トピック

安価なHDMIケーブルでも、PS5 Proから8K/60p伝送できる! 45周年を迎えたオーディオクエストのケーブル哲学

オーディオクエストのHDMIケーブル

高性能なオーディオケーブルメーカーとして知られるオーディオクエストが創立45周年を迎えた。アクセサリーとしてのオーディオケーブルというと、スピーカーケーブルやアナログ音声ケーブル、デジタルケーブル、HDMIケーブルといろいろあるが、誰でも買える安価なものから、マニア向けの超高級品までいろいろある。しかも、ケーブルで音が変わると言うと、最近ではある程度理解されてきてはいるものの、“オカルトだ”と言う人も少なくない。

そのあたりの議論はさておき、オーディオ機器の接続には不可欠な存在がオーディオケーブルだ。オーディオクエスト45年の歴史は、“オーディオケーブルの歴史”でもある。そんな歴史を振り返りつつ、筆者宅で実際にオーディオクエストのHDMIケーブルを使って「PS5 Proの8K出力ができるか」試したレポートもお届けしたい。

オーディオケーブルで音は良くならない!? オーディオクエストの歴史と哲学

時は1976年頃。アメリカの高級オーディオ店で、オーディオケーブルが発売されはじめた。学生時代から熱心なオーディオマニアであり、オーディオキットを組み立て、完成品として売っていたオーディオクエストの設立者ビル・ロウは、オーディオ機器の小売業者やメーカー販売代理人としても活動していた。

ビル・ロウ

ビルは、オーディオケーブルの重要性に気が付き、ノエル・リー(後のモンスターケーブル設立者)にケーブルを特注。そのケーブルに、自らプラグを組み付けてスピーカーケーブルを作り、販売したところ、評判を呼び、1980年のオーディオクエスト創業に至る。

以降スピーカーケーブル、オーディオケーブルとラインナップを広げ、1987年にはビデオケーブルやデジタルケーブルの設計と製造も開始。オーディオケーブルと同じ低歪みの設計思想を元にしながら、より広帯域化した信号で重要になる要素も考慮したものだった。「$20で買える感動」というフレーズで、ケーブル交換による音のグレードアップの世界を拓いたのだ。

こうしてオーディオクエストの評判は広がり、1981年にCESに出展するようになってからは、北米だけでなくヨーロッパやアジア、日本などでも取り扱われるようになる。

2003年の日本マランツ(現在は株式会社D&Mホールディングス)が、オーディオクエストの取り扱いを開始した時のユニークなエピソードがある。オーディオクエストはなんと「音の良くなるケーブルはない」と言い切ったそうだ。高級オーディオケーブルを売っているメーカーがそれでいいのかと言いたくなるが、それはつまり、悪い信号を良くするのではなく、“信号にできるだけダメージを与えない”ことが重要というわけだ。

現在のビル・ロウ。“信号にできるだけダメージを与えない”ケーブルを追求している

オーディオクエストのケーブルにはいくつかの特徴がある。ひとつは単線構造。複数の細い導線をより合わせた構造は信号に歪みが乗る原因でもあり、単線構造か太い導線を少ない数だけ使って丁寧により合わせた構造としているという。そして、ノイズ消散。不要な外来ノイズがケーブルに混入しないようにすること。これらの特徴はエントリークラスのケーブルにも採用されているという。

当時の日本マランツで製品の取り扱いを決めるときにオーディオクエストのケーブルを試した時のエピソードも興味深い。テスト用に送られてきたケーブルはなんとエントリーからミドル級の製品だったという。これは高級品を出し惜しみしたのではなく、エントリーやミドル級の製品こそ、オーディオクエストの哲学が現れているからそこをみてほしいという意図だったそうだ。

最高級の製品にはすべての技術が盛り込まれているが、ミドル級やエントリー級の製品ではコストに合わせてそれらを削っていく必要がある。もっとも大事なものは何かを吟味する。そこにケーブルにとって何が重要かの思想や哲学が現れるというのだ。

当時の日本マランツで製品の取り扱いを決めた時のことを振り返る、D&Mの澤田龍一シニアサウンドマスター

そして、オーディオクエストは現在もD&Mホールディングスが正規輸入代理店となっており、しかもデノンやマランツでの製品開発が行なわれる試聴室でリファレンスケーブルとしても使われている。

これは前述した信号にダメージを与えない。伝送ロスを最小に抑えるという哲学が、デノンやマランツの製品作りにも通じるものがあったということだし、リファレンスとしての音色や音質に対する信頼感の現れなのだろう。

デノンやマランツの製品開発で使われる試聴室にも、リファレンスケーブルとしてオーディオクエストが採用されている

筆者はHDMIケーブルで苦労してきた

さて、話をHDMIケーブルに移そう。HDMIはデジタル映像とデジタル音声をまとめて伝送できるケーブルで、それまで映像ケーブルと音声ケーブルをそれぞれつないでいたところを、HDMIケーブル1本で済むようになった。

しかも対応機器の連携操作を実現するCEC機能、ネットワーク信号の伝送、オーディオリターンチャンネルなど、機能も増えている。これによって利便性も高まっているのだが、当初はなかなか厄介な存在でもあった。きちんと接続したはずなのに映像が出ない、音が出ないといった問題もあった。

HDMIはVer1.4aや現行のVer.2.1などの規格があり、これによる対応非対応の問題も悩ましいところだ(現在はVer表記ではなく、対応機能や伝送できる信号帯域などを明記する方式となっている)。

BDプレーヤーやAVアンプなどを買い換えて、なぜか映像や音が出ないとなると、大抵はHDMIケーブルが問題だったことも少なくない。HDMIケーブルにも映像や音が良いという高級ケーブルもあったが、それより何よりどんな機器と接続してもきちんと映像と音が出る信頼性をなんとかしてほしいと思っていたものだ。

印象的だったのは、8K/60pの伝送規格が加わったHDMI Ver.2.0。8Kテレビも発売され、NHKではBS8K放送もスタートした初期の話だ。筆者は2022年の春に8K信号入力に対応したプロジェクターの「DLA-V90R」を手に入れ、パソコンも8K60p出力が可能なものを新調した。

8K放送は残念ながらプロジェクター向けの単体チューナーも発売されない。8Kソフトなんて今でも登場していない。そうなると、パソコンでゲームやYouTubeの動画を8K出力するしか、8Kコンテンツを楽しむ方法がなかったのだ。

筆者宅のプロジェクター「DLA-V90R」

さらに、機材は揃ったが、伝送できるHDMIケーブルがない。当時使っていたAVアンプが8K信号には非対応だったので、パソコンとプロジェクターを直結して使っていたが、その場合、高い位置に置いたプロジェクターへは3mかできれば5mくらいは欲しかった。これが伝送できない。

当時すでに8K/60p信号に対応するHDMIケーブルは発売されていたが、これも伝送できるものとできないものは半々くらいの割合だった。

理由はふたつ。HDMIケーブルとしての認証を得るためには、8K/60p信号が実際に通るかどうかをテストする必要がある。だが、家庭用の機器として8K/60pを出力できるものが高性能なパソコンくらいしかなかった当時は、信号発生器でテスト用の模擬信号を送ってテストしていた。

つまり、実際の家庭用機器のテストができない状況だった。ケーブルメーカーとしても実際のテストが難しい状況だった。メタル導線などのものはケーブル長による信号の劣化があるため、伝送距離が長くなるとメタル導線のHDMIケーブルでは伝送できない、伝送が不安定になる。といったことが増えた。

こんな状況で注目を集めたのが、光伝送のHDMIケーブルだ。これは、映像と音声の信号をコネクタ内の変換チップで光信号に伝送し、受信側で元に戻して伝送するケーブル。理論上は伝送距離による信号劣化が生じないので、安定した接続ができる。もちろん、信号劣化がないので映像も音も優秀ということで、専門誌などで評判になった。

当然、筆者もこれらをテストさせてもらい、きちんと信号が伝送できたものを選んで購入した(光HDMIケーブルでも伝送できないなどの問題が生じるのは上記の通りテストのための機材が環境が整っていなかったため)。以来、すっかり光HDMIケーブル信者になっていたのだが、残念ながら光HDMIケーブルは高価なものが多く、なかなか身近な存在とは言いにくい。

そして2025年となった現在。8K放送用チューナーが出るという話はないし、筆者も半ば諦めた。そもそも8Kテレビの新製品もまったく発売されていない。YouTubeの8K動画くらいしか8Kコンテンツがない。おそらくは8K/60pに対応するHDMIケーブルはテスト環境も生産管理も安定してきた現在ならば問題ないと思うが、テストできるコンテンツがないという状況だから問題が顕在化しないだけとも思える。HDMI規格は最新のVer.2.2が策定され、今度は16Kとか景気のいい話をしているが、果たしてコンテンツは出てくるのかと心配していた。

なんとびっくり。PS5 Proはこっそりと8K/60pに対応していた!!

PS5 Pro

PS4以来、プラットフォームがある程度普及した段階で性能向上版のProが発売されるようになった。PS4のころは4K/60pを謳っていたものの、実効レートとしては30fpsが精一杯。Proでタイトルにもよるがようやく平均レートで60fpsが出せるようになった。

PS5は4K/60p対応を謳うに恥じない性能だが、ゲームメーカーの開発力も驚くべきものがあり、レイトレーシングのような新技術、描画できるオブジェクト数の増加など表現力を高めてきていて、PS5では解像度優先(4K)とかパフォーマンス優先(60p)で、ユーザーが使いやすい方を選ぶ状況ではある。

そこに登場したのが「PS5 Pro」。謳い文句は60fpsとか120fpsで、なぜか解像度の話をしない。まあ、ようやく4K/60pがものになったというところ。実際ゲームならばヌルヌル動く120fpsの方がニーズはあるだろう。だが、すでにパソコンで8K/60pを体験しており、ゲームのグラフィック能力の進化に注目する筆者にはあまり魅力とは感じなかった。

が、専門誌でPS5 Proを使ってみる企画で実際に使ってみて驚いた。ディスプレイ設定にしれっと「8Kを有効にする」という項目が追加されていたのだ。8K対応しているじゃないか!

なんでもっと宣伝しないのだろうと思ったが、筆者のように8Kプロジェクターを所有している人は少ないし、PS5 Proも家庭用ゲーム機としては約12万円という高価な製品。そこに加えて8Kテレビも買いましょうというのは、ちょっと言いにくい話だったのかもしれない(そもそも、ソニーが8Kテレビを一台しかラインナップしていない)。PS5 Proで8K/60pでゲームをしてみたという話もネットを含めて聞かないので、そもそも知っている人は少ないのかもしれない。

事情はわかるし、8K/60pができると多くの人が知ったところでPS5 Proが売れるというわけでもないだろう。8Kテレビが数も少ないし、価格も高い。だが筆者は取材後にPS5 Proを購入した。8K環境が整っている人にしてみれば、喉から手が出るほど求めていた8Kコンテンツなのだから。

実情を申し上げると、PS5 Pro対応コンテンツでもすべて8Kに対応しているわけではなく、一部のタイトルに限られる。有名どころでは「グランツーリスモ7」くらい。ほかにも「F1 24」「No Man's Sky」「Paladin's Passage」「[REDACTED]」が8K/60pに対応しているという。

多くの人気タイトルは8K非対応が多く、4K/120fps対応の方が多い。これは、4Kテレビの多くが120pに対応している現状からしても正しい判断だと思う。なお、PS5 ProのYouTube視聴アプリも現状では8K動画には対応していない。それでも8Kの魅力にはあらがえないものがある。

さて、次は8K対応のHDMIケーブル探しだ

とは言ったが、パソコンで8K/60p表示を実現した我が家の試聴室は、HDMIケーブルもプロジェクター用は光HDMIケーブルを使用していて、PS5 Proを接続したらなんの問題もなく表示ができた。PS5 Proもプロジェクターを8K対応機器と認識していて「8Kを有効にする」表示があっさりと現れたわけだ。

PS5 Proで8K出力できるじゃん!

なお、接続はAVアンプ(マランツAV10)を経由している。8K/60pは伝送帯域48Gbpsになるが、マランツAVは伝送帯域は40Gbpsまでだ。本来ならば伝送できないのだが、そこはHDMI Ver.2.1で追加されたDSC1.2(伝送時に行なわれる3倍圧縮)に対応しており、12bitのRGB出力でAVアンプを経由してビクターDLA-V90Rに伝送できていた。画面表示を確認すると、4320p/60Bとなる。非圧縮伝送している場合は4320p/60Aとなる。

AVプリ(マランツAV10)

このあたりはHDMIの規格に詳しい人にしか興味のないところではある。が、一般的に普及している4K/8K対応(HDMI Ver.2.1対応)と表記されているほとんどのAVアンプでPS5 Proの8K/60pのパススルー伝送は可能だと理解してもらえればいい。

マランツに確認したが、デノン、マランツ製の4K/8K対応のAVアンプならば、AV10とHDMI入出力の能力は同じなので問題なく使えるはずだという。ちなみに8K/60p表示ではサブメニューや情報表示などのGUI機能が使えなくなる。システムメニューは表示自体がオーバーレイ表示ではないので問題なく使える。ちょっとした機能制限はあるが実用上はあまり問題がない。

ここでHDMIケーブルの話に戻る。前提として、メタル導線のHDMIケーブルで8K/60pを伝送しようとするとおおむね3mまで、限界でも5mくらいと言われている。

筆者が信頼しているメーカーも8K/60p対応で5mを超えるような長尺のケーブルは光HDMIケーブルを除いて発売していない。このあたりは、スペック表記があいまいな格安HDMIケーブルで8K/60p用を探すときの参考にしてほしい。価格は高くなってしまうが、8K/60p伝送を目的として5mを超えるHDMIケーブルを探すなら、光HDMIケーブルがおすすめだ。ただ、ノーブランド品などの格安品があやしいのは同様だ。

前述のオーディオクエスト45周年イベントに参加したとき、「果たしてオーディオクエストの4K/8K対応HDMIケーブルはPS5 Proの8K/60p出力は大丈夫でしょうか?」と、ちょっと意地悪な話をしてみたら、ぜひ試してみてほしいということになった。こちらとしても比較的安価でしかも信頼に足るHDMIケーブルが増えるのはありがたい話だ。

そしてテスト用にお借りしたのが、「Pearl48」(3m/10,340円)、「Cinnamon48」(5m/58,300円)。Cinnamon48は通常販売されているのは3mまで(34,100円)で、5mは特注による対応だ。先ほども記したがメタル導線のHDMIケーブルで8K/60pを伝送するときの限界と言われている長さだ。そのあたりを確認する意味でも興味深いところだ。

下から「Pearl48」、「Cinnamon48」

結論から言うと、どちらもきちんと伝送できた。当たり前の結果に思えるが、今まで8K/60pの伝送でいろいろと苦労してきた経験から言うと、きちんと伝送できたことが立派だ。しかもPeal48は3mでも1万円ほどと決して高くはない。そんなエントリークラスのケーブルでもきちんと性能が出ているのは間違いなくブランドの技術力の高さだ。

3mのPearl48、5mのCinnamon48、どちらでも8K伝送できた!

というのも、とあるHDMIケーブルメーカーに聞いた話がなかなか印象的だった。HDMI規格の認証のテストはどの製品もやる必要がある(認証マークがもらえない)。が、それはテスト用ケーブルを送って検証してもらう仕組みであって、そのテスト用だけエース級の高性能品を送ってテストをパスする悪質なメーカーもあるとかないとか。

それは無茶な話だとしても、工業製品である限りHDMIケーブルもある程度の性能差はあり、測定した結果優秀な性能を持つものだけをテストに送るくらいのことはしている可能性がある。

まっとうなメーカーならば要求性能を満たさない製品は不良品として出荷されないが、安価で発売するため出荷してしまうメーカーもある。4K/60pなどの伝送帯域ではほとんど問題ないので通してしまうのだ。しかし、8K/60pは伝送帯域が40Gbps近くあり、性能の上限付近の信号を伝送するので、メーカーの信頼性というのは実はかなり重要になる。

実際、映像が出ないとか、一番多いパターンで映像は出るがすぐにブラックアウトしてしまう。間欠的に接続が途切れるなどの問題が生じなかったので安心した。日常的に使っている光HDMIケーブルは1mで10万円くらいの高級品だが、8K/60pを表示しても画質的な劣化をほとんど感じなかった。これもうれしい驚きだ。

オーディオクエストでは、ここ最近はオーディオケーブルだけでなく、特に需要の伸びているデジタルケーブルやビデオケーブルに注力しているという。優秀だが高価な素材をぜいたくに使うのではなく、「損失」を最小におさえる構造を開発してきたそうだ。

なお、ケーブルは硬い。自宅の環境でPS5 ProとAVアンプの位置からすると3mはちょうどいい長さである程度の余裕もあるのであまり気にならなかったが、5mのCinnamon48はちょっと長すぎてケーブルを大きく引き回す必要があったので、ちょっと使いにくかった。

だが、ケーブルの硬さはオーディオクエストの特徴でもある。配線の被覆はノイズ消散などの構造も備えるが、さらに振動による外的要因とか機械的な安定度を高める素材が選ばれているという。単線構造が主体という導体の作りも影響がありそうだ。まあ、オーディオクエストのケーブルは硬いと覚えておこう。

どちらもケーブルは硬め。だが、そこがオーディオクエストのこだわりだ

そして、オーディオクエストの公式ホームページから、各ケーブルのスペックを確認すると、きちんとケーブルごとに使われている導体も紹介されている。しかも、A/V導体(映像と音声信号を伝送する導体)だけでなく、eARC導体やグランド線の導体も明記されている。これは安心感がある。

勘のいい人はここで気づくと思うが、映像と音が良いと謳うケーブルメーカーが高級な素材を使っていると説明しているのはA/V導体のことを指す。

eARC導体までも同じかというとそれは確認してみないとわからない。今やHDMIのeARC接続を使っている人は増えていると思うが、せっかく映像と音が良いケーブルを選んでも、eARC配線までこだわっているかどうかはきちんと明記されていない場合もある。このあたりもきちんとスペックで明記しているメーカーだから、eARC接続が増えていること、ユーザーは気にするべきであることをちゃんとわかっているわけだ。

ちなみにPearl48はLGCという導体を使用。Cinnamon48は1.25%シルバーコーティングLGCで、eARCの導体もそれぞれ同じ素材を使用していることがわかる。

なお、日本ではまだ未発売だが、オーディオクエストには「eARCの音が良い」ことを特徴としたモデルもあるそうだ。これはeARC接続を使っている対応オーディオ機器やサウンドバーなどを使っている人には朗報だろう。日本でもぜひ発売してほしい。

PS5 Proで見る8K/60p映像

肝心の“PS5 Proで見る8K/60p映像”だが、まず4Kと何が違うかというと、CGがより自然になる。現在のCGは基本的にはポリゴンという三角形を多数結合した多角形で物体をモデリングし、そのモデルに質感表現や光の反射などを計算してレンダリング(描画)する仕組みだ。

そのため、CGモデルのポリゴン数が少ないと、あるいは質感表現として貼り付けるテクスチャーのデータが解像度が低いと、8Kでレンダリングしても効果は少ない。多くのゲームが8K/60pに対応していないのも、こうした理由のためだろう。CGモデルもテクスチャーの解像度も4K解像度に特化しているわけだ。逆に8K/60p対応ならば、CGモデルもテクスチャーなども十分な解像度を持っているとも言える。

CGが自然という表現の理由は、ジャギーだ。説明したようにCGはどこまで行っても多角形なので、円形やゆるやかなカーブの表現が苦手だ。解像度が足らないとここでジャギーと呼ばれる描線に乱れやチラつきが生じる。

「グランツーリスモ7」で言えば、車のホイールやハンドル、メーターなど円形のものはたくさんある。それ以上に世界各国の名車のエレガントなボディワーク、美しいラインが乱れてしまう。動画でみると描線がチラつくのですぐにわかるし、いかに4Kでも解像度が足りないのだなとわかってしまう。

本当に現実の世界で、車が動いているように見える

これが8Kになると、よほど細部に注目してチェックしないとジャギー感がほとんど感じられない。これだけでCGではなく、実写感が増す。実際にサーキットなどを走っている映像でも、路面のテクスチャーとかゼブラゾーンの質感、走行しているライバルの車などが実写に近いリアル感になるので、まさに実際に走っている感覚になる。

雨が降って路面が濡れていればスリップ率が上がって同じ速度では曲がれなくなるが、それが映像を見て直感的にわかるのだ。リアルを追求すると、車体の振動が身体に伝わらないなどの無理な相談が出てしまうが、映像と音だけでもここまで臨場感が高まるものなんだなと感心する。

なお、エントリー級のPearl48でも、映像の抜けがよくなるというか、色がくっきりと見やすくなった感じがあるし、音声でも車のエンジン音などの厚みが増して感じるなど、好ましい変化を感じた。このあたりは伝送ロスの少なさやノイズ対策が効果を発揮しているのだろう。この価格で、光HDMIケーブルに匹敵する実力というが驚きだ。

Pearl48

また、Cinnamon48は5mという長さにも関わらず、3mのPearl48と比べて画質・音質の変化はあまり感じない。5mの長さで劣化していないことが驚異的だ。メタル導線のケーブルは短いほうが物理的に優位なので、もしCinnamon48が同じ3mだったら、より鮮明で情報量の多い映像と音になっただろう。

しかも、どちらも決して手の届かない価格ではないのもうれしい。Pearl48はPS5 Proなどを購入した人が、「HDMIケーブルもちょっと良いものを使おうかな」と思ったときにちょうどいい製品だと思う。

Cinnamon48

8K/60pの環境を整えることは残念ながら決して身近な話題ではないので、それを無理におすすめする気はないが、そんな規格の上限付近の信号伝送でもきちんと使えて、しかも安価なオーディオクエストのHDMIケーブルにはぜひ注目してほしい。

そしてオーディオクエストが気に入ったら、オーディオケーブルやスピーカーケーブルもあるし、もっと高性能なケーブルもたっぷりとある。まずは、どこの家にでも1本や2本はあるだろうHDMIケーブルから、ぜひともオーディオクエストの魅力を体験してみてほしい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。