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オーディオ入門にはコレ! Polk、DALI、B&Wエントリースピーカー聴き比べ。パワフル、美音、モニター!?

左からPolk Audio「ES15」、DALI「OBERON 1」、B&W「607 S3」

米国のPolk Audio、デンマークのDALI、そして英国のBowers & Wilkins。いずれも我が国で人気の高いスピーカーメーカーだが、3ブランドともにオーディオ入門層向けに充実したモデルをラインナップしているところも共通している。だからこそ、どれを選ぶか悩んでしまう読者も多いだろう。

すると、AV Watchのヤマザキ編集長から「3社のエントリー・モデルを聴き比べて、各ブランドの音調、各モデルの特徴と魅力についてリポートしてもらえませんか」との依頼が。もちろん断る理由などない。3月下旬、3ブランドの輸入元であるD&Mの川崎本社の試聴室へ出向いた。

用意されていたのは以下の3機種。

  • Polk Audio「ES15」(ペア46,200円)
  • DALI「OBERON 1」(ペア74,800円)
  • B&W「607 S3」(ペア132,000円)

それなりに価格差はあるが、いずれも3社の人気エントリー・モデルの小型2ウェイ機である。まず、製品の概要について触れた後に、それぞれのスピーカーのインプレッション・リポートをお伝えしたい。

Polk Audio「ES15」

Polk Audio「ES15」

ES15は日本に輸入されているPolk Audio 3シリーズのうち中核となる“SIGNATURE ELITE”にラインナップされるコンパクト・モデル。13cmウーファーの振動板素材はポリプロピレンにマイカを加えて剛性を高めたもので、25mmドーム型ツイーターの素材は、ポリエステル系合成繊維であるテリレンが採用されている。

背面には同社がパテントを持つ「パワーポート」と呼ばれるバスレフポートが採用されている。これはポート内の空気の流れをスムーズにする形状を実現したもので、従来のバスレフポートよりも歪みを抑えることができ、開口部の表面積を拡張することで、一般的なポートに比べて出力アップが実現できるという。

背面のパワーポート。特徴的な形状は、空気の流れをスムーズにするほか、開口部の表面積を拡張することで出力をアップさせるため

しかし、13cmウーファーの2ウェイ機でペア5万円を切る価格というのは、ちょっとした驚きだ。しかもこの円安で。日本でこういう商品企画ができるメーカーはちょっと思いつかない。米国を中心に世界中で大きなビジネスを展開しているPolk Audioならではの製品と言っていいだろう。

DALI「OBERON 1」

DALI「OBERON 1」

“Danish Audiofile Loudspeaker Industries”の頭文字から社名が採られたDALI(DALI)は1983年の創業。デンマークは北欧にある人口約600万人の小さな国だが、伝統的に家具とスピーカーの工房が多い。本機OBERON 1は、2018年に登場したOBERONシリーズの最廉価モデルで、同社エントリー機として世界中で高い人気を誇る。

ウッドファイバーコーンウーファー

13cmウーファーの振動板素材はウッドファイバーコーン、それに29mmのソフトドーム・ツイーターを組み合わせたリアポートのバスレフ型2ウェイ機だ。

29mmのソフトドーム・ツイーター

仕上げはリアルウッドのツキ板仕上げで、ダークウォルナット、ブラックアッシュ、ライトオーク、ホワイトの4種類。試聴機はライトオークが用意されていたが、北欧テイストのグレーのサランネットが美しく、洒落たリビングルームにしっくりと馴染みそうだ。ES15よりは高くなるが、ペアで7万円台という価格も魅力的だろう。

サランネットを装着したところ。左からPolk Audio「ES15」、DALI「OBERON 1」、B&W「607 S3」。OBERON 1は、北欧テイストのグレーのサランネットが美しい
上から見たところ。3機種の中で中央のOBERON 1が最もコンパクトで奥行きも短い

B&W「607 S3」

B&W「607 S3」

607 S3は、B&Wのエントリーライン600シリーズの最新小型2ウェイ機。複合構造の13cmコンティニュウム・コーン型ウーファーに25mmチタニウム・ドームツイーターを組み合わせているが、ツイーターには同社最高級シリーズ800Signature用に開発された音響透過に優れたメッシュ形状のグリルが取り付けられている。

キャビネットはブラック、ホワイト、オーク、レッドチェリーの4種類。ES15、OBERON 1のスピーカーターミナルはシングル仕様だが、本機のみバイワイアリング対応になっている。

13cmコンティニュウム・コーン型ウーファーと25mmチタニウム・ドームツイーターを搭載している
B&W「607 S3」のみバイワイアリング対応

高級スピーカー・ブランドとして名高いB&Wだけに、エントリー・モデルといってもペア13万円台と、ポークES15に比べて3倍以上の価格設定となっているが、その佇まいには独自の風格があり、さすがB&Wという感じがする。

スティール製スタンドに載せたこの3モデルを鳴らすのが、デノンのネットワークCDレシーバー「RCD-N12」だ。横幅23cmのとてもコンパクトな製品だが、CD再生機能の他、D&Mグループのネットワークオーディオ機能「HEOS」に対応し、テレビとの接続に便利なHDMI ARC端子を備え、Bluetoothによるワイヤレス再生も可能。FM/AMチューナーに加え、MMカートリッジ対応のフォノ入力まで備えている。まさに「何でも来い」のウルトラ・マルチパース・アンプだ。増幅回路はクラスDのデジタルアンプで、定格出力は65W+65W(4Ω)。

デノンのネットワークCDレシーバー「RCD-N12」

試聴に用いたのは、3枚のCD、それに1枚のブルーレイだ。CDはサックス奏者ティム・リースのソロ・アルバム『ザ・ローリング・ストーンズ・プロジェクト』からノラ・ジョーンズがヴォーカルを担当した「ワイルド・ホース」、世界的なレコーディング・エンジニアであるオノセイゲンがマスタリングし、コンパイルした『JAZZ,BOSANOVA AND REFLECTIONS Vol.1』からオスカー・ピーターソン・トリオの「You look good to me」。この2枚はハイブリッドSACDなので、CD層を再生した。

もう1枚は、ポール・ルイスがBBCシンフォニー・オーケストラと共演した『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲集』から第5番<皇帝>第2楽章を選んだ。本機のHDMI ARC端子を用いて再生したブルーレイはアニメ映画『BLUE GIANT』。上原ひろみがトリオ編成で演奏したステージ・シーンを中心に視聴した。

図らずも13cmウーファーを搭載した2ウェイ機の比較となったが、さて、それぞれのスピーカーはどんな音を聴かせてくれたのだろう。詳しくリポートしたい。

ストレートでおおらかに鳴る「Polk Audio ES15」

ES15

スペック表を見ると、公称インピーダンスが4Ωで、感度が85dB/2.83V/1mとかなり低い。それなりに鳴らしにくいスピーカーかも? と予想したが、どの楽曲もデノンRCD-N12で軽々と鳴った。聴感上の感度はもっと高い印象だ。

Polk Audio製スピーカーらしい、もったいぶったところのないストレートでおおらかな鳴り方。ノラ・ジョーンズのヴォーカルは立ち上がりがよく、スッと前に出てくる印象。安価なスピーカーだが、エネルギーバランスは本格的。サイズの限界は当然あり、低域の伸びはさほどでもないが、中低域が充実していて、聴き応えがある。

オスカー・ピーターソン・トリオは、往年のアナログ録音の魅力が横溢した楽しさバツグンの演奏。冒頭のベースのアルコ(弓弾き)奏法がグンとフレームアップされ、キャビネットのハコ鳴りをうまく使っている印象だ。ドラマーのブラッシュワークにも音に厚みがあり、鉛筆の芯でいえば「2B」という感じ。低音の出力アップに効くパワーポートの効果もあるのだろう、キック・ドラムやピアノの左手(低音部)の質量感もうまく表現する。ポール・ルイスの弾くピアノ・コンチェルトでは、音色がくすみがちで立体感の表現がいま一つか。

RCD-N12のHDMI ARC端子を利用して観たアニメ映画『BLUE GIANT』のステージ・シーンでは、サックスのフリーキーなソロが大迫力で、ダイアローグにも厚みがある。大画面テレビの両サイドに本機を正しくステレオ配置しているので、画面に映し出されたキャラクターの口元から声が聞こえてきて、画面中央で聴くかぎり「画音一致」が果たされ、心地よいことこのうえない。

ディスプレイ下部に置かれるサウンドバーは、どんな高級モデルでもこの「画音一致」が実現できないわけで、それなら本機ES15のような安価で優れたスピーカーを使ったほうがどんなにいいかと思う。スピーカー出力端子が付いた大型テレビが見当たらなくなったことがつくづく残念だ。

いつまでも聴いていたい「DALI OBERON 1」

OBERON 1

ES15よりも少し小ぶりなスピーカーで、本機もリアポートのバスレフ型2ウェイ機。感度は86dB/2.83v/1mとES15とほぼ同等だ。ES15のおおらかな鳴り方に比べるとだいぶ渋い音調で、北欧製スピーカーらしい陰影に富んだ聴かせ方をする。

ノラ・ジョーンズのヴォーカルは、ES15では感じ取れなかったしみじみとした哀感が漂っている。ワイドレンジ感は控えめだが、「黄金のエネルギーバランス」と言いたい絶妙な聴き味で、音量を欲張らなければ、いつまでも聴いていたいと思わせる魅力がある。

オスカー・ピーターソン・トリオは、ベースのピチカートがふっくらとした柔らかな質感が好ましい。ドラマーのブラッシュワークの音をES15は「2B」鉛筆と形容したが、本機は「HB」くらいの太さである。ピアノのきらびやかな響きは抑えめで、この渋い質感こそが本機の本質的な魅力なのだと思う。

ポール・ルイスの弾くピアノ・コンチェルトは、センター音像が厚く、ピアノの精緻さを際立たせる独特の聴かせ方。弦の響きにヒステリックなところは微塵もなく、柔らかい。全体に抑えた表現だが、箱庭的にバランスを取っている印象だ。

アニメ映画『BLUE GIANT』もセンターにファントム定位するダイアローグやサックスの音像が厚く、映像との親和性がとても高い。声の質感もきわめてよく、台詞が聞き取りやすい。

スピーカーとしての“性能”が高い「B&W 607 S3」

607 S3

Polk Audio、DALIとはだいぶ持ち味が違うのが、このB&Wの607 S3だった。

一言でいってスピーカーとしての「性能」がきわめて高いのである。ワイドレンジ、フラット・レスポンス、S/N感、透明感、情報量、ステレオイメージなど、現代のハイエンドオーディオで厳しく問われる音のファクターをあまねく満たそうという意欲が本機からうかがえるのである。いくら安価なモデルといっても、やはりモニタースピーカーの正しい血筋を引くブランドの製品なのだな、と今回の比較試聴を通して深く感じ入った次第だ。

ノラ・ジョーンズのヴォーカル曲は、すっきりとしたクリアーなサウンド。立体的な音場表現がPolk Audio、DALIとは大違い。特に高さ方向の広がりが見事だった。ヴォーカルはスレンダーな印象で、シャープにファントム定位する。それから背景音がすごく静かで、小さくミックスされたドラマーのブラシが繊細に響く。ベースの量感は控えめだ。

オスカー・ピーターソンのトリオ演奏は端正な表現。どこといって不満のないサウンドなのだが、心が浮き立つような魅力は感じられない(あくまでも個人的な感想です)。ドラマーのブラッシュワークは「2H」鉛筆といった印象だ。Polk Audio、DALIに比べると余韻が長く、シンバルレガートが立体的に広がっていく。

607 S3

断然すばらしかったのは、ポール・ルイスの弾くピアノ・コンチェルト。弦5部のハーモニーの美しさはピカイチで、クリアーに解像しながら絶妙にハモるのである。ピアノの透徹した響きの表現も格別で、Polk Audio、DALIとはクラスが違う表現力というほかない。

立体的に広がるオーケストラ・イメージも見事の一言。クラシック音楽を高いレベルで聴きたいという方には断然本機をお勧めする。ES15の3倍以上の価格設定だが、それでもペア13万円台。得られる精神的満足感は価格以上だと断言する。

映画『BLUE GIANT』のパフォーマンスも凄かった。ステージ・シーンの暗騒音がふっと浮き上がってきて、臨場感が半端ない。演奏の切れ味も最高だ。台詞はスレンダーだが、画面奥にシャープに定位するイメージが得られる。

三者三様、独自の魅力が光る

さて、3ブランドのエントリー・モデルを徹底比較してみたが、いかがだっただろうか。

まず驚かされたのが、プライスタグが信じられないPolk AudioのES15のおおらかな鳴りっぷり。驚異的な安さだが、その音に安光りするところはまったくない。部屋でのヘッドフォン・リスニングに疲れたという方にとって、格好のスピーカー・リスニング入門モデルといっていいだろう。

DALI OBERON 1の、大人っぽい音調に個人的には大いに惹かれた。どんな音楽を再生しても引っかかるところがなく、柔らかな質感で音楽の骨格を見事に浮彫りにしてくれるのである。リビングルームに映える落ち着いたデザインも好ましい。

B&W 607 S3は入門層向けスピーカーというよりも、オーディオ誌を熱心に読んでおられるようなハイエンド指向の方に注目していただきたいモデル。アンプをグレードアップすることで「化ける」可能性がもっとも高いと思えるし、バイワイアリング接続もぜひ試していただきたい。三者三様、独自の魅力を持ったスピーカーとじっくり付き合うことで、改めてオーディオって面白いなあ、多くの音楽好きにこの世界に入ってきてほしいなあと思った次第です。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。