トピック

iFi audioが到達した“生演奏のような”サウンド、ストリーマーと強力ヘッドフォンアンプ融合「iDSD Phantom」を聴く

iFi audioのフラッグシップモデル「iDSD Phantom」

iDSD Phantom

ポータブルなサイズのオーディオ製品を愛好する人や、ヘッドフォン/イヤフォンを中心に楽しんでいるオーディオファンなら、ぜひ注目してほしいブランド・iFi audioの特集 第2回。今回は、8月28日に発売されるiFi audioのフラッグシップモデル「iDSD Phantom」(オープン/実売約891,000円/発売記念50,000円キャッシュバックキャンペーン有り)を紹介しよう。

iDSD Phantomを簡単に言えば、“ミュージックストリーマー機能を備えたUSB DAC内蔵ヘッドフォンアンプ”。前回紹介した「NEO Stram 3」と「NEO iDSD 3」が合体したような製品だ。

前回紹介した「NEO Stram 3」と「NEO iDSD 3」

250mm前後の2台のコンポが上下に重なったようなユニークな形をしているので、ミュージックストリーマーとUSB DAC内蔵ヘッドフォンアンプが一体化したというと、わかりやすいかもしれない。とはいえ、フラッグシップモデルなので、高価にはなるが。

フロント下側には、バランス出力(3ピンXLR、4ピンXLR、4.4mmバランス)。シングルエンド出力(6.3mm標準ジャック)の豊富なヘッドフォン出力が並び、上側には、豊富な機能をコントロールできるダイヤルとボリュームのふたつのダイヤルを備え、中央には、音量や設定状態の表示、再生中の楽曲表示も可能なカラーディスプレイを配置している。

黒い筐体の上にシルバーの筐体が乗っているように見えるが、これらは一体になっている。黒い部分に、豊富なヘッドフォン出力が並び、上部に操作系がまとめられている
上部の中央には、音量や設定状態の表示、再生中の楽曲表示も可能なカラーディスプレイ

入力は、ネットワーク端子(EJ45)、同軸デジタル、SC(光)、AES/EBU、M12X、USB(USB-C、USB-A、USB-B)。このほかに外部クロック入出力も備える。出力はRCA、XLRが各1系統。内蔵する高性能ボリュームを活用してプリアンプとしても使える。iFi audioらしく、業務用で使うことの多い入力端子も幅広く備えており、機能的にもなかなか充実しているとわかる。

背面

改めて、2階建てスタイルとも言えるデザインに触れよう。ユニークな形状は2層構造の一体型。ボディはアルミニウム製。天板はスモーク・ガラス・パネルとなっていて、中央のロゴをあしらったアルミ製の円盤は内部の熱を排出する通気口。ガラス越しに内部を見ることができ、真空管も見える。

天板はスモークガラスで、真空管が見える

ほかにはないデザインだが、作りもしっかりとしているし、ダイヤルによる操作や機能を個別に呼び出せるボタンも豊富に用意されているなど、機能性もよく考えられたデザインだ。

ハイエンドモデルだけあり、作りはしっかりしている

電源はフィルム・コンデンサーの大容量バッテリーをAC電源で随時充電する「キャパシティブ・バッテリー電源」を採用。内部の回路は、入力から出力まで完全差動となる、「トゥルー・ディファレンシャル・バランス回路」としている。入力段は、真空管回路と、J-FETを使用した完全ディスクリートのクラスAソリッドステート回路の2つを持ち、再生中に切り替えることができる。

ヘッドフォンアンプとしては、0dB、9dB、18dBの3段階のゲイン切りかえが可能。iFi audio独自のインピーダンス適合を最適化するiEMatchも備える。ほかに空間感や音の広がりを調整するXSpace、低音を増強するXBass機能も持つ。

リモコンも付属する
専用アプリ「iFi Nexis」から設定や操作も可能。アプリをリモコンとして使うこともできる

ネットワーク設定などを済ませ、視聴を開始

iDSD Phantomには、兄弟ブランドのSilentPowerのコラボによる「Optibox」が付属する。これは、SilentPowerが単体で発売している「LAN iPurifier Pro」(実売約53,900円)相当の機能を持つ、光ガルバニック絶縁によるノイズ除去を行なうアイテムだ。

「Optibox」
SilentPowerが単体で発売している「LAN iPurifier Pro」

試しに、Optiboxを使わずに聴いてみたが、やはりノイズの影響が目立ち、ざらつきや高音域のみょうな突出などが気になった。ステレオ空間もやや狭いと感じるし、見通しも悪くなる。Optiboxの有無を聴き比べるのは興味深いが、筆者としては、素直に使うことをおすすめする。ネットワーク端子(EJ45)をOptiboxに挿し、iDSD Phantomとは、付属のST(光)ケーブルで接続する。

「Optibox」を接続したところ

iDSD PhantomはXLR出力も備えているので、マランツ「AV 10」とバランス接続。スピーカーは左右のBWV home/studio「H-2」、およびサブウーファーのBWV home/studio「S-5」(駆動用パワーアンプはオーディオラボ「9000P」)が2台、イクリプスの「TW725SWMK2」を2台使った。

BWV home/studio「H-2」

iDSD Phantomの音は、前回の記事で聴いた「NEO Stram 3」+「NEO iDSD 3」の組み合わせと比べても、より滑らかで自然な音だ。丁寧で上質な音で、余裕を持ってゆったりと鳴る印象。ソフトな感触の音でもあるので、もっさりというか、テンポ感が遅い音を連想されてしまいそうだが、テンポはむしろキビキビと速いし、反応もいい。あくまでも耳当たりの感触がソフトなのだ。

こういう音は、ネットワーク環境のノイズが大きいと得にくい。ノイズの影響で高域の歪み感が目立ちやすく、なめらかさが台無しになるし、解像感も甘くなって、ソフトなだけのだらしない音になる。SilentPowerというブランドを立ち上げたことや、ネットワーク環境のノイズ対策アイテムを同梱する理由も改めてよくわかる。iFi audio本来の自然で生々しい音の質感がしっかりと感じられる。

まとまりがよく、あまりにも気持ちよく聴けるので、具体的に「どこが良い」と表現しようとすると逆に難しい。コンサートなどで生の演奏を聴いているときの感覚に近い。本物感のある音だ。

ユジャ・ワンの「ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番」では、タッチがゆっくりになったと思うくらい丁寧になり、鍵盤を押すときの加減や指を離した後の余韻が丁寧だ。ビデオ再生でスロー再生でその動きを確認しているような、分解能の高い再現である。

オーケストラの演奏もゆったりと優雅に広がり、静かな森の中で木々のざわめきや小さな鳥の声がどこにいるのかまでわかるような見晴らしの良い再現。そして、ただ優雅なだけでなく、雄大で力もある。どちらかというと静かな演奏なのに迫力のある見事な演奏だ。

iDSD Phantomの再生中。再生している曲名やジャケット写真が中央の有機ELディスプレイに表示される。小さめだが美しく視認性も良い

EDMのようなポップスも、キビキビとしたリズムはキレ味よく再現される。シャープな解像感はあるが、感触はあくまでなめらかで聴きやすい。米津玄師と宇多田ヒカルの「JANE DOE」も情感たっぷりで、たまらなく色っぽい。価格差もあるが、NEO Stram 3 + iDSD 3の組み合わせとは、音の傾向は同じでも、音の質感や分解能など、情報量がはっきりと増えていて、その差は大きいことがよくわかる。

なお、iDSD PhantomにはOptiboxに加え、SilentPowerが開発したACアダプター「iPower Elite 15V」(実売49,500円前後)まで付属する。軍事技術を基に改良した「Active Noise Cancellation II」により、1μV以下という極めて低いノイズフロアで“バッテリー並みの静けさ”を実現するというアクセサリーだ。

SilentPowerが開発したACアダプター「iPower Elite 15V」

ヘッドフォンの存在を忘れる音の出方に驚かされた

SINDY AUDIOの「Eagret」でヘッドフォンサウンドも体験

続いて、ヘッドフォンでよりしっかりと聴いてみる。ヘッドフォンは、SINDY AUDIOの「Eagret」。4.4mmバランス接続で聴いている。

iDSD Phantomは、スピーカー/ヘッドフォン切りかえのような操作は必要なく、ヘッドフォン端子を接続すると、自動的にラインアウトからヘッドフォン出力になる。

最初、そうと気付かずにヘッドフォンを装着し、再生を再開したのだが、変わらずスピーカーから音が出ていると思い込んで、あれれ、とヘッドフォン出力切りかえなどのボタンを探してしまった。それくらい、ヘッドフォンでも、スピーカーから音が出ているのと同じような、自然な音の出方に驚いた。ヘッドフォンの音とスピーカーの音は、音の出方や広がりが明らかに違う。違うはずなのに、ヘッドフォンの音をスピーカーのそれと勘違いしてしまった。

ヘッドフォンの音でまず言える特徴は、“音源と耳のあいだに適切な距離感があるように聴こえる”こと。ヘッドフォンはその構造上、耳穴のすぐそばに振動板が存在しているわけだが、iDSD Phantomで鳴らすと、振動板の存在を主張するような感じがないのだ。

ステレオ感としても、冷静に聴けば頭外定位というわけではないのだが、頭内定位なのに、頭の中でだけ音楽が鳴っている感じが少ない。音質的にも、高域の輪郭を強めた感じが無く、いわゆる“オーディオ的な音の感触”ではない。それくらい、良い意味であっけなく、自然な音が出た。

これはなかなか凄いことだと思う。筆者が普段使っているヘッドフォンアンプは、音の点ではとても良いのだが、iDSD Phantomのような“ヘッドフォンで聴いている感じがしない”とは感じない。この感触は、他の製品ではあまり得られない。ヘッドフォンの音が苦手という人は少なくないが、そんな人にもiDSD Phantomは受け入れられる音かもしれない。

ヘッドフォン再生らしからぬ、裸の耳で聴いているような感触をもっと詳しく聴いてみよう。

まず、音の広がりがとても自然だ。頭内定位のような感じがないし、ユジャ・ワンのピアノなら、録音されたホールの響きや空気感まで再現されており、音源の位置や距離がどうとかという、オーディオ再生的なことが気にならない。この空間感というか、その場の空気感が伝わる再現が立派だ。

SINDY AUDIOのEagretは手持ちのもので、自宅のシステムでも聴くし、ここ最近のヘッドフォン関連の機器の試聴でも使っている。平面磁界型で空間表現の優秀なヘッドフォンだが、今までこういう聴こえ方をしたことはなかった。iDSD Phantomの空間再現力の高さによるものだろう。

音色は色づけのない自然なもので、きめは細かいが決して甘くない緻密な感触。こうした音色的な傾向はスピーカーでも同様。音の粒立ちもよく、低音弦の胴鳴りとか、打楽器の膜がふるえる感じや膜に手を当てて響きを抑える様子がしっかりと再現される、音の反応の良さもある。なにより音が生々しい。ヘッドフォンで聴くと、こうした細かい部分の丁寧な再現がとても上質なのがよくわかる。

iDSD Phantomよりも、“オーディオ的に迫力がある”とか“解像感が高い”製品はあるだろう。しかし、この自然なたたずまいというか、ヘッドフォンの存在を忘れる感じはiDSD Phantomならではのものと言えるかもしれない。

好みで選ぶ、曲に合わせる、使いこなしがいがある多彩な音質調整機能

今度は、iDSD Phantomが備えるさまざまな機能を聴いてみよう。まずはデジタルフィルターの特性。BP(BitPerfect)、BP+、GTO(Gibbs transient optimized)、APD(Apodising)、TA(Transient aligned)のフィルター特性が選べるが、感触に微妙な違いはあるが、大きな差はない。好みで選んでいいと思う。個人的にはもっとも色づけが少ない、あるは自然と感じたのはBP、好ましかったのはGTOだ。

フィルター特性の選択画面。左のダイヤルを回して選択する。同様に各種の設定などを直感的に操作できる

K2HDは、高域がより自然になり、質感が増すというのは、iDSD 3で聴いた時と変わらない。元がCD音源あるいは圧縮音源だとその効果はより大きい。リマスター機能は、DSD型式に変換再生するものがある。もともとPCM音源の再生でもDSD音源のようななめらかさとかアナログ的な感触のある音だが、よりDSD音源らしさが強まる。

ただし、ロックやポップスだとしなやかだが、優しい音になりパンチが足りないと感じる場合もある。その場合はDSD 512よりもより高次のDSD 1024やDSD 2048の方が力感が出ると感じる。あるいはリマスターはオフとしてPCM再生のままが良い。

K2HDを設定しているところ

XBassは低音増強だが、増強する帯域を10Hz、20Hz、40Hzから選べる。40Hzが一番わかりやすく、多くの人が求める低音というのは40Hzかそれ以上だと改めてわかる。20Hzや10Hzは低音感というよりも空間に響く感じが変わるように感じた。これも好みの低音感で選ぶと良い。大太鼓のそれらしいサイズ感とか、パイプオルガンの怖ろしいほどの超低音を体感しようとするときには有効かもしれない。

XBassの設定画面

XSpaceは空間感の再現で、包まれるような音場を再現できる。位相を30度/60度/90度という感じで選べるのだが、これは聴く曲や機器、個人の好みにもよると思うので、好ましい立体感が得られるものを選ぶといいだろう。

XSpaceで位相を調整しているところ

このほか、インピーダンス適合を自動で行なうiEMatchがあるが、特に一般に鳴らしにくいと言われるハイインピーダンスのヘッドホンやイヤホンでは、しっかりと駆動する意味でも、iEMatchを活用するといいだろう。

最後にインプットステージのソリッドステート(半導体)と真空管の切り替え。これも基本的な音調は変わらないし、半導体モードの時点で、かなりしなやかで柔らかい音なので、ソリッドステートのままでも、心地よい音で楽しめる。

Tube(真空管)モードは、デジタル的なシミュレートではなく、本物の真空管回路によるものなので、音色の厚みや高域の倍音感などに違いがある。音色の質感だけでなく、空間感にも違いがあると感じた。「Tube+」はそうした真空管らしい音を強めるモードで、よりわかりやすいが、真空管特有の音色の厚み、高域の感触を楽しむならば、Tubeモードがよい。これも好みや聴く曲などに合わせて使い分けるといい。

インプットステージのソリッドステート(半導体)と真空管の切り替え画面

マニアックだが、本気で向き合ってみると、奥深い楽しみがある

iDSD Phantomに限らないのだが、iFi audioの製品は、デジタル入力を見ても、宅録やスタジオユースに向いた業務用機器向けの規格(AES/EBUなど)も備えているなど、いわゆるコンシューマー向けの製品ばかりを使っていた人には、マニアックと感じるし、手強いと思う人もいるだろう。たしかにとっつきにくいイメージはあるかもしれない。

だが、音質的には、プロユースの忠実さや正確さを重視した音で、自然なバランスと聴きやすさは、オーディオ機器としても王道を行くものだと感じた。筆者もこの機会に改めてじっくりと使ってみたいと感じた。特にこの自然な音の奥深い味わいは、不思議なことに初見で強いインパクトが残るようなものではないが、続けて聴くうちにその良さがじんわりと染みてくるような他にない感覚がある。

今回紹介したiDSD Phantomはフラッグシップモデルで、価格的にも少々高価だが、ネットワークノイズ対策のOptibox、そしてACアダプターのiPower Elite 15Vが標準で付属するなど、本体を買うだけで、ノイズ対策も完了でき、iDSD Phantomの実力を発揮できるというのも見逃せないポイント。SilentPowerというアクセサリーブランドも展開する、iFi audioならではの強みと言える。

iDSD Phantomで大きくグレードアップするが、基本的な音の素性はNEO Stram 3やiDSD 3と共通したものがあるし、奥深い味わいも同様だ。ぜひこの機会に“iFi audioの音”に触れてみてほしい。

それにしても、NEO Stram 3やNEO iDSD 3、iDSD Phantomと使ってみると、そのクオリティの高さだけでなく、SilentPowerのオーディオアクセサリーの効果も印象に残る。次回は、そのあたりに注目してみたい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやHiFiオーディオ、ヘッドフォンなどのポータブル機まで、AV系のジャンル全般をカバーする。AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、さまざまな媒体、メディアで製品紹介記事や取材記事を執筆。かつてはB&W MATRIX801 S3を中心とした大型スピーカーでサラウンド再生システムを構築していたが、現在は、BWV H-1という小型スピーカーによるシステムへ移行中。映画はもちろん、アニメやゲームも愛好する。