YouTube、「NHK特集」などの放送番組を無料配信

-200本以上を全編配信する「NHK番組コレクション」


YouTubeが開始する「NHK番組コレクション」

 YouTubeは6日、「NHK特集」のノーカット動画などを配信する「NHK番組コレクション」を提供開始した。パソコンのみで視聴でき、利用は無料。国内のみのサービスとなる。

 NHKエンタープライズとコンテンツライセンス契約を結んだことにより実現したもの。6日の公開時点では、「NHK特集」(NHKスペシャルの前身)などのノーカット動画約200本と、過去の大河ドラマなどを3分程度に編集した動画約30本を公開。毎週追加予定としている。フル画面視聴も可能で、最高で1080pのコンテンツも用意する。

 NHKは'08年に公式チャンネルをトライアルで開設し、番組宣伝映像などを配信しているが、今回の「NHK番組コレクション」は、放送番組そのものを配信する初の試みとなる。公式チャンネルとは異なり、配信ページの右上部には広告も掲載される。なお、ブログなどへの埋め込みはできない。


NHK番組コレクションのトップページ

 ノーカットで配信される番組は、「NHK特集」や「ミニ英会話 とっさのひとこと」など約200本。NHKの有料動画配信サービス「NHKオンデマンド」などで配信されている有料動画は含まれない。3分程度の動画は、大河ドラマ「篤姫」など、ノーカット版がNHKオンデマンドで配信されているコンテンツで、NHKはYouTubeからNHKオンデマンドへの誘導を図る狙いがある。

 今後追加予定のノーカット番組は、「プロジェクトX 挑戦者たち」や「ためしてガッテン」、「ひとりでできるもん! 」、「100語でスタート! 英会話」、「連続人形劇 プリンプリン物語」、「住まい自分流 DIY入門」、「おしゃれ工房 “きれい”を磨く! 」、「まる得マガジン 収納のコツ モノ別編」、「プロフェッショナル 仕事の流儀」など。そのほか、過去のアニメなどを10話まとめて公開し、そのあとで毎週追加するといったことも検討しているという。


配信画面の例。右側に広告が表示国内限定、PCのみで視聴できる今後追加予定のノーカット番組の一例


■ 違法投稿動画削減への効果も

 YouTubeは、これまでテレビ局とのパートナー契約によって、'09年9月よりテレビ朝日やTBSなどのニュースクリップを配信しているほか、'10年4月からはテレビ東京の公式チャンネルを開設。さらに、東京MXやMBS、テレビ愛知などの局ともパートナー契約を結んでいる。しかし、今回のようなノーカット映像配信を行なうのはNHKが初となる。


NHKエンタープライズの関本好則氏

 発表会には、NHKエンタープライズの上席執行役員 ライツ・アーカイブスセンター長の関本好則氏も来場。関本氏はNHKオンデマンドのサービス開始にあたり、権利者の許諾を取り直す業務に取り組み、ShowTimeなど他社サービスに提供してきたことを説明。今回のYouTubeへの提供についても全ての権利者の許諾をとったコンテンツのみが配信され、「権利者のうち一人でも“No”といったら出せないが、なるべく多くの人に権利処理された正規のコンテンツを見てほしい」との思いを述べた。

 NHKがコンテンツ提供に至った大きな要素は、「YouTubeは見ているが、NHKは見ていない」層に対する接触機会を設けること。「ある大学で尋ねたところ、NHKを見ている人は少なかったのに対し、YouTubeは全員見ていた」とのエピソードに触れ、「新しいメディアに触れ、どういうことが起こるのか実証実験をしたかった」と述べた。

 NHKオンデマンドで配信する番組とYouTube配信番組の棲み分けについては「(NHKエンタープライズではなく)NHKが決める」としたものの、関本氏は「語学など何度も見返すような番組や、子供向け番組は、NHKオンデマンドで配信してもあまり見られないため、NHKオンデマンドから落としたこともある。“無料なら需要があるだろう”というものが仕分けられていくだろう」との見方を示した。そのほか、海外への展開については「権利者とのルールがまだできていない。民放を含め、話し合いをしている最中」とした。また、スマートフォン/携帯電話など他のデバイスについても、「実証が着実に進めば、可能性はある」とした。

 また、3分に編集したコンテンツを掲載する目的としては、NHKオンデマンドへの誘導以外に、YouTubeに掲載されている違法動画の検出を高めることがある。3分という短い時間でも、フィンガープリントなどの「コンテンツID」が登録されることから、他者が違法にアップロードする機会を減らせるという。今回の取り組みで、どの程度違法動画が消えるのかといった効果を測ることもNHKの狙い。

 YouTubeのコンテンツパートナーシップ統括部長、水野有平氏はYouTubeの強みとして「グローバルプラットフォーム」、「さまざまなデバイスで視聴可能」、「コンテンツ管理/地域コントロール」といった点を挙げ、今回のNHKエンタープライズとの契約においては、特にコンテンツ管理の面が重要だったという。

 広告を入れたことによる、収益の分配など契約の内容は明かされなかったが「広告はGoogleのビジネスとして責任を持って行なう。そのほか、コンテンツライセンス契約に基づいて、NHKエンタープライズに支払いをする」(水野氏)とした。NHKエンタープライズの関本氏は「CSなど他のサービスでも同じだが、NHKがフルで出すものは、CMを間に挟むなどして“汚さない”ことを絶対条件としている。この基準をGoogleが了解した」と述べた。今後、YouTube側としては、動画が始まる前に15~30秒の広告を入れることも検討しているという。

YouTubeの水野有平氏YouTubeの配信サービスとしての強みテレビ局とのこれまでの取り組み


(2010年 12月 6日)

[AV Watch編集部 中林暁]