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R2R DACからスピーカーまで! 広がる“超小型DIYオーディオ”でマニア心に火がついた

第2弾も登場して充実したJOYCRAFT DIY series by Oriolus

小さな自作オーディオにスピーカーやヘッドフォンアンプが追加

ハンダ付け不要な簡単な工作で、誰でも手軽にオーディオを楽しめる「JOYCRAFT DIY series by Oriolus」。第1弾として真空管も使ったプリメインアンプ「OA-JC1」(実売約1万8,700円)、FMチューナー「OA-JC2」(同約1万7,600円)が発売されている。

むき出しの基板にパーツを組み付けていくだけの簡単な工作だが、手作りの感覚はなかなか楽しいし、出来上がった小さなコンポには愛着が湧く。しかもそのサイズは手の平大のコンパクトなものだから、机の上に置いていつでも眺めていられる。もちろん、ちゃんと音がでるオーディオコンポだから置物ではなく愛用できる。

そんな魅力的な自作コンポに、第2弾の製品が登場する。

10月21日に発売される真空管搭載R2R DAC「OA-JC3」(実売約2万8,600円)、真空管搭載A級ヘッドフォンアンプ「OA-JC5」(同約2万4,200円)、そして年末に発売予定の4インチフルレンジユニット搭載スピーカー「OA-JC10」(同約3万1,900円)の3モデルだ。

真空管搭載R2R DAC「OA-JC3」
真空管搭載A級ヘッドフォンアンプ「OA-JC5」
4インチフルレンジユニット搭載スピーカー「OA-JC10」

ラインナップを見ると、自作コンポとしてはぜひ欲しいスピーカーが加わったことが大きい。送り出しのプレーヤーはCDでは規模が大きくなりがちだし、現在のオーディオとして主流とは言いにくい。その点、D/Aコンバーターは携帯デジタルプレーヤーやコンパクトな製品も多いネットワークプレーヤー、PCやスマートフォンなどと幅広く接続できる。デスクトップに置けるコンパクトさを維持しながら、音の入り口から出口までをJOYCRAFTシリーズで完結できるようになったわけだ。

これを実際に組み立てて、いろいろと試してみませんか。と編集部から連絡があり、喜んで引き受けた。せっかくなので、第1弾の製品も合わせていろいろと遊んでみたい。

いずれのモデルも、付属の真空管をソケットに挿入。四方のポールでアクリルの天板、底板を取り付ければ完成する手軽なDIYだ

コンパクトかつシンプルな構成だが、しっかりと作られたJOYCRAFTのコンポ

まずは、それぞれの製品を簡単に紹介していこう。プリメインアンプのOA-JC1はアナログ入力1系統を備えたパワーアンプ。前段は真空管「12AU7」で後段がオペアンプ「TPA3116」となる。機能としては音量を調整するボリュームがあるだけだ。

デジタルパワーアンプOA-JC1を前方から見たところ。トグル式の電源スイッチとボリュームがある
OA-JC1の後ろ側。RCA端子の入力とバナナプラグにも対応するスピーカー端子がある

FMチューナーのOA-JC2は、アンプと同じツマミがついているのでパッと見で区別がつきにくいが、これは受信する電波の周波数を合わせるためのもの。ボリュームのとなりにインジケーターが3つあり、周波数が合うとインジケーターが点灯する。こちらにも真空管の「12AU7」が使われている。背面にあるのはライン出力(RCA)とアンテナ用の接続端子がある。アンテナ線も付属している。

FMチューナーOA-JC2の前側。一見するとアンプとよく似ているが、ツマミの右にある3つのインジケーターで区別ができる
OA-JC2の後ろ側。ライン出力(RCA)とアンテナ線の入力端子がある

温かみのあるなめらかな音。デスクトップオーディオとして十分優秀

まずは、第1弾の組み合わせで音を聴いてみた。スピーカーは手持ちの小型スピーカー「B&W 607」だ。なお電源はどちらもUSB-C端子による給電で、ACアダプターなどは製品には付属しない。スマホ用の充電器などの充電用アダプターやUSB-Cケーブルは多くの人が所有していると思われるので、まずはそれらを使えばいいだろう。

専用の電源として各種のUSB充電器を選ぼうと思うと、知らず知らずのうちに沼が近づいてくる。基本的には20V以上の出力ができるPD電源とUSB-Cケーブルが必要で、一定の出力(目安は15V)以上ならばどれも使用可能ということだ。ここでは編集部にあったAnkerのPD電源を使用。2口の出力があるタイプでも、20V以上の同時出力ができるなら、ひとつの電源で2台に電源を供給することも可能だ。

FMチューナーということで選局の必要があるのだが、周波数を表示するディスプレイなどはないので勘でツマミを回していくことになる。筆者はFM誌の編集をしていたこともあるので、関東圏の主要なFM局の周波数は未だに覚えているが、東京近辺ならば適当に回すとたいていは、NHK-FMの東京局(82.5MHz)、TOKYO FM(80.0MHz)あたりで放送波が聞こえるはずだ。

なお、チューニングが合っていないときのサーッという局間ノイズはほぼホワイトノイズなので、スピーカーのエージングなどにも使える。実際に試してみたが、クラシックの室内楽が聴こえてきたのでおそらくはNHK-FMだろうと当たりを付けてチューニングを合わせた。付属のアンテナ線は簡易的なものでケーブルの長さからしても十分な性能ではないが、チューニングが合うとしっかりと曲も聞こえるし、曲を紹介するアナウンスもきちんと聞こえる。

アンテナケーブルも付属する

ただし、ザーっというノイズが混じりがちで、音量を上げていくとやや耳につく。アンテナ線は本格的な室内FMアンテナを入手してもいいし、作り自体は簡単なので自作という手もある。アンテナ線を延長して室内の金属部品(カーテンレールなど)に取り付けるのが簡単だろう。このあたりも追求すると沼に近づく。

さておき、NHK-FMのクラシックの室内楽などを聴いてみると、なかなか良い。帯域も狭いとは感じないし、弦楽器の音色の感じもきちんと出る。細かな質感の再現などはやや足りないという気もするが、価格を考えれば十分な実力だ。高域に独特の艶がのる感じがあり、みっちりと中身が詰まった感じがするのは真空管の12AU7の音質傾向と思われる。温かみのある、なめらかな感じは赤く電極が発光する真空管のたたずまいもあって、聴き心地がいい。

真空管の12AU7

DAPのAstell&Kern「A&Futura SE300」のアナログ出力をOA-JC1に接続して、ハイレゾ音源などを聴いても、音質的にはより精細になるが温かみのある傾向は変わらないので、12AU7を共通して使う点を含めてJOYCRAFTシリーズの基本的な音質傾向なのだろう。

なお、音量はけっして大音量が鳴るわけではないが、デスクトップなどでの近接試聴ならば十分以上の音量が出る。これはオペアンプ「TPA3116」で十分な出力が確保できているためだ。1万円前後で手作りできるコンポとしてはかなり出来がよく、しっかりと設計されていることがわかる。

JOYCRAFTの設計チームは、過去に流行ったオーディオ雑誌の付録の小型オーディオコンポを設計したこともあるようで、小さな基板に必要な機能をレイアウトするノウハウや配線の引き回しのコツなどもよくわかっていると思われる。おそらくはコンデンサーや抵抗といった部品もコストの範囲内でよく吟味しているだろう。自作キットだから音は期待しちゃいけない、なんてことはなく、思った以上にしっかりと出来ている。

楽しみの幅をさらに広げる第2弾の製品を紹介

今度は第2弾として追加された製品を紹介しよう。真空管搭載R2R DAC「OA-JC3」は今やハイエンドオーディオメーカーがカスタムで開発することが増えているR2R型のD/Aコンバーター。いわば現在の主流である1bit DACに対するマルチビット型DACだ。

OA-JC3の前側。こちらにも3つのインジケーターがあり、機器を接続すると対応するインジケーターが点灯する

作りとしてはシンプルなのでカスタム化しやすいが、CDならば16bitの信号を16個の回路(抵抗の組み合わせ)で分担するため抵抗の性能を揃えるのが大変になる。ハイレゾ音源が主流の現代では24bitや32bitという精度で性能を揃える必要があり、性能を求めると莫大なコストがかかるというもの。

おそらくハイエンドオーディオと比較になるような性能を持つものではないだろうが、見た目で言えばあまり面白くないLSIチップひとつで済んでしまう1bit DACよりは趣味性を重視して選んだものと思われる。

基板をクローズアップ。基板の中の緑色の部分がR2R DAC部分だと思われる。なかなかの高密度実装だ

R2R DACを搭載した製品は市場では高価な傾向があるが、OA-JC3は約2万8,600円と、JOYCRAFT DIYの他の製品とあまり変わらない価格に抑えられているのが嬉しい。スマホのヘッドフォン出力をOA-JC1に直結して聴いているよりは音質的なグレードアップは期待できる。なにより、こうした手作り感満載の機器が増えてくるというのが楽しい。男の子はいくつになってもこういうのが好きなのだ。

性能についても、PCMが最大768kHz/32bitに対応。DSDもPCM変換で再生でき、MQA音源にも対応と機能は十分。まだD/Aコンバーターを使ったことがないという人が入門用に試すのにもぴったりだ。

OA-JC3の後ろ側。ライン出力(RCA)のほか、USB-C端子が給電用とデータ入力用で2つある。接続時は間違えないように注意しよう

OA-JC5は、デスクトップオーディオには欠かせないヘッドフォン用のアンプだ。こちらはA級動作でトランジスタも大型のものを使っている本格派。せっかく基板が見えるのにIC化されたオペアンプでは物足りない、とお嘆きの貴兄も満足のアナログ感たっぷりの逸品だ。

OA-JC5の前側。ヘッドフォン出力は6.5mmの標準ジャック。ボリュームやツマミはアンプなどと同じだ

A級シングルエンド動作なので、ヘッドフォン出力は当然一般的なアンバランス(シングルエンド)。バランス出力も欲しいと思う人もいるかもしれないが、バランス動作にすると単純にトランジスタなどの出力段が倍に増えるので、このサイズに収めるのは難しいとわかってほしい。

OA-JC5の後ろ側。入力端子はライン入力(RCA)のみ

最後は、4インチ(10cm)フルレンジユニットを備えるスピーカー「OA-JC10」だ。10cmユニットだからサイズも片手で持ち運べる大きさでデスクトップに置くスピーカーとしてはぴったりなサイズ。

スピーカー「OA-JC10」は片手で持てるサイズ感

エンクロージャーは木製。スピーカーを保護するカバーも付属する。「自作コンポと言えばスピーカー」という感じで、待ってましたという人も多いのではないかと思う。

なお、こちらはキットではなく完成品での販売だが、DIY熱に火がついたひとは、好きな色に塗ってみるのも面白いかもしれない。

こちらもスピーカーとしてはなかなか本格的で、エンクロージャーはがっしりとして強度がしっかりあるし、後ろになるバスレフポートの表面にはゴルフボールのようなディンプルがついたもので、放出される気流を制御して放出時の風切り音のようなノイズを低減するもの。樹脂製で強度も高い。こちらもしっかりと吟味された部品を集めたものだろう。

4インチフルレンジユニットのクローズアップ。オーソドックスな紙コーンのユニットだ
OA-JC10の背面。バナナプラグ対応のスピーカーケーブルとバスレフポートがある
保護用のカバーを装着した状態。こうした装備が用意されているのもうれしい
正面から見たところ。完全な正四面体ではなく少しタテ長の形状になっている
デスクトップでの置き場所に合わせてヨコ置きとするのも面白そう

試聴開始。アナログ的な音の感触がよく感じられるR2R DAC

試聴を開始。スピーカーは距離がやや広すぎたため、後で内振りにセッティングを変更している

スピーカーをOA-JC10に切り替えて、本格的に試聴してみよう。

プリメインアンプのOA-JC1と、DAPの「A&Futura SE300」のアナログ出力による接続で、OA-JC10に切り替えた状態で聴いた。

デスクトップ向きのオーディオではあるが、試聴ではスピーカースタンドに置いて一般的な小型スピーカーと同じ状態(スピーカーの間隔は約2m)で聴いている。

10cmフルレンジスピーカーのOA-JC10に変えると、さすがに低音には差があり、スケール感や迫力は乏しくなる。だが、音像定位の良さと音場の再現はなかなかのもの。ボーカルは中央に浮かび上がるし、実体感も豊かだ。そしてコーラスやバックのバンドとの距離感が出て奥行きも豊か。これぞフルレンジ型の魅力。小型スピーカーにしては広すぎる距離で置いたのはこのため。音場感や空間再現を重視するならスピーカーの間隔は広めにするといい。

試しにデスクットップを意識してスピーカーの間隔を1mくらいとして近接試聴で聴いてみたが、視聴距離が近くなるためもあって低音の力感や迫力も出る。迫力を楽しむならば距離は近くてもいいだろう。音場感も決して悪くはないがややこぢんまりとした感じになる。

また、最初はコンポを置いたテレビ用ラックに一緒に載せてみたが、これはあまり良くなかった。少しもやついた感じになるというか、定位も甘くなるし空間感も感じにくい。デスクトップ上でセッティングする場合は、スピーカースタンドとまでは言わないが、ちょっとしたウッドブロックなど、スピーカー用の置き台を用意すると良さそう。高さはデスクトップに座った状態で耳の高さに合わせよう。

ここで、R2R DACのOA-JC3を追加。A&Futura SE300とUSB-Cケーブルでデジタル接続し、OA-JC3のライン出力をOA-JC1に接続した。

ところが、デジタル出力の相性なのか十分な音量が得られなかった。そこで、プレーヤーをソニー「NW-WM1AM2」に変更。こちらは正常に音が出た。このあたりの原因は不明だが、使用するプレーヤーなどによっては動作に不具合が出るケースがあるかもしれない。

改めてNW-WM1AM2とOA-JC1による再生もやり直して、OA-JC3の音を確認すると、音場もスケールもより豊かになる。高域の伸びもよくなって、高音の透明感や弦楽器の艶なども感じられる。特にOA-JC3も12AU7を使っているので、高域の艶に特徴のある音で、その効果がより豊かに感じられる。ピアノの演奏を聴いても、低音の骨太な響きや高音域の澄んだ音色まできれいに出て、音がリアルだ。

なかでも感心したのは、低音の再現。決してローエンドまで力強く鳴るわけではないが、中低音の厚みが出て反応も良い。だから、ことさらに低音不足という感じはしないし、エネルギー感もよく伝わる。中域の密度感が出て高音域も素直でしなやかな再現なので、アナログレコード再生に近い感触がある。デジタル音源のある種の音の硬さというか、良く言えば音の輪郭が立った感じがまろやかになってスムーズでなめらかな音になると感じた。

スピーカーの中域の密度の高いバランスがそう感じさせるとも思うし、12AU7の真空管の音質傾向もあるかもしれない。デジタルのハイレゾ音源を聴いているのに、アナログプレーヤーを組み合わせて聴くのも良さそうだなと思ってしまった。キットでは実現は難しそうなので、手頃なフォノイコライザー内蔵型のアナログレコードを組み合わせてもいいだろう。

まとめると、プリメインアンプのOA-JC1とフルレンジスピーカーOA-JC10のシステムに対して、R2R DACのOA-JC3を加えると、音質的なグレードアップになるのは間違いない。

今回はアナログ出力の質も高い携帯プレーヤーを使ったので、その意味でのグレードアップはあまり感じないが、もっと音質的に非力なスマホのヘッドフォン出力やノートPCのアナログ音声出力との接続ならば、デジタル接続による音のグレードアップの効果もより大きくなりそうだ。

ヘッドフォンアンプはなかなかの完成度。駆動力も高く、生々しい音

今度はヘッドフォンアンプのOA-JC5。

プリメインアンプと入れ替える形で、NW-WM1AM2 + OA-JC3のライン出力を接続して聴いた。イヤフォンはDITA「DREAM」を使っている。

ゲイン切り替えなどの機能はないが、ボリュームを12時くらいの位置として十分な音量が得られた。能率が低く、他の一般的なイヤフォンに比べてボリューム位置が大きめになるDITA DREAMにおいても、しっかりと鳴るのは立派だ。

音質については、DREAMの解像感の高さもあってキレ味の良さが印象的。また中低音域の反応がよく、リズム感が良いのも好ましい。

ボーカル曲を聴いても、声を出すときの力の入れ具合、息継ぎの音などニュアンスが豊かに出てなかなかの実力だと感じる。音質的には強調感や色づけのない素直な音なこともあって、自然で生々しい再現になる。思えば、雑誌の付録で話題となったのもヘッドフォンアンプだったし、作り慣れている良さがあるのかもしれない。しかも、A級動作できちんとトランジスタを使った出力段を持つなど、しっかりとした作り込みが出来ている。そういう基本設計の良さがしっかりと音に現れているのだ。

決して高解像度とか高S/Nをアピールする音ではないが、ニュアンスが豊かで声に限らず楽器の音の質感もしっかりと描くなど、情報量は思った以上に豊か。だから、シリーズ共通の自然な感触や生々しい音がよく出る。

また、入力セレクターも不要なアナログ入力のみ、ボリュームが付いただけのアンプというシンプルを極めた構成は、たくさんの機能を盛り込んだことで外部干渉が増え、その対策のために音が鈍っていくようなことがないのだろう。JOYCRAFTのシリーズとして、組み立てキットとしての楽しさを持つシリーズではあるが、OA-JC5は自宅で聴くときにヘッドフォンアンプを試してみたいと思った人が単独で手に入れても満足度の高い製品と言えそうだ。

シンプルなコンポだからこそ、電源は重要。置き場所の影響も大きい

試しているときにちょっと感じていたが、電源はわりと重要そうだ。USB PD電源は広く普及しているし、使い勝手も優れるが、その数はかなり多く、接続口の数で選ぶなどあまり気にしていない人が多いだろう。

しかし、オーディオ沼はあらゆるところに存在しており、USB電源で音質が変わるというのは一時期話題になった。

例えば、「スイッチング損失が少なく、高効率で電力変換が可能」「高速スイッチングが可能なので、スイッチング周波数で生じるノイズを可聴帯域外の高いところへ追いやれる。つまりノイズが少ない」という特徴を持つGaN(窒化ガリウム)素子を使用したものが良い、といった話だ。

とはいえ、USB充電器でGaNを使う目的は小型化と大出力なので、特にオーディオ用としてノイズの低さを目指して作られているわけではない。GaNを使ったUSB充電器は増えているが、音の良いものも・良くないものもある、という感じだ。このあたりはネット上にくわしい人がたくさんいるので、おすすめの製品を紹介してもらうと良いだろう。

JOYCRAFTのシリーズはコンポとしての機能もシンプルなので、電源の重要度も相対的に大きいのではないか。というわけで、編集部にあったUSB電源をいろいろと試してみることにした。

試したのは、NTT docomo製の一般的なACアダプター、AnkerのNano II、Anker Power Port III、Anker 521 Power Bankの4つ。結論から言ってしまうと、筆者の印象としてもっとも音が良かったのが521 PowerBank、僅差でPower Port III。このふたつがおすすめだ。見た目でいうと、大型のものの方が音が良い傾向があるような気がする。

今回試したUSB電源。左からNTT docomo製ACアダプター、Anker Nano II、Anker Power Port III、Anker 521 PowerBank。思った以上に音が違うという興味深い結果に

音が良いと感じた決め手は、音場の広がり。明らかに音の広がりが変化し、音場空間として広く奥深くなる。筆者は低ノイズになるほど音場は広がると認識しているが、実際にUSB電源のノイズレベルを測定したわけでもないので、いろいろと試した結果としての実感だ。また、音のエネルギー感や出音の勢いも変わる。これはきっと安定した電源供給ができるかどうかの性能に関わるもので、USB電源としても複数同時接続時の大出力電源供給能力などを目安にすると良さそうだ。差としてはわずかだったが、521 PowerBankが好ましいと感じた理由は、これだけがモバイルバッテリーとしても使えるバッテリー内蔵タイプだったことが影響しているのかもしれない。

521 PowerBankを買えという短絡的な話ではなく、「電源に使用するUSB電源は音質の影響が大きく、モデルによって差もある」ということを覚えておいてほしい。音質の良い製品を知りたいならば、ネットで調べればおすすめのものが紹介されているので自分で調べて購入すればよい。せっかくなので、すでに家にあるUSB電源を含めていろいろと自分で聴いて確かめるといい。これが面白いのだ。

これが発展すると、電源を取るタップはほかのコンポと併用していいか、電源タップを別にした方がいいか、電源タップを分けるならどのように電源を取るのが良いかをいろいろと考えて試すといい。その結果はすべて自分の経験と知識になるし、お金はないが音は良くしたいという欲求を満たすにはもってこいだ。

なお、価格としては不相応になるが、オーディオアクセサリーとして販売されているDC Power Supplyを使えば高価は絶大だろう。数万円のコンポに投資するお金として妥当かどうかは自分の経済事情と合わせて判断してほしい。

もうひとつ気になったのが、置き台の影響。ヘッドフォンアンプのOA-JC5を試していて気付いたが、音は出していないのにボリュームに触るとガサガサと音がする。気になってアクリルのケースを叩くと音がする。これは糸電話と同じ原理でコンポの振動がそのままイヤフォン(DITA DREAMのケーブルはわりと硬い)に伝わっていただけだとわかったが、コンポ自体が小さく軽いので振動がそのまま乗ってしまう。不要な振動はノイズなので、このままでは良くない。

オーディオボードをラックの上に置き、足場を強化。この状態で再度視聴

振動対策としてはコンポに重しを載せて質量で振動を止める方法もあるが、結果として良いことも悪いこともある(試してみると面白い)。比較的良好な効果が得られることが多いのは、足場を固めること。足場、つまり置き台の強化だ。足場を固めることで振動の影響を吸収する、メカニカルアースの発想だ。要するにオーディオボードの出番となる。

ここでは使っていないオーディオボードをラックの上に載せ、コンポをそこに置いて試聴をしてみた。結果は明らか。個々の音の粒立ちが良くなった。振動の影響が減ったのだろう。センターに定位するボーカルも、なんとなくそこに定位する感じだったのが、フワっと浮かび上がる感じになり、一歩前に近づいたようだ。声が出ているときだけなく、息継ぎのときの無音が深みを増し、かすかなニュアンスも明瞭になる。これはなかなか良い。

特にデスクトップで使うとき、パソコンのキーボードやマウスを置いたテーブル上にコンポもそのまま置いてしまいがちだが、キーボードを叩くときの打鍵による振動(思った以上にエネルギーは大きい)すべてコンポにも伝わると考えていい。コンポにしてみれば震度3くらいの揺れた地面の上でキレキレのダンスを踊れと言われているようなものだ。オーディオボードの役割はコンポ自身の振動を受け止めるだけでなく、外部からの振動を遮断する働きもある。

オーディオボードも決して安くはないアクセサリーなので、これを買えという話ではない。丈夫な板を一枚敷くだけでも効果はある。JOYCRAFTのコンポ用ならば、ハガキ大のサイズでいいので、ホームセンターに行けば板だけでなくさまざまな素材のものが見つかるはず。

バランスが良いのは木だが、木も種類によって硬さや重さが変わる。選び方のコツは、板を軽く叩いたときの音がそのまま乗ると考えて間違いない。叩いたときに気持ちの良い音がする木を選ぼう。振動吸収を重視するならゴム(樹脂)もいい。音色のチューニングならば金属も面白い。アルミや真鍮は比較的安価なのでおすすめ。これらの素材を複数組み合わせるのもアリだ。工作が得意ならば、板で薄型の箱を作って砂を詰めてもいい。中に詰めるのが砂か鉄粉かでも音は変わる。これだけで相当に遊べるし、勉強になる。

創意工夫でずいぶんと音は変わる。そこから好ましい音がするものを選択していけば「自分の音」になる。オーディオの面白さのひとつがここにある。JOYCRAFTの自作コンポの面白さにも通じるものがある。

JOYCRAFTの魅力は、手頃な価格で楽しめる本格的なオーディオコンポを自由自在にいじって遊べることだ。もちろん、見た目が気に入ったのならそのまま目に付く場所に置いて良い音とともに楽しむだけでもいい。あれこれと思いついたアイデアを試すのも面白い。そういう面白さがJOYCRAFTにはある。オーディオ入門として手を出してみるのもいいし、デスクトップ上のサブシステムとして手に入れてもいい。

あれやこれやといじりだせば、メインのシステムよりも楽しいかもしれない。ストイックな高音質追求に少し疲れた貴兄にもぜひおすすめしたい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。