく気軽な感覚で音楽を再生でき、再生音もアンプとスピーカーの能力が高いおかげでじゅうぶんに満足がいく。純粋に音質のことを考えれば、iOSデバイスを使っているならBluetoothではなくAirPlayで接続するのがいいだろう。
NR1710/NR1200は共にD&Mのネットワーク機能「HEOS」を搭載し、NASなどローカル音源のネットワーク経由での再生や、音楽ストリーミングサービスの音源の再生が可能。ハイレゾを含む、再生可能な音源のスペックや対応サービスは両機で共通だ。
メニュー画面やセットアップアシスタントにおいてはNR1710に比べて表示が簡易化されていたNR1200だが、ネットワーク機能については同等の画面表示となる。基本的にスマートフォン/タブレットのHEOSアプリを使った方が操作性は優れるが、テレビの大きな画面を使って選曲するのもこれはこれで楽しい。
HEOSで注目すべきは、昨年に日本でもサービスが始まったロスレス/ハイレゾ音楽ストリーミングサービス「Amazon Music HD」にいちはやく対応を果たしたこと。最高192kHz/24bitのスペックのハイレゾ音源を定額聴き放題になるということで、音楽ファンとオーディオファンの双方が受ける恩恵は計り知れないものがある。
Amazon Music HDの音源についても、HEOSのアプリから再生することが可能だ。ごく手軽なBluetooth接続から最新のロスレス/ハイレゾ音楽ストリーミングサービスに到るまで、「音楽を聴く」ための幅広い選択肢を用意していることはNR1710/NR1200の大きな魅力といえる。
最後に、「NR1710とNR1200はどのような使い方に適すか」とは別に、おそらく誰もが気になるであろう「NR1710とNR1200はどちらが高音質か」という問題について、筆者の見解を書いておきたい。なお、NR1200はマルチチャンネル再生が不可能なので、比較はあくまでもステレオ2chの音楽再生で行なっている。
ずばり言って、NR1200の方が高音質だと筆者は感じた。主にローカルの音源とAmazon Music HDの音源で比較したが、中域の豊かさ、音離れの良さ、立体的な表現力といった様々な要素で、NR1200の再生音はNR1710を上回る。
B&W 607はバイワイヤリング対応であり、NR1710と組み合わせてバイアンプ駆動が行なえるので、もちろんその状態でも音を聴いた。バイアンプ状態により確かに音質は向上する。レンジ感とエネルギー感の両方が充実し、よりスムーズにスピーカーから音が放たれるようになる。NR1710とバイワイヤリング対応のスピーカーを使っていて、サラウンドバックまたはトップスピーカーを使っていないなら、ぜひバイアンプ駆動を試してほしいと思うことに変わりはない。
ただし、NR1710でB&W 607をバイアンプ駆動した状態であっても、NR1200で鳴らした時の再生音はそれを上回っている。一例としてAmazon Music HDで聴いたクイーンの「地獄へ道づれ」では、低域のキレや全体的な音の立ち上がりにおいて差が感じられる。
「映像もいい音で楽しみたいが、フロント2ch以外にスピーカーを置く気はない」のなら、文句なしにNR1200をおすすめする。純粋な音質においては、やはり“Hi-Fiアンプ”として2chにリソースを投入したNR1200にアドバンテージがある。たとえサラウンドではなくても、優れた2ch再生環境によって映像音響もじゅうぶんに楽しめる。
少しでも「マルチチャンネル・サラウンド」に興味があるのなら、その場合はNR1710をおすすめする。映像作品やゲームの音をサラウンドで体感することの楽しさは、純粋な音質とはまた別の次元で素晴らしい価値がある。バイアンプを含めた機能性や発展性は明らかにNR1710が上回り、音楽を聴いても満足のいくアンプであることも確かだ。
もしオーディオ機器の導入でNR1710とNR1200の両方が選択肢に挙がったのなら、いい機会だと思って、自分のシステムに求める方向性や、どんなコンテンツを楽しみたいかなどをじっくりと考えてみてほしい。その結果どちらを選んでも、それが日々の暮らしを彩り豊かにしてくれることに疑いはない。
(協力:ディーアンドエムホールディングス/マランツ)