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3万円切る、FIIO“価格破壊的DAP”「JM21」の衝撃。BTレシーバー「BTR17」とどっちを選ぶ?

FIIO「JM21」

スマホからイヤフォン端子が消えて久しいが、「気に入ってる有線イヤフォンが使いたいな」とか「家にあるちょっといいヘッドフォンで聴きたいな」なんて瞬間は多い。そういった時は、ポータブルDAPの出番だが、高音質化競争が激化した結果、本格的なDAPは巨大で、数十万円するような製品が多くなってしまった。

そうなると、スマホと一緒に持ち歩くのは重くて苦労するし、そもそも何十万円もするDAPは手が届かない。もっと小さく、軽くて、手が届きやすいDAPが欲しい。そんなニーズを受けて、近年ShanlingやHiByMusicなどの“お手軽小型DAP”が人気を集めている。

そんな市場に、あの“ポータブルオーディオ界の風雲児”FIIOが参入した。ユーザーのニーズがあるとなれば、ものすごいスピードで製品を開発し、それを驚異的なコストパフォーマンスで市場に投入。ユーザーからすれば「ありがたい」の一言だが、ライバルメーカーからすれば「勘弁して」と言いたくなるメーカーだろう。

そんなFIIOの“価格破壊的DAP”が「JM21 Blue」(以下JM21)だ。価格はオープンプライスで、2月28日までの期間限定早割キャンペーンが実施されているのだが、なんとその実売が29,700円前後と、3万円を切っている(3月1日以降は通常価格で販売)。「これで利益が出るのか?」と思いながら実機を借りて使ってみたところ、「なんでこの価格でこの音が出せるんだ?」と、頭を抱えるDAPに仕上がっていた。

JM21 Blue

適度なサイズと、感動する軽さ

外観から見ていこう。ディスプレイサイズは4.7型で、解像度は750×1,334ドット。ディスプレイ自体がそれほど大きくないので、表示にドット感は無い。スマホよりも小さく、さらに筐体が13mmと薄いため、ワイシャツの胸ポケットにも入れやすい。外形寸法は約120.7×68×13mm(縦×横×厚さ)だ。

ディスプレイサイズは4.7型
左側面に電源ボタンとボリュームボタン
右側面に再生操作とmicroSDカードスロットを備える

なにより嬉しいのが、重量が約156gと軽いこと。胸ポケットに入れても、生地が下に引っ張られない重さ。お尻のポケットに入れても、しばらくすると重さを忘れるレベルなので、スマホとの2台持ちもあまり苦にならない。

サイズ感比較。左からJM21、BluetoothレシーバーのBTR17、スマホのPixel 9 Pro XL

高価なDAPは、アルミやステンレスから削り出した筐体を採用し、500g近い製品もある。それだと家を出る時に「よし、今日はこれを持っていくか」「手ぶらで行きたいけどバッグも必要だな」となるが、JM21はそんな事をまったく考えず、ヒョイと手にとってポケットに入れられる。この気軽さが最大の魅力と言っていいだろう。

これだけ軽いと質感はチープなのでは?と思うが、実機を触ってみると、そんなに安っぽい感じはない。ディスプレイ周りはアルミニウム製のフレームになっており、そこにプラスチック製の筐体ケースを組み合わせているようだ。

もちろん背面を触ると「プラスチックだな」というのはわかるのだが、付属の透明保護ケースを装着すると、背面に直接触れなくなるため、あまり気にならない。前面のアルミフレームだけが目に入ることで、安っぽさを感じさせない工夫なのだろう。

ディスプレイ周りはアルミニウム製
背面はプラスチック製
透明ケースを装着すると、背面プラスチックの質感も気にならなくなる

驚くべきは中身だ。3万円を切るDAPなのに、最新の8コアSnapdragon 680を搭載している。

さらに、DACチップはシーラスロジックの「CS43198」を、なんとデュアル構成で内蔵。加えて、ヘッドフォンアンプ部にも、SGMICRO製オペアンプ「SGM8262」もデュアル構成で搭載。このサイズと価格ながら、完全バランス設計というこだわり具合。デュアル構成のカスタムフェムト秒クロックも内蔵するというから、驚きだ。

ヘッドフォン出力も4.4mmバランスと、3.5mmのシングルエンドを各1系統装備し、抜かりはない。パワーもバランスは最大700mW(32Ω、THD+N<1%)、シングルエンドも最大245mW(32Ω、THD+N<1%)と、十分パワフル。3段階のゲイン切り替えも可能だ。

ヘッドフォン出力も4.4mmバランスと、3.5mmのシングルエンドを各1系統装備し、抜かりはない

再生時間は最大12時間。デジタル回路とアナログ回路で電源を完全に独立化しており、DAC、電圧、電流増幅の3段階で電源供給処理を実施。4チャンネルのヘッドフォンアンプには、4つの独立した高精度なLDOレギュレーターを搭載してノイズを下げるなど、細かい部分までこだわっている。

ファイルは、PCMが384kHz/32bit、DSD 256(Native)までサポート。OSは、上位機でも使われている、Android 13をベースとしたカスタムOSだ。

Android 13をベースとしたカスタムOSを採用

機能も充実しており、Bluetooth 5.2準拠で、対応コーデックはSBC/AAC/aptX/aptX HD/LHDC/LDAC。Bluetooth受信も可能で、その場合はSBC/AAC/LDACが使える。底部にはUSB-C端子も備え、PCなどと接続してUSB DACとして使うこともできる。

このように、スペックや機能を見る限り、上位機とあまり遜色がない。唯一、コストダウンを感じさせるのは、メモリが3GB、ストレージは32GB(ユーザー使用可能領域約22GB)とちょっと少なめなこと。ただ、代わりにmicroSDカードスロットを備え、2TBまでのカードを増設できるので、沢山の音楽ファイルを持ち運びたい人は、microSDカードを活用すると良いだろう。

なお、ベースとなっているAndroid 13システムはメモリ使用量が大きいため、「安定した動作と音質の最適化のため、音楽再生アプリのみの使用を推奨しており、他のアプリのインストールは推奨していない」とのこと。ただ、アプリのインストールは可能なので、後ほど試してみよう。

ChromeでWebサイトを見てみたが、動作速度に不満はなかった

低価格を感じさせない操作性

純正音楽再生アプリの「FIIO MUSIC」を起動し、再生操作をしてみたが、Snapdragon 680を搭載している事もあり、動作はサクサクしていて、使っていて気持ちが良い。低価格DAPの場合、「ディスプレイの解像度が低くて画質がイマイチ」とか、「動きがモッサリしていてストレス」となりがちだが、JM21には当てはまらない。

上位モデルと同様に、通常のAndroidモードに加え、FIIO MUSICだけが表示されるピュアミュージックモード、そしてUSB DAC、Bluetooth受信モードと、動作モードを切り替えられる。

動作モードを切り替えできる
Bluetoothレシーバーとして動作しているところ

推奨はされていないが、Amazon Musicアプリもインストールしてみた。最新バージョンは弾かれてしまったので、少し前のバージョン24.1.5をインストールしたところ、特に問題なく使用できた。FIIO MUSICと比べると、少し重い感じはするが、音楽を検索し、再生するといった基本的な操作は十分可能。大量に楽曲を登録したプレイリストを、スクロールすると、アルバムアートの読み込みが追いつかずにガクガクするが、それは仕方がないところだろう。

Amazon Musicアプリもインストールしてみた

音を聴いてみる

音を聴いてみよう。試聴にはqdcのイヤフォン「SUPERIOR」(インピーダンス16Ω)、フォステクスの平面駆動型ヘッドフォン「RPKIT50」(同50Ω)などを使用した。接続は4.4mmのバランスを使っている。

SUPERIOR

音質の前に音量から。JM21はフルボリューム値が120で、3段階(ロー/ミッド/ハイ)のゲイン切り替えが可能だ。ローにした状態では、SUPERIORでは45~48ほど、RPKIT50では105あたりで十分な音量が得られる。

ゲインをハイにした場合は、SUPERIORでは30ほど、RPKIT50では70あたりで十分な音量。鳴らしにくいヘッドフォンも十分に駆動できるパワーがあり、“低価格DAPだから出力は弱そう”というイメージを覆してくれる。

RPKIT50

音も素直で良い。

いつもの「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生すると、FIIOらしい、ニュートラルで色付けのない音が流れ出す。ベースの音も、弦の金属質な音と、ベースの筐体が反響するウォームな音がキチンと描きわけられており、続く女性ボーカルも生っぽさが感じられる。どこかを強調するなど、音をいじった感じが無く、とても素直なサウンドだ。

音が出る前の無音部分や、無音部分からスッと音が立ち上がる様子など、SN比の良さも実感できる。この価格でも、デュアルDACを搭載し、ヘッドフォンアンプもデュアル構成にした効果だろう。

特筆すべきは情報量の多さだ。「月とてもなく」のアコースティックベースの弦が、震える時の「ブルン」という音だけでなく、それがどこかに当たった時の「ベチン」という細かな音や、ミュージシャンのかすかな吐息まで聴き取れる。ハイレゾ楽曲の情報量の多さがちゃんと味わえるDAPとしても、しっかりとした実力を備えている。

「米津玄師の曲/KICK BACK」のような激しい楽曲でも、切り込むようなベースラインや、周囲に広がるコーラスやSEといった細かな音が丁寧に描写されるので、「こんな音まで入っているんだ」と聴き取れる楽しみがある。

ベースの低音に、しっかりと“重さ”があるのも良い。本格的なヘッドフォンアンプを搭載しているからこそのサウンドで、低音がしっかりと深く沈むと、音楽全体に重厚感や安定感が生まれる。音像にも厚みがあり、ジャズのグルーヴや、クラシックのスケール感などが再生できる。イヤフォン端子を備えたスマホや、完全ワイヤレスイヤフォンで、この低域を再生するのはなかなか難しいだろう。

JM21が約2.9万円、イヤフォンのSUPERIORが約1.3万円なので合計でも約4.2万円で済む計算だ。

ご存知の通り、最近の完全ワイヤレスイヤフォンの高級モデルでは、4万円するモデルも少なくない。それに近い価格で、JM21の駆動力の高さ、そして筐体内に余計なものが入っていない有線イヤフォンならではの、余裕のあるサウンドが楽しめると考えると、これはかなり魅力的だ。

その一方で、「JM21があれば、高価なDAPは不要なのか?」というと、流石にそうはいかない。数十万円するハイエンドDAPのサウンドと比較すると、低域のズシンという深さがもう一声欲しいとか、音の余韻が広がる空間がもう少しあれば……と、不足を感じる部分はある。それでも、この軽さと、実売約2.9万円という価格を考えると、「この気軽さでこの音が楽しめれば十分なのでは」と考えてしまうのも事実だ。

高音質なBluetoothレシーバーと比べてみる

一方で、最近は“ワイヤレスの便利さ”と“専用機の音の良さ”を組み合わせた製品も注目を集めている。その1つが、他ならぬFIIO自身が発売している、Bluetoothレシーバー「BTR17」だ。

Bluetoothレシーバー「BTR17」

このBTR17は、“便利になるのがメインで、音は二の次でしょ?”というBluetoothレシーバーの常識を覆すモデルで、DACチップはESS製「ES9069Q」をデュアルで搭載。さらに、ヘッドフォンアンプ回路には「THX AAA 78+」を左右独立で4基搭載し、合計8チャンネルの完全バランス設計を採用。aptX Adaptive、aptX Lossless、aptX HD、LDACなどの高音質コーデックを網羅する、かなりの“化け物Bluetoothレシーバー”だ。

そしてBTR17の実売価格は約35,750円なので、なんとDAPのJM21はそれよりも低価格となる。そうなると気になるのが、「スマホからBluetoothで飛ばしてBTR17で聴いた音」と「JM21から聴いた音」のどちらが良いのか?という点。気になりすぎるので、比較試聴したが、これが非常に面白い。

Amazon Musicのアプリを使い、「月とてもなく」を再生。スマホからLDACでBTR17に飛ばした音と、JM21でAmazon Musicを再生した音を聴き比べてみた。

音の傾向はかなり近い。ただ、JM21から聴いた音の方が、音場がやや広く、低音の沈み込みもより深い。対するBTR17は、音場が少し狭く、音像も近く感じられる。だが、両者の違いは思っていたよりも小さく、BTR17の音の良さに驚かされる。

特に、BTR17のサウンドには中低域が張り出すパワフルさがあり、「Bluetoothレシーバーだから低音はおとなしいのでは?」という先入観を打ち砕いてくれる。THX AAA 78+の強力さを改めて実感した。

活躍の場が多く、コスパは最強

JM21を使っていて感じるのは“コストダウンの上手さ”だ。音質と操作性という、DAPにとって一番重要なところにコストを投入し、実用面であまり気にならない部分でコストを抑える事で、使っていて「ここがダメだなぁ」と不満を感じるポイントが少ない。

機能も豊富なので、活躍するシーンが多いのも良い。

DAPとして、有線イヤフォン/ヘッドフォンを直接駆動するだけでなく、Bluetoothレシーバーとして使えばスマホで再生している音楽配信の楽曲を有線イヤフォンで楽しめる。家に帰って、PCとUSB接続すれば、USB DAC兼ヘッドフォンアンプとしても使える。これだけ活躍しながら、実売が2.9万円というコストパフォーマンスの良さは驚異的であり、価格破壊的なDAPと言っていいだろう。

なお、PCと接続してUSB DACとして使う場合は、DAPにUSB給電する時間が長くなるため、充電され続けるバッテリーへの負荷が気になるという人もいるだろう。JM21ではそれを防ぐために、USB接続していても、内蔵バッテリーを充電しないモードも備えている。上位機に搭載している機能だが、エントリーDAPにもしっかり搭載してくれるのは、「オマケ機能ではなく、USB DACとしてもガッツリ使ってね」というメッセージが感じられて嬉しい。

USB DACとして動作しているところ
「充電停止」モードにすると、USB接続していても、内蔵バッテリーが充電されないようになり、バッテリーへの負荷を低減できる

ここ数日持ち歩いているが、やはりJM21のコンパクトさ、薄さ、軽さは正義だと感じる。リモートワークの合間、昼食に出かける時に、いつもは「手ぶらがいいから」と完全ワイヤレスをポケットに入れるのだが、JM21だと、その気軽さで有線イヤフォンとセットでポケットに入れられる。「重くて大きいからDAPを使わなくなっちゃった」という人にこそ、JM21を使ってみて欲しい。この軽さと価格なら、も一度DAPを相棒にしてみようかなという気持ちになるだろう。

また、そうしたDAP復帰勢だけでなく、完全ワイヤレスイヤフォンからオーディオに興味を持った人が、「有線イヤフォンってどんな音なのだろう?」と気になった時に組み合わせるDAPとしても最適だろう。ポータブルオーディオ市場全体を再度盛り上げる力を秘めた、強力な新製品だ。

山崎健太郎