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DALI“音楽を楽しく”だけじゃない、ハイエンドオーディオの高みに到達「RUBIKORE」。10年の進化を聴く

RUBIKORE 8

“スピーカーの国”から来たDALI

デンマークにDALI(ダリ)というスピーカー・ブランドがある。DALIというその社名は、“Danish Audiofile Loudspeaker Industries.”のアタマ4文字から取ったものだそうだ。

北欧デンマークには何度か出かけたことがある。人口わずか約600万人の小国で、人間よりも羊のほうが多いのでは? と思わせる長閑な農業国ではあるが、世界中で支持されているスピーカーメーカーがいくつかある。DALIの他に有名なブランドとしてDYNAUDIO(ディナウディオ)やDAVONE(ダヴォン)、そして総合高級オーディオメーカーのBANG&OLUFSEN(B&O)などが挙げられる。

デンマークは家具製造の歴史も古く、その技術がスピーカーキャビネットの製作に生かされているということもあるのだろう。

さて、DALIは2年前の2022年秋に“KORE”と名付けられたトップエンド・スピーカーを発表した。

ペア1,650万円のKORE

比較的安価な製品が多かったDALIからペア1,650万円というプライスタグが付けられた高額なスピーカーが出てきたことにまず驚かされたが、実際に聴いてみて、その威風堂々としたスケールの大きなサウンドに大きな感銘を受けたのだった。

昨年2023年秋には、KOREの要素技術を受け継いだ「EPIKORE11」(ペア880万円)が登場し、これまた大きな話題となったが、2024年秋、今度は「RUBIKORE(ルビコア)」シリーズと命名された高級ラインが発売されることになった。位置づけとしては、2014年に登場した「RUBICON(ルビコン)」シリーズの10年ぶりの後継となる。

RUBIKOREシリーズ。左からRUBIKORE 8、RUBIKORE 6、RUBIKORE 2、右端の下がRUBIKORE ONWALL、右端の上がRUBIKORE CINEMA

RUBIKOREシリーズを構成するのは5モデル。RUBIKORE 2(ペア528,000円)、RUBIKORE 6(ペア1,056,000円)、RUBIKORE 8(ペア1,408,000円)の3機種がメインで、他にホームシアター用センタースピーカーRUBIKORE CINEMA(1本418,000円)とサラウンドスピーカーでの使用が想定されるRUBIKORE ON-WALL(1本308,000円)がある。

仕上げは、ハイグロス・ブラック、ハイグロス・マルーン、ナチュラル・ウォルナット、ハイグルス・ホワイトの4種類。いずれも“家具の国”デンマーク製スピーカーらしく、丁寧な仕上げでとても美しい。買った喜びを毎日味わえる品格の高いデザイン、これも高級スピーカーにとって重要なポイントだろう。ここではステレオスピーカーの3モデルのリスニングリポートをお届けしたい。

ソフトドームツイーターとウッドファイバーコーンにこだわり

DALIのスピーカーはすべて自社開発のドライバーユニットが使われている。エンジンそのものから開発しなければ、自分たちが理想とするスピーカーに近づくことはできないと考えているのだろう。

そしてRUBIKOREシリーズの振動板には、従来通りシルクのソフトドーム(ツイーター)とウッドファイバーコーン(ウーファー)という有機素材が使われている。DALIがテーゼとしている「“音”ではなく“音楽”を楽しむためのスピーカー」「あたたかさとトランジェント特性を両立するスピーカー」を完成させるためには、金属ではなく有機素材の採用が重要と考えているのかもしれない。

シルクのソフトドームツイーター
ウッドファイバーコーンウーファー

以前、D&Mが扱っている海外スピーカーメーカー3社、すなわちDALIとB&W、Polk Audioのエントリー・モデルの比較試聴記事をAV Watchに書いたことがある。情報量の多い緻密な音を聴かせるB&W、鳴りっぷりの良さが気持ちいいPolk Audioに比べて、DALIのOBERON1は絶妙なエネルギーバランスを訴求する落ち着いたサウンドで、その大人っぽい音楽の聴かせ方にぼくは大きな魅力を感じたのだった。「”音“ではなく”音楽“を楽しむためのスピーカー」を目指すという同社のサウンド・ポリシーが最廉価モデルにも貫かれていることに強い感銘を受けたわけである。

では、RUBIKOREシリーズの技術的特徴を見ていこう。まず興味を惹かれたのは、RUBIKORE 6、RUBIKORE 8のフロアスタンディング型スピーカーにおいて、ハイブリッドツイーターが採用されていること。

左からRUBIKORE 8、RUBIKORE 6

29mmソフトドーム・ツイーターに加えて17×45mmのリボンツイーターが装填されているのだ。この手法、高域再生限界を伸ばすためにリボンが加えられたと考えがちだが、じつは違う。ソフトドーム・ツイーター自体が2.4kHzからこのスピーカーの高域再生限界である約30kHzまでをカバーしており、リボンは14kHz以上の帯域をオーバーラップさせるように使われているのだ。

つまり、このリボンは高域再生限界を伸ばすために加えられたのではなく、10kHz以上で極端に指向性が狭くなる29mmドームツイーターの弱点を補うべく、水平指向性の広いリボンを加えて広いサービスエリアを確保しているのである。

ソフトドーム・ツイーターとリボンツイーターを組み合わせている

中域を受け持つミッドレンジドライバーと低域を受け持つウーファーのウッドファイバー振動板表面には、逆馬蹄形のへこみが加えられている。これはピストニックモーション領域外の、分割共振領域の振る舞いを制御するために加えられたもので、このへこみによってピーク、ディップを抑え、コーンの不要な中音域共振を減衰させているのである。この手法は、2022年のKOREで初採用されており、同社はこれを<クラリティ・コーン>と呼んでいる。

振動板表面に逆馬蹄形のへこみがある

磁気回路にもSMCと呼ばれる同社がパテントを持つ興味深い技術が採用されている。この技術は12年前のEPICONから採用されたもので、磁気回路のヨーク部に絶縁した鉄を使用することで(化学的に絶縁層を形成した鉄粉を採用)歪みとなるアイアンロスを下げるという手法だ。クロスオーバーネットワークもたいへん凝ったもので、空芯コイルを用いて基板パターンを使わないワイヤーのダイレクト結線でフィルターを構成している。

SMCは、化学的に絶縁層を形成した鉄粉を使って、磁気回路のヨークを作るというもの

また、バスレフポートには、ポートの中央部に向けてなだらかにへこませたフレアポートが採用されている。内部の空気層(気流)を圧縮して開放することで、ストレートパイプに比べてエアノイズを5~6dB低減しているというから、これも注目すべき手法だろう。

ポートの中央部に向けてなだらかにへこませたフレアポート

RUBICONシリーズと比較。10年でどれだけ進化した!?

さて、今回はD&M本社試聴室で、10年前に登場したRUBICONシリーズと比較しながら新RUBIKOREシリーズの魅力を探ってみることにした。

新製品のRUBIKORE 2と旧製品のRUBICON 2の比較から始めよう。

新製品のRUBIKORE 2
RUBICON 2

RUBIKORE 2は165mmウッドファイバーコーン・ウーファーと29mmシルクドーム・ツイーターを用いたバスレフ型2ウェイ機。ステレオフォニックな音の広がりを指向しているのだろう、ウーファーとツイーターを近接配置し、点音源に近づける工夫がされている。感度は87dB(2.83V/m)と小型スピーカーにしては高い。

試聴した旧モデルのRUBICON 2は、パブリシティ用に約10年間鳴らされてきた個体とのこと。たしかに音がこなれていて出音がじつにスムーズだ。RUBIKORE 2も出荷前に十分時間をかけて鳴らし込まれているそうだが、音のなめらかさについては旧モデルのほうが良いかも? との印象だった。しかし時間をかけてじっくり聴いていくと、RUBIKORE 2の魅力がだんだんと浮き彫りになってきた。

RUBIKORE 2

名人級の録音エンジニアのアル・シュミットが手掛けたシェルビィ・リンのアルバム「ジャスト・ア・リトル・ラヴィン」(2008年)を再生してみて気づいたのは、その広大なサウンドステージの描写力だった。RUBICON 2では不明瞭だったスタジオの様子が目に見えるかのように音だけでくっきりと描かれるというと、大げさだろうか。

また、シンバルの音の粒子がスタジオ空間を彷徨う様やバンドメンバーの「気配」の再現力もRUBICON 2を大きく上回ることがわかった。時間をかけて鳴らし込んでいけば、ヴォーカルの質感など、いっそうスムーズになっていくことだろう。

RUBIKORE 2

フロア型も聴いてみよう。RUBIKORE 6は、165mmウッドファイバーコーン・ウーファー2基と29mmシルクドーム・ツイーター + リボンのハイブリッドツイーター型フロアスタンディング・スピーカー。

RUBIKORE 6

ウーファー2基は受け持ち帯域をずらしたスタガー動作をさせており、上側のウーファーは2.6kHz以下を、下側は800Hz以下を受け持つ。ハイブリッドツイーターのリボン型は先述のようにシルクドーム型にオーバーラップするように14kHz以上を再生する仕様だ。感度は88.5dB(2.83V/m)。

前モデルのRUBICON 6と比較してみたが、これは断然RUBIKORE 6が良かった。プリンスの歌うジョニ・ミッチェルの名曲「ア・ケイス・オブ・ユー」のカバーを聴いてみたが、まず音場が広く、立体感、奥行感の表現がすばらしい。冒頭のピアノの立ち上がりが俊敏で、低音が澄明、しかも量感豊かなのだった。ポール・ルイスが弾いたベートーヴェンのピアノ・コンチェルト第5番第2楽章冒頭の、弦5部のハーモニーの重なり具合、そのしなやかな響きに圧倒された。またピアノの精妙なタッチの表現が見事で、つい聴き惚れてしまう結果に。

RUBIKORE 6
前モデルのRUBICON 6

最後に聴いたのがRUBIKORE 8。さすがに最新トップエンド・モデルだけにそのパフォーマンスはすばらしかった。前モデルのRUBICON 8と比較するまでもない、圧倒的な実力を有していると実感させられた次第だ。

RUBIKORE 8

165mmウッドファイバーコーン・ウーファーは3基使われていて、RUBIKORE 6同様受け持ち帯域をずらしたスタガー動作が採用されている。いちばん上のウーファーは2.4kHz以下を、その下は800Hz以下を、いちばん下は500Hz以下を受け持つ構成だ。

RUBIKORE 6に比べても雄大な音場のスケール感の表現は圧巻。低域は厚みと透明感を高い次元で両立していて、聴き応え抜群だ。ブラジルのベテラン女性シンガー、マリア・ベターニャのヴォーカルを聴いてみたが、声の品格がきわめて高く、心に染み入るような聴かせ方をする。まさに眼前でぼくのためだけに歌ってくれているというリアリティがハンパないのである。

RUBIKORE 8

デヴィッド・クロズビーが若いミュージシャンたちと制作したアルバム「HERE IF YPU LISTEN」のコーラスを聴いて驚いた。4人の声質をきわめてクリアーに描写し、見事に溶け合わせるのである。サウンドステージの広大さも途方もない。

「“音”ではなく“音楽”を楽しませるスピーカー」がDALIの設計ポリシーだと先述したが、RUBIKORE 8は、音楽だけでなく音、つまりオーディオ的スリルも満喫させてくれるハイエンドオーディオの高みに達したスピーカーなのだと確信させられたリスニング体験だった。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。