トピック

DALI、高性能で楽しめる音「RUBIKORE」を2ch/4chやデスクトップで聴く。名機「MENUET SE」との違いは?

RUBIKORE 2(左)とMENUET SE(右)

オーディオを趣味としていて、「どんなスピーカーを使うか」という問題に直面しない人はまずいないだろう。スピーカーは部屋(再生環境)を除くシステムの最終段階であり、どんなプレーヤー(再生機器)を使おうが、どんなアンプを使おうが、最終的に出力される音はスピーカーに大きく左右され、また決定づけられる。だからこそ、「どんなスピーカーを使うか」はオーディオファンにとって常に一大事であり、実に悩ましく、そして楽しいトピックとなる。

では、どのような基準でスピーカーを選ぶのか。価格やサイズといった現実的な要件は避けて通れないにしても、それ以上に重要なのが「音の傾向」。つまり、「自分はどんな音のスピーカーを求めるのか」ということである。

音の傾向という点で考えると、筆者のイメージでは、「精確な音の再生のために性能を追求したスピーカー」と、「音楽を聴いた際の楽しさを重視したスピーカー」の2種類に大別される。高精度かつ色付けのない音が求められるコンテンツ制作の現場で使われるモニタースピーカーは前者、家庭内の音楽や映画再生といった一般的なリスニング用途を意識したスピーカーは後者、といったイメージだ。

ブランドの方針としてこのようなイメージを明確にしているメーカーも存在する。その一例として、デンマークのスピーカーブランドであるDALIはスピーカーの特徴を表現する際に「リファレンス」と「ミュージカリティ」という言葉を用いている。

筆者のイメージとDALIの定義は完全に同一ではないと思うが、「精確な音の再生のために性能を追求したスピーカー」=「リファレンス」志向、「音楽を聴いた際の楽しさを重視したスピーカー」=「ミュージカリティ」志向という認識で基本的に問題ないはずだ。そしてDALIは「ミュージカリティ」という価値観に基づき、「音を楽しむためのスピーカーではなく音楽を楽しむためのスピーカー」づくりを行なっていると表明している。

はたしてDALIのいう「ミュージカリティ/音楽性」を追求したスピーカーとはどのようなものなのか。今回はDALIの最新シリーズ「RUBIKORE」からブックシェルフ「RUBIKORE 2」(1台264,000円でペア販売)を取り上げ、同時にロングセラーを続けるブックシェルフ「MENUET SE」(ペア264,000円/10月1日から308,000円)と比較しながら、DALI製品の魅力を深掘りしていきたい。

最新シリーズ「RUBIKORE」の特徴

弩級フラッグシップスピーカー「KORE」

DALIは2022年に従来とは一線を画した弩級のフラッグシップスピーカー「KORE」を発表し、続いてKOREの技術を継承した「EPIKORE11」をリリース。RUBIKORE 2の属する「RUBIKORE」シリーズはその流れを受けて、前身となる「RUBICON」シリーズを置き換える形で登場した。

RUBICONシリーズからRUBIKOREシリーズへのモデルチェンジまでは実に10年の期間があり、製品の完成度を高めるために長い開発時間をかけるDALIの姿勢が表れている。

RUBIKORE 2 ブラック仕上げ

RUBIKORE 2は29mmソフトドーム・ツイーターと165mmウッドファイバーコーン・ウーファーから成る、オーソドックスなスタイルのブックシェルフスピーカー。ユニットの素材はDALIが大切にする「耳触りの良い音」を実現するものとして長年にわたって使われているが、絶え間ない改善が続けられ、結果として現在ではドライバーを自社開発するに到っている。

ウッドファイバーコーン・ウーファー

ソフトドーム振動板やウッドファイバーコーンは「不快な音を出さない」という点で有利な一方、内部損失の大きい有機素材であるため、音楽のディテールをも失いかねないという弱点も持つ。DALIはそれを克服すべく、ツイーターは質量を可能な限り軽くし、磁性流体を使わない工夫をすることでトランジェントを改善。ウーファーは振動板の表面を立体的な形状に加工することで特性を改善し、さらに渦電流を劇的に低減、超歪みを実現するDALIの独自素材SMC/Soft Magnetic Compositeといった様々な技術が投入されている。

RUBIKORE 2は背面バスレフ仕様で、内部で直線を持たない形状の「コンティニュアス・フレアポート」によってポートノイズを低減するとともに、優れた低音レスポンスの実現を図っている。ゴツくて頼もしいスピーカー端子はバイワイヤリング対応で、バイアンプ駆動も可能だ。

RUBIKORE 2背面。リアバスレフで、バイワイヤリングに対応

DALIは大規模なメーカーであり、スピーカー開発にあたって最新の測定器も導入しているなど、技術開発にも非常に熱心に取り組んでいる。しかし、個々の要素よりも全体の調和を、計測以上に試聴や耳での判断を大切にしているとのことで、そうした姿勢が「音を聴くためのスピーカーではなく音楽を聴くためのスピーカー」に結実しているのだろう。

初代から名前を引き継ぐ、DALIの代名詞「MENUET SE」

「MENUET」は1992年に登場した初代から名前を引き継ぐ小型ブックシェルフのシリーズで、「MENUET SE」は2015年に登場した現行モデルに特別なチューニングと仕上げを施した文字通りのスペシャルエディション。

MENUET SE

28mmソフトドーム・ツイーターと115mmウッドファイバーコーン・ウーファーの構成で、RUBIKORE 2と比べると二回りほど小さいが、EPICONと同グレードのスピーカー端子や美しいウォールナット光沢仕上げのおかげでスピーカーとしての佇まいは上質そのもの。

本格的なリスニング環境だけでなく、サイドボードやデスクトップのような環境にもよく馴染む。なお、MENUET SEのバスレフポートは背面に斜め下向きに搭載されており、壁に近づけた設置でも再生音に悪影響を及ぼさない工夫がされている。

MENUET SE背面。バスレフポートが斜め下向きに搭載されている

エモーショナルで鮮明なサウンドのRUBIKORE 2

RUBIKORE 2から聴いていこう。製品の試聴にあたり、音楽再生システムは「上質なリビングオーディオ」をイメージして、HDMI ARCによるテレビとの接続も可能なBluesoundのネットワークプレーヤー「NODE」とNmodeのプリメインアンプ「X-PM9」を組み合わせた。

まずは筆者のリファレンスであるKOKIA「白いノートブック」を聴く。

端的に言って、実に「エモーショナル」な再現だ。曲自体がそもそもエモーショナルなので、濃い口なスピーカーで再生すると少々くどいとも感じがちな曲なのだが、RUBIKORE 2では絶妙な塩梅でまとまっている。そして「耳触りの良さ」を維持しつつ、高域・低域両方向の伸びも申し分ない。浸透力に優れたボーカルの表現は言うに及ばず、冒頭のギターの粒立ち、続いて入るピアノの伸びやかさと透明感にくわえ、ベースやパーカッションの歯切れの良さなど、純粋な性能面の優秀さもおおいに感じられる。

続いてゲーム「エルデンリング」のDLC「Shadow Of The Erdtree」のサントラから本作のラスボス曲「The Promised Consort」を聴く。大規模なオーケストレーションによる壮大な楽曲であり、帯域もダイナミックレンジも広く、音数も膨大だが、RUBIKORE 2は各楽器やそれに重なり合うコーラスを澱みなく描き分け、曲の持つ神話的なスケールを存分に感じさせる。曲の細部にいたるまで鮮明な再現であり、ブックシェルフながら中低域の厚みやエネルギー感といった点でも特に不満はない。プレイ中の記憶や感動が鮮烈に甦る、文字通りの見事な再生だ。

RUBIKORE 2のセットアップ

様々な曲を聴いて印象的だったのは、音楽の構成要素を個別に聴こうと思えば十分に分析的に聴けるレベルで高度な分解能や空間表現力――DALIが言うところの「リファレンス」的な能力の高さがありながらも、それを意識させるような再生音ではないこと。オーディオ機器のレビューを行う際はどうしても分析的な聴き方を心がけてしまうのだが、RUBIKORE 2を聴いていると、それを忘れて純粋に音楽を楽しんでいる自分に気が付く。

艷やかなボーカル。RUBIKORE 2に劣らない魅力のMENUET SE

スピーカーをRUBIKORE 2からMENUET SEに変えて一通り同じ曲を聴いてみると、さすがに差は明らかだ。価格グレード、開発時期、使用しているウーファーのサイズ、両機の違いは色々だが、再生音としては低域方面への伸び、ディテールの描写力、分解能でどうしてもRUBIKORE 2に軍配が上がる。

MENUET SEのセットアップ

しかし、そこは音作りの妙と言うべきか、ベースやパーカッションの量感は控えめとなるが、高域の艶やかさや瑞々しく清潔感のあるボーカルなどはRUBIKORE 2に劣らない魅力があり、いうなれば音楽の美味しいところをストレートに引き出してくれる。

また、低域の量感が控えめとなるおかげで、例えばピアノとボーカルのみのシンプルな曲など、場合によってはかえって空間の見通しが良くなり、これはMENUET SEならではの美点と捉えるべきだろう。そしてなにより、「分析的な姿勢になることなく、リラックスして音楽を楽しめるスピーカー」というDALIの哲学はRUBIKORE 2にもMENUET SEにも間違いなく一貫している。

DALIは自社のスピーカーに対し「Warm/あたたかみがある」という言葉を使っているが、これは単に「暖色系」「寒色系」といった意味合いでスピーカーの音色を表現しているのではなく、音楽に対して分析的な感覚を抱かせることなく純粋に耽溺させる、いうなれば「音楽に寄り添う」スピーカーという意味なのだろう。RUBIKORE 2とMENUET SEの音を聴いて、少なくとも筆者にはそう感じられた。

2モデルを組み合わせて4chシアターを試す

音楽再生を堪能したところで、映像コンテンツの再生ではどうだろうか。RUBIKOREシリーズをはじめ、DALIの各スピーカーシリーズは基本的にセンタースピーカーもラインナップしており、マルチチャンネル・サラウンドへの対応も万全なので、こちらも気になるところだ。

今回はせっかく2組のスピーカーがあるので、フロントスピーカーにRUBIKORE 2、サラウンドにMENUET SEという、ぜいたくな4.0chのシステムを構築した。メインスピーカーをグレードアップしても、それまで使っていたスピーカーをサラウンドにスライドして無駄なく活用できることは、マルチチャンネル・サラウンドの素晴らしい点のひとつである。なお、ここからはAVアンプにマランツのCINEMA 70sを使い、RUBIKORE 2とMENUET SEの両方を接続した。

映像コンテンツとして、最新のドラマ映画&最新のドンパチ映画ということで「オッペンハイマー」と「ゴジラ-1.0」のUHD BDをチョイス。奇しくも「核」というテーマが共通する二作である。

「オッペンハイマー」と「ゴジラ-1.0」のUHD BD

まずは「オッペンハイマー」から。マンハッタン計画を主導し、「原爆の父」と呼ばれた論理物理学者・オッペンハイマーの生涯を描く本作は、原子爆弾開発に関連する用語が容赦なく飛び出す科学ドキュメンタリー的な展開と、第二次世界大戦前後の時代背景を反映した高度な政治劇というふたつの側面を持つ。

銃後の戦いが舞台であるゆえに、音響の主体は終始ダイアローグと音楽が担う。RUBIKORE 2からすれば大得意とするタイプのソースであり、事実、存在感のある劇伴と情感あふれる声の再現により、本作の重厚な魅力を存分に味わうことができた。作中のピークともいえるトリニティ実験――世界初の核実験のシーンでは、原子爆弾の点火に向け、弦楽器を主体とする神経質な音楽が緊張感を高めていくが、歪っぽさや音楽とダイアローグの混濁など、スピーカーの能力に起因する不快感がないので、ひたすらシーンに没頭していられる。

完全な余談だが、本作にオッペンハイマー役で主演したキリアン・マーフィーは、同じく主演した2007年のSF映画「サンシャイン2057」で“太陽に出会って”いる。「オッペンハイマー」の核実験のシーンを見て、そのシーンを思い出してしまった。上質なSF映画なので、興味のある方はぜひ。

「ゴジラ-1.0」ではゴジラが登場する、すなわち音響的なハイライトのシーンを中心に視聴。耳をつんざくゴジラの咆哮や各種火砲の鋭利な質感など、今までのソースにはあまりなかったタイプの音も、RUBIKORE 2は持ち前のレンジの広さを活かして、余裕をもって再生してみせた。それでいて耳触りの良さは保たれており、激しい音響や緊迫感のある音楽をしっかり表現しつつも、「オッペンハイマー」と同様に聴いていて不快なところがない。

筆者はDALIのスピーカーに対して「艶やかで潤いのある音」というイメージを持っており、RUBIKORE 2の再生音は総じてそのイメージ通りなのだが、それだけではなく、最新映画の苛烈な音響を存分に描き出す能力を兼ね備えていることが確認できた。

また、映像鑑賞を楽しむうえで、特にダイアローグを担う中域の厚みは非常に重要なのだが、性能志向の(DALIが言うところの「リファレンス」志向の)スピーカーを使うと、再生音量によっては高域と低域ばかりが目立ち、肝心の中域が抜け落ちたような音になってしまう場合を筆者は幾度となく体験している。

それに対し、RUBIKORE 2は高域と低域がじゅうぶんに伸びつつもまず充実した中域の存在が前提にある帯域バランスのため、再生音量にかかわらず、中域が薄いと感じることはない。これは小音量で映画や音楽を楽しみたいというユーザーにとって大きな魅力である。

なお、先に紹介したようにRUBIKORE 2はバイワイヤリング対応なため、CINEMA 70sとの組み合わせではバイアンプが可能だ。一通り映像コンテンツを再生した後に実際にバイアンプを試してみたが、特に中低域のエネルギー感・情報量の向上や空間の広がりといった恩恵が得られた。AVアンプを使っていて、チャンネル数を増やすことより個々のスピーカーのクオリティを重視する人はぜひ試していただきたい。

デスクトップオーディオに最適なのはどちら?

最後に、「現代に即したオーディオのスタイル」として筆者が追求しているデスクトップオーディオの文脈でもRUBIKORE 2とMENUET SEを使ってみた。

MENUET SEは奥行きが230mmとRUBIKORE 2に比べてかなりコンパクトであり、設置スペースの制約が大きいデスクトップオーディオにとって、実に好適なスピーカーといえる。中低音が机で増幅されたのが奏功したのか、RUBIKORE 2に比べるとさすがに控えめだった音の厚みが増し、全体としてはむしろ帯域バランスが改善したようにも感じられる。元々の魅力である艶やかかつ滑らかな高域もあわせて、総じて非常に満足度は高い。

今回はデスクトップオーディオと言いつつスピーカースタンドを組み合わせた「ぜいたくな」セットアップだったが、MENUET SEのサイズ感であれば、机の上にも難なく設置できるだろう。無論、その場合も「ベタ置き」ではなく、卓上スタンドやインシュレーターを使うなどして、MENUET SEの実力を可能な限り発揮できるように工夫したいところだ。

MENUET SE×デスクトップオーディオ

RUBIKORE 2は比較的大型のブックシェルフであり、奥行も335mmとかなりあるため、今回のようにスピーカースタンドを用いるか、かなり大きな机でなければ、デスクトップオーディオ用途で使うのは現実的になかなか難しいのは事実。

しかし、設置の問題さえクリアできるなら、RUBIKORE 2はデスクトップオーディオでもその能力を遺憾なく発揮する。「まとまりの良さ」は健在であり、近い距離で聴いても高域と低域がばらばらになるという感覚もなく、音楽を聴いた際の印象は自然そのもの。最初から「どうせデスクトップオーディオだから大きなスピーカーは無理」と考えるのではあまりにももったいない。

デスクトップオーディオではモニタースピーカーなど、DALIの言う「リファレンス」志向のスピーカーが使われることが多い印象だが、音楽制作をするならまだしも、音楽や映像コンテンツを楽しむことが主目的なら、RUBIKORE 2やMENUET SEのような、ミュージカリティ志向のスピーカーを使うことに何の違和感もない。「デスクトップオーディオだから○○」などと考える必要はなく、気に入ったスピーカーがあるなら思い切って使ってしまおう。デスクトップオーディオにはそれだけの懐の広さが間違いなくある。

RUBIKORE 2×デスクトップオーディオ

記事の冒頭で「精確な音の再生を追求したスピーカー」と「音楽を聴いた際の楽しさを追求したスピーカー」という筆者のイメージを紹介し、DALIが表現する「リファレンス」「ミュージカリティ」という価値観がそれぞれに対応するという話をしたが、ここでひとつ強調しておきたいことがある。

リファレンス的なスピーカーで音楽を楽しめないなんてことはないし、ミュージカリティを追求したスピーカーが技術や性能を軽視しているなんてこともない、ということだ。

今回取り上げたDALIは、ブランドの根幹となる価値観としてミュージカリティを掲げている。しかし、あくまでミュージカリティという価値観を中心にしつつも、DALIのスピーカー作りへの技術的なアプローチのレベルは、リファレンス的なスピーカーを手掛けるメーカーと比べてもなんら劣るものではない。RUBIKORE 2を聴けば、現代のスピーカーに相応しい高度な性能を有していることは明らかだ。

音楽に寄り添う、心から音楽を楽しめるスピーカーであると同時に、高度な性能を備え、音楽や映画のディテールを深掘りする楽しさも提供する。RUBIKORE 2とMENUET SEを聴いて、ミュージカリティを志向するスピーカーの、ひとつの理想形を見た。

逆木 一

オーディオ&ビジュアルライター。ネットワークオーディオに大きな可能性を見出し、そのノウハウをブログで発信していたことがきっかけでライター活動を始める。物書きとしてのモットーは「楽しい」「面白い」という体験や感情を伝えること。雪国ならではの静謐かつ気兼ねなく音が出せる環境で、オーディオとホームシアターの両方に邁進中。個人サイト:「Audio Renaissance」