ラジオIP配信「radiko」12月本格配信開始。エリア拡大

-新会社設立。2011年春に北海道や名古屋など


新会社radiko設立の発表会が都内で開催された

 地上波ラジオのIPサイマル配信実用化試験として配信されている「radiko.jp」が、12月1日から本格配信を開始する。配信サイトはこれまでと同じ「http://radiko.jp/」だが、同サービスの本格実用化を目的とし、サービスを実施する主体が従来のIPサイマルラジオ協議会から、新たに設立される株式会社radikoへ継承される。なお、本格配信後も利用は無料で登録なども不要。配信エリア制限は継続する。

 12月からは“本格配信”と位置付けられ、ネット配信するエリアも拡大。関東地区では従来の東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県に加え、新たに群馬県、栃木県、茨城県で、関西では従来の大阪府、京都府、兵庫県、奈良県に加え、滋賀県、和歌山県でもサービスを開始。さらに配信システム自体も強化する。

 今後は新会社のradikoが、まだサービスを実施していない地域の放送局などに参画を呼びかけ、提供地域の拡大を図る。呼びかけは今年度内にもスタートさせ、2011年春までに東京・大阪の周辺局、そして名古屋、福岡、北海道へと拡大する予定だという。




■ これまでの経緯と、新会社の設立

左からradikoの栗花落光取締役、田仲拓二取締役、岩下宏社長、斎藤日出夫取締役、黒坂修取締役

 radiko.jpでは2010年の3月から、関東・関西地区のAM/FM/短波ラジオ放送を、インターネットでサイマル配信している。これは、在京ラジオ7局と在阪ラジオ6局、電通が共同で設立したIPサイマルラジオ協議会が実施しているもので、新世代のラジオとして「より魅力ある音声メディアの姿を追求する」(同協議会)とともに、高層ビルが増える都市部を中心とした難聴取対策の側面も持っている。

 開始当初は、試験配信の8月31日までとしていたが、その後「様々な課題や、実用化に向け取り組むべき事案が発生している」として、3カ月間の延長を決定していた。そして今回、12月以降も本格配信として、サービスを継続する事が発表された。

 これに伴い、IPサイマルラジオ協議会は12月1日に新会社radikoを設立。その新会社がサービスを展開する形になる。IPサイマルラジオ協議会に参加している会員社と、新会社への出資比率は以降の通り。電通(17%)、TBSラジオ&コミュニケーションズ(8%)、文化放送(8%)、ニッポン放送(8%)、日経ラジオ社(8%)、エフエムインターウェーブ(8%)、 エフエム東京(8%)、J-WAVE(8%)、朝日放送(4.5%)、毎日放送(4.5%)、大阪放送(4.5%)、関西インターメディア(4.5%)、FM802(4.5%)、 エフエム大阪(4.5%)。

 資本金は9,000万円、資本準備金は9,000万円。社長には、現在電通のラジオ局次長を務めている岩下宏氏が就任予定。取締役にやニッポン放送の取締役である森谷和郎氏や、FM東京の黒坂修常務取締役らが就任予定。




■ 今後のradiko

 岩下氏はラジオ業界の現状について「ラジオの広告費は'91年の2,400億円をピークに減少を続けており、現在はおそらく半減している。こうした厳しい状況下で、各放送局は色々な努力をされているが、なかなか回復までには至っていない」と説明。

 その上で、3月に開始したradikoの試験配信の初日に500万ストリーム(延べ聴取回数/配信放送局合計)を記録し、回線がダウンした事、そして現在でも週平均で200~300万ストリームを維持しているなど、反響の大きさをアピール。

 さらに、10月にradikoのリスナー9,000人を対象に実施したアンケート結果も紹介。リスナーはサラリーマンの20代~40代の男性が中心で、平均年齢は地上波ラジオの47.7歳と比べると、radikoは38.4歳と若年の男性が多く、4月に実施したアンケートと比較して、女性リスナーの伸びも著しいという。

radikoリスナーのプロフィール。サラリーマンの20代~40代の男性が中心女性リスナーも取り込んでいる

 5月からアプリ提供という形で開始しているスマートフォン向けサービスでは、利用者の平均年齢が33.7歳とさらに低下。加えて、radikoを使い初めてからラジオを聴くようになったという新規リスナーが12.5%、radikoをキッカケに再び聴くようになった復活リスナーが34.1%と、“ラジオを聴いていなかった人が聴くようになった”というケースが多く、同時に今後も継続して利用したいというリスナーが9割以上と、高い満足度を示しているという。

5月から提供しているスマートフォンサービスの利用者。平均年齢が若い新規リスナー、復活リスナーが多いのが特徴だという

 このような結果を岩下氏は、「“radikoには大いに可能性がある”という認識を、全社が共有できるものだった」と説明。「そして“本格的にこのプロジェクトを推進しようじゃないか”という話になり、現在に至る」という。

 なお、試験配信中のradikoは、配信設備や運営の費用を、参加しているラジオ局が“配信料”という形で分担して負担している。新会社設立後もその基本的な構図は変わらない。そのため、ラジオ局にとっては負担が増加するが、radikoを展開する事で、に新規リスナー開拓が図れ、地上波放送も含めてラジオ各局の媒体としての魅力が向上。広告などの収益拡大に繋げる狙いがある。

検討されている広告サービスのイメージ。Webのradiko聴取プレーヤーで、提供番組がスタートすると、提供している広告主の新商品などがプレーヤーのバナーに登場。マウスオーバーすると商品の写真が大きく表示され、そこから広告主のサイトに飛ぶこともできる。SNS系サービスとの連携も想定

 また、ラジオ局への負担を軽減するために、radiko上で収益を得るビジネスモデルの構築も予定。例えばA社が提供する番組を受信している際に、radikoの配信ページでA社新製品の広告バナーを表示。そのバナーにマウスを合わせると、新製品の画像が大きく表示されたり、広告主のサイトへジャンプできるといった広告商品の開発も検討。

 ほかにも、radikoのサイト全体のデザインテーマを変更できるようにし、イベントとの連動や、広告企画での適用も想定しているという。こうした施策を通じて、岩下氏は「将来的に可能であれば、(採算面で)独り立ちできるようにしていきたい」と語った。

 なお、広告だけでなく、受信プレーヤー(Web/アプリ問わず)でも新しいラジオの楽しみ方を提案する試みも予定。投票や投稿などで番組に気軽に参加できる機能や、同じ番組を聴いている人達同士でコミュニケーションができるTwitterタイムライン表示プラン、ショッピング番組放送中に、その商品の写真や詳細が閲覧できる表示エリア拡張など、今後の拡張機能アイデアも紹介された。


radikoのサイト全体のデザインテーマを変更できるようにするアイデアもTwitterとの連携など、新しいラジオの楽しみ方を提案予定

 なお、radikoの配信システムセンターは、大阪の朝日放送に設置されているという。本格放送開始に合わせ、より安定度の高い配信が求められるが、12月からは設備を強化。ISPに配信する段階で、各放送局2系統の送り出しを行なうという。しかし、ユーザーが実際配信を受ける際には回線の込み具合などで安定して受信できない可能性もある。将来的には回線が混雑している場合でも、安定した配信が行なえるようなシステムも検討している。



■ エリア制限解除の可能性は?

 今後も実施エリアが拡大していくradikoだが、あくまで地上波放送の補完を主目的としているため、アクセスしている地域で本来聴ける地上波ラジオをネット経由で聴くものであり、例えば大阪の放送を東京から聴くと言った、エリアを超えた聴取はできない。これはWeb配信やスマートフォン向けアプリ問わず、全てにかけられた制限となっている。

 この制限には、番組の広告主と権利が関係しており、地元のクライアントから広告を出稿してもらい、地元のリスナーに届けるという、約50年続いているラジオのビジネスモデルを維持したまま、ネット配信を行なっているのが理由である(詳細な内容は3月のインタビュー記事で紹介している)。

 エリア制限解除の可能性について、岩下氏は「radikoはあくまで、地上波の補間媒体という位置付け。現在民放各社は、与えられたエリアに向かって放送し、それで成り立っている。(エリア制限を解除し、新しいビジネスモデルを)いきなり立ち上げると、そうした従来のビジネスに影響を与えてしまう。将来的にどう変わっていくか、遠い将来はわからないが、当面は現在の形でやっていく」と回答した。

 また、最後に岩下氏は、今後の意気込みとして「将来、もしradikoが立ち行かなくなった時が来るとすれば、それは万人に“ラジオという媒体が必要無くなった時”しかないと考えている。大同団結して、歯を食いしばり、ラジオ業界を復活させるという決意で進んでいく」と語った。


(2010年 11月 25日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]