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2006年末から盛り上がったパソコン用ワンセグチューナユニット市場。商品数も急激に増え、USB接続タイプは、AV Watchの一覧ページにあるもので17機種も存在する。 年末にかけては品薄状態が続いていたが、現在では解消。価格も1万円を割るのは当たり前、8,000円を切るモデルも存在している。こうなると問題になるのは機能やデザインによる差別化。機能面ではEPG/字幕/データ放送への対応や、録画機能の有無、Windows Vistaのサポート状況などがポイントとなっている。 だが、一覧ページを見るとわかるように、発売当初は録画非対応だったモデルも後日のアップデートで録画機能を盛り込んだりと、機能差は無くなりつつある。そんな中、ワンセグチューナでは老舗と言ってもいいピクセラが、デジタルラジオの受信にも対応した新モデル「PIX-ST050-PU0」をリリースした。 飽和状態のPC用ワンセグチューナ市場における強力な差別化機能であると同時に、これまでコンシューマ向け受信機は携帯電話しか存在しなかったデジタルラジオ放送の聴取者拡大にも影響するモデルとして注目したい。
■ 外見はシックで大人向け? まずは外見から見ていこう。外形寸法は約78×18.7×8.6mm(幅×奥行き×高さ)で、ワンセグチューナとしては小型の部類。特に8.6mmという薄さはトライウインの「DT-007」(8.5mm)とほぼ同じで、現在の市場ではトップクラスの薄さだ。アンテナを除く重量は約17g。 内部には、RfStreamが開発した1/3セグ対応のシリコンチューナモジュール「DJ1200ST」が搭載されている。ワンセグチューナならば1セグのみに対応したモジュールで大丈夫だが、デジタルラジオでは3セグメントを使った放送も行なわれている。そのため、1/3セグの両方に対応したモジュールを内蔵する必要があるわけだ。 デザインはシンプルで筐体の表面はブラック。側面やUSB端子のキャップはシルバーで、全体としてはツートンカラー。ロゴマークや社名は記載されておらず、ホワイトを基調とした未来的なデザインが多いUSBワンセグチューナの中では大人っぽいデザインと感じる。黒系統の薄型ノートパソコンと組み合わせるとオシャレに使いこなせそうだ。
向かって右側面にミニアンテナ端子を装備しており、付属のロッドアンテナを接続する。ロッドアンテナ以外のアンテナは付属していないが、口径が合えば外部アンテナも接続できそうだ。
面白いポイントは、USB端子のキャップに穴が開いていること。パソコンと接続している間は、キャップをロッドアンテナに通してホールドできるのだ。USBメモリのキャップは無くしやすいものなので、細かい点だが良く考えられている。
■ まずはワンセグから デジタルラジオが気になるところだが、まずはワンセグ機能から見ていこう。視聴ソフトは「StationMobile for ST050」で、Windows XP/Vista(32bit版のみ)をサポートしている。
同社のワンセグチューナはメーカー製パソコンにも多く採用されているため、「StationMobile」自体は良く見るソフトだ。しかし、ST0505用は「StationMobile」の最新バージョンとなっており、前述のVista対応を実現している。 メインウインドウには、チャンネル切り替えや録画操作などを行なうパネルと、チャンネル/EPG/録画済ファイル情報の表示ウインドウが表示されている。それに、別ウインドウでテレビ表示ウインドウと、データ放送表示ウインドウが立ち上がる。 メインウインドウ下部の情報表示画面は、タブを切り替えることでチャンネル表示/EPG表示/録画したファイルの一覧に切り替えることができる。 各ウインドウは切り離し/吸着が可能。また、メインウインドウにある「ミニモードボタン」を押すことで、メインウインドウをコンパクト表示モードに切り替えられる。だが、ミニモード時でも各種ボタンは大きめ。使い勝手は良いが、ノートパソコンの液晶サイズを考えると、もうすこし小さく表示してほしいところだ。 テレビ表示ウインドウのサイズは、従来、等倍/2倍/全画面表示から選択していたが、新たに任意のサイズに変更できるようになった。ワンセグは“ながら視聴”がメインになるので、デスクトップの隙間に合わせて表示できるのは嬉しい。
データ放送画面はキーボードやウインドウ上のボタンに加え、マウスでの直接選択に対応した。また、データ放送画面から通信を利用したネット上のページにリンクが貼られている場合でも、そのままアクセスできるようになっている。いずれも細かいポイントではあるが、使い勝手は大きく向上している。
録画機能もサポートしており、録画中の番組が終了したら自動的に録画を停止させたり、任意の時間後に停止させるタイマー機能も追加された。タイマーは「番組終了後」に加え、15/30分、1時間、1時間30分、2時間、2時間30分、3時間、4時間、5時間、6時間(最大録画時間)から選択できる。 ただし、残念ながら予約録画には対応していない。ノートパソコンでの利用が多いUSBワンセグチューナで、予約録画機能が必要かという疑問もあるが、やはり「あっても使わない」と「最初から使えない」のではイメージが大きく違う。同社は将来的に対応するとしているが、ノートパソコンをデスクトップの代わりに使うシーンも多くなっているので、早めの対応を期待したいところだ。 ちなみに、ノートパソコンでは問題なく利用できるが、HDCP非対応のビデオカードを搭載したデスクトップパソコン(ディスプレイはHDCP対応でDVI接続)にインストールしたところ、HDCP対応ビデオカードを接続するよう促すメッセージが表示され、音声は出力されるものの、映像は表示されなかった。
ワンセグの受信感度は、良好な性能を持つPCカード型「PIX-ST011-PC0」と同等か、それ以上。場所によっては、携帯電話(W44S)よりも安定して受信できることもあり、USBメモリ型チューナの中ではトップクラスの受信能力だ。また、PCカード型をレビューした際に発生していた画面端がカットされる現象もUSBメモリ版では確認できなかった。
■ デジタルラジオにチャレンジ いよいよデジタルラジオの受信をしてみよう。まず、デジタルラジオの受信には専用のソフトウェアが必要になる。「StationMobile」のラジオバージョンで、名前はそのまま「StationMobile Radio Edition」だ。
このソフトはβ版という扱いになっており、製品には付属していない。同社のページで「PIX-ST050-PU0」の製造番号を入力し、個別にダウンロードする必要がある。 また、ここで1つ大きな注意がある。「StationMobile Radio Edition」がWindows Vistaにしか対応していないということだ。デジタルラジオの著作権の問題で、ラジオ放送の音声をS/PDIF、もしくはbluetoothから出力できないようにするため、コピー制御機能に優れたVista専用になっているという。
淡い期待を込めてXPでもセットアップファイルを起動させてみたが、「対象OSではない」というメッセージが出て、インストールすら行なえなかった。Vistaの普及が進んでいない現状では、XP対応版のリリースに期待したいところだ。
Vistaマシンで起動させた「StationMobile Radio Edition」のデザインは、「StationMobile」とほぼ同じ。デジタルラジオでは利用できない機能をグレーアウト表示させたバージョンと言えるだろう。両放送は映像/音声フォーマットがほぼ共通しているので、利用にあたってもほとんど違いはない。チャンネルの切り替え時間も2秒程度で同等。 利用できない機能は録画/録音機能だ。また、メニューの音声切り替えに「ダウンミックス機能」が追加されるなどの違いがある。このダウンミックスは、デジタルラジオの5.1ch音声放送を2chで再生するもの。今回は試用中に5.1ch再生が行なわれなかったのでテストしていないが、アナログ5.1ch出力が可能なパソコンでは5.1ch再生も可能だという。 簡易動画放送が行なわれているチャンネルでは、ワンセグと同様にウインドウ表示される。データ放送もワンセグとほぼ同じだ。放送を聴いていて感じるのは音の良さ。番組によって異なるが、映像にもビットレートを割いているワンセグと比べると、デジタルラジオの方が音場が広く、高域の破綻も少ない。ワンセグでは音量を上げるとシャラシャラとした圧縮音声特有のノイズが耳に残るが、デジタルラジオではそのようなことはない。 トーク主体の番組でも違いは歴然。文化放送の、声優がパーソナリティの番組を聞いてみたが、ワンセグやアナログAMラジオはもとより、アナログFMラジオと比較してもクリアで、声の解像度が高いことがわかる。会話の途中の息遣いもリアルで、パーソナリティとマイクの距離が近づいたような印象だ。 BGM無いトーク主体の番組はAMラジオで多い。AMラジオは独特のナローな音が特徴であり、ここまでクリアな音でトーク主体の番組を聴くという体験自体が新鮮だ。似たものを探すならば、ポッドキャスト番組をポータブルプレーヤーで聴いているような気分だ。 デジタルラジオならではの機能としては、番組の中で紹介されている食べ物やグッズなどを静止画や動画で見られるのが嬉しい。ラジオは想像力を働かせることが最大の魅力でもあるが、紹介されているお店の地図を表示するなど、やはり絵があった方が便利な場面も多い。
また、ラジオならではのリスナーとの双方向性という点では、TOKYO FMのデータ画面に設けられた「メッセージボタン」が便利。ここをクリックすると、番組のメールアドレスが入力された状態でメーラーが立ち上がる。気軽に番組にメッセージやリクエストを送れるだろう。
■ 聴取可能エリア拡大は微妙。XP対応に期待 auの「W44S」以降、デジタルラジオ対応携帯電話は増加しているが、電話以外の民生用対応機器の登場をまずは喜びたい。また、「パソコンでデジタルラジオ」ならではの利点として、思いのほか「ながら聞き」が快適なことに気が付いた。ワンセグでは画面の端に表示して「たまにチラッと観る」という利用がメインだが、映像は意識を支配する力が強いので、ついついそのままワンセグ視聴がメインになってしまう事が多い。また、音声だけでは意味がわからない番組が多いので、パソコンの作業が忙しくなるとワンセグをわずらわしく感じてしまう。 デジタルラジオの場合は、タスクトレイに格納すれば、パソコン操作を邪魔する事は無い。音楽も多いので、Webブラウジングで文字を読んでいる時でも思いのほか気にならない。様々な作業を行なうパソコンと組み合わせたことで、ながら聞きが基本となるラジオならではの魅力に改めて気付くことになった。 ワンセグのみに注目し、横並び的に他社製品と比較すると、予約録画に対応していない事が気になる。しかし、ソフトの細かい作り込みや受信性能の高さを考えると、完成度の高いUSBワンセグチューナとして十分魅力的なモデルだ。そこに、デジタルラジオという、まったく新しいサービスが体験できるという大きなポイントも加わる。 だが、最大の問題はデジタルラジオを楽しむまでのハードルが高すぎることだ。第1のハードルは対応OSがVistaのみだということ。Vistaは周辺機器の対応の遅れや、機能に魅力が乏しいことなどから、移行を見合わせている読者も多いと思われる。デジタルラジオを楽しむためだけにVistaを購入するというのも難しい話だ。また、デスクトップよりも比較的スペックが低いノートPCに、あえて新OSの搭載を促すというのもナンセンスだろう。 もう1点は視聴エリアの狭さ。既報の通り、デジタルラジオは2月19日に出力が従来の3倍に増力され、関東エリアでは東京をほぼ網羅した。大阪も似たような状況だが、逆に言えば日本全国でたった2地域でしか聴くことができない。名古屋地区も現段階では白紙の状態で、どうやら2011年のアナログテレビ停波まではこのまま進みそうな雰囲気だ。どんなに魅力的なサービスでも、聞けなければ何の価値もない。特にデジタルラジオの場合はテレビと異なり、従来のアナログラジオが今後も継続することが決定しているので、地方のラジオ局がどれだけデジタルラジオの普及に前向きになるかも重要になってきそうだ。
だが、ここに来て1つめのハードルについては光明が差してきた。最終的にどうなるかは未定だが、デジタルラジオの新編成発表会でピクセラが、デジタルラジオ用ソフトのXP対応の可能性を示唆したのだ。著作権保護も確かに重要だが、そもそもリスナーがいなければ放送は成立しない。聴取エリアの早期拡大が見込めない以上、4月から本格スタートするデジタルラジオを普及させるためにも、XP対応は必須と言えそうだ。
□ピクセラのホームページ
(2007年3月29日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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