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Premiere ProがVR強化、Oculus RiftやHTC VIVE装着して編集も。「Adobe CC」新機能

 アドビシステムズは、「Adobe Creative Cloud(Adobe CC)」映像制作ツールの次期バージョンの内容を、オランダで現地時間14日に開幕する「IBC 2017」で先行公開。Premiere Proは、新たにOculus RiftやHTC VIVEなどのヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使ったVR映像の再生・編集に対応するなど、作業効率の向上を図る各種機能強化が行なわれる。アップデートは'17年内に提供予定。

Premiere Pro CC(画面は開発中のもの)

 Adobe CCの映像制作ツールには、映像編集/制作ソフト「Premiere Pro CC」や「After Effects CC」、オーディオ/波形編集の「Audition CC」、アニメーション作成の「Character Animator」が含まれる。

 利用料金は、各ソフトにつき月額2,180円で、Photoshop CCやillustrator CCも含む20種類以上のソフトやツールが利用できるコンプリートプランは月額4,980円。20GBのクラウドストレージ(グループ向けは100GB)を利用できる。

Premiere Pro+HMDでVR編集。After Effectsはインフォグラフ作成強化

 Premiere Pro CCの新バージョンは、360度映像の編集時のビデオデバイスとして、新たにOculus RiftとHTC VIVEをサポート。HMDを装着した状態で、編集中のVR映像の見え方を確認でき、コマ送りや早送り/巻き戻しの操作がHMDをかぶったまま仮想空間の中で行なえる。また、360度映像と同期するVRオーディオ(アンビソニックオーディオ)に対応し、モニタリングしたり音の方向を編集できるようになる。

Premiere Pro CC。VR映像編集のプレビュー画面(左端)に、HMD表示用タイムラインが見える
ビデオデバイスの設定画面。アップデート後、Oculus RiftとHTC VIVEが選択可能になる

 Premiere ProでHMDを使って、360度映像・音声をより没入した環境でモニタリングできる。編集中の360度映像上にタイムラインウィンドウや仮想コントローラーが表示され、コントローラーのジョグでコマ送り、シャトルで早送り/巻き戻しするなどの操作が行なえる。HMDをかぶったままでVR編集機能がすべて使えるわけではないが、今後もHMDを活用した機能強化が図られる見込み。

Oculus Riftの画面に表示される仮想コントローラー
Premiere ProをOculus Riftで使っているイメージ

 また、Premiere Proの標準機能として、360度映像用のイマーシブエフェクトとトランジションを追加。「VRぼかし」や「VRノイズ除去」などを「イマーシブビデオ」のカテゴリ内に用意する。Mercury Playback Engineにネイティブ対応しており、GPU高速処理で作業時のパフォーマンスを損なわない。

VR映像専用のエフェクトを「イマーシブビデオ」の項目に用意

 全天球カメラ「RICOH THETA」などで採用されている正距円筒図法(エクイレクタンギュラー)の360度映像に、「ブラー」など平面映像用エフェクトなどを適用すると、映像の継ぎ目に不自然な線が入り込むなどの問題が起きるが、VR用エフェクトなどではそういった問題が解消される。

360度映像に平面用エフェクト「ブラー」をかけると継ぎ目ができてしまった

 次期アップデートは「作業時間の短縮」をキーワードに、映像編集/制作現場のユーザーの要望を受けた様々な機能改善や強化を行なっている。

 複数人で同じ映像ファイルを扱うための「チームプロジェクト」機能は、これまでベータ版だったものが正式版になる。自動保存や元のバージョンに戻すメニュー項目、各プロジェクトのアイテムにバッジを付けて、他のユーザーによる同時並行作業をトラッキングできる機能などを追加し、生産性の向上を図るとする。

 チームプロジェクト正式版の新機能の1つが、プロジェクトファイルのアクセスを管理する「ロック」機能。複数人で1つのファイルに対して共同作業を行なう際に、編集データの意図しない上書きなどのトラブルを防ぐ。

 ファイルを開いているときにプロジェクトパネルに緑の鍵アイコンが表示されていれば自分が編集できる状態で、編集中も他のユーザーは読み取り専用で開ける。編集作業を終えてロックをかけると赤い鍵アイコンに変化。自分が読み取り専用になり、他のユーザーは編集可能になる。

ロック機能が追加。緑の鍵のアイコンが表示されると編集可能な状態
赤い鍵のアイコンでは読み取り専用になる

 従来のバージョンではファイルの保存を行なうと他のユーザーに通知がいく仕組みだったが、例えば編集時にPremiere Proが使用された映画「シン・ゴジラ」の場合、編集拠点が東宝とスタジオカラー、白組の3カ所に分散していたため、作業ファイルの保存や上書き、プロジェクトを閉じたなどの連絡を電話でやりとりしていたという。ロック機能が加わったことで自分が編集できる状態か否かを一目で確認でき、手間が省ける。

 また、複数のプロジェクトを同時に開くことはこれまではできなかったが、次期バージョンでは可能になり、プロジェクト間のメディアやシーケンスのコピーが簡単になる。

複数のプロジェクトを同時に開いたところ。画面上部に複数のプロジェクト名が見える

 そのほか、映像編集の過程でタイムライン上に音声/映像が無い空白が1フレームだけ残った場合など、ワンクリックでギャップを埋める「間隔を詰める」機能を追加。自動で調整されるため、空白を逐一探し出して埋める作業が不要になる。また、ラベルカラーの色数は従来の倍となる16色に増え、素材の数が多い複雑なプロジェクトが管理しやすくなる。

タイムライン上の映像/音声にできた空白を埋める「間隔を詰める」機能を追加

 タイトルやテロップなど、映像に動きのあるテキストアニメーションを作成して重ねる「モーショングラフィックステンプレート」機能も強化。SNS動画などで閲覧者に視覚的に訴える効果を付与するなどの使い方を想定しており、次期バージョンでは「レスポンシブデザイン」に対応する。

「モーショングラフィックステンプレート」機能の編集画面。枠内のテキストを編集すると、従来は枠が追従せずはみ出してしまった

 例えば、フェードイン/フェードアウトのタイミングを保ったままテキストだけ編集したり、枠付きのテキストを編集して文字数が増えても、枠の長さが追従して伸縮するなど、一度作った素材をテンプレートとして編集する際に再利用しやすくなるという。

「レスポンシブデザイン」を新たに採用

 また、Premiere ProとAfter Effectsでモーショングラフィックステンプレートを共有する「エッセンシャルグラフィックパネル」に、操作性を向上させる様々な機能が加わり、作成したテンプレートはCreative Cloudライブラリで共有できる。

 After Effectsのモーショングラフィックス機能では、天気予報の気温変化や株価の変動など、データソースに基づくインフォグラフィック(視覚的に表現した情報)を作る際に、JSONデータファイルを素材として利用可能になる。外部データ連携によってインフォグラフィックの作成が簡単になり、同じデザインで複数のバージョンを作ったり、モーションキャプチャーやセンサーデータを映像化するといった使い方も可能になる。

 そのほか、作成したモーショングラフィックスを360度映像に追加できるようになるなど、VR編集ツールとの連携も強化している。

インフォグラフィックス作成支援機能で、JSONファイルの読み込みに対応

 After Effectsの一部編集フローでは従来からCPUだけでなくGPUも使って高速処理が行なえていたが、新たにレイヤーのトランスフォームとモーションブラーのプレビュー、レンダリングといった基本的な作業もGPU処理で大幅なパフォーマンス向上を図る。Mercury GPU APIを使うサードパーティ製のエフェクトもGPU処理に対応する。

 ユーザーの要望が多かったという、キーボードショートカットの画面上でのカスタマイズにも対応。環境設定のテキストファイルをエディタで書き換える必要が無くなり、Premiere Proと同様のグラフィカル表示で変更できる。

キーボードショートカットの画面上でのカスタマイズに対応

自動ダッキング対応のAudition。Character Animator正式リリース

 AuditionとCharacter Animatorでは、Adobeが開発したAIエンジン「Adobe Sensei」を活用した機能強化が行なわれ、Auditionは音声に合わせてBGMの音量を調整する「自動ダッキング」機能に対応。Character Animatorはリップシンクの精度向上を図り、発音と口の動きをより正確に合わせられるようになる。

 Auditionの自動ダッキングは、映像に会話が含まれるシーンなどでBGMやサウンドエフェクト、環境音、別の会話などの音量レベルを解析し、「会話の音量に合わせてBGMの音量を下げる」など、音のタイプ別にミキシングレベルを自動調整する。

Auditionに自動ダッキング機能が加わる

 感度とフェードイン/アウトは簡単に調整でき、自動検出できない場合や任意の箇所など、ユーザーが手動でダッキングカーブを微調整することも可能。

会話シーンなどにBGMを付ける際、音声レベルに合わせてBGM音量を自動的に調整
自動ダッキングの設定パネル

 Character Animatorは、PhotoshopやIllustratorで作成した複数レイヤーの2次元キャラクターをアニメのように自在に動かせるソフト。別途用意したカメラと組み合わせ、顔認識技術で人の顔の表情に連動させることで、キャラクターを思い通りに動かせる。現在はAfter Effectsから独立したベータ版だが、次期バージョンでは「Character Animator 1.0」として正式にリリースする。

「Character Animator 1.0」

 米国でテレビ放送されたアニメ「ザ・シンプソンズ」や、深夜番組でのライブ掛け合いなどで利用され、そのフィードバックを受けて発音と口の動きをより正確に合わせるようリップシンクの精度向上を図っている。作成したリップシンクはAfter Effectsにコピー&ペーストもできる。

 眉の回転と動きを追加し顔の表情のバリエーションが増えるほか、手の先の形も6パターン追加。キャラクターのポーズもなめらかに転換でき、より自然な人物アニメーション作成が可能になる。パーツはコントロールパネルから簡単に選べる。そのほか、重力やバネの弾性などといった表現が可能な物理演算シミュレーション機能では、新しい動作として「衝突」が加わり、ぶつかって跳ね返るなどのアニメの再現も可能になる。

新たに顔の表情やパーツ、手の先の形も選べるようになる

 静止画や動画などのロイヤリティフリー素材が利用できる「Adobe Stock」には、プロが制作した数百点のモーショングラフィックステンプレートを追加する。