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FIIO“真の価格破壊的DAP”、エントリーの概念塗り替える5万円台の最強DAP「M21」を聴く
- 提供:
- エミライ
2025年6月20日 08:00
JM21の衝撃再び!?
まだ記憶に新しいが、今年の頭、ポータブルオーディオ界に衝撃的なDAPが登場した。8コアSnapdragon 680やデュアルDAC、4.4mmバランス出力などを搭載しながら、早割キャンペーン価格29,700円前後という、FIIOの“価格破壊的DAP”「JM21 Blue」(以下JM21)だ。
私もレビュー記事を書きながら、コスパに驚くのを通り越して「これで利益は出るの?」と首をかしげるDAPだが、案の定、このJM21は売れまくった。BCNランキングで、2025年1月20日~3月2日までの6週連続で販売台数No.1、同期間の金額シェアも15.82%を記録したそうだ。なお、キャンペーン価格が終わった現在でも3万円を切る店舗が多く、“価格破壊的DAP”としての存在感を発揮し続けている。
手に取りやすい価格なので、このJM21から「有線イヤフォン/ヘッドフォンのポータブルオーディオ世界に足を踏み入れた」という人も多いはず。サイズが小さく、何より軽量なので、スマホと2台持ちしているという人もいるだろう。
一方で、「JM21で本格的なDAPに触れて、上のモデルはどんな音なのか興味が湧いた」という人や、「試聴してJM21のコスパは凄いと思ったけど、音質や機能面でもう一声欲しい」と見送った人もいるだろう。
そんな人に要注目「JM21の兄貴分」的なDAPがFIIOから登場した。「エントリークラスの概念を塗り替える」という意欲作、その名も「M21」。オープンプライスで、市場想定価格は53,900円前後だ。
約3万円のJM21と比べると、M21は少し高価。「より音にこだわりたいが、20万円、50万円といった高級機には手が出ない」という人にマッチしそう。そして結論から先に言うが、このM21こそ、JM21に続いて現れた“真の価格破壊的DAP”なのかもしれない、そう思わせる完成度になっている。「音によりこだわる人も、もうDAPはM21で良いのではないか?」と言いたくなるほど、危険な存在だ。
高級感のある筐体、驚きのクアッドDAC搭載
M21の外観から見ていこう。カラーはDark BlueとTitanium Goldの2色で、今回はDark Blueをお借りしている。
ディスプレイは4.7型(1,334×750)で、外形寸法は約121×68×17mm(縦×横×厚さ)、重量は約193g。並べてみるとわかるが、M21とJM21のディスプレイサイズは同じで、大きさもほぼ同じ。厚さがM21が17mm、JM21が13mmと、M21の方が少し分厚いくらいだ。どちらもコンパクトなので、ワイシャツの胸ポケットにも入れやすい。
なお、JM21の重量は約156gと、M21よりもさらに軽い。この薄さと軽さで“気軽に持ち歩けること”がJM21の強みでもある。
ストレージ容量は64GB。microSDカードスロットも下部に備えており、最大2TBまでのカードが使用できる。
筐体はフルアルミニウム合金製で、背面にはAGフロストガラスが使われている。筐体の剛性は高く、肌触りも良い。背面がプラスチック製のJM21と比べると、M21の方がかなり高級感がある。
M21のSoCは、JM21と同じ8コアの「Snapdragon 680」を採用している。処理能力の高いチップであるため、Android 13をベースとしたM21の動作はサクサクで、音楽の検索、再生といった操作でほとんどストレスは感じない。データ容量の大きいDSDファイルの操作でも、もたつくことはない。
DACチップはシーラスロジックの「CS43198」を採用している。このDACチップは、JM21で使われているものと同じだが、JM21がデュアルDACで搭載しているのに対し、M21はクアッド、なんと4基も搭載している。
CS43198はステレオDACチップなので、1基で2chを処理できる。それを4基搭載するという事は、8ch分の処理ができるわけだが、JM21ではこの8ch分のDACを活用し、左右チャンネルそれぞれのプラスとマイナスを、個別のDACで処理するフルバランス設計を採用した。
数十万円するハイエンドDAPで採用するような技術だが、それをM21は実売5万円台のDAPに搭載してしまっている。
DACの後段にある、ヘッドフォンアンプもこだわっている。2段回路設計になっており、第1段で電圧増幅、第2段で電流増幅を行なう。これにより、よりピュアで豊かなディテールを備えたサウンドを実現したという。ヘッドフォン出力は3.5mmシングルエンドと、4.4mmバランスを備えている。
さらに、M21のためにカスタムした専用の水晶発振器も開発。フェムト秒レベルの基準を満たすよう厳選され、「PCMおよびDSDオーディオを様々なサンプリングレートで確実にマッチングさせ、デジタルオーディオ信号を精確に再現する」という。
細かいところも抜かりはなく、デジタルモジュールとアナログアンプモジュールを独立配置し、シールドカバーで覆って相互干渉を防止。デジタル回路とアナログ回路それぞれに、独立した電源回路を設け、両者間のクロストークを低減。
オーディオ回路には、高精度のフィルム抵抗や低温ドリフトコンデンサーを搭載。DACやヘッドフォンアンプなどの精密回路には、10個以上の低インピーダンス・大容量タンタルコンデンサーも使っている。
エントリークラスでは初の“デスクトップモード”搭載
機能面でJM21とは異なり、M21のみの特徴となるのが、FIIOのエントリークラスDAPとして初搭載の「デスクトップモード」だ。
ご存知の通り、最近のDAPは、パソコンやスマホなどとUSB接続し、それらのサウンドをDAPから高音質再生する「USB DAC機能」を備えたモデルが多い。JM21やM21も、このUSB DAC機能を備えているのだが、それをより活用するための機能が、M21が搭載しているデスクトップモードだ。
例えば、パソコンとM21をUSB接続し、M21のイヤフォン出力とアクティブスピーカーを接続。パソコンのサウンドを、M21を経由してスピーカーで楽しむとする。パソコンを使う時間が長時間になると、当然M21を使う時間も長くなる。その時、M21の内蔵バッテリーは充電・放電を繰り返す事になるため、バッテリーの劣化が発生する。
そこでデスクトップモードを有効にすると、M21は外部電源からの電源供給でのみ動作するようになり、内蔵バッテリーは充電も放電もしない。つまり、長時間PCと組み合わせて使っても、バッテリーを劣化させないわけだ。後ほど、実際に試してみよう。
さらに、ポータブルモードでは標準電圧で動作するが、デスクトップモードでは高電圧動作が可能な「スーパーハイゲイン」モードも使えるようになる。このモードでは21Vpp(300Ω)のピーク駆動電圧と950mW(32Ω)の強力な出力が可能になり、鳴らしにくいヘッドフォンもパワフルに駆動できるようになる。
M21のサウンドをチェックする
比較相手として、JM21も用意し、M21のサウンドを聴いてみよう。イヤフォンはqdc「WHITE TIGER」を使い、4.4mmのバランス接続でハイレゾファイルを中心に聴く。
まずはおさらいで、JM21から聴く。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生すると、クリアで非常に素直なサウンドが流れ出す。
冒頭のピアノやベースの音に色付けは無く、続く、ダイアナ・クラールの歌声もナチュラルだ。情報量は多く、ベースの弦が震える様子や、ピアノの左手の動きも聴き取りやすい。
実売約3万円かつ、小型軽量なDAPとして、かなりハイレベルなサウンドであり、改めてコストパフォーマンスの高さを実感する。超気軽に持ち運べるDAPで、この音質が楽しめるというのはJM21の利点だろう。
一方で、低音の深さや、中低域の肉厚さ、音場の広さといった面で、高級機と比べると少し弱い部分もある。全体のバランスとして、やや高域寄りで、質感の描写もサッパリしている。
ではM21で同じ曲を聴くと、どうだろうか?
冗談抜きに、先ほど挙げた不満点が、M21では全て解消される。アコースティックベースの低音は「グォーン」と低く沈み、ベースの響きも肉厚に押し寄せてくる。
空間の広がりも広大になり、特に奥行き方向に、ピアノの響きが広がっていく様子が、見通せるようになった。
情報量もさらにアップする。JM21では気が付かなかったが、ベーシストが演奏をしながら「フッ」と息を吸い込むかすかな音が、M21では聴き取れて驚いた。
「米津玄師/KICK BACK」のような、激しい曲ではより違いが顕著になる。
M21で聴くと、エレキベースやドラムの低音が、トランジェント良く切り込み、1つ1つの音がしっかりと“重い”。ベースラインが、まるで地面に痕跡を残すように刻み込まれる。
低域の重心が低いため、M21のサウンドにはドッシリとした安定感がある。これと比べると、JM21の音はどうしても低音が軽めで、ハイ上がりのバランスに聴こえる。もちろん、JM21の音も、クリアで清涼感があり、これはこれで良いのだが、M21のドッシリとした重厚感のあるサウンドを聴いてしまうと、「やっぱり値段なりの差はあるな」と感じてしまう。
逆に言えば、M21は5万円台のDAPながら“安っぽさ”がまったくない。SN比が良く、空間が広く、低域もパワフルで重厚なサウンド。目隠しして聴いたら、「10万円とか20万円の高級DAPかな?」と思ってしまうようなサウンドだ。
音のコントラストも深いため、質感の描写も聴き取りやすい。クラシックのヴァイオリンで、「ヒラリー・ハーン/J.S.Bach: Violin Concertos 第1楽章: Allegro」を再生すると、ヴァイオリン弦が震え、美しい響きが生まれる様子が、M21ではよく分かる。低域もしっかり再生できる事で、ヴァイオリンの筐体で増幅された響きが、より深く味わえるためだ。
純粋に価格だけを見るとJM21の方が低価格ではあるのだが、“音質と価格”を考えると、実はM21の方がコストパフォーマンスは高いのではないか。そう思わせるほど、M21のサウンドは完成度が高い。
今後、DAPと組み合わせるイヤフォンやヘッドフォン側をグレードアップした場合でも、M21の方が、それらの実力を、より引き出してくれるだろう。
デスクトップオーディオでも使ってみる
イヤフォンのサウンドに満足したので、スピーカーとも組み合わせてみよう。接続相手として、クリプトンのアクティブスピーカー「KS-11」を用意。M21の3.5mmイヤフォンジャックをラインアウトモードに設定し、KS-11のステレオミニ入力と接続した。
これだけで、M21のストレージに保存した音楽を再生するデスクトップオーディオ環境を構築できる。M21は、アプリのインストールも出来るため、Amazon Musicなど、音楽配信のサウンドをスピーカーで楽しむシステムとしても使える。コンパクトなので、キッチンや寝室など、違う部屋に移動して音楽を楽しむのもアリだろう。
デスクトップモードも試してみよう。
M21をUSB DACモードに設定した上で、底部にあるUSB 3.0端子とパソコンをUSB-Cケーブルで接続。さらに、M21の側面にあるデスクトップモードへの切り替えスイッチを「ON」とし、USB 3.0端子とは別に用意された、給電専用の「POWER IN」に、USB-Cの電源ケーブルを接続する。
こうすることで、前述の通り、M21内蔵バッテリーを劣化させず、M21をUSB DACとして長時間利用できるようになる。
このデスクトップオーディオモードで、PCで音楽を再生したり、YouTubeで音楽ライブを見たり、ゲームをプレイしてみたが、かなり音のクオリティが高い。
イヤフォンで聴き慣れた音楽も、スピーカーで再生すると、また世界が変わる。自分の眼の前に音場が広がり、中央にボーカルが定位。その歌声が、部屋に広がっていく様子をより実感できるのは、スピーカー再生の醍醐味だ。デスクトップに置いた、
小型スピーカーであっても、机の上にちゃんと音場が広がり、自分もその空間に包みこまれる感覚が味わえる。ノートパソコン内蔵スピーカーなどでは味わえない世界で、音楽鑑賞や、ミュージックビデオの視聴、配信ライブなどがより楽しくなるだろう。
前述の通り、M21の音は沈み込みが深く、音圧も豊かな低音が再生できるので、スピーカーで再生した場合でも、迫力のあるサウンドが出せる。YouTubeで、過去の名車をレストアする動画を見ていたのだが、復活したエンジンが「ブルォオン!!」と雄叫びを上げると、重低音がお腹に響いて気持ちが良い。
男性アナウンサーと軍事アナリストが世界情勢を語る番組も見ていたのだが、男性のお腹から出る低い音をしっかり再生できるので、「やっぱりアナウンサーっていい声だなぁ」と感心してしまった。音が良くなると、トーク番組やCMであっても、今まで気が付かなかった魅力が味わえるようになる。日常生活が、ちょっとリッチになった気分だ。
カセットテープスタイルにチェンジ!
ここまででも、“コスパに優れた高音質DAP”として魅力的なM21だが、その魅力をさらに高めるケースも別売で用意されている。
近日発売なのが、手触りが良く、耐摩耗性、耐汚染性も備えたというPUレザーケース「SK-M21」(オープン/市場想定価格は2,970円前後)。ダークブルー/ブラウンの2色があり、どちらも装着した状態で、本体のボタン操作やイヤフォン接続が可能だ。
さらにユニークなのが、後日発売予定の「SK-M21C」(オープン/市場想定価格4,950円前後)というケース。なんと、“カセットテープスタイル”の保護ケースになっており、これをM21を装着すると、M21がカセットプレーヤーのように見えるわけだ。
凝っているのは、このケースを装着すると、M21がそれを検知し、ディスプレイのUIをカセットテープのようなUIに自動的に切り替えるほか、ケースに備えたマルチファンクション、音量調整、再生停止、トラック送りボタンが使えるようになる。逆に、装着中はタッチスクリーン操作は無効となり、物理ボタンでの操作となる。
さらに、M21に搭載したEQから、「レトロサウンドEQ」を選べば、カセットテープっぽい音でも楽しめるというこだわり具合。「カセットっぽいデザインを作ってみました」というレベルではなく、「全力でカセットテーププレーヤーに変身させる」という心意気が良い。
このケースを装着した状態で、「いま、カセットテープに凝ってるんだ」なんて言いながら友達に見せれば、本当にカセットを聴いていると思われるかもしれない。レトロなファッションアイテムとしても、かなりM21が欲しくなる。粋なアクセサリーだ。
M21を使って感じるのは、“隙の無い完成度の高さ”だ。
重厚でエントリーDAPとは思えないサウンド、動作はサクサクで、筐体も高級感があり、遊びココロを備えたケースまで用意されている。さらに、帰宅後にUSB DACとしてフル活用できる、デスクトップモードも搭載と、まったく手を抜いたところがない。「エントリーだからここは我慢しなきゃ」という部分が無いので、使っていると「もうコレで良いのでは?」と思えてしまう。
3万円台のJM21と5万円台のM21、どちらも低価格帯のDAPではあるが、マッチするユーザー層は少し違うだろう。JM21は、これまでDAPや有線イヤフォンを使ったことが無い人が、気軽に本格的なポータブルオーディオの世界に入れる、それでいてサウンドは本格的。小さくて軽いので、スマホと2台持ちも苦にならない……といった“気軽に使えるDAP”として魅力がある。
一方でM21は、「最近使っていなかった、お気に入りの有線イヤフォンを再活用したい」とか「最新スペックのDAPを手軽な価格で手に入れたい」、「入門DAPからステップアップしたい」、さらに「デスクトップオーディオ環境も強化したい」という人に最適な選択肢になるだろう。
いずれにせよ、自ら作った“価格破壊的DAP”であるJM21を発売してから半年と経たず、JM21とは別の魅力を備えた兄貴分M21を発売するFIIOの、開発力、スピード感、コストパフォーマンスの高さには脱帽だ。「エントリークラスの概念を塗り替える」というFIIOの“本気”が、ヒシヒシと伝わるDAPがM21だ。